研究報告 高卒就職・キャリア形成支援の現状と課題―高校側を中心に:
第34回労働政策フォーラム

高校生のキャリア教育と就職支援を考える
―学校・企業・ハローワークの連携の中で―
(2008年10月 6日)

堀 有喜衣 JILPT副主任研究員

堀 有喜衣 副主任研究員:20081016フォーラム

本日は、労働政策研究報告書No.97「『日本的高卒就職システム』の変容と模索」の知見を中心に、ご紹介したいと思います。基調報告にあったように、高校生の就職に当たっては、支援機関としてハローワーク、高校、企業の三者があり、生徒はこの三者の支援のなかで就職を決めていくことになります。需要側の説明は、この後の筒井先生にお願いし、私は供給側の高校、とくに高校と企業との関係に着目してご説明したいと思います。

日本の高卒就職の特徴

さて、日本の高卒就職は、国際的に見ていくつかの大きな特徴があるといわれています。最大の特徴は、企業が直接生徒に接触することができず、ハローワークや高校を通じて求職するといった就職活動にあります。

例えばアメリカの高校性をみると、高校のキャリアカウンセラーなどに相談することはあっても、日本のように(ハローワークや学校が)生徒の面倒を見るといった就職活動はなされていません。

また、ドイツには「デュアルシステム」という教育訓練の仕組みがありますが、デュアルシステムの訓練生になって支援を受けつつ活動する際にも、基本的には生徒が一人で就職を決めていく。これが大抵の諸外国のパターンです。ところが、日本は非常に面倒見よく高校生の就職をさせてきたわけです。

就職スケジュールも厳密に設定

二番目の特徴は、就職スケジュールがかなり厳密に決められていることです。こちらは大学生と比較すれば違いが鮮明になると思います。今や、大学生の就職協定はありません。倫理憲章はありますが、高校生のように就職スケジュールがきちんと定められてはいません。

また、7月に求人が出て、9月16日に第1回目の試験を受けるといった短期スケジュールで就職を決めていくことも大きな特徴でしょう。この「就職スケジュール」は、日本の高卒就職の仕組みをかなり規定してきた部分があります。

一人一社制や校内選考も

地域によって大きく異なりますが、ある時期までは「一人一社制」で、かけ持ちができないこともあげられます。仮に生徒の希望が重なって一つの求人に二人以上の希望が出てしまった場合には、80年代までは学校内での成績あるいは欠席日数などによる校内選考を行い、生徒を送り出す、といった進路指導がなされてきたといわれます。

この選考方式は、生徒側からみれば、「まじめな学校生活を送れば安定した就職に結びつく」ということになります。逆に、教師側からすれば、「まじめに学校生活を送りなさい」といった生活指導上の理念として機能してきたわけです。

ただ、これらは80年代までの話であり、それ以降は大きく変わりました。そこで、どのように変わったかをお話したいと思います。

対象地域を類型分けして調査を実施

当機構では、2007年6~12月にかけて、1997年に実施した高卒就職に関する調査を発展させ、この10年間の高卒就職の変化についての「高卒就職支援調査」を行いました。対象については、地域を類型分けしたうえで、ハローワーク2ヵ所、高校24ヵ所、企業23ヵ所を選びました。その際、労働力移動と労働市場の需給状況、さらに求人内容を高校生の就職の大きなポイントと考えました(表1)。

表1 対象地域の概要:20081016フォーラム

類型1は東京、埼玉、大阪といった大都市を指しています。このタイプの労働市場は、主に労働力を受け入れる側で、需給状況が比較的良好な地域です。求人内容は、サービスや販売が中心です。

類型2の地域は、労働市場のバランスがとれていて、受け入れることも送り出すこともあまりないタイプ。特徴は、需給状況が割と良く、製造業が多いことです。今調査では、長野や新潟がこの類型に含まれています。

類型3は、労働市場の悪い地域を二つにわけて考えています。まず類型3−(1) は、主として労働力がでていく地域、あるいはあまり出ていかない地域です。需給状況としては、求人が大変不足している状況にあり、サービスや販売が中心の地域です。今回は青森、高知、北海道が中心になります。とりわけ北海道は、状況が非常に悪いにもかかわらず、生徒が地域移動しない地域です。

そして、類型3−(2) は、生徒を送り出すほうが多い流出地域で、需給状況は求人が不足していますが、製造業がある地域です。今回の調査対象地域としては、島根、大分、秋田などが入ってきます。この地域類型を適宜用いながら、高校の進路指導についてご説明していきます。

就職スケジュールの10年間の変化

先ほどもお話しましたように、高卒就職スケジュールは日本の高卒就職の特徴の一つでありましたが、この10年間、大きな変化をいたしました。

図1は、内定時期の変化を見たものです。一番上の折れ線は92年3月卒業者のデータですが、これをみると当時は9月末時点で約7割の生徒が内定を得られる時代だったことがわかります。逆に状況が最悪だった03年3月卒データをみると、9月末に3割ぐらいしか決まらなかったことがわかります。

図1:20081016フォーラム

07年には5割ぐらいまで戻ってきているのですが、60万人近くの高卒者がいて、その7割が9月末に決まるといった、多くの生徒が短期間で同時期に就職を決めるようなスケジュールではなくなった、というのがこの10年間の変化として挙げられます。

地域で異なる求人のタイミング

こうした内定時期のタイミングの変化は、企業の採用活動の時期に規定されることになるわけですが、これは地域によってかなり大きく異なります。今回、われわれが対象にした地域を表2に示しました。ここでは、7月末に出てきた求人と、3月末に最終的に出てきた求人を地域ごとに比べて「遅い求人比率」を計算しています。

例えば北海道では、8月以降に出てきた求人が68.6%、青森も65.6%もあります。こうした地域では、求人が早くに出てきて夏休み中に就職希望先を決め、9月16日に受験する、といったことではなくなっているのだと思われます。これに対し、東京、大阪、埼玉の「遅い求人比率」はかなり低い。状況のよい地域では、かなり早く求人が出て早目に就職が決まっていくのです。

表2:20081016フォーラム

さらに、不況期の2000年と景気が回復したといわれる07年で「遅い求人」がどれぐらい減ったかをみると、青森、高知、北海道など、地域によっては依然として遅い求人しか出てこない。

何故、求人がゆっくりとしか出てこないのか。定期採用ができる大企業ならば、7月には来年の採用状況が把握できますが、中小とくに零細企業は、退職者の補充などの形で求人が出てきます。そう考えると、地方では定期採用ができない企業が多くなってしまっていることが遅い求人比率につながっている、と思われます。そして、こうしたタイミングの分散化が、この10年間で進んだものと思われます。

90年代前半に薄れた「高校―企業間関係」

一方、日本の高卒就職の最大の特徴として、高校と企業の間に継続的かつ信頼に基づく関係があり、そのなかで高校生が就職を決めてきたことがしばしば指摘されます。アカデミックには、これを「実績関係」といいますが、こうした高校・企業間の関係の変化も、もう一つの大きな変化に挙げられます。

90年代前半まで、ほとんどの高校生の就職は、高校と企業の継続的な関係のなかで決まっていました。われわれの前回調査によれば、生徒の就職先企業のうち、7割が継続している企業でした。それが、90年代前半に高校・企業間の関係に構造変動が起こり、継続的な関係のない就職が増えました。高校側にすれば、初めて求人を寄こした会社に就職する生徒が以前に比べて増加することになったわけです。

労働市場の縮小が構造変動要因に

ただ、90年代後半から現在まではそれほど大きな変化はなかったので、歴史的には高卒労働市場は90年代前半に大きな構造変動が起きた、と位置づけられると思われます。その要因は、景気変動もありますが、労働市場の縮小が最大の原因ではないか。90年代前半に需要側である企業の求人が急激に減ると同時に、供給側の高校生も一気に進学にシフトして、就職を希望する高校生も大きく減ってしまいました。労働市場の縮小自体が、高校と企業の関係の変化を引き起こしたと考えられます。

表3:20081016フォーラム

われわれは、高校と企業との関係性を調べるために、単発採用企業(今回のデータ観察期間中で1回しか採用のなかった継続的関係のない企業)が、就職先全体のどのぐらいを占めるのかを計算し、単発採用企業の比率が低いほど「高校―企業間関係」の継続性が高いと捉えました(表3)。データの観察期間は2002年3月~07年3月卒業者の5年間。この時期は、02年に景気が底を打った後の1貫した回復期のため、企業の求人が復活かつ継続しやすい時期で、観察期間として適切だと考えられます。

就職先企業のうち7割が単発採用企業

表3をみると、単発採用企業の比率は学科ごとでも違いますが、全体で就職先企業のうち7割程が単発採用企業になっています。ここからは、生徒の就職先の半分以上が全然採用関係が継続していない企業であることが見えてきます。

とくに普通科は単発採用企業比率が非常に高く、例えば東京A普通高校では、この5年間に採用が継続した企業が一つもなかったことになります。逆に、商業高校はこの比率が低くなりますが、ここでのポイントは就職者人数です。

就職者の人数が多いと、比較的単発採用企業比率が低くなる傾向があります。単純に考えて、継続的なマッチングは需要も供給もある程度以上の数があって初めて成り立つものです。学校側からいえば、生徒の希望が継続して出るとは限らないし、企業側からすると、中小零細企業が多くなれば毎年求人が出せるとは限りません。高校側も企業側も絶対数が少なくなってマッチングが成立しなくなったことが、高卒労働市場の変動に大きく係わっていると思われます。

学校内選考を行わない高校も

さて、先ほどお話ししたように、日本の高卒就職の特徴に学校内選考があります。これは諸外国ではとても考えられないことなのですが、80年代にはあらかじめ校内選考で生徒を絞り込むということが普通に行われていましたが、今回の調査では、校内選考を行わず希望があればそのまま出してしまう高校も多く見られました。そして、そういった高校はランダムに存在しているのではなく、いくつかの特徴があります。

一つは就職者数が少ない学校。希望が重ならないため、そもそも校内選考する必要がないところです。それから、仮に学校で絞り込んでも、企業で採用してもらえるとは限らないので、始めから校内選考を行わずに出してしまう学校もあります。例えば青森B工業では、県外求人への応募については校内選考を行いますが、県内求人には希望者をそのまま送り出しています。県内が激戦のため、学校内で選考して絞っても青森B工業の生徒を採ってもらえるとは限らないからです。表4の類型3のような就職環境の非常に悪い地域では校内選考が成立しない状況がありました。

表4:20081016フォーラム

四つに分かれる就職指導のタイプ

「高校―企業間関係」については、いま普通科の就職者がとても少なくなっているので、直接ハローワークに行くタイプの高校も増えています。また、就職者人数が多いと短期間に多くの生徒の就職を決めていかなければならないため、成績の基準を示すことで生徒を就職先にうまく誘導していくといったしくみがあります。こうしたことから、本報告では、就職指導が幾つかのタイプに分かれることを提案しています。具体的には、就職者人数と地域類型によって、校内選抜からみた就職指導タイプが決定されているのではないか、と捉えて四つの高校就職指導タイプを示しています(図2)。

図2:20081016フォーラム

類型Iは、伝統的な校内選抜を行う「高校―企業間関係」を大事にするタイプの高校です。就職者人数が多く、かつ雇用情勢がよい地域で成立します。

これに対し、就職者人数は多いが雇用情勢はあまりよくない地域は、類型Ⅱと類型Ⅲのタイプに分かれていました。類型Ⅱは地元志向が強く、典型的に北海道に見られるタイプ。もともと「高校―企業間関係」があまりなく、校内選考自体も先ほど述べたように状況の悪い地域では高校内で絞っても採用してもらえるとは限らないため、地元志向の強い地域では「半自由型的就職指導モデル」が成り立っています。類型Ⅲは、地元志向が弱く県外に就職させることができるため、それなりに「高校―企業間関係」を持ち、校内選抜型の就職指導が成立します。

一方、就職者人数が少ない場合は、雇用情勢の善し悪しに関わらず校内選抜は行わないし、「高校―企業間関係」のないところで就職させていく自由形の就職指導が成立していることが調査研究からわかりました。

不十分な情報をどう補完するか

最後に今後の論点としては、まず、高校と企業との関係のなかで就職を決めていく就職指導が難しくなっていることが何を引き起こしているのかという点です。これまで高校と企業との関係があったところは、就職していく生徒がどう処遇されるのか、高卒者にどういったキャリア展開や働き方があり得るのか、企業が望む人材はどういったものか、などが一応高校は不十分ながらもわかっていたはずです。

ところが、そういったことがわからない単発採用の企業が増えてしまうと、こうした情報が不十分になりますし、場合によっては早期離職の増加につながる可能性も考えられます。こうした変化をどのように補完していくのかが論点として挙げられると思います。

キャリア教育や保護者対応も課題

二点目に、就職者が少ない「自由型モデル」の高校では、「まじめに学校生活を送ればちゃんと就職できる」といった指導ができないので、キャリア教育の重要性が増してきます。そこで、どうキャリア教育を展開するのが望ましいのか。

そして、三点目には保護者の問題があげられます。子供の就職にまったく関心を持たない親や、逆に過干渉な親など、さまざまな姿勢の親がいます。加えて、家計の厳しさで生徒の就職先もしくは進路がコントロールされてしまうこともあります。保護者をどう取り込んで就職指導を行っていくのかも今後の大きな課題になってくると思われます。

<プロフィール>

ほり ゆきえ/労働政策研究・研修機構副主任研究員。2002年より日本労働研究機構(現・労働政策研究・研修機構)に勤務、2008年4月より現職。研究テーマは、「学校から職業への移行」、「若者支援」。専攻は教育社会学。主な成果に『キャリア教育と就業支援』共編著、勁草書房、2006年)、『人材育成としてのインターンシップ」(共編著、労働新聞社、2006年)、『フリーターに滞留する若者たち』(編著、勁草書房、2007年)など。