事例報告1 アステラス製薬における女性の活躍推進と
ワーク・ライフ・バランス:第46回労働政策フォーラム

女性が働き続けることができる社会を目指して
(2010年6月3日)

米奥美由紀氏:労働政策フォーラム事例報告(2010年6月3日)/JILPT

事例報告1:アステラス製薬における女性の活躍推進とワーク・ライフ・バランス

アステラス製薬株式会社人事部ダイバーシティ推進室長 米奥美由紀氏

まず、アステラス製薬の概要からご説明する。弊社は「患者さん一人ひとりの力になりたい」という同じ想いをもった山之内製薬と藤沢薬品工業が合併して、2005年に発足した会社である。従業員数は2010年3月現在、連結で15,161人、単体では5,563人となっている。現在、弊社で取り組んでいる女性の活躍推進施策は国内グループを対象としているので、その範囲に含まれる従業員数は約7,800人となる。

地域別売上構成をみると、海外売上高の比率はすでに46%まで達している。主なグローバル製品は移植・免疫領域のプログラフ、泌尿器領域のハルナール・ベシケアで、循環器・消化器・運動器・中枢領域・感染症など、幅広い製品を展開している。

合併の翌年、弊社の経営理念「先端・信頼の医薬で世界の人々の健康に貢献する」を達成するために、2015年にあるべき姿を定めた「VISION2015」を策定した。これを支えるのは「人材」と「組織」と位置づけている。

「人材」の観点では、ダイバーシティマネジメントは、「VISION2015」を達成する上で必須の取り組みとなっている。弊社でのダイバーシティマネジメントの意義は、グローバル企業としての競争力を強化し、持続的な成長を続けていくための基盤であり、個人・会社・社会のそれぞれの視点で「WIN-WIN-WIN」の関係を築くことでもある。

そのような状況の中、アステラス製薬単体の女性社員の比率は、2010年3月31日現在で16%、経営基幹職(管理職の社内呼称)の割合ともなるとわずか2.4%であり、グローバル企業としての大きな課題である。

そこで2007年8月の経営会議で、「ダイバーシティマネジメント改革に向けた提案」に基づき、「女性の活躍推進を加速する」ことが決定され、同年11月に社長直轄の部門横断プロジェクトとして、「WIND(Women’s Innovative Network for Diversity)」が発足した。その主な内容は女性の職域拡大、女性経営基幹職の増大に加え、社外からの認知を高めることであり、WINDプロジェクトの活動を社内に認知させるため、ロゴマークも作成した。

図1 WIND推進施策全体概要

図1 WIND推進施策全体概要:労働政策フォーラム研究報告(2010年6月3日)/JILPT

WINDプロジェクトで検討した施策の概要を表したものが図1である。社員の意識や行動の変革を促進する「チェンジ・マネジメント」、業務プロセスや人事制度の仕組み・運用などの「枠組み改革」の両方を同時に推進することで、「VISION2015」の達成を目指している。

次のステップとして、WIND推進を加速させるため、2008年7月に人事部内にダイバーシティ推進室を設置した。WINDプロジェクトの活動は、部門横断のメンバー12人(女性9人・男性3人)が主業務との兼任体制で企画・検討していたが、3人の専任体制での組織とし、同年10月にはダイバーシティ推進室員を5人に増員した。さらに、アステラス国内グループの各部署にWIND推進のための「ネットワークメンバー」を配置することで、トップダウンと同時にボトムアップによる取り組みも強化した。

このように弊社では、ハード、ソフトの両面で施策を展開しているが、本日はその土台となるワーク・ライフ・バランスへの取り組みについてご紹介したい。合併前の旧社では、男女雇用機会均等法や育児休業法の施行に合わせて、1990年から1992年にかけてフレックスタイム制や育児休業制度などを充実させてきた。その後、2003年に次世代育成支援対策推進法が制定され、弊社でも合併が行われた2005年に一般事業主行動計画を策定、届出し、その2年後にくるみんマークを取得した。これ以降、社内体制の整備や、さまざまなライフイベントに対するキャリア継続のための制度の拡充を進めているところである。

制度を拡充するにあたっては、6つのテーマについて、労使委員会である人事制度協議会を設置し、アステラスとしてあるべき人事諸制度の検討を開始した。その中でも、「労働制度」及び「男女共同参画」に関しては、とくに大きなテーマとして、検討を行った。これらの分科会で労使により約1年間かけて検討した後、会社主導で制度化を行ってきた。

男女共同参画分科会では、2006年12月にアステラスグループにおける男女共同参画を「アステラスグループに集う私たち全員が、『VISION2015』の実現に向かって、ジェンダー・バイアスのない組織風土と適切なワーク・ライフ・バランスの追求を通じて、より高い成果を発揮しつつ、活き活きと働きつづけようとする取り組み」と定義した。

一方、労働制度分科会では生産性の向上とワーク・ライフ・バランスの追求を踏まえた働き方の見直しを検討した。その成果となったのが、2009年4月から導入している「FF DAY(Family Friday)」である。この制度は本社の場合、17時45分の終業時刻を、金曜日は1時間45分切り上げて、16時にすることで、働き方の見直しにつなげようというものである。

FF DAYの導入と同時に、「労働時間適正化キャンペーン」をスタートさせた。「心と体が折れないように…さあ、自分時間」をメッセージに、ポスターの掲示などにより、啓発活動を行った。

弊社におけるキャリア継続及びワーク・ライフ・バランスを支援する制度を、結婚、出産、復職、育児、介護、その他のカテゴリ別に整理したものが図2及び図3である。弊社独自の制度として、MRなどの営業職を対象とした「結婚時同居支援制度」がある。これは、配偶者が転勤などで現在の任地を離れる場合、配偶者と同居可能な地域への異動を希望できるようにした制度。社内外を問わず、配偶者が正社員であれば利用できる。

図2 キャリア継続及びWLBを支援する制度

図2 キャリア継続及びWLBを支援する制度:労働政策フォーラム研究報告(2010年6月3日)/JILPT

妊娠・出産関連では、今年の育児・介護休業法の改正に合わせて、配偶者の出産時(産前2週間、産後8週間)に有給の育児休暇を5日間取得できる制度を設けた。これにより、男性の育児参画を促進し、さらに育児休業の取得につなげていきたい。

復職関連では、託児費用補助制度を設けている。これは産休・育休からの復職時に認可保育所に入所できなかった場合、ある一定の金額を超えた部分について、会社が最大160,000円まで、最長6カ月間補助するというものである。この制度の導入により、産休・育休からの復職に対して、社員が希望する時期に復職することが可能となり、社員と企業の双方がWIN-WINとなることができ、社内託児所の設置に代る人材への投資策として、画期的なものではないかと考えている。

図3 キャリア継続及びWLBを支援する制度

図3 キャリア継続及びWLBを支援する制度:労働政策フォーラム研究報告(2010年6月3日)/JILPT

育児・介護関連では、在宅勤務制度を昨年10月に導入した。育児、介護などのライフイベント発生時に本人の職務内容を勘案した上で、最大週4日まで在宅勤務を認めるという柔軟な内容となっている。

「その他」の再雇用登録制度は、育児・介護などのさまざまな個人的な事由でやむなく会社を辞めざるをえなかった社員が、再雇用登録しておけば、退職後5年の間で再度働ける状況になったとき、会社とのニーズがマッチすれば復職できるという制度である。

本日は女性の継続就業がテーマとなっているので、弊社における育休からの復職支援の取り組みについて、併せてご紹介したい。弊社では半期に1回、次の期に復職する社員を対象とした復職支援イベントを「キラ☆キャリセミナー」と称し、開催している。社内に臨時託児所を設置して復職前の社員が安心してセミナーに参加できるように配慮し、休業中に改訂された育児支援制度紹介を紹介するとともに、先輩社員との復職に向けた情報交換を行うことによって、仕事と子育てとの両立への不安を払拭することが主なねらいである。また、人生のひとつの転機として、〝これからのキャリアビジョンの考え方"についてのセミナーも行っている。

過去3年間の制度の運用実績をご紹介する。結婚時同居支援制度は、男女とも利用者が増えており、その結果として、女性MRの離職率は2008年には7.4%だったものが、2009年には約半分の3.9%まで減少した。育児休業も女性の取得者数は増えているものの、男性は5人と人数的には少ない。しかしながら、社員意識調査の結果では、男性の育児休業取得が受け入れられやすい職場環境が整備されたと感じている職員の数は、2年前に19%だったものが、今年1月には39%まで増加しており、今年度より新設した配偶者の出産に伴う育児休暇の取得促進により、父親の育児参画が促進され、今後の取得者数の増加を期待している。

WINDプロジェクトの発足から約2年間活動した結果として、国内グループ社員の意識はかなり変わってきている。社員意識調査でも、ダイバーシティ推進に対する意識が醸成され、多様な働き方ができる環境が整備されたと社員が感じており、ようやく女性の就業継続や女性の活躍の場の拡大のためのベースが整ってきたと思っている。

弊社はコミュニケーションスローガンとして、「明日は変えられる」を掲げているが、これは、病気と闘う患者さんに付加価値の高い医薬品を届けたい、患者さん一人ひとりの力になりたいという社員の願いと決意が込められたものである。トップは、「明日は変えられる」を実践するためには、「社員自らが変わることがすべてのスタート」だというメッセージを社員に発信しているが、ダイバーシティについても同様で、自らが変わっていくことが会社を、家庭を変えていくことができ、Diversity& Inclusion をさらに推進することで、日本社会の変革のために頑張っていきたい。