話題提供 職業適性検査の実施を考える──厚生労働省編一般職業適性検査(GATB)の活用をもとに

最初に、この検査について簡単に説明したいと思います。GATBは職業能力を測定する適性検査の一つです。様々な職業や実際の仕事の現場のなかで必要とされる能力にはいろいろな種類がありますが、この検査では9種類の能力(適性能)に限定して測定するという特徴があります。

設問は、図形、言語能力、語彙に関する問題や絵の照合などが組み合わされており、それを制限時間のなかで実施します。対象者は、中学2年生以上から大人の45歳程度までとなっています。

検査時間は、およそ1時間かかります。紙の検査のほか、器具を用いた検査があるのが大きな特徴の一つです。器具検査では、手腕の動きや指先の器用さを測ったりします。

最終的に、検査結果の点数を、統計的な基準で標準化された値に換算することになっており、換算した結果がプロフィールという形であらわれます。9種類の能力(適性能)がどのような形で特徴づけられるのかがわかり、職業群と照合され、受検者にフィードバックされる仕組みです。

最近は就職支援機関でも活用

歴史の古い検査ですが、近年、活用場面が広がりを見せており、販売数やハローワークを通じての配布数が年間で24万部程度あると聞いています。もともと想定されていたのは、ハローワークや学校現場での活用でしたが、最近では、様々な若者向けの就職支援機関でも活用が広がっているとヒアリングで聞くことがあります。

ある地域若者サポートステーションでの事例ですが、医療機関での支援につなげた方がよいと思われる来所者がおり、事前に本人に関する何らかの情報提供をしたいということでこの検査を実施した事例がありました。検査結果が客観的な基準で示されるので、申し送りの情報に支援者の主観が入らなくて済む点が非常に有効だったというお話も伺っています。就職支援の現場では、GATBが職業能力面での個性理解の物差しの一つとして活用されていると考えられます。それに伴い、開発当時には想定されていなかった問題や、何らかの解決困難な問題を抱える来所者に対し、どのように結果を返したら良いのかという質問を受ける機会が増えてきました。

よく聞かれる質問の例を挙げると、適性能の値が全体的に低いがどうしたらよいかとか、一部の適性能は非常に高いが、その他が極端に低く、職業にどう結び付けたらよいかわからないといった質問です。もう一つ、これも最近多いのですが、発達障害の可能性がある人に対してGATBを実施してよいのか、あるいは実施後どうしたらよいかという質問も聞かれるようになりました。

まずは目的に合っているのか確認

基本に立ち返って整理してみると、答えは意外なところに、実施の手引きのなかにすでに書かれているので、皆さまのお手元のなかにあるのではないかと思うのです。そこで、シート1に示すような「まとめ」を作ってみました。

まず、テストを実施する前に、目的が本当に合っているのかどうか、考えていただくことが重要です。GATBは、受検者の職業能力面についての情報提供をすることが目的ですので、例えば、発達障害の有無を調べようとしたり、一般的な知能がどの程度あるのかを調べるために使うという目的は正しくありません。必ず目的に合った使い方になっているのか、まずは冷静に考えていただきたいと思います。

次に、検査を実施する目的には問題がないが、検査を実施しなくても済むのではないかという点について、ご判断いただきたいと思います(シート2)。

なぜこのようなことを考えるのかというと、GATBは受検者にとって非常に負担の大きい検査だからです。ですから、負担の少ないほかの方法で代替できそうな場合、あるいは検査をしないで済みそうな場合は、実施を避けるというのも一つの選択肢だと思います。

本人が受検に前向きか

目的も合っているし、代替もきかないから検査を実施する場合でも、本人の状況によっては検査を実施しないほうが良い場合もあります。最も重要なことは、本人が能力検査を受けることに「前向き」かどうかです。負担が多少かかっても自分の職業能力を知りたい、あるいは就職に向けてもう少し踏み込んだ自己理解を進めたいといった場合には、このような検査が役に立ちますし、実施して問題ないと思います。

しかし、支援者から見て、実施には少し時期尚早かなと判断される場合や、負担に耐えられるかどうか心配な場合もあるでしょう。GATBは、他の検査とは違って、あまり軽い気持ちで実施しない方がよいだろうと思います。

結果の取り扱いは慎重に

これまで、実施に関する「ブレーキ」の話ばかりしてきたように思いますが、こういった細かい部分に注意を払いながらも、それでもなお、活用を進めていただきたいという思いが、開発担当側である私たちにはあります。なぜかと申しますと、やはり、客観的かつ非常に正確な検査結果が得られるという大きな利点があるからです。

その一方で、出てきた結果についてはある意味「うそ偽りがない」ことになりますので、実施の手続きの厳密さを守り、いい加減な形で実施しないこと、また、結果の取り扱いに慎重さが必要であることは強調したいと思います。

受検者にとっては、本人の望んでいないような、芳しくない結果が出てきたときに面食らってしまうこともあるかもしれません。そのような状況に対して、支援者としてフルに想像力を働かせ、受検者に共感し、配慮しながら結果を伝えたり対応したりする必要があります。実施の厳密さとフィードバックの慎重さという難しさを併せ持ちますが、それでもなお活用を進めていただければと考えています。

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