ディスカッション:第40回労働政策フォーラム
高齢者の本格的活用に向けて
(2009年8月26日)

パネリストからの報告 【ディスカッション】/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

清家 各パネリストから、65歳までの雇用確保措置を進めるにあたっての課題についてご報告いただいた。その中でもっとも大きな課題だと考えられる点を各自にお話していただきたい。

先ほど長谷川さんから非常に面白い事例をたくさんご報告いただいた。製造業と非製造業で事情が異なるとはいえ、やはり60歳代前半の賃金水準のあり方は一つの大きな課題となっており、組合員の中でもいろいろと意見が分かれているようだ。現状では継続雇用制度により雇用確保を行っている企業が多いため、今のところ賃金体系の見直しは小幅で済んでいるということだった。

しかし、それはあくまで60歳までの賃金体系についての話であり、60歳以降は賃金水準が50%程度まで低下している。雇用を延長するうえで、同じような仕事をしている人の賃金が大幅に下がる、あるいは高年齢雇用継続給付との合わせ技で何とか60歳到達前の水準を保っているということについて、組合として、もしくは長谷川さん個人としてどのようにお考えなのかお聞かせいただきたい。

労使の知恵で合わせ技に

長谷川 再雇用時の賃金制度を設計するにあたっては、賃金水準を退職時の50%から55%に下げたうえで、高年齢雇用継続給付との合わせ技で退職時の85%程度の水準を保てるようにした。これは高年齢者雇用安定法が改正され、とにかく65歳まで雇用を継続しなければならないということで、当時の労使の知恵だったのではないか。雇用を継続するときにエージレスにするのか、それとも年金支給開始年齢まで段階的に定年延長を図るのか、それとも継続雇用がいいのか。連合は各単組にどの形式を選んでもよいと伝えたが、ふたを開けてみたらほとんどが継続雇用制度を選んだ。その理由は、継続雇用は60歳までの賃金体系をいじらなくても済むからだろう。仮に定年延長などを前提に制度設計を行うとなると、労使交渉のなかで大幅な賃金体系の見直しに取り組まなければならない。しかし、当時は継続雇用を導入するかわりに、賃金体系には手を出さないということで労使双方が納得していた。しかし、制度導入後、何年か経過したところで、「何で定年前と同じように働いているのに賃金は50%なんだろう」という不満が出てきた。これに対し、今のところは組合では積極的にどこを直そうという議論には至っていない。まだ、問題意識として提起されている段階だ。

清家篤:パネリストからの報告 【ディスカッション】/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

清家 先ほどの遠藤さんのお話でも、多くの企業は継続雇用制度で雇用確保を行っており、しかも賃金水準を定年前に比べるとかなり下げながら、高年齢雇用継続給付や年金の報酬比例部分との合わせ技で一定水準を確保しているということだった。やはり、経営側としても合わせ技を行うことを前提に賃金水準を5割程度にまで落としていかないと継続雇用は難しいとお考えなのか。

遠藤 長谷川さんからお話があったように、ここまで継続雇用が進んできたのはまさに労使の努力以外の何者でもないと思っている。そういった中で現状はどうなのか、それから、今後はどうしていくのかということは、分けて考える余地があるのかもしれない。

私どもは以前から処遇は公正であるべきことを主張している。では、何をもって公正とするかといえば、仕事、役割、貢献度に応じて賃金制度を作ることである。

しかし、60歳以降に従事する職務を想定したときに、このような考え方が当てはまるかどうかの十分な検討を終えてはいない。現段階では、仕事、役割、貢献度に応じた処遇体系の中で、再雇用後の方々を活用できる状況があり得るのかといったことは、職域の拡がりの中で今後の検討に委ねられていると考える。ただ、処遇を考える上での一例だが、再雇用後は転居を伴う転勤がなくなるため、賃金決定要素の中に地域性を加味して再構築することも考えられるのではないか。

清家 従来の考え方からいえば、高年齢雇用継続給付は60歳以降の雇用に誘導するためのいわばインセンティブとしての意味合いがあった。しかし、仮に65歳まで本格的に働くことが普通になった場合、高年齢雇用継続給付をいつまでも残しておくのはいかがなものかという考え方もあると思う。65歳までの雇用を継続してもらうという面での政策、特に賃金面での政策について行政としてはどのようにお考えになっているのか。

熊谷 行政の立場からすると、賃金は労使で話し合って決めていただくことが大原則だ。だが、一般論として申し上げるならば、賃金は労働の対価なので、働きに見合ったものであることが原則だろう。そういう意味でその時々の仕事で評価するのか、あるいは年功的にある程度の期間で見ていくのかという問題がある。長谷川さんからもお話があったとおり、定年を延ばすということになれば、60歳以前から含めて見直していく必要が出てくるかもしれない。高年齢雇用継続給付については、高齢者雇用の実態や雇用継続給付が果たしている役割、働き方や雇用のあり方を踏まえて、労使も入った審議会で検討していく必要があるのではないか。

熊谷毅:パネリストからの報告 【ディスカッション】/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

60歳以降の雇用をどう考えるか

清家 その合わせ技の賃金は、60歳代前半の雇用の性格を考えるうえで非常にシンボリックな部分があるように思える。65歳まで企業に雇用を確保してもらおうという考え方の前提には、一つは先ほど冒頭で申し上げたとおり、年金の支給開始年齢が65歳に引き上げられることがある。これは人口の高齢化を考えれば必須の制度変革だ。65歳までは現役で働くことを前提に雇用確保措置を考えるとすれば、65歳まで働くことが当たり前になった段階で60代前半だけ賃金を助成しながら雇用するのは「ちょっとどうかな」ということになってくると思う。だが、一方で、65歳まで働くことは当たり前ではないので、何らかの政策的助成も行わないと働いてもらうことは難しいという前提に立てば、従来どおり公的給付との合わせ技での雇用継続を続けていかなければならない。65歳までの雇用確保をどう考えるかでそこはずいぶんと違ってくるのではないか。ただ、合わせ技といっても、最終的には報酬比例部分も含めて60代前半の老齢厚生年金はなくなることから、長期的には60代に達する以前から継続して、少なくとも65歳まで現役で働くことが標準だというかたちに変わっていかざるを得ないのではないか。

先ほども申し上げたように、当面はまず65歳までの雇用をしっかりと確保するためにいろいろな合わせ技も含めて行っていく必要がある。しかし、60代前半は60歳までとは別のかたちで雇用を確保するのか、それとも今の60歳までの雇用と同じように65歳までの雇用もごく当たり前のものとして確保するかは、おそらく労使の間で少しスタンスは違うのではないか。

遠藤和夫:パネリストからの報告 【ディスカッション】/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

遠藤 先ほど報告したアンケート調査の結果にもあったとおり、60歳以降の労働条件については、定年退職によっていったんリセットし、その後の働き方に応じて制度設計をしているのが現状であり、今後もそういった考え方を中心に据えながら、公的給付への対応を踏まえてどの部分を変更できるのかということで考えていかざるを得ないのではないだろうか。

例えば、いくつかの選択定年制の事例をみてみると、55歳のころから賃金カーブを寝かせて選択定年の年齢まで延ばしていく形での対応が紹介されている。公的な年金給付を伴わないことを前提に賃金を設計するということであれば、60歳以前の段階で賃金カーブを寝かせていくような対応をせざるを得ないのではないかと思っている。

清家 今のご意見は、使用者側でも60歳到達以前のところも含めて賃金カーブの調整ができるのであれば、定年延長というかたちで雇用を確保する仕組みも可能だと考えているということか。

定年延長をめぐる議論

遠藤 そこまではまだ見解が統一されているわけではない。

清家 もちろん、遠藤さんの個人的なお考えでも大歓迎だ。

遠藤 再雇用の対象者の選定については、現状では一定の基準を設けている企業の割合が8割強ある。しかし、基準があるからといって、そこから漏れた方がいるかというとそうではなく、希望者がほぼ全員再雇用されている実態も聞いている。しかし、そこではやはり、一定の基準を置くことが、受け入れる職場にとっても再雇用者と一緒にまた仕事を続けることへの納得感、理解を得るということになり、必要ではないか。個人的な見解を申し上げるならば、処遇にもつながることであり、一定基準の枠の中で対象者を選別していく仕組みについては今後も残していく必要があるのではないかと思っている。

長谷川裕子:パネリストからの報告 【ディスカッション】/労働政策フォーラム(2009年8月26日)開催報告

清家 なるほど。長谷川さんのご意見もうかがいたい。

長谷川 60歳で定年退職した場合、それ以降の雇用は、有期契約でかつ、定年前とは別の賃金表を使っており、ある意味非正規雇用に近い状態だ。非正規ということであれば、ある程度不満が出るにせよ、公的給付との合わせ技でも納得感を得られる。

今後再雇用者の数が増えるなかで、さらに2025年以降、老齢厚生年金の報酬比例部分がなくなると、この制度設計の前提が異なってくる。今のところはまだ継続雇用と高年齢雇用継続給付との合わせ技でうまくいっているため、当面は現状維持で行くつもりだ。

ただ、今回の高年齢者雇用安定法の改正のとき、連合は65歳定年制を打ち出せなかったこともあり、今後も議論をしていかなければならないと思っている。だが、55歳、場合によっては40歳から賃金カーブを寝かせるとなると組合員はかなりの抵抗感を抱くため、見直しは難しいだろう。今後、どのようなかたちで雇用の確保、雇用形態、賃金制度の設計をするかは、労使で知恵を出し合っていきたい。

もう一つの問題点は、サービス業は比較的仕事の内容や勤務形態を弾力的にできるのだが、製造業の現場ではそれが可能なのかということだ。中小企業では70歳になっても働いている人の話を聞くが、本当に職場環境の改善なしに高齢者を受け入れることができるのか。

清家 熊谷さん、場合によっては個人的なご意見も含めて行政の立場としての見解をお示しいただきたい。

熊谷 先ほどからお話に出ているとおり、公的年金の支給開始年齢を65歳まで引き上げることはすでに決まっている。したがって、働く方々が高齢期に不安を抱かずに安心して生活していけるようになるためには雇用がしっかりとこれにつながっていくことが非常に重要だ。そういう意味では、働きたい人は必ず65歳まで働ける環境の整備にしっかりと取り組んでいかなければならない。個人的な考えを申し上げるならば、65歳まで誰もが働くことになった場合、その途中の段階に年齢的な節目が入るのは若干不自然ではないかと思う。55歳定年を60歳に延ばす過程でも労使の取り組みの中で賃金カーブを寝かせてきたが、そういった延長線上で同様のことができるのかといったことも含めて、できれば不自然なかたちがないほうがいいのではないかと考えている。

重要な労使によるルールづくり

清家 熊谷さんからのご報告にもあったと思うが、改正高年齢者雇用安定法が施行されてから、特に60歳代前半の就業率が目に見えて上昇している。そういう意味では改正法の影響は統計的にも非常に有意に出てきている。

そもそも年金の支給開始年齢が65歳になるときに本来は65歳定年制を導入してもよかった。だが、やっぱりそれではなかなか難しいということでちょっとおまけして継続雇用制度も入れましょうということになった。継続雇用制度も原則は希望者全員を対象にするはずだったが、それもなかなか難しいのでちょっとおまけして、希望者全員が原則だが一定の基準を設けてもいいことにしましょうということに決まった。この「一定の基準」は原則、労使協定などで定めることになっているのだが、これもまたちょっとおまけして、労使協定を締結できない場合は、当面の間は使用者が就業規則で一方的に定めてもいいということにしましょうということで落ち着いた。当時は「おまけにおまけを重ねてなんだ」という議論もあった。だが、この改正高年齢者雇用安定法がこれだけ有効に働いてきたのは、妥協を重ねたとはいえ、労使がぎりぎり納得できる線を決めたうえは、そのルールのもと雇用を確保する措置をしっかりと講じてきた成果ではなかったか。

先ほどの報告にもあったとおり、9割以上の企業が雇用確保措置を講じている。これまでの高年齢者雇用の歴史を見ても、例えば、60歳定年制を導入する際も最初は努力義務から始まった。その努力義務がだんだん浸透して、7、8割ぐらいの企業が60歳までの雇用を達成しつつあるころに今度は60歳定年制の導入を義務化した。このようなかたちで時間はかかっても労使が納得しつつ、制度が浸透するペースを見ながら新しい雇用ルールを決めていくということが、特に高年齢者雇用の部分では日本で成功してきたように思える。

特に他の先進国と比べると日本の高齢者雇用政策は一貫して、高齢者の就労を段階的に進めることに成功してきたと思う。そのことから考えると、この65歳までの雇用確保措置も当面は賃金の合わせ技も含めて、今のようなかたちでしっかりと雇用を確保していくのがよいと思う。ただ、2025年には合わせ技の一部である報酬比例部分もなくなっていくわけで、最終的には、例えば65歳まで定年を接続していくようなかたちに日本の雇用ルールを持って行くという選択肢も真剣に考えていかなればならない。その点については、すでに一部お話いただいており、労使双方でもいろいろご苦労があるかと思うが、行政の立場の見通しはどうか。

今後の高齢者雇用の見通し

熊谷 現時点で見通しを申し上げるのはなかなか難しいが、現実に企業の中では65歳まで働ける制度の導入が着実に進んでいる。さらに将来、65歳定年制の導入を考えるとなると、希望者全員が65歳まで働ける制度の導入がさらに進むという過程を経た上で実現していくということになるのではないか。現在、私どもは希望者全員が65歳まで働ける企業の割合を2010年度までに50%に持っていくことを目標にしている。現在39%だが、できるだけこの水準を上げていくことで次のステップへつながるではないかと考えている。

清家 2013年度までに65歳までの雇用が確保されたとして、それ以降も今のような継続雇用制度で雇用を確保するのか、あるいは定年延長をするべきなのか。先ほどのお話では、今のところは連合も65歳までの定年延長を打ち出すには至ってないということだったが、長谷川さんの個人的な見解も踏まえて、長期的な展望をお聞かせいただきたい。

長谷川 連合では二つの意見がある。一つは65歳まで定年を延長すべきだという意見。もうひとつは60歳でいったん定年退職させたうえで、希望者全員を雇用すべきだという意見。現状ではこの二つの意見を調整することができていない。

ただ、私が先ほど申し上げたように2025年以降、60歳代前半の年金がなくなった時にどうやって5年間食べていくのか。大企業は企業年金があるからいいかもしれないが、中小企業は難しい。おそらく、2025年以降、60歳から65歳までの雇用確保を継続雇用で行うべきか、あるいは定年延長を法制化すべきかいうことが連合内でも大きな議論になっていくだろう。

年金の支給開始年齢が65歳になると、職場の中には20代、30代、40代、50代、60代と各世代が働いていることが当たり前の姿になる。今は法律で決まっているので何とかして高齢者のための仕事をつくらなければならないという状況だ。たとえは悪いが、高齢者にとっても「おまけ」のような働き方になっている。だが、今後はどんな職場でも65歳まで働くのは当たり前でそのための職場環境をどう作るかということが問われる。職場環境が整えば、残るのは処遇の問題だが、これは考え方が分かれるところなので、さらに議論の必要がある。

高齢者が働くことが職場の中でまだうまくいっていない気がする。だから、この2、3年の間に60歳から65歳までの人が普通に働ける職場を整備しながら、処遇問題について知恵を出し合っていくべきではないかと思う。

遠藤 あくまで個人的な見解として申し上げたい。私も、高齢者雇用に関わる方々に突きつけられた宿題をこの数年の間にやり遂げなければならないと感じている。高齢者の方々が組織の中でどういった役割を果たし、期待にどういう形で応えていくのか、そして、それを成果としてどのように出していくのか。企業サイドもそういう形を求めることで双方のニーズが合致するのであれば、公正な処遇が実現できると思っている。

今日、雇用の場をどのように創出していくかが大きな問題となっている。高年齢者雇用安定法の精神は企業、あるいは企業グループの中で安定した雇用の場を確保することにあるが、一方現状では、外部労働市場にいる方々にどういう形で雇用の場を提供していくのかということも大きな命題として企業に突きつけられている。雇用全体を見渡したときに様々な年齢層の方々が働いており、どう処遇していくのか、どう活用していくのか、その結果として日本の社会そのものがどういう形で展開していくのかといったことを見据えながら、高齢者雇用について考えていかざるを得ないと思っている。

70歳まで働ける社会の実現に向けて

清家 ここまで65歳までの雇用確保をどのように進めていくかというお話をしてきた。これまでの議論で65歳まで希望者全員の雇用がしっかりと確保されるよう労使で工夫をしていくことが大切だということについてコンセンサスは得られたと思う。

熊谷さんのお話のように、2012年には団塊の世代の47年生まれの人が65歳に達する。政府では70歳まで働ける社会も視野に入れて政策を進めておられるわけだが、この65歳以降の雇用について、熊谷さんのお考えをうかがいたい。

熊谷 65歳までの雇用が当面の非常に大事な課題であることは間違いない。だが、65歳以降もまだまだ働きたいという方もかなりいる。特に今のお話にあった団塊の世代はまもなく65歳に到達するが、65歳を超えても働きたいという方がかなり多くなっており、そのニーズにできるだけ応えていく必要があると考えている。

わが国の労働力人口の減少が見込まれる中で、働く意欲があり、しかもいろいろな知識、経験を持ち合わせている方々に十分活躍していただく場をつくっていくことは非常に大事なのではないか。「70歳まで働ける企業」というキャッチフレーズでその普及、促進を図っていきたい。

清家 65歳以降の雇用について、長谷川さんからも一言いただきたい。

長谷川 連合としては当面、希望する人全員について、65歳までの雇用確保に取り組む。その上で65歳以降も意欲ある人がエージレスで働ける社会をつくるべきだと考えている。

ただ、65歳以降の雇用について具体的な議論はしておらず、意欲と能力のある人は働いたらいいんじゃないか、という整理にしている。

清家 それでは最後になったが、今日言い残したこと、あるいは最後に言いたいことを一言ずつお願いしたい。

長谷川 私はどんな職場に行ってもあらゆる世代が生き生きと働ける職場とこれを実現できる社会が望ましいと思う。したがって、高齢者の問題を高齢者の問題として、議論するのではなく職場の中でどう仕事を分かち合っていくのかという議論を共に行っていかなければならないのではないか。その意味では高齢者の雇用は単に高齢者だけの問題ではないのだ。

遠藤 私は先ほど「高齢者雇用に関わる方々には宿題が突きつけられている」と申し上げたが、それは働く側だけの問題ではなく、企業側にも突きつけられた宿題でもあると思っている。その意味で、高齢者をより一層活用していく上でのポイントとなるのは、経営者が高齢者雇用について自らの考え方を明確にすることだと思っている。経営者が高齢者雇用の重要性を十分認識し、それを方針として明確に打ち出すことが、企業現場において高齢者と十分に連携を取り合いながら様々な課題に対応していくことにつながるのではないかと思う。

熊谷 行政としてしっかり取り組むべき課題は、希望すれば誰もが65歳まで働き続けることができる社会をいかにつくっていくか、ということだ。その意味では、平成16年に行った高年齢者雇用安定法の改正の成果は着実に上がってきている。2013年には公的年金の定額部分の支給開始年齢が65歳になり、さらに2025年には報酬比例部分も含めて65歳になることから、65歳まで皆さんが不安を持たずに働いていけるような社会の枠組みづくりをさらに進めることが必要だ。そのためには労使の方々とともに十分に議論をしながらしっかりと取り組んでいきたい。

清家 冒頭の基調講演でも申し上げたように日本は世界で一番高齢化が進んだ国になる。同時に高齢者がとても元気で就労意欲が高いという面でも世界一である。この二点を考えると、実は日本という国は世界に向けて高齢社会モデルを発信できるポジションにいるのではないか。日本は今まで政策の面でも労使の努力という面でも高齢者雇用の促進、あるいは能力の活用という点では先進国の中でも素晴らしい実績を残している。ぜひこれからもこのトレンドを伸ばして行っていただきたい。

おそらく、団塊の世代の人たちが高齢化するこの数年が、彼らを先導者として本格的な高齢者就労モデルをつくっていくための重要な時期になるだろう。その上でさらにその先、65歳定年制の導入も含め、65歳以上70歳までの雇用のあり方をぜひ労使でしっかりと議論していただきたい。

今回の改正高年齢者雇用安定法の例は、日本の労使がぎりぎり議論して、しっかりとしたルールを決めると、物事が実際に目に見えて進むということのいい事例だ。その意味では、雇用のルールは労使と学識経験者の三者構成による審議会の中でしっかりと決めていくことが実効性の面からみても重要ではないかと思っている。

プロフィール

遠藤和夫(えんどう・かずお)/日本経済団体連合会労働政策本部主幹

1987年中央大学法学部を卒業後、日本経営者団体連盟(現日本経団連)入職。総務本部総務管理グループ副長、国民生活本部社会保障グループ副長、労政第二本部労働法制二グループ長を経て、2009年4月より現職。

熊谷毅(くまがい・たけし)/厚生労働省職業安定局高齢・障害者雇用対策部長

1981年労働省入省。熊本県職業安定課長、雇用均等・児童家庭局職業家庭両立課長、労政担当参事官、労働基準局総務課長、大臣官房総務課長等を歴任し、2009年7月より現職。

清家篤(せいけ・あつし)/慶應義塾大学商学部教授、慶應義塾長 博士(商学)
専攻は労働経済学

1978年慶應義塾大学経済学部卒業、同大学大学院商学研究科博士課程修了、同大学商学部助教授を経て、1992年より同教授。2007年より商学部長、2009年より慶應義塾長。この間ランド研究所研究員、経済企画庁経済研究所客員主任研究官等を歴任。現在、労働政策審議会委員(厚生労働省)などを兼務。近著に『エイジフリー社会を生きる』NTT出版(2006年)、『高齢者就業の経済学』共著)日本経済新聞社(2004年、2005年の第48回日経・経済図書文化賞受賞)、『労働経済』東洋経済新報社(2002年)などがある。

長谷川裕子(はせがわ・ゆうこ)/前・日本労働組合総連合会総合労働局長

1974年八王子市中野上町一郵便局入局。1983年全逓信労働組合中央本部副婦人部長、1984年全逓信労働組合中央本部婦人部長、1989年全逓信労働組合中央執行委員。1999年日本労働組合総連合会労働法制局次長、2001年日本労働組合総連合会労働法制局長、2003年日本労働組合総連合会雇用法制対策局長を経て、2005年より現職。

藤井宏一(ふじい・ひろかず)/労働政策研究・研修機構統括研究員

東京大学経済学部卒業。専門分野は労働経済、統計。1984年労働省入省、経済企画庁出向、労働省政策調査部労働経済課課長補佐、(財)連合総合生活開発研究所主任研究員、厚生労働省政策統括官付労働政策担当参事官室労働経済調査官等を経て、2005年8月より労働政策研究・研修機構(JILPT)に出向、現在に至る。「労働白書」、「労働経済白書」、「経済白書」の執筆に参加。主な研究成果は、JILPTプロジェクト研究シリーズNo.3『これからの雇用戦略ー誰もが輝き活力あふれる社会を目指して』(共著、2007年)、労働政策研究報告書No.95『失業率の理論的分析に関する研究―中間報告』(共著、2008年)などがある。