講演3:パーソナル・サポート制度検討の背景
若者問題への接近:自立への経路の今日的あり方をさぐる
第47回労働政策フォーラム (2010年7月3日)

湯浅 誠 NPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局次長/反貧困ネットワーク事務局長

湯浅 誠 NPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局次長/反貧困ネットワーク事務局長:2010/7/3フォーラム開催報告(JILPT)

パーソナル・サポート制度検討の背景

現役世代の間、「人生前半」とか言われますが、そういうときに公的サービスとの接点を持たざるを得ない人が増えているというのが大きな問題意識としてあります。

かつては「学校から企業に」という形で、それぞれのコミュニティから学校に送り込まれ、そこで育ってきて、家庭とセットですが、企業がずっと抱えてくれるイメージだったわけです。そのときは、あまり役所のお世話にはならないわけです。けれども、公的なセーフティネットとの接点があまりない人がこの間、増えている。そうすると何が起こるかというと、そのセーフティネットをうまく活用できない。提供する公的サービスの側も、これをあまり想定していなかったのでどう対応していいかわからない。こうしたことが、あちこちで起こっているのではないかというのが基本的な問題意識としてあります。

私自身は貧困の問題にかかわってきたものですから、そこをどうつないでいくのかから問題を立てていくわけです。そのような中で、去年の秋に内閣府の参与になり、ワンストップ・サービス・デイや年末年始の総合相談(マス・メディアでは「公設派遣村」と言われた)をやって、一たん辞めて、また5月10日に出戻りで参与になり、今度は「パーソナル・サポート」に取り組むことになっています。

その辺のつながり具合や、「パーソナル・サポート」で今後何をめざしているのかについてお話ししたいと思います。

去年、「ワンストップ・サービス・デイ」で実施したのは、一つにはタイトルにもありますが、雇用保険が第1のセーフティネットで、生活保護が最後のセーフティネットとすると、その間に第2のセーフティネットができたわけです。これは、制度を羅列すると就職安定資金融資、訓練生活支援給付、住宅手当、総合支援資金貸付、長期失業者支援事業、就職困難者支援事業等々ということになって、名前を聞いても、だれも何もわからないような内容です。それぞれに要件がついていますので、「さあ、これを活用してください」と言われたときに、自分にどれが当てはまるのかさっぱりわからない。しかも、窓口がハローワーク、福祉事務所、社会福祉協議会など分かれています。

もちろん、世の中にある公的サービスは、これだけではありません。岩手県の消費生活相談センターの方が言っていましたが、消費生活相談センターに相談に来る人が使える公的サービスを列挙したら164あったそうです。このなかから、「さあ、あなたはどれを選びますか」と言われて選べる人はいません。そういうことがうまくできる人とできない人がいるのではなく、接点を持たずに生きていけている人と、持たざるを得なくなった人の違いがあるだけなんです。

接点を持たざるを得なくなった途端に、みんなお手上げになる。これは共通です。

ここをどうにかしなくてはいけないと実施したのが、去年秋の「ワンストップ・サービス・デイ」です。ハローワーク、福祉事務所、社会福祉協議会などのサービス窓口などの“島”をかなり強引に集めてしまおうということです。利用者には、結構、評判はよかったんですけれども、寄せられる側の福祉事務所やハローワークからの評判はあまりよろしくなかった。そこで少し止まってしまっているというのが実情です。

パーソナル・サポート・サービスの検討へ

そのときから、全部の島を強引に寄せなくても、その島と島に船が通り、橋がかかるようにすればいいのではないかとは言われていたわけです。では、その船になり橋になるものは何なのかということで、「人によるワンストップ」と言ったりもしますが、「パーソナル・サポート・サービス」というものを考えたということです。

そして、このサービスの課題について検討したうえで、それをやるか、やらないかを含めて政府に検討してほしいということで、ボールを投げた。私はそのあと、内閣府参与をやめますが、4月末になって、やりましょうという話になったので、内閣府に戻ったという経緯です。

個別的・継続的・横断的なサービス

では「パーソナル・サポート・サービス」とは何かということです。お配りした内閣府の資料には、「個別的」・「継続的」・「横断的」に提供される『セーフティ・ネットワーク』の構築と書いてあります。

「個別的」というのは、マン・ツー・マンということです。支援する側はチームで当たってもいいのですが、担当者がころころ変わることがないということです。「継続的」とは、ご本人との信頼関係をある程度継続していくということ。例えば半年、1年たって担当がかわりましたとなると、書類の引き継ぎはできても、その人との関係までは引き継ぐことができません。ですから、個別性と継続性が大事だということです。

もう一つは「横断性」です。先ほど言ったようにさまざまな部署にさまざまな制度がぶら下がって、いわゆる縦割りになっている。これを、船になり、橋になってつなげていく人が必要だということです。

図1 「パーソナル・サポーター」のイメージ

図1 「パーソナル・サポーター」のイメージ:2010/7/3フォーラム開催報告(JILPT)

こうした制度が必要な背景には、孤立の問題があります。日本の場合、人生前半は基本的に企業と家族に支えられてきて、公的セーフティネットとの接点は弱かったと言いましたが、今はそうではない人が増えてしまっている(図1)。そうなると、高齢者の状況で「無縁社会」などと言われ始めましたけれども、もともと貧困は単にお金がないというだけではなくて、孤立の問題がある。そういう意味で貧困とは貧乏プラス孤立だと言ってきました。孤立の問題などがかかわってくるので、やはりその人に継続的に寄り添うようなかかわり方が必要になります。これを「寄り添い型」あるいは「伴走型支援」と言ったりしますが、イメージとしては、「専門知識を持つ友人」のようなものと言ったりします。

例えば、病院には医療ソーシャルワーカー(MSW)がいて、入院している間は、医療費の支払いや生活面のサポートをします。けれども、退院すると、MSWとの関係は終了し、あとは元気で頑張ってねということになります。生活保護のケースワーカーも、生活保護になった人に一生懸命、対応するわけです。しかし、生活保護から抜けだすと、いなくなってしまうわけですね。ハローワークの人も就職後、基本的にはいなくなってしまう。

対応した人はその後うまくいっていることが前提になりますが、一人ひとりの抱える問題は、今、非常に複合的になってきています。ですから、次に渡ってうまく定着しているかというと、必ずしもそうではない。制度と制度のはざまに沈んでいってしまっている人が実際にはたくさんいて、それが貧困層をつくっていくことになるわけです。

だとすると、ずっとその人に光を当て続けるような存在をつくれないかということです。それをイメージとして「専門知識を持った友人」と言っています。友人は、その人が入院している間だけ友人で、退院したら友人をやめることはないわけですね。ずっと継続的にかかわっていくということです。

こういう人のことを「気遣い人」と言ったりする人がいます。つまり、家族や友人の役割はいろいろあったわけですけれども、一つの役割は気遣う人ということだと思います。

例えば「就労するまでは半人前だ」というかかわり方で、手取り足取りサポートするけれども、「就労したからには一人でやっていけ」とバチッと切る発想の仕方がままあります。私は、これを「就労のワナ」と呼んでいます。実際には就労前だって一人でできることはたくさんあるし、就労したからといってサポートが必要なくなるわけではないのに、そこで分けてしまう。でも、家族や友人の役割は、ずっと気遣い続けるということです。「あんた、最近顔色悪いけど、大丈夫。無理し過ぎていない?」という話をする人ということです。こうした「気遣い人」がいない人が増えている。

実際にはいろいろなところに穴があいて、そこから漏れていくことになるので、そこをサポートする。(図2)のようなものになるわけですが、いろいろなところにつなぎ、場合によっては戻すことをやるわけです。ずっとその人にかかわっていくという意味で「伴走型」と言っています。

図2 「パーソナル・サポーター」の支援プロセス(イメージ)

図2 「パーソナル・サポーター」の支援プロセス(イメージ):2010/7/3フォーラム開催報告(JILPT)

例えば、身寄りのない高齢者の人で、死ぬまで薬漬けで病院を3カ月ごとにたらい回されている人がいますよね。そういう人の多くは身寄りがないわけです。家族がいれば、病院や役所にかけ合ったり、地域で暮らすために不動産屋とかけ合ったり、介護の手配をすることもできます。そうすることで、たらい回しにされて薬漬けにされる状態から引き上げたり、未然に防いだりできるわけです。いわゆる貧困ビジネスの餌食になってしまうのは多くの場合、こうした人です。それは高齢者に限らず、失業者、若年失業者にも増えている。

こうした背景があって、「パーソナル・サポーター」を何とかつくれないかということを考えていて、政府の緊急雇用対策本部の下にセーフティ・ネットワーク実現チームを設け、そこで検討しています。その検討会で取りまとめた文書に「パーソナル・サポート・サービスの導入」が打ち出され、これが6月18日に取りまとめられた政府の「新成長戦略」に盛り込まれたということです。

導入に当たっては、今秋から冬にかけて全国で何カ所かモデル事業を始めます。各地のモデル事業で試行錯誤しながら、同時に検討委員会をつくって、どういう支援の仕方が最も効果的なのか、サービスを受ける側の変化をどう評価していくのかなどを検討する予定です。

日常生活・社会生活・経済的自立に向けて

よく言われていることですが、自立には基本的に三つあるわけです。日常生活自立、社会生活自立、経済的自立。いわゆる就労自立は、この経済的な自立ですが、瞬間最大風速をはかることに陥りがちです。どこかの就労先に押し込んで、そのカウントで何割達成したということになる。けれども、その人がずっとそこに定着していっているかというと、全然違ったりします。瞬間最大風速は5割だけれど、1年後には6割がそこからいなくなっていたという事例もあるわけです。

就労することだけが大変なわけではなく、日常生活自立の切り口でみると、掃除、洗濯、身の回りのことができることも大切です。

社会生活自立というのは、人とうまくつき合えるとか、社交性があることを言うわけですが、就労自立よりも難しい人がたくさんいる。50代の中高年の失業者や生活に困るようになってしまった人と随分つき合ってきましたが、就職はできても、続かない。職場の人間関係がうまくつくれないからです。世の中のおじ様たちを考えても、おれはちゃんと働いていると威張っていても、身の回りの掃除、洗濯といった日常生活自立はできないけれども許されている人たちはごまんといる。

そういうバランスを考えていかないとならないので、支援される側の評価も、単に就労したかどうかだけで見るのではなくて、小さな変化も含めてきちんと見られるようなものをつくっていく必要があるのではないか。例えば、何年も引きこもり経験のある人が半年たったら笑った。これは大きな変化です。この変化を評価できないと、就労自立までいかない。「1年たっても、就労してないじゃないか」という話になると、そこまで積み重ねのなかで生まれてきた小さな変化は、全部消えてしまいます。そうなると、結局、そこにもたどり着かない。そうしたものを積み上げていく評価の仕方が必要になると思いますが、当然ながら雇用開拓の問題も出てきます。

一般就労というときに、その間に刻みがないと難しいという人は現実問題たくさんいるわけです。一番手前の刻みは、自分を受け入れてくれる居場所だったりします。そこで安心できて、愚痴が言える。そういう居場所の中で職業訓練へ行っていいと言うから、行ってみようかなという気になる。そういう場所です。そのほか、中間的な就労の場所も必要でしょう。それは社会的企業や、お試し体験就労も含めてだと思います。それによって完全に自立できるわけではないけれども、体験的に就労していく場所も必要です。そうしたこともセットで考えていく必要があると思っています。

機能としてのPS

この「パーソナル・サポーター」のイメージをもう少し共有しておきたいと思います。図3に書かれています。PSと呼んでいますが、私たちはできればPSを機能と考えたいと思っています。世の中には社会福祉士、精神保健福祉士などいろいろな資格があります。そういう中に、もう一つ新たな資格をつくるというよりは、いろいろな領域でやっている人が横断的な知識などを身につけながら、ある種の機能としてPS的な動き方を確立させていきたいということです。

図3 各種領域における支援活動とパーソナル・サポート・サービスを担う人材
(考え方の整理)

図3 各種領域における支援活動とパーソナル・サポート・サービスを担う人材(考え方の整理):2010/7/3フォーラム開催報告(JILPT)

図3のように全体を3段階ぐらいに考えていて、これは名称がまだ定まっていませんが、とりあえず一番上がチーフPS、2番目がPS、3番目がPSアシスタントといった名前をつけているように、チーフPSはかなり高いレベルに設定したいと思っています。高いという意味ですが、そうしたものを通じて地域自体をコーディネートしていく人というイメージです。

例えば障害者の作業所などをやっている人が、シャッター通り化する地方の商店街の活性化に作業所を位置づけて、そこに店を開きながら人の流れを取り戻す。こうして、福祉的なものを通じたまちづくり、まちおこしを地域でやっている人たちが増えているわけです。こうした人たちは、障害者分野のスタッフであると同時に、そのことを通じて地域のあり方を考える地域コーディネーターでもあるわけです。そういう存在としてチーフPSをイメージしていきたい。

その下にいる、PS、PSアシスタントという人たちは、例えばPSアシスタントで言うと、それぞれの分野でやってきた人たちで、ハローワークの生活就労支援アドバイザーだったり、福祉事務所のケースワーカーだったり、キャリア・アドバイザーだったりすると思います。こうした人たちが他分野の研修をうけ、現場経験を積んだりしながら、地域の中でつなげる先を確保する。あるいは、そこの人たちと顔の見える関係を築く、その分野についての最低限のことを知っておく。こうした経験を積みながらPSになる。PSアシスタントの中からゆくゆくは地域のコーディネーターが出てくるイメージです(図4)。

図4 「パーソナル・サポート・サービス」と各制度の相談援助機能との関係
〈モデル・プロジェクト実施前の概念整理(たたき台)〉

図4 「パーソナル・サポート・サービス」と各制度の相談援助機能との関係〈モデル・プロジェクト実施前の概念整理(たたき台)〉:2010/7/3フォーラム開催報告(JILPT)

ご本人の抱えているトラブルは複合的なので、「就職したいんです」といって相談に来た人が実は、家庭の問題や多重債務、メンタルヘルスの問題を抱えていていることもある。これは、もはや珍しくもないわけです。

ですから、2月に最初に総理に提言したときに言ったのも、こうした分野を職業として確立したいということです。介護ヘルパー、介護福祉士にしても、2年間一生懸命勉強して資格を取っても、施設で仕事を始めると月給12万円で雇われる。その人の給料は3年、5年たっても上がらないのでは、一生やっていこうとは思いづらい。ですから、逆にこの人たちをワーキング・プアにしないことがカギになる。それを引き上げていくための一つのきっかけにしたい。

プロフィール:湯浅 誠
(NPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局次長/反貧困ネットワーク事務局長)

1969年生。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。90年代より野宿者(ホームレス)支援に携わる。「ネットカフェ難民」問題を数年前から指摘し火付け役となるほか、貧困者を食い物にする「貧困ビジネス」を告発するなど、現代日本の貧困問題を現場から訴えつづける。2008~09年の年末年始の「年越し派遣村」では村長を務める。著書に『反貧困』(岩波新書、2008年、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞大賞、第8回大仏次郎論壇賞)、『正社員が没落する』(堤未果氏と共著、角川新書、2009年)、『派遣村』(いずれも共著、岩波書店・毎日新聞社、2009年)、『どんとこい!貧困』(理論社「よりみちパン!セ」シリーズ、2009年)、『岩盤を穿つ』(文藝春秋社、2009年)などがある。