問題提起2:地域の労働市場と職業教育
若者問題への接近 ~誰が自立の困難に直面しているのか~
第39回労働政策フォーラム (2009年6月6日)

問題提起(2)  地域の労働市場と職業教育

小杉 礼子 JILPT統括研究員

若者の自立に関しては、非常に幅広い視点が必要です。太郎丸先生のお話で、それぞれの文脈がかなり整理されたと思いますが、私はそのなかの「労働と教育」のパートについて、主に最近わかったことをお話したいと思います。冒頭、宮本先生がおっしゃった社会的排除の文脈で言いますと、「雇用あるいは教育から排除されているのは誰なのか」ということをテーマにしたいと思っています。

1992~07年の20代前半層の雇用状況の変化と特徴

表1 20-24 歳層(在学中を除く)の学歴別就業状況の推移

表1は、就業構造基本調査」4回、15年分について、若い人たちのうち、学生を除き、不就業まで含めてどういう就業形態にあるかを学歴別にまとめたものです。そして、表1の黄色い線の正社員だけに注目してグラフにしたのが図1です。1992~02年までの不況期に、非正規雇用が増え、失業者も増えた結果、正社員がどんどん減ったのがこの10年間の変化です。その後、02年を底に07年まで景気の拡大期があって正社員が増えたことが、図1からわかります。

安定雇用から排除された低学歴層女性

図1 20 ~ 24 歳層(在学中を除く)に占める正規雇用者比率

ただし、正社員については学歴による違いが大きく、学歴の高い人ほど正社員になっていて、低い人は正社員になっていません。特に最近5年の景気拡大期、大卒者の就職状況は本当によくなり、多くが正社員になれました。一方、高卒も求人は増えてはいますが、統計で見ると、この5年、景気はよくなっても正社員比率は高まっていないのです。

それからもう1つ、女性の方を見てください。女性正社員も不況期には減って、最近5年は増えています。学歴の高い層は上がって、学歴の低い層は下がっているという事実も男性と同じですが、学歴の低い層で男女間にもの凄い差があります。この5年間、大きな変化があったのは学歴の低い層の特に女性です。この人たちの就業機会がかなり変わりました。

表1に戻りますが、07年の高卒学歴の女性の正規雇用比率は34.6%、それに対し、非正規雇用の比率は39.0%と完全に逆転しています。さらに失業率も非常に高い。この間、だれが安定的な雇用から排除されたかと言うと、低学歴層の女性であることが、このデータからも明らかです。

日本の高卒就職システムの特徴

太郎丸先生から、「ドイツのデュアルシステムが非常にすぐれた仕組みで、世の中から認められている」というお話がありました。もう1つ、認められていたのが、日本の高卒就職の仕組みです。高校にいる間に就職先を決め、失業者にすることなく最初から正社員にしてしまうというシステムは、若者を失業させない非常に優れた仕組みだと言われてきました。

図2を見てください。90年代までは、卒業半年前の最初の就職試験で70%が就職先を決めてしまう仕組みを持っていました。いろいろな問題もあるのですが、それはともかく、学校卒業と同時に失業者にはさせなかった仕組みです。

それが90年代には、大きく変化してきています。私どもがいろいろな調査をしてきたなかで、こうした「高卒就職システム」と言われるような仕組みは、崩壊したわけではないけれど随分変質し、やり方もいろいろ変わってきた。その結果、システムそのものがかなり変わってきていることがわかりました。

地域あるいは学校の種類によって、いわゆる雇用保証のような形で70%に近いような斡旋をうまくやっている学校もあるし、そうでない学校もある。学校や地域によってかなり違いがある背景には、その地域の労働市場の問題がかなり影響しているのではないかと思うのです。

若者の職業キャリアを調査

私どもでは、卒業や中退で学校を離れてから後のキャリアがどうなったかについて、一定の地域に住んでいる人たちを対象にしたサンプリング調査をしました。キャリアを、(1) 卒業後、最初から正社員でいるのか (2) 途中から正社員に変わったのか (3) 卒業時点も今も非正社員なのか――に大きく三分して、対象者それぞれがどういったキャリアを辿ってきたのかを調べました。

最初に調査した地域は東京です。フリーター問題などを調べる際には、まず大都市でそういった問題が表れるので、大都市を調べておけば恐らく先進的な変化がわかる。そこで、まず大都市を調べました。

学歴によるキャリアの違いが鮮明に

その内容が図3です。2001年と06年の2回調査をしました。同じような調査を2回実施することで、この間の変化がわかります。先ほど、図1で学歴による違いを見ましたが、この調査でも学歴差がクリアに出ました。大卒の場合、「最初からずっと正社員」の比率が高い。01年と06年を比べても、06年の方が就職環境が良くなったので、より若い人の安定的な就業機会が多くなるといった結果が見えます。

図3 大都市の若者の職業キャリア(在学中を除く・18 ~ 29 歳)

一方、高卒の方はちょっと愕然とした結果が出ました。高卒の場合、もともと01年の段階でも大卒よりは非正社員になりやすい環境でした。年齢が若い層は、後から卒業しているから、労働環境が悪くなってだんだん正社員が減るのですが、それでも非正社員から正社員に移る人も多く、最初はだめでも後で正社員になる道が結構あったと言えます。

ところが、06年に調べた結果は、この5年間、高卒労働市場はよくなった期間であるにも関わらず、最初から正社員というキャリアは若い層ほど少なく、最初から非正社員のキャリアが間違いなく増えています。図3は男性ですが、図4を見れば女性もほぼ同じで、非正社員の比率はより高くなります。

地域による若者の職業キャリアの違い

この調査は当初、東京だけで行っていました。しかし、高卒の就職状況を調べると東京と地方ではかなり違っていました。そこで去年は東京ではなく、札幌市を中心とする北海道と長野市、岡谷市等を中心とする長野県の2カ所でも調査しました。

図4 大都市の若者の職業キャリア(在学中を除く・18 ~ 29 歳)

図5は、長野県と北海道の20~34歳層の男性がどんなキャリアをたどっているのかを学歴別に分けて見たものです。赤い棒の長さに注目していただくと、北海道は赤が多く、長野は少ないことがわかります。同じ年齢層の男性で東京と比べると、北海道は東京よりも「非典型一貫型」というずっと非典型の人が10%ぐらい多い。長野は逆に10%ぐらい少ない結果でした。この2地域のどこが違うかというと、長野の場合は高校卒業者、専門高校、工業高校を中心に安定雇用に早くから入って、ずっと勤めているケースが多い。北海道は大学、とりわけ文系の大学を卒業しても最初から非正社員で、ずっと非正社員の人が多かったのです。

図5 地域による若者の職業キャリアの違い(在学中を除く・20 ~ 34 歳)

ここにあるのは、地域の産業構造と教育との両方の要素です。長野県は製造業がある地域を対象にしました。高卒就職の場合、地元の製造業での求人がどれだけ安定的にあるかが就職状況をかなり左右していましたし、その後のキャリアにもずっと影響します。高卒以下の学歴の男性にとって、物をつくる仕事は非常に重要なポジションで、そこでどれだけ安定的な雇用が得られるか。物をつくる仕事というのは、そのなかで能力をつけ、腕に磨きをかけて、結果としてより高い収入につながるというサイクルを含んだ仕事だと思うのですが、そういう仕事の有無が結構大きく影響するのかも知れません。

一方、北海道の大卒の場合、今回調べたのは主に札幌を中心したところだったのですが、サービス産業に特化したような都市型になっていて、大卒文系を出た人たちがかなり長い間、すすきので働いているといったような状況が見えています。

こういう教育と市場との関係をきちんと捉えていくことは、教育と雇用から排除されるという両方の兼ね合いをみるうえで重要です。どちらか片方の話ではなく、両方を見ながら考えなければいけないのではないかと思います。

大きい学校中退と早期離職のリスク

もう1つの特徴として、東京も含めて全地域が同じだったのですが「学校中退」という学歴で赤が非常に高く、学校を中退することのキャリアに対するリスクが非常に大きいことがあります。

それに加えて調査の中で見えたのが、「初職を離職すると、その後どうなるか」です。いま、7・5・3とかいろいろな表現で若者の離職問題が言われていますが、私自身は「早期離職そのものは転職であれば何の問題もなく、離職したその後が問題だ」と思っています。

この調査では、最初の仕事をいつ辞めたかがその後のキャリアにとても関係していたことがわかりました。1年未満の早期離職した人の場合、その後も正社員と非正社員の間を行き来するような仕事の仕方か、あるいは非正社員のままずっととどまるというような仕方になる確率が非常に高く、8割方がそういうキャリアにつながってしまう。一方、3年以上経ってから離職したケースでは、次の仕事も正社員の比率が6割ぐらいで、こちらは転職の形になっています。これらは、場合によってはキャリアアップの可能性もある。そう考えると、やはり最初の職場の継続はかなり重要ではないかと思うのです。

自立困難に直面した若者への対応

「誰が困難か」といえば、低学歴、女性、学校中退、早期離職、それから地域の問題として地域産業が非常に衰退した地域で生まれてしまった若者たち――。こういった層に自立困難を抱える社会的要因の1つが見えているのだと思います。

あとは、「対応」を考えることになると思いますが、太郎丸先生のお話は、「能力をつけて、それをちゃんとシグナルにして雇いやすくする政策につなげる」ことでした。これにつけ加えるとしたら、地域需要に見合った能力開発をどうするか。そして、能力開発を継続させるには、彼らにそれだけの生活基盤がなければ続けられません。

あとは意識の問題になりますが、どこかでつまずいたりした場合、本人の自分自身に対する意識が非常に下がっているケースが多いのですが、それをどうやって自信につなげていくか。そのとき、相談は1つの大事なステップですが、それともう1つ、これからの話として「社会的な働き方」。これは言うなれば、太郎丸先生の言う「ブリッジ」になるような働き方です。非正社員という働き方で雇用労働に耐えられるだけのものがない人の場合は、さらなる何らかの「ブリッジ」が必要なので、そういうものを考えていく必要があるのではないでしょうか。

そして、もっと難しく大事なことになる気がしている問題で、そういう能力開発をするところにどうしたら個人を結びつけられるのか。これまでのように、「待っていれば困っている人は来るだろう」というやり方ではもう絶対にだめな状態がわかっているなかで、そういう人たちをどう掴むのかを考えなければならないでしょう。

私はやはり、中退とか早期離職が大きな課題なので、そうなる前に掴むことが大事だと思っています。そのためには、個人を把握する仕組みが必要です。内閣府が先の国会に出した青少年総合対策推進法は地域のネットワークをつくるものでしたが、こういう政策と厚生労働省がずっとやってきた自立支援の政策をどう結びつけていくかが、これから大事になってくるのではないかと思います。

プロフィール

こすぎ・れいこ/東京大学文学部卒業。専門分野は教育社会学、進路指導論。1978年にJILPTの前身である雇用職業研究所に入所。2006年3月より現職。労働政策研究・研修機構で、「学校から職業への移行」、「若年者のキャリア形成・職業能力開発」に関する調査研究を担当。日本学術会議連携会員。主な研究成果は、労働政策研究報告書No.35 『若年就業支援の現状と課題~イギリスにおける支援の展開と日本の若者の実態分析から~』(いずれも共著)、同No.108 『地方の若者の就業行動と移行過程』。主な編著書に『自由の代償/フリーター』(2002年、JILPT)、『キャリア教育と就業支援』(2006年、剄草書房)、『フリーターとニート』、(2005年、剄草書房)『フリーターという生き方』(2003年、剄草書房)、『大学生の就職とキャリア―「普通」の就活・個別の支援』(2007年、剄草書房)など多数。