報告4:フランスの有期労働契約の法制度―有期契約の厳格な利用規制と活用の模索―
国際比較:有期労働契約の法制度
第44回労働政策フォーラム (2010年3月8日)

<報告4>フランスの有期労働契約の法制度
―有期契約の厳格な利用規制と活用の模索―

パスカル・ロキエク(パリ第13大学教授)

厳しい規制を徐々に緩和

フランスは、伝統的に強力な労働法モデルを採用してきた。第1に、厳しい法的措置、介入がある。これは使用者と労働者の間の不平等の是正を狙いとしている。

第2に、団体交渉が強力である。これは労働者保護をさらに強化することを目的としている。

第3に、無期契約に基づいた雇用関係を基本的な考え方としている。無期契約は、労働者にとって、有期契約よりも望ましいとの考え方に基づく。

こうした労働法の厳格な規制は徐々に衰退しつつある。これにはさまざまな理由がある。第一の理由として、企業組織が変わってきたことがあげられる。企業は、長期的な雇用関係を維持するより、外注、請負、有期労働契約、臨時雇用をしばしば選択するようになった。第2の理由として、経済のグローバル化の進展をあげることができる。

政府、エコノミストの間では、規制緩和の正当性を経済的な効率によって説明できるとの思い込みがある。保護規制、とくに不当解雇に関する規制は、非効率であるとみなされている。そして、個別契約が、制定法による介入措置よりも好まれている。

団体交渉は、もはや労働者保護を目的とするのではなく、企業を組織化することの手段として使われている。この結果、団体交渉によって柔軟性がもたらされている。雇用関係とは、長期的で無期契約に基づくものであるとの考え方にも疑問が呈されるようになっている。

無期契約の減少理由

無期契約がなぜ、このように衰退してきたのであろうか。さまざまな理由がある。最も支配的で興味深い理由は、使用者がある特定の業務のためだけに労働者を採用し、その業務が終了したら契約を終了するとの考え方を選択するようになってきていることだ。

フランスの使用者団体は、こうした考え方を強力に推し進めようとしている。どのような法的手段を通じて、使用者は特定の業務のための契約を結ぶことができるのであろうか。3つの方法が可能である。

第1は、労働法の枠組みの外で労働力を確保する方法である。すなわち、外注、請負などを活用することだ。多くの企業は主にこの手段を活用している。

例えば、企業がコンピュータ・プログラムを作成する労働者を雇いたい場合、雇用契約を結ばないで、請負契約を結ぶわけである。

解雇規制緩和の提案

他の2つの方法は、労働法の枠組みの中で考えられるものである。その1つは、無期契約の締結である。例えば、企業がコンピュータ・プログラマーを採用する場合、無期雇用契約によって採用する。しかし、そこには不当解雇に関する法律という大きな障壁がある。

フランスでは、労働者保護が日本と同様に手厚い。不当解雇に関する法律、とくに経済的な理由による解雇に関しては、企業が当該労働者をもはや必要としないとの理由だけでは、契約を終了させることは許されない。もし企業がコンピュータ・プログラマーを無期契約で採用した場合、プログラムが完成したからといって契約を終了することはできない。そこで、この問題を解決するための提案がエコノミストからなされている。

最も急進的な提案は、解雇の正当な理由という要件の廃止である。これを税制度に置き換えるべきだと一部のエコノミストは提案している。すなわち、企業は解雇したいと考える労働者をどのような理由であれ解雇できる、ただ、当該労働者に対して金銭を支払い、さらに失業者のための税金を納めれば解雇できるとの提案である。

しかし今のところ、このような急進的な提案は採用されていない。フランスの裁判所は、解雇の正当な理由という要件が必要だと判断している。この考え方はILO第158号条約に基づいている。

有期雇用の活用

もう少し穏やかな提案としては、現在の解雇の正当な理由のリストに、新しい理由、すなわち雇用契約で規定された業務の終了を追加しようとの提案がある。

この提案はある程度、実施に移されている。すなわち有期契約の活用である。無期契約の規制を変更することは、フランスの場合、非常に難しい。それよりも、周辺から攻めていくほうがいいとの提案だ。無期契約の法律を改正するよりは、有期契約の法律を改正するほうが容易だとの考え方である。

実際に、有期労働契約は政府によって、より容易で柔軟なツールとして使われている。政府はかなり有期労働契約を規制のツールとして活用してきている。例えばドイツのように、高年齢労働者のために使っている。しかし、有期労働契約の活用の制度化により、法律の複雑化がもたらされている。

もちろん、使用者が有期労働契約を活用して、保護的な無期雇用契約の規定を逃れようとする危険性はある。こうした問題は他の国でもみられる。

有期契約の規制手法

フランスでは、有期労働契約の規制に2つの手法が採られている。

まず最初の手法は「形式性」である。つまり書面を必要とする。例えば、もし使用者が有能な弁護士を用いなかった場合、恐らく多くの「形式性」の要件を満たすことは困難である。この場合、使用者は雇用契約を有期では無期にしなくてはならなくなる。

2つ目の手法は、有期契約に関する正当化の要件である。フランスの場合には、雇用契約に関して一般原則と5つの有期契約締結を許容する理由がある。

一般原則とは、恒常的な業務に関して有期契約を結んではならないことである。すなわち、一時的な業務に関してのみ有期労働契約を結ぶことができる。

有期契約締結を許容する理由の第1は労働者の代替である。第2は企業活動が拡大したとの理由。第3は季節的な労働が増えたという理由。例えば、冬にスキーリゾートで仕事が増え、それに対応するために労働者が必要になったとの理由である。第4はセクター契約、慣行的有期契約といわれるものだ。つまり、有期契約というのは、特定のセクター、特定の分野においては、例えばレストラン、あるいはプロのフットボール選手、サッカー選手などでは、有期契約を締結する明確な理由が慣行的にあると考えられている。第5は高齢者が職を見つけるのを容易にする福祉目的の有期である。

前記の規定にしたがうと、通常の業務に関しては有期契約を結ぶことはできない。例えば、新しいコンピュータ・プログラムを企業で開発するためだけに、有期労働契約を結ぶことはできない。基本的に有期契約は、あくまでも期間が有期であるだけであって、決して業務が決まっているわけではない。この定義は非常に重要である。

有期契約の新たな展開

では、フランスの法律の下で、前述した締結理由に適合しない、特定の業務に関して有期契約を結ぶためにはどうすればいいのか。現在、何を許容しようとしているのか。最近の新たな動きを以下に述べる。

まず、新しい有期契約を結ぶ場合には、プロジェクト契約がある。これは固定タスク契約と呼んでいいかもしれない。この場合には、最低でも期間が18カ月なくてはならない。そして、36カ月を超えてこの契約を結ぶことはできない。すなわち、通常の有期契約の2倍の長さまでとなっている。この業務、タスクが達成されると、その段階で契約は終了する。この場合、契約終了の2カ月前までに使用者は労働者に契約終了を通知しなければならない。

この契約形態の導入によって、フランスの労働市場の枠組み、構造全体が変わる可能性がある。もし、すべての労働者にこれが適用できればであるけれども。現在のところは、このプロジェクト契約はエンジニアと管理職のみが対象となっている。

労働政策フォーラム開催報告【報告1】(2010年3月8日)「国際比較:有期労働契約の法制度~欧州諸国の最近の動向~」/独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)

明らかにこうした形態の契約は、企業にとっては魅力的である。企業にとって、常用労働者(無期契約労働者)を抱えている場合には、例えば夏の時期に仕事がなかったとしても賃金を支払わなければならない。しかし、このプロジェクト契約を使えば、労働者を雇って、特定のタスクに割り振り、特定のタスクが終われば、当該労働者は失業する、また新しいタスクが始まれば、また労働者を雇うことになる。タスクとタスクの間にはある程度のクーリング期間が必要となる。

プロジェクト契約は、労働法の新しいモデルに非常にうまく適合している。この労働法モデルがここ5年間、最も多く議論されているモデルである。

このモデルのアイデアは、色々なところから発展してきた。現在、フランスは失業率が高いことから、仕事の本質、有期なのか無期なのか、つまり労務提供が雇用契約によるのか、独立した契約形態によるのかは、もはや重要ではなくなってきていることが1つの要因である。

労働法は人を焦点に

現在の労働法は、契約から、人に焦点を移してきている。法律は労働者を保護すべきであって、どんな契約であろうが、あるいは、契約の有無にかかわらず、法律は労働者を守る必要がある。

この考え方を有期労働契約にあてはめると、有期契約の欠陥がみえてくる。つまり、継続雇用の不在ということ、これ自体は問題ではなくなる。実際には、ちょうど終わった契約とその次の契約で、どのような移行期間を認めるかについて今後の立法に際して考えていく必要がある。

労働法と社会保障法の方向性は現在、似通ってきている。これが新しい労働法に発展していくのではないかと考えられている。すなわち、労働法の目的が、労働者保護ではなく、労働市場の規制となることだ。

ここで説明したフランスの雇用関係は、決してユニークなものではない。現在では労働者にとって企業との繋がりが不安定になり、企業との繋がりが必ずしも重要ではなくなってきている。労働者が生きていく上で、仕事ができることと、生活を送るのに十分な収入があることを、法律で担保することが重要である。

ただ、こうした雇用関係には注意が必要である。なぜならば、人間の尊厳のために仕事は必要である。有期契約のような不安定な仕事は、人間の尊厳を満たすには十分ではないと少なくとも私は考えている。

質疑・応答:フランス

荒木:

フランスでは伝統的な雇用モデルが変わっていく方向が、恐らく3つほどあるとの説明があった。(1)非雇用化(請負、外注など)の方向に行く、(2)手厚過ぎる無期契約の雇用保障を薄める、(3)有期契約を活用する、という3つの方策である。

最も現実的なのは(3)だとの説明であったが、さらに契約上の地位に着目した規制から、もう一歩進んで、契約の如何にかかわらず、人に着目して一定の保護を与える、いうなれば労働法と社会保障法を融合したようなアプローチがあるとの説明があった。しかし、最後に、こうしたアプローチは働く人間の尊厳の観点から問題をはらんでいるとの指摘もあった。

質問:

フランスでは有期契約に関して、有期契約を締結できる具体的な事由も含めて、厳しい規制がある。しかし、OECDの統計によると、フランスの有期契約労働者の比率はイギリスよりも高い。また、論文によると、現在、新たな雇用の70%が有期契約であるという。なぜ、厳しい規制の下で、このように有期契約が広く利用されているのか。

考えられることとしては、ほとんどが違法な有期契約ということか、あるいは、有期契約締結事由が、裁判所によって広く緩やかに解釈されているからではないかと思うが、いかがであろう。

ロキエク:

労働裁判所では、雇用契約は無期契約であるのが原則だとしている。しかし、実際には、有期契約が多くなってきている。私の学生のほとんどが、卒業後に仕事がみつかったとしても、恐らく無期契約は結べない、有期契約の雇用になるだろうと考えている。

なぜなのか。第1に現実的な理由がある。使用者が経済的理由による解雇の法規制を恐れていることだ。とくに中小企業の使用者にとって経済的理由による解雇の法規制は、悪夢にも近いものである。

フランスの経済的理由による解雇の法規制は、世界で最も先進的なものの1つといえる。労働者を最も手厚く保護している。非常に複雑で、かつ、労働者を解雇するために使用者は多額の資金を必要とする。このため使用者は、無期契約による労働者の採用を望まない。

2つ目の理由は、もう少し法的な理由である。確かに、有期契約を締結するには客観的な事由が必要である。しかし使用者は、場合により優秀な弁護士を活用して、規制をうまく回避している。

例えば、有期契約を締結できる場合として慣行的有期契約(セクター契約)というカテゴリーについて触れた。フランスには観光業で働く労働者が多くいる。観光業では有期契約の労働者が多い。このため有期労働者数を統計でみると多くなっている。また、レストラン業も有期契約の労働者が多い。これら特定の業種では慣行的有期契約として期間の上限の規制を受けずに有期契約が締結されている。こうした業種では、使用者は有期契約を頻繁に使っており、かなりの濫用がある。観光業、レストラン業以外にも、こうした業種は数多くある。

さらに使用者がもう1つ簡単に有期契約を使うことができる理由がある。業務量の増加だ。企業の中で業務が増えたから、有期契約が必要だと理由付けできる。とはいえ、これに関しては、裁判所もかなり厳しくなってきている。業務量の増加は偶発的なもの、あるいは循環的なものでなければならない。単にコンピュータ・プログラムが必要だ、だから業務活動が増えたというだけでは理由にならなくなっている。

先ほど説明した新しい契約方法「プロジェクト契約」によって、有期雇用契約はさらに増えるであろう。しかし、この制度が導入されたのは2008年からであり、まだ統計上にその数字は表れていない。

荒木:

確認のために質問したい。フランスでは、有期契約は客観的な理由がなければ締結できないという原則が維持されているとの理解でよいか。

ロキエク:

そのとおりだ。

荒木:

イギリス、スウェーデン、ドイツからは規制緩和の方向が報告された。フランスの場合は、規制緩和の方向に向かっているのか、それとも厳格な規制を維持しているのか。

ロキエク:

規制緩和について分かりにくいのは、規制緩和が一般的な概念であるからだ。各国の違いを比較できるほど、規制緩和は正確に定義されていない。

フランスでは、有期契約についての規制緩和はない。有期契約の法規制は、確かに例外は増えたが、それほど変わってはいない。唯一の変化は、新しくプロジェクト契約が導入されたことである。

全般的な傾向としては、無期契約は減少している。そして、政府は失業問題に対応するために有期契約に目を向けている。これを規制緩和と呼ぶべきかどうかは分からない。傾向としては、無期契約から有期契約へ移行しているといえる。

荒木:

規制緩和という言葉を使ったのは、不適切であったかもしれない。有期契約がより使いやすい方向に向かっているのか、それとも依然として制限しているのか。例えば、福祉的理由による有期契約が認められているのは、失業問題の対処のために、有期契約を活用しようという発想が表れているとの理解でよいか。

ロキエク:

そのとおりである。

プロフィール

パスカル・ロキエク/パリ第一三大学教授

1996年パリ第10大学修士課程修了後、エセックス大学にて法学修士(EC法)、九八年にパリ第10大学で博士号取得。同大学法学部准教授を経て、現職。

著書は、"Droits fondamentaux et droit social"(2005)、 "Contrat et pouvoir : essai surles transformations du droit prive des rapports contractuels"  (2004)など。