報告1:地域貢献活動分野における雇用への支援策
地域貢献活動分野での雇用拡大の可能性
―企業分野、公的分野に続く新たな分野として

第45回労働政策フォーラム (2010年3月17日)

三浦知雄 厚生労働省大臣官房参事官(雇用対策担当)

3月初めに、平成21年第4四半期の有効求人倍率が発表になり、全国平均は0.45倍で、沖縄県は全国で最悪の0.28倍、次いで青森県が0.29倍だった。私どもはそういった雇用情勢が特に悪い地域の雇用対策を中心に様々な施策を実施している。これに加え、近年の厳しい雇用情勢を踏まえて、昨年度から47都道府県に交付金を交付し、基金事業も実施している。

昨今、経営環境の変化により、企業分野では新たな雇用機会の創出が困難な状況だ。また、公的分野でも地方自治体における行財政改革が進展したことで、雇用の拡大が難しくなっている。そこで、企業分野、公的分野に続く新たな分野として、地域貢献活動分野での雇用が求められるようになった。

地域貢献活動分野というのは、保健、医療や福祉の増進を図る活動、社会教育の推進を図る活動、まちづくりの推進を図る活動、その他地域社会に貢献する活動分野を指す。いわゆるソーシャルビジネスやコミュニティビジネスで、本日お集まりいただいているNPO法人の皆様の活動も含まれている。

本日は地域雇用対策室の実施している事業のうち、地域貢献活動分野に関する事業を紹介する。

ふるさと雇用再生特別基金事業

最初に紹介する「ふるさと雇用再生特別基金事業」だが、これは都道府県や市町村が民間企業やNPO法人に事業を委託し、委託を受けた法人が地域の実情や創意工夫に基づき、地域求職者の継続的な雇用機会を創出するというもの(図1)。都道府県などが企画した新しい事業のうち、雇用創出効果が高く、継続性のあるものを実施するようお願いしている。

図1 ふるさと雇用再生特別基金事業

図1 ふるさと雇用再生特別基金事業:労働政策フォーラム開催報告(2010/3/17)「地域貢献活動分野での雇用拡大の可能性」

ふるさと雇用再生特別基金事業をソーシャルビジネスの分野で活用する場合、ビジネスの立ち上げ時期に人件費を委託費でまかなえる分有利になるため、早いうちに採算ラインに乗せることができるというメリットがある。現場からは、黒字になれば積極的な事業展開が可能になり、ますます事業を軌道にのせやすくなるといった声も届いている。

この基金事業を利用したNPO法人の事例をいくつか紹介する。1つ目の事例は、東京都のNPO法人エティックが行う「『社会的事業』のための専用相談窓口事業」だ。エティックは一言で言うならば「中間支援組織」で、社会的事業を志す方などを支援することにより、新たに3人の雇用を創出している。事業費は1,000万円。事業期間は2009年9月から2011年度末までを予定している。具体的な事業としては、NPOに対する個別相談やソーシャルビジネスを志す人、すでに取り組んでいる人向けのセミナーや交流会の開催などを行っている。

2つ目の事例は兵庫県の「ふるさとコミュニティ・ビジネス創出支援事業」だ。この事業も中間支援組織を活用したもので、県の都市部にある「宝塚NPOセンター」「コミュニティ・サポートセンター神戸」「シーズ加古川」の3つのNPO法人が委託先になっている。新たな雇用創出数は7人。事業期間は2009年4月から2011年度末まで。

宝塚NPOセンターでは、日本海側の但馬地区にあるNPO団体やコミュニティビジネス企業に対して、法人設立に必要な申請書類の作成などの支援を行っている。コミュニティ・サポートセンター神戸は、兵庫県でも山間部にある丹波地区を支援している。具体的には兵庫県産木材の地産地消運動を広げていくため、間伐材を使った商品の販路開拓支援を行っているほか、丹波地区の農産物のうち、特にB級品を阪神地区で購入・利用できるような仕組みづくりを支援している。シーズ加古川では、淡路島のコミュニティビジネスを支援しており、NPO法人設立に関する相談のため、講師の派遣や講座の企画、さらには自治会やサークル活動など垣根を越えた支援やマッチングなどの活動を行っているところだ。

3つ目の事例は青森県の「街なか遊び体験サポート事業」。委託先はNPO法人「弘前こどもコミュニティ・ぴーぷる」。新たな雇用創出数は5人。事業開始は2009年5月からだ。青森県産の玩具をはじめとした玩具遊びを体験できる場として「あおもり遊び体験広場」を設置。新規雇用者5人が「遊び体験指導員」として、交代で利用者の遊びをサポートしている。「広場」は商店街の空き店舗に設置され、利用料金は人数に限らず1組ごとに1回100円に設定するなど、誰もが利用できるよう工夫されている。

4つ目の事例は岐阜県の「田舎暮らしビジネス創出支援モデル事業」。これは一言で言うならば「都市と農村の交流事業」だ。「田舎で遊ぶ」「田舎で学ぶ」「田舎で貢献する」「ぎふを耕す」「田舎で暮らす」をキーワードにグリーン・ツーリズムやワーキングホリデイ、教育・研修などの事業を県内5カ所で行っている。基金事業終了後も雇用が継続され、定住人口の増加や農村地域の活性化の一助になることが期待されており、地元の人びとも頑張っているところだ。

重点分野雇用創造事業

次に「重点分野雇用創造事業」について紹介する。この事業は厚生労働省が都道府県に交付金を交付し、基金を造成。この基金を活用して、離職を余儀なくされた非正規労働者や中高年齢者などの失業者に対して、次の雇用まで短期の雇用、就業機会の創出・提供などを行うというものだ(図2)。2009年度の第2次補正予算で創設されたもので、現時点では2010年度末までを対象期間としている。一部の都道府県では、この3月から具体的に観光拠点の要員や未就職卒業者の雇用を検討するなどの事業を始めている。

図2 重点分野雇用創造事業の創設

図2 重点分野雇用創造事業の創設:労働政策フォーラム開催報告(2010/3/17)「地域貢献活動分野での雇用拡大の可能性」

重点分野雇用創造事業は2つの事業に分かれる。1つは「重点分野雇用創出事業」で、NPO法人やソーシャルビジネスが行う地域社会雇用を含め、介護、医療、農林、環境・エネルギー、観光の6つの重点分野で雇用を創出するというものだ。もう1つは「地域人材育成事業」。地域失業者を新たに雇用し、地域の企業に就業するために必要な知識・技術をOFF―JT、OJTで習得させるための研修を行う事業だ。

重点分野雇用創造事業を活用した「地域社会雇用」分野の事業例として、団塊の世代を活用し、進学目的ではなく、理解度の低い子どもを対象とした塾を開設するといったことなどが検討されており、各都道府県の担当者が集まる説明会で紹介している。

地域雇用創造推進事業

次に紹介するのが「地域雇用創造推進事業(パッケージ事業)」だ(図3)。これは雇用機会が不足している地域において、自発的な雇用創造の取り組みを支援するというもので、都道府県労働局から市町村、商工会議所などで構成される「地域雇用創造協議会」が委託を受けて、人材育成のセミナーや研修を実施することで雇用に結びつける。

図3 地域雇用創造推進事業(パッケージ事業)

図3 地域雇用創造推進事業(パッケージ事業):労働政策フォーラム開催報告(2010/3/17)「地域貢献活動分野での雇用拡大の可能性」

パッケージ事業を実施した京都府南部の和束(わづか)町では、人材育成メニューで育った人が抹茶スイーツの粉末飲料を開発してカフェで販売したり、さらにはネットショップを開設・販売するなどの実績を上げている。雇用面でも2年間で55人が見込まれている。NPO法人「わづか有機栽培茶業研究会」がこの協議会に参加して、持てる人脈やノウハウを提供しているということだ。

地域貢献活動支援事業

最後に「地域貢献活動支援事業」を紹介する(図4)。これは雇用失業情勢の改善の動きが弱い地域で、地域貢献活動分野を地域の活性化に資する新たな雇用の場として開拓するため、中間支援法人を通じて雇用管理体制の整備や労働者の雇い入れ・定着などを支援するものだ。具体的には全国21都道府県の中から選定された9つの中間支援法人が、各地域のNPO法人などにアンケート調査を実施し、支援を行うことで新規雇用が見込まれる法人を選定する。支援対象となったNPO法人等には、社会保険労務士や税理士などの講師が就業規則の作成や社会保険、雇用保険の手続き等を指導するほか、法人同士の横のネットワークづくりの仲介や先進的な取り組みをしている他の法人の紹介を行っている。

図4 地域貢献活動支援事業

図4 地域貢献活動支援事業:労働政策フォーラム開催報告(2010/3/17)「地域貢献活動分野での雇用拡大の可能性」

地域貢献活動支援事業の支援対象法人の分野別内訳をみると、医療、福祉、まちづくり、子どもの健全育成、環境保全といった分野で活動する団体が多いことがわかる。

最近、青森のNPOサポートセンターで話を聞く機会があったのだが、実際に活動しているNPO法人は2割から3割に過ぎず、活動の継続性の難しさを感じた。だが、各法人には今まで紹介した事業を活用し、頑張っていただきたいと思っている。雇用対策に関しては、各省庁が事業を縦割りで考えるのではなく、雇用という横軸を通して、幅広く全分野を網羅して取り組むことで、地域活性化を進めていきたいと考えている。地域や雇用の活性化に取り組むことで活力を生み出していく施策は今後、NPO法人をはじめ、地域からますます求められるのではないか