事例報告: 高島屋
企業における女性の戦力化 第23回労働政策フォーラム (2007年2月2日)

開催日:平成 19 年 2 月 2 日

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配付資料

高島屋

全国で 20店舗を展開する百貨店の高島屋は、男女共同参画型企業への取り組みの一環として、2006年からワーク・ライフ・バランスの推進をスタートさせている。

この取り組みは、05年に改定した人事制度、60歳以降の再雇用制度の整備と一体のもので、働きがい、やりがいの向上を目的としている。

同社は、1986年に女性社員を対象にした「育児休職制度」と「女子再雇用制度」を導入。91年には総合福祉プランを策定し、「母性にやさしい環境づくり」を掲げ、「育児勤務制度」「介護休職制度」「介護勤務制度」「ボランティア休職制度」を導入するなど、「両立支援策の取り組みは早く、施策は充実している」(中川荘一郎・人事部人事政策担当課長)。

その後も育児休職・勤務制度の改正を行いつつ、05年の社員と有期雇用社員に対する人事制度の同時改正、さらに06年には「キャリア形成とキャリア・ライフプラン支援制度」の導入とあわせて、ワーク・ライフ・バランスの取り組みに着手した。

2007年2月2日フォーラム「女性の年齢階級別労働力率」

具体的な施策として現在、育児勤務時間については有期雇用社員についても正社員と同様に小学校 4年生までの取得が可能。また、有給休暇を積み立てて、育児や不妊治療に当てることができるリザーブ休暇も、今年 1月から追加した。

こうした充実した両立支援策を実施している背景について中川氏は「当社が、お客様の期待に応え、永続的に発展していくためには、『人材』の力が重要なカギを握っている。一人ひとりの働きがいを向上させるとともに、能力以外の阻害要因を取り除くことで、個人の能力を引き出し、その力の集積がチームの力となり、そして企業の力となると考えている」と説明した。

千葉興業銀行

両立支援の必要性に迫られてきた背景としては、 6 ~ 7年前の金融危機の際、早期退職などの人員削減を実施した結果として、これまで男性が占めていた 100近いポストに穴ができたことがある。そのため、女性行員の戦力化は避けて通れない課題となってきた。それに出産・育児によって、能力があり活躍している女性行員が辞めていくのは「もったいない」という現実も、両立支援策の実施を後押しした。

こうした背景から、ポジティブアクションの取り組みを開始。男女の区別なく、人物・能力本位の採用を徹底させ、女子学生の積極採用をはじめ、最近では、新卒採用における女性比率は 60 ~70%で推移している。

あわせて、従来男性行員中心だった職種に女性を積極的に配置するようにした。営業店の融資・渉外業務における女性比率は約 20%、本部業務における女性行員数は約 50人まで伸び、両方とも取り組み開始時から倍増した。

また、やる気と能力のある中堅からベテランの女性行員を積極的に管理職登用した結果、全管理職に占める女性比率は 10%を超え、 71ある営業店のうち、現在 5店に女性支店長が配置されている。

こうした動向を受け、女性行員の退職は、会社としての損失になるとの判断のもと、「両立支援に要するコストは、退職することなく活躍してくれれば、コストは十分回収できる」(三枝哲夫・人事総務部部長代理)との考え方をとっている。

三枝氏は、両立支援の実施に際しての今後の課題として、正行員の残業の問題をあげた。

クリロン化成

様々な種類の複合プラスチックフィルムを製造する社員数 120名程度のクリロン化成(大阪市)。自社技術で多様なフィルムを製造する開発指向のメーカである同社にとって、 3割を占める女性を含めた社員の能力開発は「経営の大黒柱である」と栗原清一・代表取締役社長は語る。

中小企業では社員一人が企業全体に与える影響が大企業に比べて遥かに大きい。従って、社員の能力を向上させて、定着を図り長期的に貢献してもらうことは、重要な経営課題になる。そのため、具体的な事例が発生した際に、社員のニーズと、当人の能力、貢献実績、今後の貢献可能性などを考え合わせて様々な制度整備を進めてきた。

育児休業制度も、ある社員に発生した出産問題への対応として発足した。1992年に岡山工場の事務職社員の出産にあわせて、それまでは就業規則に規程はあったが、適用例がなかった産休と育休が初めて適用された。当時は産後休暇を含め 6カ月の育休だった。この社員はこのとき長男を出産したが、その後、長女と次女あわせて 3人を出産。 10年勤続表彰の時には、「在職は 10年だが実際に働いたのは、 8年半です」と挨拶していたという。

同社では、育休の時期をそれぞれの職務の見直しを図る絶好の機会だと考えている。産休前に職務分担表を作成して職務内容の難易度や使用時間を調べ、各人の能力向上に資するように職場内で職務を再編したり、他部門に移すなどの工夫を凝らしているという。例えば、2000年から 05年まで、二人の技術職社員が各自二人出産したが、その都度、職務分担表を作成し、職務の再編に努める一方、派遣社員の補充採用などを実施した。

栗原社長は「当社の制度や実施例には何も特段の事はない」と謙遜する。だから、「この程度なら、企業にとっても大きな無理を強いるものではない」とも語る。なぜならば、「育休から明けて復帰してきた『お母さん社員』は、私の目から見て、明らかに士気は高く、仕事が出来る人になっているからだ」(栗原社長)。

お母さんは家事や育児で忙しいが、仕事にも力を出したいと考えている。家事.育児そして仕事とたくさんのことを巧みに同時並行で実施できなければやっていけない。「だから、自然と仕事の密度は高くなり、仕事の優先付けも良く考えるので仕事ができるようになる。つまり、妻として、母親としての力が、企業での働く力を大きく養っている」という。