基調報告
今後の仕事と家庭の両立支援:第46回労働政策フォーラム

女性が働き続けることができる社会を目指して
(2010年6月3日)

定塚由美子:労働政策フォーラム基調報告(2010年6月3日)/JILPT

基調報告:今後の仕事と家庭の両立支援

定塚由美子 厚生労働省雇用均等・児童家庭局職業家庭両立課長

本日は「今後の仕事と家庭の両立支援」ということで、現在政府で進めている両立支援策の背景や今後の施策などについてお話させていただく。

両立支援を進める背景として、もっとも重要なのが少子化問題だ。昨日(6月2日)発表された2009年の合計特殊出生率は前年度から横ばいの1.37だった。合計出生率は年々低下傾向にあり、2005年には1.26と過去最低を記録した。その後、さまざまな施策の効果もあって、上昇に転じ、1.37で足踏みしている状況だ。

この1.37という率は世界的に見ると非常に低い。先進国では、女性の労働市場への進出が進むと、いったん出生率が下がった後、回復するのが典型的なパターンだ。欧米諸国の中でもフランスや北欧でも同様の動きがみられ、出生率が2近くまで達している国もある。一方、日本、ドイツ、イタリアでは非常に出生率が低く、これらの国に共通して見られる要因として、女性は子どもが小さいうちは、家庭に入る傾向が強く、労働市場に止まる率が少ないと言われている。その中でも日本は特に低い。

少子化により人口減少が進むと、特に若い層、労働力となる層が減っていくことになる。現在、1年間に概ね100万人の子どもが生まれているが、推計によると、25年後には690,000人、50年後には450,000人まで減少する。このままの低い出生率のまま推移すれば、将来日本の経済社会自体が維持できなくなってしまう。

この問題を解決するためには、本日のフォーラムのテーマである「女性が働き続けることができる社会」の実現が必要だ。

世間では「最近の若い男女は子どもを産みたがらないのではないか」と言われることがある。しかし、調査によれば、実際には若い人の9割以上が将来結婚を希望しており、結婚後は2人以上の子どもが欲しいという人が多い。この結果をかけ合わせると合計特殊出生率は1.75にはなるはずだ。しかし、実際の出生率は1.37でこの数値との間に大きな乖離があり、それを埋める必要がある。

結婚や出産・子育てをめぐる希望と現実の乖離

いろいろな調査の分析結果によれば、この乖離の要因として、まず挙げられるのが「結婚の壁」だ。収入が低く、非正規など不安定な雇用の男女の未婚率は高い。もう1つの要因が「出産の壁」で、子育てしながら継続就業できる見通しを立てにくいということによるものだ。長時間労働の家庭では出産確率も低い。特に注目していただきたい点は、第2子以降の出産については、夫婦間の家事・育児の分担度合いが大きく影響しているということだ。とくに男性の家事・育児の分担度が高い家庭では、実際に2人目以降の出産確率が高く、女性の継続就業の割合も高い。

こうした状況をデータでみると、出産前に職に就いていた女性のうち、出産後に継続就業している割合は約38%となっている(図1)。残念ながら、この割合は過去20年間あまり変わっていない。

図1 女性の出産後の就業継続

図1 女性の出産後の就業継続:労働政策フォーラム事例報告(2010年6月3日)/JILPT

妊娠、出産前後に退職した理由を聞いたところ、「家事・育児に専念するため自発的にやめた」と答えた女性が約4割いる。こうした方はご本人の希望であるのでよいが、問題は「仕事を続けたかったが、仕事と育児の両立の難しさでやめた」が26%、「解雇された、退職勧奨された」が9%もいることだ。仕事と育児の両立が難しかった理由を聞いたところ、「勤務時間があいそうもなかった」「職場に両立支援する雰囲気がなかった」「自分の体力がもたなそうだった」「育児休業を取れそうもなかった」と続く。こうした状況の要因となるものを解消すれば、少なくとも本当は継続就業したかった方々が勤め続けることができるはずである。

2008年の各国の女性の労働力率を比較したのが図2のグラフだ。日本の女性の労働力率はM字カーブを描いている。このM字カーブの底の部分、30~34歳層の労働力は67.2%。10年前は56.7%だったので、かなり底が浅くなってきている。また、今回65.5%と一番低かった35~39歳層も10年前は61.5%だったので、4ポイントあがっている。他の先進諸国もかつては、みなM字カーブを描いていたが、15年ほど前にすでに解消されている。

図2 女性の労働力率(各国比較)

○日本の女性の労働力率は、先進諸国に比べるとM字カーブの傾向が顕著である。図2 女性の労働力率(各国比較):労働政策フォーラム事例報告(2010年6月3日)/JILPT

資料出所: 日本:総務省「労働力調査」、その他:ILO「LABORSTA

M字カーブを未婚と有配偶者に分けて分析すると、未婚のほうは5年前からほとんど変わりがないが、有配偶者は労働力率がかなり上がってきていることがわかる(図3)。10年ぐらい前はM字カーブの底が上がる要因は結婚率が減って、未婚率が増えたことによるものだったが、ここ5年ぐらいの動きをみると、むしろ有配偶者が働いていることが要因となっていることが明らかとなった。

図3 女性の配偶関係、年齢階級別労働力率図3 女性の配偶関係、年齢階級別労働力率:労働政策フォーラム事例報告(2010年6月3日)/JILPT

資料出所:総務省統計局「労働力調査」(平成11、16、21 年)

図4は末子の年齢別に母親の労働力の推移を表したものだ。0~3歳層の末子がいる層が平成13年には30%強だったものが、平成21年には40%弱まで上昇しており、妊娠・出産後も就業を継続する女性が増え、あるいは仕事を辞めた場合でも仕事に復帰するまでの期間が短くなっているという傾向が見えつつある。この10年間で大きな変化の兆しが表れてきたのではないか。

図4 末子の年齢別母親の労働力率の推移

図4 末子の年齢別母親の労働力率の推移:労働政策フォーラム事例報告(2010年6月3日)/JILPT

資料出所:総務省「労働力調査詳細調査」平成14 年~ 21 年年平均

冒頭で申し上げたとおり、男性が育児に関わる家庭ほど女性の継続就業率が高く、第2子以降の出産意欲が高い調査結果が出ている。今回の改正育児・介護休業法では男性の育児参加を大きな柱と位置付けているが、男性の育児休業取得率は平成20年度で1.23%とまだ低い状況だ。育児休業を利用したいと考える男性の割合は10年前の調査では1割弱だったが、その後急増している。その一方で、企業の人事担当者と従業員双方に育児休業の取得しやすさを聞いた調査では、女性の場合、企業、従業員双方とも7割以上が「取得しやすい」と答えているにもかかわらず、男性の場合、企業は2割弱、従業員にいたっては1割程度で、大半は「取得しにくい」と考えていることがわかった。

改正育児・介護休業法の概要

こうした背景を踏まえて、改正育児・介護休業法を6月30日から施行する。ただし、短時間勤務や残業免除、介護のための短期の休暇の付与といった一部の規定は、常時100人以下の労働者を雇用する事業主については、2年間の猶予期間を設け、平成24年7月1日からの施行となる。

今回の改正の1本目の柱が「子育て期間中の働き方の見直し」ということで、子育て期間中に短時間勤務や残業なしで働き続けることができるようにした。従来、選択的な措置義務だった短時間勤務制度と所定外労働の免除は義務化されることになった。ただし、短時間勤務制度については、業務の性質などに照らして導入が難しいところでは、労使協定を締結すれば適用除外となる規定を設けている。適用除外とした場合、図5 (3)~(7)の代替措置を講ずることが義務づけられる。子の看護休暇制度も拡充し、お子さんの数が2人以上であれば、年10日を限度として看護休暇を付与することを事業主に義務づけた。

図5 育児・介護休業法改正内容のイメージ図

図5 育児・介護休業法改正内容のイメージ図:労働政策フォーラム事例報告(2010年6月3日)/JILPT

2本目の柱は「父親も子育てできる働き方の実現」で、父親の育児休業を促進する仕組みを設けた。そのうちの1つが「パパ・ママ育休プラス」。これは母親だけではなく、父親も育児休業を取得すると育児休業期間が2カ月間延びるというもの。また、父親が育児休業を産後8週間以内に取った場合の育児休業は別カウントとし、職場復帰後にもう1度育児休業を取れるようにした。この産後8週間以内の父親の休暇を「パパの産休」と呼ぶ人もいる。NPO法人ファザーリング・ジャパンでは、「さんきゅーパパプロジェクト」として、この「パパ産休」の取得促進のための取り組みを行っている。さらに、専業主婦の夫でも育児休業の対象外とすることができなくなった。

3本目の柱「仕事と介護の両立支援」では、従来からある93日までの介護休業のほかに、毎年使える介護休暇を設けた。この休暇は年5日で、対象者が2人以上なら10日付与される。

改正育児・介護休業法について、さまざまな質問が寄せられている。「パパ・ママ育休プラス」に関して、企業によっては1歳6カ月ないし2歳まで育休を取得できる制度を設けているところもある。しかし、そうした場合であっても「パパ・ママ育休プラス」の分は、雇用保険制度の育児休業給付の対象となる。

所定労働時間の短縮措置について、「短時間勤務ということは、従業員をパートタイマーにしてもいいんですよね」と質問する事業主がいて、非常に驚かされた。短時間労働により、減った時間分の賃金を減らすことは差し支えないが、それ以上の不利益取り扱いは禁止されていることにご留意いただきたい。

改正育児・介護休業法以外の両立支援対策の概要についても簡単にご説明する(図6)。1つ目は「法律に基づく両立支援制度」の整備。2つ目は「両立支援制度を利用しやすい職場環境づくり」で、いろいろな企業への支援や取り組みを行っている。とくに次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画については、平成23年4月から従業員が101人以上いる企業で義務化される。子育て支援について、一定の要件を満たし、厚生労働大臣の認定を受けた企業が使用を許される「くるみんマーク」についても、一層周知を進めていきたい。

図6 仕事と家庭の両立支援対策の概要

図6 仕事と家庭の両立支援対策の概要:労働政策フォーラム事例報告(2010年6月3日)/JILPT

重要なことは、両立支援は、長時間労働の抑制や年休取得促進といった労働者全体のワーク・ライフ.バランスを土台として、その上に成り立っているものだということだ。

女性が働き続けることができる社会に向けた課題

今後の政策課題として、いくつか気づいた点を申し上げる。まず、両立支援制度を導入するだけではなく、同時に職場環境の整備を進めなければならないということ。制度を導入して安心するのではなく、トップ、中間管理職を含め、職場全体の意識改革や環境づくりを行うことが大切だ。

両立支援制度の取り組みについて、最近、企業間で格差が出てきているように感じている。先進的な企業は、取り組みを行ったことによるメリット、効果を実感した上で、さらに進んだ取り組みを行っていただきたい。一方で育児休業規程すら設けられていない、あるいは規程はあっても実態上利用できないといった企業もある。こうした取り組みが遅れている企業への指導や支援を効果的に行っていくことも今後の課題だ。

同時に先進的取り組みに対するインセンティブや優遇策の検討が求められている。現在設けられている各種助成金制度やくるみんマークを周知するとともに、今年度からは内閣府と厚生労働省でワーク・ライフ・バランス関連の調査研究について発注を行う場合、女性の登用の取り組みが進んでいる企業には入札時に加点して評価するという取り組みも始めた。

女性が働き続けることができる社会を実現するためには、男性の子育て参加促進が鍵であり、そのファーストステップとして育児休業の取得促進が重要である。私の部下の男性も昨年、1カ月間の育児休業を取得し、「それまでの『子育てを手伝っていた』という感覚がなくなって、子どもとのコミュニケーションも増え、大変よかった」と言っている。彼は育休終了後も、効率的に仕事を片付けて、忙しいなかでも早めに帰宅しようと努めるようになったと思う。

さらに、今後は育児に加えて、介護への対応も重要になってくる。介護の場合、対象となる労働者は幅広く、企業にとっては大変な問題だ。育児中の女性向けの施策のみを展開したのでは、従業員の間に不公平感が生じることもあり、介護など人生のさまざまな事象に対応した施策に対応していく方向性が必要ではないか。

女性が復職した後の支援も重要な課題のひとつだ。育児休業や短時間勤務を選択する方が増えると、その後、女性のキャリア育成をどのようにしていくか考える必要がある。

いずれにせよ、ゴールは (1)希望するすべての女性が育児、介護にかかわらず、就業継続できること (2)男性のワーク・ライフ・バランス、子育て参加が進むこと (3)親の視点だけではなく、すべての子どもの育ちを大切にする――の3点を同時に達成することだと考えている。