報告3:ドイツの有期労働契約の法制度 ―有期契約の規制と活用の混合モデル―
国際比較:有期労働契約の法制度
第44回労働政策フォーラム (2010年3月8日)

<報告3>ドイツの有期労働契約の法制度
―有期契約の規制と活用の混合モデル―

ベルント・バース(ゲーテ大学教授)

有期雇用契約は14.6%

最初に統計数字を紹介するが、特別に目新しい事態がドイツで起きているわけではない。有期労働契約は増え続けている。そして非正規雇用が増えている。2008年の統計によれば、雇用者のうちフルタイムの割合は74.4%、パートタイムは25.6%。雇用契約全体の中で無期雇用契約は85.4%、有期労働契約は14.6%となっている。

ドイツの有期労働契約はOECD加盟国の平均(15.4%)を下回っているが、アメリカ(4.2%)やイギリス(5.3%)よりは多い。ここには国による雇用保護の違いが反映されている。ドイツでは解雇規制と有期労働契約の間に強い関係性がみられる。

日本では、非典型雇用がここ数年、大きく伸びてきたようだが、ドイツでも有期契約労働者は96年に4%であったが、2006年には6%まで増えている。

有期契約の歴史的経緯

ドイツにおいて有期労働契約に関する唯一の制定法は長年、民法620条であった。同法では雇用契約が終了するのは、契約の当事者が取り決めた期間が終了した場合と定めている。立法機関は長年、有期労働契約は民法620条で定めているとして、意図的に有期契約規制に触れず、その制限に関しては、裁判所の判断に委ねてきた。

判例としてはライヒ労働裁判所の1930年代からものが存在するが、とくに連邦労働裁判所の60年の判例が重要視されてきた。同判例によると、有期労働契約が法的に有効性を持つのは、解雇制限法の規定を潜脱しない限り、つまり客観的理由の存する限りにおいてであるとされた。

客観的な理由の存する限りという原則のもとで、さまざまな客観的な理由の説明が裁判所によって要求されてきた。そして、判例の蓄積によって形成された有期契約を締結できる客観的理由のリストが法律に盛り込まれることになるが、客観的理由が必要とされることが、ドイツでは原則であった。

しかし、85年就業促進法で重要な例外がドイツの制度に導入された。それは短期契約については、法的に客観的理由がなくとも締結できるというものである。これはスウェーデンと同様の制度である。ドイツのほうが先にこの制度を導入した。

現在の有期契約規制

有期労働契約に関する法律には、2000年に制定されたパートタイム・有期労働契約法(TzBfG)がある。この法律が現在の有期労働契約の規制の中心である。パートタイム、有期雇用に関するEU指令を実施する国内法である。

EU指令には2つの柱がある。1つは、パートタイムや有期労働契約の労働者の差別に関する規定だ。もう1つは継続的な有期契約の利用、すなわち連鎖契約の防止である。

法的な有期契約の定義についてここでは触れない。ただ、触れておきたいのは、パートタイム・有期労働契約法が実施されたことにより、解雇制限法の保護とは切り離されたということだ。つまり、解雇制限法が適用されるか否かにかかわらず、契約を有期とすることに対する制約は適用される。当該有期契約労働者が解雇制限法の保護を得られないとしても(編集注=解雇制限法の保護は勤続年数や事業所人員などの適用要件を満たした場合に限られる)、パートタイム・有期労働契約法は適用されるのである。

パートタイム・有期労働契約法

有期契約についての差別禁止規制についてはパートタイム・有期労働契約法4条で規制されているが、EU全体についての共通した規制で、すでに他の報告者によって言及されたので省略する。

有期契約を締結するための客観的理由については、パートタイム・有期労働契約法の第14条1項が規定しているが、これは例示列挙である。例えば、(1)ある特定の労働力の需要が一時的である、(2)労働者の代替が必要になった、(3)当該労働者を試用する、などが使用者が有期契約を締結できる「客観的理由」として例示的に規定されている。

ここで「ある特定の労働力の需要が一時的である」と定めているが、特定の労働力が将来は需要がなくなることが十分に確実であることが必要である。単なる先行き不透明というだけでは有期契約締結の理由にならず、もっと詳細に説得力のある理由を説明する必要がある。

「代替雇用」についても注意が必要である。使用者が何を意図しているかを詳細にみていかなくてはならない。例えば、産休のために一時的に不在になっている労働者がおり、その代替として労働者を雇用する、との説明だけでは、有期契約で代替労働者を雇用する理由とならない。有期労働契約の期間設定についての理由も必要となる。

客観的理由なく認められる有期契約

つぎにパートタイム労働・有期労働契約法14条2項の有期契約の「客観的理由なしの期間設定」に関する規定を説明する。ここでは2年を超えなければとの条件付きで、客観的理由がなくとも有期契約は可能だと定めている。

この2年間の中で少なくとも最大3回は更新が許される。また、使用者には、契約の更新のみが認められている。新しい契約は認められない。すなわち契約更新は、同一内容の契約で、連続させる必要がある。契約内容が修正された場合、それは新しい契約締結であり、契約更新ではなくなってしまうため、本条項によって許容される場合ではなくなる。このため使用者はしばしばこの更新条項の罠に陥ってしまう。これを避けることは非常に難しい。この条項に違反すると、有期契約は無期契約に転化する。

さらに、接続禁止条項(当該有期労働契約がその使用者との初めての契約であることの要請)がある。例えば当該労働者が20年前に同一使用者に雇用された経験があれば、本条項を用いて客観的理由なしに有期労働契約を結ぶことはできない。

幾つか例外も規定している。例えば14条2a項では、新設企業に対する例外を認めている。新設企業としてスタートしてから4年間は、客観的理由がなくとも有期労働契約を締結することが可能である。この規定によって、若い企業家が労働者を採用しやすくしている。また、この規定により3~4年後には雇用していた労働者の雇い止めを容易に実施できる。

高齢者の有期労働契約に関する規定もある。高齢者とは52歳以上を意味するが、最長5年間の有期労働契約を締結できる。ただ契約の直近に失業していたことが条件である。旧規定では高齢者とは客観的理由なしで有期契約を結ぶことが可能であったが、EU指令に抵触するとされ、改正された。

14条4項は有期労働契約は必ず書面で行わなくてはならないと規定している。契約そのものに関する書面が必要ということではなく、契約期間が設定されていることを書面で残しておく必要がある。

15条では、有期労働契約の終了について、事前に決められていた契約期間が終了した時点で、自動的に契約が終了すると規定(15条1項)。15条3項では、有期雇用は、双方によって通常の解雇が合意されれば、契約を終了することができるとしている。法律的には通常の解雇が起こり得ることを想定している。

15条5項では、有期契約が合意された期間を超えて継続した場合には、使用者が即時に異議を申し立てをしない限り、自動的に無期契約に移行する。

16条では違法な有期契約の終了について定めている。期間設定が違法である場合は、期間設定が違法であると判明した時点で、他の条件はそのままに、自動的に有期契約は無期契約となる。

もう1つ重要な条項は17条(訴訟手続)である。17条の規定により、労働者が「この期間設定は無効だ」と主張する場合には、合意された有期契約の終了日から3週間以内に労働裁判所に提訴する必要がある。この期間を過ぎると、労働者は裁判に訴えることができない。この規定は解雇制限法と同様のものである。

最後に、有期契約労働者と「共同決定」との関連に触れたい。有期労働者も事業所組織法上の労働者である。有期労働者も事業所委員会(従業員代表組織、ワーク・カウンシル)の選挙権、被選挙権の両方を持っている。企業、事業所は、例えば臨時に労働者を採用する場合、あるいは有期契約を延長する場合には、その情報を事業所委員会に提供する義務がある。

有期労働者には共同決定権もある。使用者は現在、有期労働者が何人いるのか、無期労働者の割合はどれほどかを事業所委員会に通知する義務がある。

現行の規制に関する評価

最後に現在の有期労働契約法制の評価について述べる。ドイツでは現在、有期労働契約を客観的理由を一方では要求し、他方で雇用政策的観点から2年間については要求しないという混合システムを採用している。混合システムにはメリット、デメリットの両方がある。これをフレキシュキュリティ・システムと呼んでもいいかもしれない。

しかし、組合は、現在の混在システムに満足していない。他方で、現状のように有期契約の活用により柔軟性を導入するのではなく、端的に、解雇制限法の適用を2年未満の雇用については緩和するという考え方も出ている。現在の制度は使用者にとって、特に中小企業の使用者にとって過酷な点が多いとみられているからだ。

有期労働契約の規制をするよりは、さらに重要な問題に対応する必要がある。重要な問題とは、解雇制限法自体の充実である。

質疑・応答:ドイツ

荒木:

イギリスでは、有期雇用を利用するための客観的な理由を使用者に要求していない。スウェーデンも、2年間については客観的な理由を要求していない。ドイツも、2年間については要求していない。しかし、ドイツは他方で有期契約の締結できる客観的な事由を例示するというミックス・システムについて説明があった。

質問:

ドイツの歴史的な有期契約規制の経緯に関する説明を聞き、有期契約規制は全体として緩和されるようになった、とくに1980年代以降は規制緩和の方向にあると理解した。

その背景、理由をもう少し具体的に説明してほしい。

バース:

ドイツの制度は規制緩和されてきたといえる。有期契約規制の出発点は、契約を有期にすることによって、解雇規制が潜脱されるということにある。有期契約の期間満了による終了は、解雇ではないので、解雇に対する保護はない。したがって、有期契約を利用することによって解雇に対する保護の潜脱を許さないことが、連邦労働裁判所の判決が有期契約に客観的事由を要求する根拠だった。

しかし、1980年代に失業率が高くなったことを背景として、ドイツの議会は、有期労働契約の規制緩和を検討した。有期労働契約の活用によって、失業者を減少できるのではないかと考えられた。有期契約のほうが、失業よりはベターであるとの理由による。

ただ現在、本当にこの期待が実現したのか否かについて政治家と学者の間に対立がある。労働組合は、失業者は減少していないと主張している。一方、使用者は、もし有期労働契約の規制緩和が導入されていなかったら、失業者は現状より多くなっていたであろうと主張している。

この議論、対立は続いている。私としては、双方ともに、相手を納得させるほどには自らの主張を証明できていないと考えている。ドイツの議会は、有期契約の客観的な理由を緩和してきたが、解雇に関する保護のあり方に取り組んだほうがよかったのかもしれない。

解雇に関する保護は、ドイツでは非常に厳格である。少なくともイギリスより厳格である。したがって、議会は解雇制限法の改正を議論したがらない。国民一般が強い関心を持っているからだ。だが、有期契約規則の改正は、それほど国民の注目を浴びないので比較的に容易に実施できたということがある。

プロフィール

ベルント・バース/ゲーテ大学教授

テュービンゲン大学、ミュンヘン大学にて法学を学び、1992年にトリア大学法学博士、2002年に教授資格を取得。同大学の労働法・労使関係研究所でシニア・リサーチ・フェロー(89から03年)を務めた後、ハーゲン大学教授を経て、2009年より現職。

著書は、"Modell Holland? -Flexibilität und Sicherheitim Arbeitsrecht der Niederlande"(共著、2003)、"Beschäftigungschancen älterer Arbeitnehmer"(共著、2003)など多数。