開催報告:第27回労働政策フォーラム
キャリアの再構築を支援する—ミッド・キャリア層を中心に—
(2007年12月20日)

目次

基調報告 ミッド・キャリア層の働き方とガイダンス

松本 純平 JILPTキャリアガイダンス部門統括研究員/労働大学校教授

パネルディスカッション 現場からの報告とパネルディスカッション

※無断転載を禁止します

基調報告 ミッド・キャリア層の働き方とガイダンス

松本 純平 JILPTキャリアガイダンス部門統括研究員/労働大学校教授

本日は、「ミッド・キャリア層の働き方・あり方が、わが国のあり方を左右し」、「その働き方、生き方を支援するサービスは極めて重要である」という「前提」でお話させていただきます。『職業安定広報』という厚生労働省職業安定局が発行する広報誌があります。その最近の号で、 08年の労働行政の方向性を取り上げていました。本日のテーマである「ミッド・キャリア層」を対象にした行政施策や予算についてみてみると、キャリア交流事業のほかには教育訓練資金の交付ぐらいで、若年フリーターなどへの予算や事業が目立っています。

松本純平統括研究員

確かに、最近の白書を見ても、 35 歳から 50歳ぐらいの労働力の中核をなしている部分は、離転職率もそれほど高くなく、正規・非正規の割合をみても、圧倒的に正規雇用者が多い。ですから、このわが国の労働力の中核をなしている部分は、こうした指標からみれば問題はないのは確かです。もっと深刻な問題が起こっているところに重点を置いているということだと思います。しかし、もし、わが国の労働力の根幹をなしている部分に何か大きな変化や問題が起こってしまったら、大変なことになるのも事実です。

若い人たち向けのキャリア支援対策を立てる上でも、若い人たちも自分たちの上の世代がどのような働き方、生き方をしているのかをモデルにしているはずですから、そこに関する情報は非常に大切になります。その層が生き生きとしていなければ、若い人たちが生き生きとした自分の将来像を描くことすらできないことになります。ですから、たとえ予算が付かなくとも「ミッド・キャリア層」に関する問題への関心はとても重要なものといえます。

さて、これまで、説明抜きに「ミッド・キャリア層」という言葉を使用してきました。この言葉は専門用語ではありませんし、耳慣れたものでもありません。そこで、私たちがなぜミッド・キャリアという言葉を使ったのかというのを回顧的に説明することから始めたいと思います。

今から4年ほど前、JILPTが独立行政法人として設立されたときに、中心になるミッションとして9つのプロジェクト研究テーマが設定されました。その中の一つを私たちのグループが担当しましたが、そのタイトルは「ホワイトカラーを中心とした中高年離職者の再就職支援等に関する研究」というものでした。プロジェクトが本格的に始まったのは 2003年度の後半からで、実際テーマに関して議論していたのは、その少し前からでしたが、その頃は、雇用情勢が最悪の状態でした。完全失業率が5%を超え、有効求人倍率が 0.5倍を切りそうな状況だったわけです。その時期の状況や問題意識が色濃く反映されたテーマだったといえます。

これまでも研究所では、中高年を扱った研究をたくさん経験しています。例えば、昭和 30年代の後半頃は、エネルギー源を石炭から石油に変えようという大転換政策にかかわって、炭鉱で働いている人たちをどう転職させるかという重要な課題がありました。その対象として中高年が多いということなので、それは同時に中高年の職種変換がテーマということになります。また、昭和 60年代「中高年者等の雇用の促進に関する特別措置法」に関連して中高年の雇用率を設定するテーマもありました。その際中高年の職業能力の評価をめぐって調査・研究がなされています。ですから、それぞれの時代で中高年に関心が寄せられて、それなりに対策があって、関連する研究が行われて来たわけです。

しかし、雇用労働の問題には景気などの動向も大きく関連してきます。目前の問題とその対策について懸命に研究しても、研究成果が出たときに、問題の質が変わっている場合もあります。たとえば今回の場合もホワイトカラーを中心とした離職者のみを対象に再就職支援に関して調査研究を進め結論が出て、政策の方向性などについて提言をまとめても、景気の動向によっては、あまり適切ではないものになる怖れがあります。できるだけ研究成果が普遍的な場面で意味を持つようにするため、このプロジェクトでは、中年のキャリア形成の問題について議論を重ねました。

中年とは?

では、その「中年」とはどんな存在なのでしょう。インターネットの百科事典であるウィキペディアで「中年」を調べてみますと、単に「年齢の区切り」というような説明が多い一方、「壮年期の前にあって、定義も一定しない」とも書いてあります。中年というのは年齢の概念ではっきりしているけれども、なぜその年齢を問題にしなければならないのかについては、なんらかの意味を持つわけではないということです。

今度は、 Yahoo のキーワード検索で「中年」を入れてみると、最初の頁に出たのが、「膀胱炎」、「熟年離婚」、「オレンジ共済事件で中高年がだまされた」などとてもネガティブなイメージの情報でした。

「中年」というのは単に年齢区分を示すだけでなく実はネガティブなイメージを含みやすいのです。中年を取り巻く環境を考えてみても、大きくは環境問題があり、食料・水・エネルギーの供給も不安になるし、会社を見ても、減量経営に加え国際競争で厳しさは増すばかり、さらに個人的にも成果主義で評価が厳しくなり給与も絞られる、また身の回りで家庭やコミュニティーの崩壊があり、やっと定年にたどり着いても奥さんから離婚を宣言されるかもしれない。年金はどうなるのかも心配だし、たとえば今会社を辞めたらワーキングプアに一挙に転落する恐れがある、といったように「未来」にはとてもプラスのイメージが持てないし、予測も立てられない。「中年」が置かれた状況は検索にも表れているということなのでしょう。

スーパーのキャリア段階

こうした、変化が激しい時代の中で私たちは生きているので、雇用が比較的に安定しているといっても、中高年層は様々な不安の中で働き、生活しているというのが実情でしょう。図は、有名なスーパー博士のキャリアの発達の段階を示しています。「誕生」から「成長」して「探索」し、その後、「確立(エスタブリッシュ)」と書いてあります。職業的に腰を落ち着けてから、引退を含んだ「衰退」までは示してありますが、一番長くて重要な社会の中心になる「中年」のところについては、そんなに細かくは示されていません。ここを問題にし、ここが重要だと指し示したいとき、私たちはその期間を何と呼べばいいのでしょうか?

私たちはネガティブなイメージの少ない「ミッド・キャリア層」と呼ぼうということになったわけです。

では、ミッド・キャリア層の問題は何かということになります。スーパー博士が理論を示したときアメリカでは、これはホワイトカラー・中産階級のモデルであるが、アメリカ人全体のモデルじゃないよという批判が出ました。わが国でも一時期総中流社会であったこともあり大体同じようなキャリア段階で説明できるのかなというモデルではあったのですが、現在ではその適合具合はわからなくなっています。中年まで一生懸命働いてきたからといって、それが報われる社会ではなく、企業にしても、ひとつ間違えれば倒産したり、あっという間に他の企業に買収されるか分からなくなってきている時代です。順調に行く人生ばっかりじゃない上に、いわば標準的なモデルなき時代に生きているということを前提にしなければならないということです。先の研究テーマは、モデルなき時代のキャリア支援とは何なのかを考えなければならないという課題を示しています。

JILPT キャリアガイダンス部門の研究

さて、プロジェクト研究に関する議論では、結局、キャリア支援の原則は変わらないのではないかというところに落ち着きました。ただし、標準的なモデルを前提にして、それに有効な支援を考えるというのではなく、支援の対象が多様なモデルに対応できる知識、技術、スキルを獲得することに貢献する、キャリア支援のツールを開発しようという話になりました。これを受け、三つのタイプの研究を計画しました。まず、第一番目は、伝統的な手法によるガイダンスツール開発です。厚生労働省関連機関ではまだ開発されていない領域について、3年のプロジェクト期間中に開発しようと、取り組みました。その成果は自己理解ツール集という形で公開されています。個々に含まれるのは、まず、「管理機能行動目録」です。ミッド・キャリア層の特徴は、職業経験の中で管理的面での体験をしていることです。ですから、業種や職種という捉え方ではなく、どういうタイプの機能を経験しているのかを捉え、それを生かすための素材を提供しようというものです。

次は「短期記憶・作動記憶」です。皆さんもそうだと思いますが、物事を覚えられず、人の名前が出てこなかったときに、「ああ、年をとったな」と感じる。また、たとえば、2階の部屋に何か物を取りに行ったときに、2階に着いた途端、何をしに来たのか忘れてしまう。やろうと記憶したことと、2階に上がるという行動を一緒にコントロールすることができないという状態になっているわけです。このような現象について理解するには、短期記憶や作動記憶の分析が必要になります。新しいものにチャレンジするときは、新しい学習が求められます。こうした短期記憶と作業記憶をチェックすることによって、新しいものにチャレンジする勇気みたいなものを与えられないかという点も視野に入っています。

最後は、「心の硬さ尺度」です。私たちは新しいものにチャレンジするときに、一般的に困難さを予期するとやめてしまいます。このときの判断はそれぞれの個人的な体験や知識を基にしていますので、身体的、精神的のもピークを過ぎたと感じやすい「中年」は、新しいチャレンジの道を目から閉ざしてしまいがちになります。新しいことにチャレンジできないことが中高年の特徴だとすると、こうした状態を映し出すものとして、「心の硬さ」という尺度を考えプロフィールの形で客観視できるようにすることで、新しい方向に踏み出す勇気を援助できないかと考えたわけです。

新たなタイプのガイダンスツールの開発

二番目に開発目標にしたのが、「キャリア・インサイトMC」です。コンピューターを使った新しいタイプのガイダンスツールです。コンピューターを使ったキャリア・ガイダンスのシステムというと、私たちはすでに「キャリア.インサイト」を開発しています。このシステムは、若者向けにジョブ・カフェなどで中心に使われておりますが、利用対象は、基本的に 35 歳ぐらいまでになります。そこで、これをもう少し延ばせないかということで「キャリア.インサイトMC」(MCはミッド・キャリアの略)が開発されたわけです。

三番目に実施したのが、「職業相談逐語記録作成・解析システム」です。長い名前ですので、私たちは「逐語くん」と呼んでいます。キャリア援助といっても実際は、具体的には相談の過程を通して援助するわけですから、その過程で何が起こっているかをきちんと分析する技法を確立する必要があるわけです。相談というコミュニケーションの効果や効率を分析することによって、もっと効率的で効果的な相談ができないかを実証ベースで議論できる、逐語記録を分析して、その中でどういうことが問題になって、どんな順番で話題が交換されたのかを議論できることを狙ったツールです。

Career Adaptability を高める援助を

以上、プロジェクト研究の紹介を通して、「ミッド・キャリア層」へのキャリア支援の重要性とそのことに対する私たちのチャレンジについてお話してきましたが、最後に本日のテーマに関連して一つの提案をさせていただこうと考えています。

それは、「 Career Adaptability を高める援助」という概念です。これは、昨年9月に開催された国際キャリア・ガイダンス学会でアムステルダム大学のヴィアネン博士がお話になったものです。彼女は、最近非常に注目されている理論家・実践家であるサビカス博士が提唱する Career Adaptability という概念を核にして、新しい時代に向かってのガイダンスのあり方について基調講演を行っています。

Carrer Adaptability を高めるアプローチ

表をご覧ください。従来のキャリア・ガイダンスはどちらかというと右側に列挙してある諸点に重きを置いていたのに対して、これからは左側にある Career Adaptability を高めるということにも重点を置く必要があるのではないかという講演でした。

第一番目は、今まではモデルに従って、できるだけ長い期間のキャリアモデルを考えて、先ほどのスーパーの学説のように、成長して、探索して、確立して、維持して、それで衰退みたいな長いスパンに重点を合わせていたわけですが、これだけ変化が激しい時代にあっては、短いスパンの目標によりフォーカスを当てるべきじゃないかという主張でした。

第二番目に、いろいろな制約条件の下でキャリアを通して実現したいものを目一杯持ち出してきて話題にすると、どんな選択をしても十分満足させるということは難しく、却って不満を募らせることになりがちである。「 Good enough 」すなわち「足るを知る」という、そこそこのところで満足するという物の考え方で、援助してはどうだろうかという主張です。三番目は、職業経験を積むことによる熟練形成や課題をクリアし自信を持つことなどは、今までは仕事の場を中心に考えられてきました。しかし、キャリア形成に有効な経験は、別に職場だけではなくて、家庭生活や地域生活などの場面で経験できるし、蓄積しているわけです。いろいろな場所でいろいろな役割を果たしてきている経験を評価し、そうしたことも含めて形成された自信にも注目し、それらをキャリアを考えるときの一つの軸にしたらどうだろうかという主張です。

四番目は、できること、やったことを中心にガイダンスするだけではなく、新しいものを学んでいくことにより焦点を合わせ、こうした指向性を持った援助が必要ではないかということです。

最後に五番目は、とても重要なキーになる考え方だと思います。 Self concept clarify とは、あなたはこういう特徴を持っているということを明らかにすることです。従来のアプローチでは、ガイダンスでは個々人のユニークさを明確にすることがすべての出発点でした。それに沿って援助していくわけです。しかしながら、個々人は環境変化の中で、いろいろな可能性を持った存在であり、キャリアの核をなす Self は決して一つだけと考えることが適切ではない。 Selves という Self の複数型になっているように、われわれが取り得る可能性は沢山あるので、「自分らしさ」をたくさん考えられるような支援をしてはどうかという主張だったと理解しています。

モデルの見えにくい時代のキャリア支援

ミッド・キャリア層というのは多種多様な課題を抱えています。個人の努力では解決できない問題も抱えています。変化の時代にあっては予期できるものに対しては準備できますが、予期できないことが起こったときに、くじけないで解決する柔軟性、適応性を持つことが充実したキャリア形成にとって重要になります。

冒頭に指摘したように、ミッド・キャリア層に活力がないことには、わが国の活力は生まれてきません。こういう人たちが生き生きするために、どういうことをしなければならないのか。先ほどのアムステルダム大学のヴィアネン博士の話を参考にキャリア支援のモデルという点で私なりにまとめて見ます。

まず、これまでの職業経歴や役割をベースにしたモデルだけではなく、人生全体でどんな経験を積み、どんなことをしてきたのかというモデルもキャリア支援に使っていく必要があるのではないか。「職業役割モデル」だけでなく「人生役割モデル」もということです。

さらに、「長期キャリアモデル」だけでなく「短期キャリアモデル」も必要になると思います。とりあえずチャレンジし、うまくいったら、その経験を生かしてまた次にチャレンジというように、短いスパンの目標を持つことによって積極性が生まれ、生き生きとした支援もできるんじやないかということです。

最後に「治療モデル」というような、どちらかというと、マイナスをプラスにするなり、ゼロまで持っていくネガティブなモデルではなくて、「こういう経験はこんなふうに生かせるよ」という具合に、プラス思考のモデルをたくさん持つことによって、支援の幅を広げていければいいのではないだろうかということです。いわば「治療的モデル」だけでなく「開発的モデル」による支援の展開です。

話を閉めるにあたって、私たちの新しい研究成果物であるキャリア・ガイダンスのためのツールが、変化が激しくモデルなき社会の中でキャリア形成に取り組む悩み多き「ミッド・キャリア層」のキャリア支援に深い関心をお持ちになっている本日のご参加の皆様の仕事を進める際に、少しでも力になることを願っています。


パネルディスカッション 現場からの報告とパネルディスカッション

出席者
小林 智明
(株)JMAMチェンジコンサルティング
キャリア開発支援事業部長/シニアコンサルタント
吉澤 幸子
ハローワーク新潟 介護労働専門官
狩野 賢
(独)雇用・能力開発機構東京センター
キャリア形成支援コーナー(相談第三部門)部門長代理

コーディネーター

室山 晴美
JILPT主任研究員
PHOTO遠景

室山 基調講演で総合プロジェクトについての説明がありましたが、私はそのなかの「キャリア・インサイトMC(ミッド・キャリア)」の開発を担当しました。「キャリア.インサイトMC」とは、コンピュータを使って利用者が職業情報の検索や自分の適性を調べ、それに基づいてキャリアを考えることなどを援助するシステムです。過去に 34歳までの若年層を対象としたシステムを作りましたが、MCはそれより年齢が上で職業経験のある中高年者のためのガイダンスをめざして開発しました。

MCの開発に当たっては、中高年者に対して、パソコンを使ったガイダンスが有効かどうか、また、職業経験のある中高年者に、自らの適性を見直し、改めて再就職先を考えさせるシステムが適切かどうかが気がかりでした。そして、実際にヒアリングを行う過程で、ガイダンスの切り口が若年者とは全く異なることがわかってきました。

ミッドキャリア層のガイダンスの仕方は

「キャリア・インサイトMC」が対象とした 35 歳以上で職業経験のある層は若年層と違い、置かれた状況が多種多様です。経済的な問題や今後のキャリア形成、転職を考えている可能性、家族の状況、前職の経験、勤務地や健康の問題など、年齢が上になればなるほど多様化してきますから、ガイダンスの仕方もいろいろな形が必要です。

そこで本日は、それぞれ違う立場でガイダンスに携わっておられる3人のパネリストの方から、日ごろの相談活動で感じていることなどを話していただきたいと思います。まず、自己紹介をお願いします。

PHOTO狩野 賢氏

狩野 賢氏

狩野 雇用・能力開発機構東京センターの狩野です。当センターの相談窓口キャリア形成支援コーナーでは、いろいろな相談が行われていて、中高年の方からの相談も来ています。私の日常は事務が中心ですが、私自身、キャリア・コンサルタントとして日々感じていることがありますので、相談の現場を代表してお話させていただきたいと思っています。

吉澤 ハローワーク新潟で介護労働を担当している吉澤です。厚生労働省が 1992年に福祉人材確保事業をスタートさせ、各県に一つ「福祉重点ハローワーク」を設置し、その担当者として「介護労働専門官」を配置しました。新潟の場合はハローワーク新潟で、私が担当しています。自分なりに勉強しながら、職業訓練や職業紹介、求人開拓、事業主訪問など、いろいろな業務に携わっています。

小林 JMAMチェンジコンサルティングの小林です。私自身、今日のテーマである「ミッド・キャリア層」の入り口の 35 歳時に当社に転職しました。約5年間、再就職支援の部門でカウンセラーとして働き、その後、企業内の社員のキャリア開発支援の部門に異動しました。今は企業内の人事・人材開発部門の人と一緒にキャリア開発支援のための研修や面談、コンサルテーションなどをしています。

自分の経験を肯定的に捉えない傾向が

室山 では、初めに、若年層とミッド・キャリア層の就職などに対する考え方や特徴についてお伺いします。それぞれに特徴や違いがあると思うのですが。

狩野 当センターに来る相談内容をまとめてきたのですが、傾向としては、ミッド・キャリア層は、自分の経験を肯定的に捉えていない人が結構いると思います。豊富な経験があるにも係わらず、「そんなのはできて当たり前で、特段変わった特徴ではない」と考える人が少なくない。ですから、再就職する際には、コンサルティングの中で経験の棚卸しや整理が必要です。

室山 肯定的に捉えない背景には、挫折感などがあるのでしょうか。

狩野 相談者は、会社の倒産やリストラ、健康を害した経験などで、元気がない状態で来るケースが多く、そういった状態だからこそ肯定できない面もあると思います。「自分はだめだから首になった」とか「実際、仕事が見つからない」など、悪い面を自分の内側に探してしまう傾向がかなりあるような気がします。

生活全体の見直しも含めた相談を実施

吉澤 私が面談しているのは、 20 ~ 60歳代の、 (1) いろいろな事情で一旦、仕事を辞めて家庭などで過ごし、改めて復職したいと考えている人 (2) 現在、働いているのだけど、職種転換もしくは介護の仕事をめざして職業訓練を終えた人―の2タイプに大別できますが、その多くは、やはり混乱した状態にあると言えます。

吉沢 幸子氏

吉澤 幸子氏

このため、相談は「どのように生きていきたいのか」という生活全体の見直しと、「生活の中でどのような働き方を望んでいるのか」というライフプランニングから始めることになります。ただし、相談の過程で状況も日々刻々と変わりますから、就職支援もそれを見据えてやっていかなければなりません。

また、話を聴いてくれる第三者の存在をとても求めているとの印象があります。狩野さんの指摘のように、自信や元気がなく、自分がしてきたことを過小評価している人が結構いますし、逆に過大評価している人もいます。自分の経験を次の仕事でどう活かせそうかを摺り合わせるお手伝いもしています。

特徴としては、 (1) 大きな生活の変化が伴っている (2) それによってメンタル面も含めて抱えているものが多い (3) たとえ、自分の経験に自信があっても、次のステージでどのように活かせるかのわからない―ことから、自信と不安の交錯する状態が見受けられます。

気持ちをほぐして、信頼関係を築くことが重要

室山 お話を伺っていると、実際の相談では職業紹介より先にメンタル面でのケアの方が必要なように感じられます。

狩野 やはり信頼関係をいかに築けるかに尽きると思います。年齢に関係なく「相談する」ことへの抵抗感がある人は少なくありません。公共の無料相談であっても、自分のことを話すのは勇気がいるものです。

自己肯定が弱い人のなかには、過去に肯定された経験の少ない人が多い。褒められた記憶はあまりなく、怒られた経験が多いため、相談に行っても「何か注意されるのではないか」とか「どうせ怒られるのだろう」などと考えてしまい、本当は困っていて相談したいのになかなか足が向かない人も結構います。こういった人は、勇気を出してやっと相談に来ても、なかなか本音を話してくれません。数回、相談した後、ようやく本題に入ってきます。信頼関係が構築されるなかで、ようやく本音が出てくるわけです。

小林 ミッド・キャリア層は、基本的には楽しくハッピーに会社を辞めたわけではないとの大前提があります。精神状況があまりいいとはいえないなかで、次の仕事・職業を探すわけですから、気持ちが落ち込んでいて前向きな姿勢になりにくい。そこをカウンセリングで上手にほぐしていくことが必要になりますね。

前向きになりにくい中高年の転職・再就職

PHOTO小林 智明氏

小林 智明氏

室山 ミッド・キャリア層の場合、なかなか前向きになれないのが、初めて仕事につく若い人とは違う部分なのでしょうか。

小林 現状を考えると、セカンドキャリアも含めて、自らのキャリアをもう一段ステージを上げていこうなどという風土にはなっていませんから。以前より改善されてきているとしても、 40, 50歳代になると、転職や再就職はやはりネガティブなイメージになっているのが現実ではないでしょうか。

室山 そういったイメージのあるなかで、今、ミッド・キャリア層の転職希望者は多いのでしょうか。

小林 実際の数字はわかりませんが、普通に考えて 30代後半から 40, 50代の転職希望者が多いのもどうかと感じます。この年代は、企業内のコア人材として一番活躍していかねばならないわけですから、自分の仕事に対するアイデンティティーのようなものが明確になっていれば、今の仕事にしっかりした動機づけをしていく年代だと思うのです。役職やインセンティブがついてくれば、より動機づけが図れますし、家庭やプライベートなどで一番お金が必要になる年代でもある。通常なら、最も転職が少ない層だと思います。

企業内のキャリア形成でもガイダンスが

PHOTO室山主任研究員

室山主任研究員

室山 企業内でのキャリア形成支援に関して何か変化はありますか。

小林 やはり、環境が変わってきています。大企業も含めてリストラが行われ、失業率が非常に高かった一昔前に比べて、今はむしろ採用難になっている。こうしたことを背景に、企業のキャリアに対する関心が高まっていると感じます。

入社時から 30歳頃までは、以前からキャリア開発のプロセスがありました。ですが今は、 40歳前後が非常に注目されています。少子・高齢化が進むなかで、自社にどこまで優秀な人材が入ってくるのかも含め、今ある人材を若年層だけでなく、 60代までトータルでどう活用していくかとの考え方にかなりシフトしてきています。それで 40歳前後や、 50歳時点のキャリア開発研修をやる企業が増えているわけです。

室山 再就職支援だけでなく、社内のキャリア形成においてもガイダンスの必要性が増してくると考えられますね。

小林 やはり、必要になってくると思いますね。

仲間をつくって支えあうことも重要

吉澤 ガイダンスの重要性は、私も強く感じています。個別相談で、コーチングスキルなどを使いながら相談者の考えを引き出し、整理して話を進めていきますが、個別面談のスキル以外に、グループダイナミクスの活用もすごく重要だと思います。例えば、職業訓練に行くと皆、変わります。訓練の受講前に 適性検査(GATB) をするのですが、その時点と受講中、受講後の表情が全く変わってくるのです。職業訓練は「資格取得」という同じ目的で幅広い年代層・職歴、いろいろな事情を抱えた人が集まって一つのことを行うわけですが、それを通じて仲間づくりやリフレッシュもできます。そういう楽しさを味わうことで表情が明るくなり、そこで出会った人と情報交換をするようになる。同じ仲間意識のようなものを創り出していくことも大切です。

室山 相談とかガイダンスというと、どうしても個別での対応が思い浮かびます。その一方で、若者のグループワークが有効だという話はよく聞きますが、ミッド・キャリア層にも仲間同士の支え合いのようなものが必要なのかも知れませんね。他に、中高年の職業訓練で特徴的なことはありますか。

資格取得等の情報提供や、支援ツールの活用も

狩野 職業訓練に関しては、相談していて中高年の人が一番気にされているのが、「長く働いてきたけど、資格とか勉強をちゃんとしてこなかった」ということです。年齢的にもPCスキルのあまりない人が結構いますが、事務系の仕事に就きたいのであればPCスキルが必要です。相談の過程で「PCの勉強をしたいが、どうしていいかわからない」という話になって当センターの職業訓練を勧めることもあります。

それから、支援ツールを使った相談も効果的です。当センターでは、ある程度年齢の高い人の相談にも「キャリア・インサイト」を使っています。先ほど話したように、「何となく困っているのだけど、何が問題で何に悩んでいるか整理できていない」ことは多々あります。そんな状況で向き合って「さあ、相談しましょう」といっても何を話していいかわからない。それを整理するために「キャリア・インサイト」のような支援ツールを活用し、自分を少し離れたところから見つめ直したうえで棚卸しも行っていくことで、新しい発見や自信などにつなげていくのです。

ツールを使って相談者との距離を縮める

室山 ツールの活用には、「若年層と違い、ミッド・キャリア層にはどうか?」という意見も実際にはよくあります。ツールを使って具体的な職種が出てきても、今さら就けないような仕事が多いという指摘を受けます。確かにミッド・キャリア層にとって、今までの経験を全て捨てて新しい専門職にチャレンジするのは難しいことです。なのに、ツールを使うと全く考えてみなかったような職種も出てきてしまうので「システムの信頼性はどうなのか?」と思われることもあるわけです。

ただ、狩野さんのご指摘のように、1対1で話す場合、最初はなかなか話しにくいことがありますよね。特に、中高年者は自分の気持ちを抑制しがちなこともあるので、ツールを使うことで一気に距離を縮めることができるという話を、他の相談担当者からも聞いたことがあります。

「キャリア.インサイト」の結果を見て、仮に自分のイメージと違う職業が出てきたとしても、カウンセラーがそれをきっかけに相談者との距離をぐっと縮められるポイントになる―。そういった観点でツールが活用されるといいと思います。

職務経歴書も大きなカベに

狩野 これに加えて、中高年層の再就職には職務経歴書などが不可欠ですが、それを書くのが実は初めてだったりするわけです。実際、当センターの相談でも、「職務経歴書の書き方がわからない」とか「書いたので見て欲しい」といった相談のウエイトは低くない。これが自分の今までのキャリアや、今後どうしていきたいのかの整理の壁になっていることがわかります。

室山 職務経歴書がなかなか書けないという話はよく聞きますね。一方、会社の中でのキャリア形成の課題にはどのようなことがありますか。

バブル期入社組のキャリア開発が緊急課題に

小林 ミッド・キャリア層のキャリア開発が緊急課題になってきている最大ポイントは、明らかにバブル期入社組と言われる 40歳前後層です。各企業とも人員構成が非常に大きく、その年代だけが突出している企業も少なくない。それが 40代に差し掛かってきて、大きなインパクトになっている。このまま放置しておくと 10 年後には 50歳になってしまうわけです。

また、この層はポストや今後のキャリア形成など、自分の先行きに様々な不安を抱えていて、モチベーションの低下要因もたくさんあるのが特徴です。キャリアパスから考えれば、 40歳ぐらいになると、いわゆるマネージャーに昇進できる人と出来ない人が見えてくる。上昇していく人は、それ自体がモチベーションになりますが、そうでない人にとっては定年までの間、どういう仕事をしていくのかといったキャリアの問題になるわけです。

氷河期世代や 40代半ば層にも課題が

そして、その下のいわゆる氷河期世代もポイント。 35 歳から下の世代は、逆に人が少なくて辛い状況を強いられています。この世代の一番の問題は後輩がいないこと。仕事は増える一方なのに後輩が入ってこないので、雑用も含め、膨大な仕事量になっているのです。

今、メンタル面の問題を起こすのは圧倒的に 30代が多いと言われています。彼らにとっては、「働く意味とは何なのか」から「本来的な自分のキャリアをどう考えるか」という支援まで非常に重要になっていて、これは企業側にとっても緊急の問題です。

PHOTOフォーラム遠景

もう一つ、バブル世代より上の 40代半ば層にも問題はあります。この世代は、基本的に役職に就いている人が多いわけですが、彼らは今までの経験上、キャリアというものを意識したことがほとんどありません。ですが、彼らは上司として若手を支援していかねばならない。部下だけでなく、人事・人材開発部門も彼らにキャリアカウンセリングとかメンタリングを要求してくるわけです。そこで、上司への教育が必要になりますが、彼らはとても忙しい。成果主義の流れのなかで、とにかく目先の数字を上げて結果を出さなければならず、自らがプレーヤーになっています。結果的に人材育成は後回しになるといった悪循環に陥っているのが、この年齢層の問題になっていると思います。

つまり、 40歳を境に大きな変化が起きていて、各世代に課題があるわけです。それぞれどうしていかねばならないか。全体を俯瞰したところでキャリアをどう捉えるのか、キャリアをどう社員の方々に意識させていくかといったことが、企業の大きな課題になってきていると感じます。

集合研修とキャリアカウンセリングをセットで

室山 具体的に会社の中でのキャリア形成支援事業に、どのように関わっていらっしゃるかを教えていただけますか。

小林 基本的には研修です。しかも、通常の研修とは違って、必ず集合研修とキャリアカウンセリングをセットで行います。先ほど狩野さんもおっしゃっていましたが、ミッド・キャリア層には抱えているものがいろいろあって単純にはいかない。単に研修すればいいという問題ではなく、しっかりと個別支援をすることが大事です。

そういう意味では、サポート体制をどうとるかが企業の中でもとても重要な要素になっています。私は集合研修に加え、必ず全員にカウンセリングを受けてもらうようにしています。

一括りにはできないミッド・キャリア層

実際、ある企業では、 30歳、 40歳、 50歳の節目毎にキャリア研修を入れています。そこは、オプションでキャリアカウンセリングをつけているのですが、年代で希望者の比率が全く違います。 50歳はほとんどだれも出てこないけど、 30歳は非常に多い。若手になるほどキャリアカウンセリングの希望者が増える傾向にあるわけです。若い人ほど、キャリアを考えるプロセスを経ているし、特に 30歳代はいろいろなことで悩んでいるので、希望者が多くなる。 30代層と 40代層、 50代層にはそれぞれ支援の仕方を変えていかねばならないと思います。

室山 今回、 35 ~ 60代までの幅広い括りで「ミッド・キャリア層」と言っていますが、課題は年代によってそれぞれ違うので、一括りにはできない部分もあるのですね。別の切り口として、以前伺ったことがある役職を超えたグループワークのお話も興味深かったです。

誰にでもある「マイ・キャリア」を考える

小林 研修を行うと大体、管理職は管理職同士、そうでない人はそうでない人同士で集まる傾向が強いのですが、ある企業で役職に係わらず 45歳の社員全員の研修をセットしました。すると、事業部長クラスから一般職入社で基本的にルーチンワークに従事している人までいました。一般職の人は、高卒の入社時にちょっと研修を受けて以来、 27 年ぶりの研修とのことでした。どうなるかと思っていたところ、2日間の研修中、一般職の方が一番生き生きしていました。キャリアとは階層だけではなく、一人ひとりに自分の価値があります。この研修を通じて、自分のキャリアって何だろうといった「マイ・キャリア」は、どんな仕事をしている人でも考えていけるものだと痛感しました。

カウンセリングへの抵抗感の払拭を

室山 「マイ・キャリア」を考えるのは、とても大事なことですね。さきほど研修とキャリアカウンセリングをセットで実施するということを伺いましたが、カウンセリングに対する抵抗感を持つ方はいますか?昔に比べたら、カウンセリングのイメージもポジティブになってきているとは思うのですが。

狩野 例えば、社内での相談に抵抗感を持つ人に対し、「外部の相談でこういう機関があるよ」などといった話はされているのでしょうか。

小林 キャリアカウンセリング室を設ける会社は確かに増えています。だからといって、相談ができるかというと、そうでもない。ご指摘のように、徐々に環境は変わってきていますが、まだ抵抗感はある。そこで研修とカウンセリングをセットにするとか、何らかの形でプログラムに組み込んでいくことも大事だと思うのです。

実際、個別面談を受けてみると、抵抗感が下がったり、「もっと受けてみようか」とか積極性が出てきます。一度、面談を受けた人は、ほとんど異口同音に「非常によかった」との感想を持ちます。

話を聴いてもらうだけでも元気になる

今は「(聴いて欲しいのに)聴いてもらえない」という悩みを抱えている人がたくさんいます。 50分なら 50分という一定の時間、聴いてもらえるだけで凄くストレス解消になるのです。もちろん、問題を抱えている人が、一回、面談を受けたからといって解決するわけではないですが、他方で聴いてもらえるだけで元気になる人もたくさんいる。これがカウンセリングの大きなポイントの一つだと思います。

狩野 相談の重要性は、話を聴いてあげること。基本に立ち返り、話をじっくり聴いてあげる態勢をどう示してあげられるかということですね。当センターの過去のデータを見ると、まず話を聞いてもらったこと。そして、相談者の話にカウンセラーが否定的に捉えなかったこと。この2点だけで、随分モチベーションや気持ちが上がってくるのが、結果として出ています。

研修や個別相談を通じて、キャリア形成の具体化を

そういう状態を創って行きながら、本人の中に存在しているのだけど、眠ったままで表に出て来ていない答えを、相談の中で様々な手法を用いながら、話し合いの中で本人に気付いてもらう。そうすれば、それをもとに先の自分のことを考えていけるのではないかと思うのです。

あとはやはり、相談に来られる人は皆、良いところを持っています。職務経験のみならず、普段の生活やその人自身も含めて振り返り、今の現状なり今後どうしたいのかを、相談の中で本人が気付くよう支えてあげる。それが我々のできることなのかな、と感じています。

室山 現在の 40,50代の場合は、社会的な状況として今まで自分のキャリアをどうしていくかを考える機会があまりなかったので、仮に答えが自分の中にあっても、それをどう具体化していくべきかがわからない部分が結構あるのではと思います。そのあたりが、相談員やカウンセラー、コンサルタントの人が、研修なり個別相談なりを通して力を貸してあげられる部分なのかなと感じました。

多様な働き方やキャリアパスのある介護関係職場

それでも、年齢が高くなってから新しい仕事に変わるのは、かなり勇気が要ることだと思います。その点、中高年の入識者が多いと思われる介護関係での就職支援はいかがですか。

吉澤 介護ビジネスは過渡期で変化もあるので何とも言えませんが、例えば働き方をみても登録ヘルパーから夜勤もあるフルタイムまで様々ですし、待遇も正社員はもちろん、契約社員や臨時職員などもありますから、自分の希望する働き方に合わせた参入が可能です。キャリアパスも、学校を卒業してどうするとか、一定の経験を積んでから介護福祉士やさらに上位の資格を取得するとかが明確に示されている業界ですので、違う仕事からの参入が比較的容易です。

異業種から介護職を希望される方の相談の中で私が行う職務・キャリア分析は、仕事についての細かい知識やスキルまでは聞きません。それよりむしろ、その人が前職で身につけた一番コアになる強みの部分を中心に掘り下げていくようにしています。

様々な満足の仕方や価値観の満たし方を提示

また、いろいろな問いかけをするなかで、どうなりたいかを中心に聴いていくのですが、年齢問わず、将来的なことを中心に話される未来志向型の人と、その時その場を大切にし現状を満足させて積み重ねていきたいという人にタイプが分かれると思います。

人と接して「ありがとね」と言われることに満足を見出し、それを毎日行うことで満たされる働き方をしてもオーケーですし、逆に、まず介護福祉士になり、次にケアマネージャーになって、ゆくゆくは施設運営を目指すようなステップを踏む生き方もいいと思います。

これを企業に照らしてみると、今 40,50代の人の時代って、全員が会社の目標に向かって将来的なステップを踏み、嫌なことも我慢してやっていかなければならないような風土を持っていたと思うのです。その中で、「未来に向かって頑張っていかねばならないんだ」と自分を抑えてきた人が、なかなか自分らしさを出せないのではないでしょうか。要は、いろいろな満足の仕方や、価値観の満たし方を提示してあげることが大事なのではないかと考えています。

「モデル」のない時代のキャリア形成

小林 今、「管理職になりたくない症候群」が発生していると言われていて、明らかにその傾向はあるわけです。ただ、これをもう少し細かく見ていくと「管理職になりたくない」わけではなく、例えば「A課長のようにはなりたくない」とか「B部長のようになりたい」とったモデルの話に帰着します。今は自分を取り巻く上司や管理職のモデルがないから、「あんな上司になるぐらいなら管理職はご免だ」というのが実感だと思います。

これは、先述のように管理職の世代がキャリアを考えてこなかったがために起きているのに加えて、組織の問題でもあるわけです。今は中間管理職にプレッシャーをかけているから、彼らの管理職としての悩みも非常に深い。これは、諸制度の問題や人間関係など様々な問題が錯綜しているので、一つの解決策で済む話しではありません。

ただ、「モデルがない」というのは深刻な問題です。マネジメントの大事さや重要性を、若い人たちにきちんと認識してもらうことは非常に重要だろうと思っています。

頑張っている姿を目標に

狩野 私は若年者を中心に相談活動をしていますが、彼らが「将来、自分はこんなふうになりたい」とか「あの人みたいになりたい」というモデルはすごく少ない。だから、尊敬する人を尋ねると、歴史上の人物とかテレビドラマの主人公になってしまいます。身近に自分の将来像やモデルになるような人が感じられないので、どうしたらいいかわからないし、もっと極端な言い方をすれば、働くことに対して魅力を感じられない部分も多々あると思うのです。

経験豊富な人のなかには、「俺は今までこんなにやってきたんだ」という話を若い人にする人がいると思いますが、若い人は「過去にやってきたことを聴きたい」のではなく、「今、その人が頑張っているその姿が見たい」のです。例え、言葉に発しなくても、頑張っている先輩や上司、経営者の姿を見て、「あの人も頑張っているのだから、自分も頑張ろう。あの人を目標に、自分もいつかああなりたい」といった思いは、若い人たちと接している中で感じています。ミッド・キャリア層のみならず、若い人も含めた働く人の問題の一部だと思います。

室山 いろいろお話を伺うなかで、ミッド・キャリア層のキャリア形成の問題は、次の世代にもつながって考えていく問題であると改めて感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました。