問題提起:高校生の就職支援・キャリア教育における高校・企業・ハローワークの連携
高校生のキャリア教育と就職支援を考える―学校・企業・ハローワークの連携の中で―
第34回労働政策フォーラム(2008年10月 6日)

小杉 礼子 JILPT統括研究員

問題提起:20081016フォーラム

本フォーラムは、当機構の「人材育成」研究部門が昨年度に実施した研究成果の報告の場でもあります。そこで、研究にご協力いただいた先生等を講師に迎え、いま高校あるいは採用の現場で起きている現実を語ってもらい、そのなかで、今後少なくなってくる若い人たちを一人前の社会人にしていく過程を、われわれ大人がどう支えていくかを考えたいと思います。

高卒労働市場の近年の変動

まず、高卒労働市場の近年の動向について触れたいと思います。高校卒業者に対する求人は、ここ5年間、景気回復のなかで状況が改善してきました。2003年(求人数21万9,000人)を底に増加に転じ、07年卒対象の求人数(同33万3,000人)は、03年より11万4,000人も増えています。ただ、その内容を確認すると、地域間格差が非常に大きいことがわかります。この5年間の状況をみると、例えば愛知県の増加率は90%ですが、北海道はマイナス4%です。

増えた求人の内容を確認すると、製造・製作の仕事、なかでも輸送用機器や一般機器といった輸出主導型の製造業の生産工程の仕事が増加を牽引してきたことがわかります。今の急に変化した環境を考えると、この5年間の拡大がこの先どうなるか、不安を覚えるところですが、今時点までは拡大がありました。

一定数いる高卒で仕事に就く若者

図1は18歳人口と高校卒業後の進路の推移です。グラフの一番下は就職した生徒の数です。近年、卒業生は減少傾向ですが、就職者数は安定してきています。これは、大学に入学しやすくなって「大学全入時代」などと言われながらも、18歳で高校を卒業し、仕事に就く若者たちが、今後も必ず一定数いることを示しているのではないでしょうか。

図1:20081016フォーラム

その背景には、産業界で実際に若い人材を必要としていることに加え、日本の大学は親の負担で行くため、家計の問題も強くあります。こうしたなかで、高卒後、就職する若者をどう一人前の人材に育成するかを考えるべきだと思います。

無業者少ない工業高校卒の男子

図2は、学科別にみた高卒時の就職者と無業の若者の数です。求人の急激な拡大のなか、男性の就職者がもっとも多いのは工業高校卒業者で、二番目は普通高校卒業者です。いま工業高校への求人は非常に強くなっている状況にあり、一人勝ちといういい方もされています。他方、女性は普通高校卒が一番で、次に多いのは商業高校卒業者です。

図2:20081016フォーラム

図2にはもう一つ、無業で就職も進学もしないまま、いわゆるフリーターになるタイプの卒業者数も載せてみました。すると、工業高校、商業高校の卒業者も若干いますが、普通科高校から無業者が圧倒的に多く出ます。

ただし、女性の場合は、比率でみると商業高校、農業高校からの無業者も少なからず出ています。男性の場合は、どんなに景気が悪い時期でも、工業高校がもっとも無業者を出さない高校であり続けました。この辺は多分、労働力需要が変わっているからでしょう。しかし、この間、拡大したのが生産工程の仕事であったように、女性の職業科高卒者の求人はかなり限定的だった。そのなかで、商業高校はとても苦労されてきたのだと思います。

ハローワークの対応に変化が

さて、高卒就職の流れは、「企業が求人票を出し、ハローワークで確認後に返却され、それを学校に持って行き学校内での相談過程があり、校内推薦されて企業に応募する」というものでした。こういう仕組みに対し、2002、03年にかけてハローワークの対応の変化がありました。

よく言われるのが「複数応募」という変化ですが、私は「求人情報がよりオープンになる」という過程の方が大事だと思います。学校に対し、インターネットを使った情報システムでどの学校からでも見られるようにするといった情報公開の方向、それから職場見学あるいはジョブフェアという、生徒が直接、就業情報を現場の実態を含めてよりよく知られるようにするとの変化がありました。

地域の実情に沿った柔軟な対応を

図3は、その仕組みの全体像を示したものです。ハローワークを通し、より多くの企業情報が学校に伝わるようになりました。ハローワークは、地域によって労働市場の状況が違うため、就業機会の小さいところでは求人開拓を直接、働きかけたり、地方で求人の遅いところには早期化を要請するなど、それぞれ取り組み方が違います。今日、来ていただいたハローワーク浦和のように、企業の求人充足率の方が悪くて企業サービスを中心にしなくてはならないところでは、産学の新たなネットワークをつくるべく、企業に同行して学校訪問をするような行動を取っています。つまり、全体の調整というのは、地域の労働市場の状況によってまったく違うわけです。それを柔軟にすることが、これからのハローワークの対応として、より重要になってくると思います。

図3:20081016フォーラム

実際、一部のハローワークには、生徒が早い段階から直接、来所して、ハローワークでのあっせんが中心になるような地域も出てきています。さらに、保護者に対する情報提供まで行っているところも出てきています。情報がよりオープンになり、直接生徒、あるいは生徒の意思を決定する背景にある保護者にも届くようになった。これがこの5年間の行政側の対応の変化です。

こうした対応の変化のなかで、学校や企業とどんな連携があり得るのか。私は企業と実際に就職する若者たちをつなぐ過程にある学校と、地域全体の市場状況によって柔軟な対応をするハローワークの連携のなかで、より効率的、効果的な職業人の育成ができると思っています。

<プロフィール>

こすぎ れいこ/労働政策研究・研修機構統括研究員。1978年雇用促進事業団職業研究所(現・労働政策研究・研修機構)入所、2006年3月より現職。主に「学校から職業への移行期」に関する調査研究を担当。編著書に『自由の代償/フリーター―現代著者の就業意識と行動』(日本労働研究機構、2002年)、『キャリア教育と就業支援―フリーター・ニート対策の国際比較』(勁草書房、2006年)、『大学生の就職とキャリアー「普通」の就活・個別の支援』(勁草書房、2007年)、著書『フリーターという生き方』勁草書房、2003年)など。労働政策審議会臨時委員、社会保障審議会臨時委員、中央教育審議会臨時委員(生涯学習分科会)・専門委員(大学分科会)。