話題提供 職業レディネス・テストの機能と活用

職業レディネス・テストは、主に中学生・高校生を対象とし、職業への準備度を総合的に測定する検査です。この検査は、労働政策研究・研修機構(JILPT)の前身である職業研究所によって開発されましたが、1974年に発行された職業レディネス・テストの開発に関する資料を読むと、「生徒個々人が職業的自己概念をチェックし、自分で考え、方向性を探索するための素材とすること、受検者の主観を大切にし、受検者と実施者のコミュニケーション場面で活用できることが重要」とあります。当時、中学や高等学校を卒業した後、就職してもすぐに辞めてしまうような生徒が多いことを踏まえ、生徒自身が自己概念をチェックして、方向性を自分で考えることができるようにすること、加えて先生と生徒がコミュニケーションをとりながら将来の進路や就職先を考えるような場面で活用できることを主なねらいとして、職業レディネス・テストは開発されています。

2006年公表の第3版を現在改訂中

職業レディネス・テストの初版は1972年に公表され、89年に改訂新版ができました。現在使われている第3版は私たちの研究部門が開発し、2006年に公表したものですが、それから10年以上が経過したため、今、JILPTでは、職業レディネス・テストの改訂のための研究に取り組んでいるところです。

はじめに職業レディネス・テストの検査方式を簡単に説明します。この検査は紙筆検査で、問題用紙、回答用紙、「結果の見方・生かし方」というワークシートで構成されます。平均的な実施時間は40分から45分程度、採点と結果の整理にも同程度の時間がかかります。学校の授業では2時限分くらいです。回答のための制限時間はなく、受検者が個人のペースで回答するのが基本的なやり方ですが、学校の授業中に実施する場合には、時間の制約もあると思いますので、生徒たちのペースを揃えるために読み上げ方式で行うこともできます。

職業興味、職務遂行の自信度、基礎的志向性を測定

検査は、A検査、B検査、C検査から構成され、職業に対する総合的な準備の程度(レディネス)を測定します。

A検査とC検査は同一の54項目で構成されており、各項目は具体的な職務内容の記述です。それぞれに対して、A検査ではやりたいかどうか(職業興味)、C検査ではうまくやる自信があるかどうか(職務遂行の自信度)を回答してもらいます。A検査とC検査は、アメリカのホランドという研究者の理論を背景とした職業興味の6領域(RIASEC)を枠組みとして用いています。

B検査では、日常生活の行動、考え方や態度を記述する64項目に対して「あてはまる」、「あてはまらない」のいずれかで回答してもらいます。B検査の結果は、対情報(Data)、対人(People)、対物(Thing)のDPTという三つの志向性によって整理されます。特定の職業への興味・関心を測るというよりも、普段の生活のなかでの行動や考え方として、情報、人、モノに向かう傾向はそれぞれどの程度あるのかという基礎的志向性が評価されます。

信頼性と妥当性が保証

職業レディネス・テストの一つの特徴は、標準化という統計的な手続きによって開発された心理検査であるという点です。第3版の開発にあたっては、中学生、高校生をあわせて約2万8,000人分のデータを全国から集め、中学生、高校生それぞれの換算基準を作りました。標準化の過程では、測りたい特性を正しく適切に測定できるかという検査としての信頼性、妥当性が検証されています。

現在、実施している改訂に関する研究においても、2006年に開発された第3版について検査としての信頼性、妥当性が保たれているかという点を検証しておりますが、公表後の2007年から2017年までの中学生、高校生のデータを用いて検討した結果、第3版の信頼性、妥当性に特に大きな問題は見られないという結果が得られました。各尺度の信頼性係数なども、当時の第3版が開発された時とほぼ同じくらいの高い値が得られています。

質問、内容のわかりやすさと学習教材としての活用

質問項目や内容がわかりやすいのも特徴です。検査項目は中学生や高校生が理解できるような記述となっています。採点方法も簡単なので生徒自身が自己採点をすることができ、ワークシートを用いて手順を踏んだ具体的な解釈もできるようになっているので、学習教材としての活用が可能です。ワークシートについては、開発のための委員会に入っていただいた高校の先生方を中心として、生徒たちがこの結果を用いて自己理解を進めるときにどういった手順を踏むとわかりやすいかを検討しながら作成しました。なお、もう一つの特徴として、職業興味だけではなく、能力面での自信度を測ったり、日常生活での興味の方向性を把握するなど、個性を多面的に捉えることができることも挙げておきたいと思います。

興味と自信を合わせ見る

次に、結果の解釈について説明します。職業興味と自信度のサンプルプロフィールの解釈では、A検査とC検査の興味と自信度の標準得点を、ホランドの6領域を示す一つの図の中にグラフとして書き込む方式をとります。シートにあるプロフィール画像は、「結果の見方や生かし方」を使って作図したものです。

6領域に関する職業興味と自信度を同時に見ることによって、両方とも高い領域は何か、両方とも低い領域は何か、興味と自信度が離れているのはどんな領域かがわかります。興味と自信度のバランスを考えながら、生徒の進路について検討していくことができます。

基礎的志向性の項目は、ふだんの生活のなかでの行動や態度について聞くものなので、職業理解がそれほど進んでいない生徒でも答えることができます。また、基礎的的志向性のプロフィールから、情報、人、モノに対する志向性がわかりますが、対情報志向と対人志向にはそれぞれ三つ、対物志向の中には二つの下位尺度が含まれているので、個々の下位尺度の回答を見ることによって、より詳しい解釈が可能です。

さらにワークシートでは、検査結果で示された自分の個性の特徴と職業との関連付けを行います。検査を受けて自分の職業興味、自信度、基礎的志向性の特徴がわかった後に、そういった個性と関連する具体的な職業にはどのようなものがあるかを知ってもらうために使うことができます。

検査の重要性や意味をきちんと説明

最後に、テストの有効活用に向けた話をします。職業レディネス・テストは、名称に「テスト」という言葉が含まれていることから、生徒が何か学力に関連したような検査というイメージを持ってしまう場合があるそうです。実際、学校でキャリア教育を行っている相談担当者から聞いた話ですが、「次の時間は、職業レディネス・テストを行います」と予告して教室に行ったところ、何人か帰ってしまった生徒がいたそうです。テストという言葉に対して拒否反応を示す生徒もいるということです。

ですので、検査実施への動機づけとして、進路や職業選択に当たって、自分の個性を理解するということの重要性や意味を受検者に対して、あらかじめきちんと伝えることが必要です。中学生、高校生にはテストを受けるための心の準備を整えてから、テストを受けてもらうことが必要です。

また、学校での実施の場合、採点方式として、生徒に自己採点してもらう場合と業者さんの採点サービスを利用する場合があります。生徒による自己採点は、学習教材としての職業レディネス・テストの大きな特徴を生かせるやり方だと思っていますので、結果を素材とした自己理解と職業への意識づけにぜひ活用して欲しいと思います。例えば、職業興味や自信度から見た自分の個性の特徴を考えたり、自分の個性と関連する職業を調べたり、具体的に言葉で記述してもらうワークのような作業をあわせてやるのもよいと思います。結果に基づいて生徒同士で話し合ってもらうことも有効であり、授業のなかで結果を生かす方法を検討していただければと思います。

テストの実施で終わらせない

業者の採点サービスを利用することもあると思いますが、返却された結果を素材とした、生徒の個性やクラス全体の特徴の把握は、担当教員自身でじっくり行って欲しいと思います。

テストの実施だけで終わりにせず、受検者に職業や進路に向けての具体的な道筋を思い描いてもらうことがとても重要なのです。自分の個性に関連してどのような仕事があるのかを考え、職業名のおぼろげなイメージが作られた段階を経て、仕事の特徴やその仕事に就くためには何をしたらよいかなどを調べる。その導入部分のきっかけを職業レディネス・テストは提供できると思いますので、結果を手がかりにしてぜひとも次のステップにつなげていって欲しいと思います。

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