パネルディスカッション:第19回労働政策フォーラム
大学生のキャリア形成をどう支援するか
(2006年7月27日)

開催日:平成 18 年 7 月27日

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

配付資料

7月 27 日開催の労働政策フォーラムから

近年、各大学に広がっているキャリア形成支援について、拡大の背景と現状を先進的に取り組んできた大学関係者から報告いただくとともに、採用側の企業担当者を交えて、その意義や今後の課題について議論を深めた。

大学キャリアセンター等の現状

松原 パネルディスカッションでは、近年、大学の就職部あるいはキャリアセンターを中心に広がっている大学生へのキャリア形成支援について議論を進めたいと思います。各大学では、就職部からキャリアセンターに改組や衣替しているという話をよく聞きます。今までの就職部は 3,4 年生を対象とした就職支援中心だったものを、低学年からのキャリア教育、キャリア形成支援に広げていく傾向が強くなっています。そのキャリア形成支援の広がりの背景に何があるのか、その意義や課題、また企業を含めた関係者がどのように連携・協力していけるかについて、議論したいと思います。最初に各大学のキャリアセンター設置の背景や現状についてご報告をいただきたいと思います。

報告1 立命館大学

村上 当大学では、1999 年に就職部を発展的に改組してキャリアセンターという名称に変更しました。それまでは、大体 3 回生の秋ぐらいから学生と最初の接点を持って、就職先の希望などについて話を始めていました。しかし、3 回生の秋に初めて接点を持っても、実際は各企業へのエントリーが近づいており、その時点で留学した方がいいとか、公務員の試験を勉強した方がいいと言ってもほとんど手遅れです。そうすると、独自のチャンネルや学内の進路を支援するインフラを活用できる学生だけが、難関企業に入社するひとつのパターンができていました。しかし、入学当初から就職活動をするのではなく、できるだけ勉強も課外活動も充実させた上で、進路を選択した方が社会からも評価される力が身につくはずだし、それが社会から求められる人材ではないかということを考えて、キャリアセンターへの改組になったわけです。

センターでは入学当初から低回生支援プログラムを実施しています。最初、1 回生向けに、入学後すぐキャリアセンター主催のキャリアを考えるイベントを開きましたが、7,000 人が対象にもかかわらず、集まったのは 150 人ぐらいで、就職という目標がない 1 回生を集めるのは非常に難しいと感じました。これを受けて、低回生にインパクトがある「単位」というものを初期の魅力としながら、授業として展開しようということで、学部の専門性とリンクさせながら、キャリア形成科目を 1 回生から少しずつスタートさせました。

それから、 99 年の当初から低回生支援の一つの大きな柱としてインターンシップを設けています。 1 回生のときからものづくりに興味があるということならば製造業でインターンシップを経験することができる。インターンシップを経験したうえで、ものづくりは向いてないなと思えばそこから違う進路を考えればいいわけですし、学生がなるべく早く主体的に進路の向き不向きを考えるためにもインターンシップは有効だと考えたためです。

5 割の学生が近畿圏以外ということもあり、U ターン学生と企業とのマッチングを全国各地で実施し、履修体系の中で学生の到達度を担当の先生と検証できるようなキャリアチャートというツールを使っています。また、ハード面でも、就職活動の中心となる大阪と東京にオフィスを設けて、就職活動の拠点としてサポートを行っています。

報告2 新潟大学

塚田 本学は 1949 年に新制国立大学として発足し、現在 9 学部、 5 大学院研究科、二つの専門職大学院、脳研究所、医歯学総合病院を有し、約 1万 3,000 人の学生と 2,400 人余りの教職員を擁する総合大学です。まず、 1999 年に学長の提案により就職部が設置されました。しかし当時は、全学体制で就職支援を行うことについてなかなか賛同が得られず、学内には温度差がありました。その後、就職部からキャリアセンターへ移行するに当たって、教員中にある温度差を解消するために就職状況に関して興味を持ってもらおうということで、全学部の学部長が参加する会議で、 11 月から最終結果が出る 5 月まで毎月、全学部の就職内定状況、進学先の決定状況を前年度同時期と比較・分析しながら説明しています。そのうえで、毎年 5 月時点の最終数値で評価し、その結果をインセンティブ経費から、該当する学部に配分するようになりました。インセンティブ経費配分は今年で 3 年目になります。教員の評価ではなくて、学部が評価されて支給されるものです。経費配分の基礎根拠としては、就職率が 85 %以上、その他が 10 %以内という規定です。その他というのは就職・進学を除く 20 項目、例えば公務員再受験、教員再受験、アルバイト、不明などが含まれており、それが 10 %以内であることというのが規定です。このように情報を提供することで、教職員の連携協力体制が確立され、 2005 年にキャリアセンターが設置されました。

支援行事についてですが、2001年から全学就職総合ガイダンスをスタートさせ、当時 550 人ほどだった参加者を 05 年には 1,650 人に伸ばすことができました。 04 年からは父兄も参加するようになっています。キャンパス内で実施することで、低学年次への意識づけとなり、参加者が年々増えています。

キャリアセンターでは基本指針として、本学で受け入れた学生すべてを支援することとしています。留学に関してですが、本学では 42 力国から約 400 人の外国人留学生を受け入れており、日本国内で就職したいという希望が増えているため、留学生の支援にも力を入れております。また、一人ひとりに合ったきめ細かい支援をするため就職だけに止まらず、進学、起業を目指す者もサポートすることとしておりそれぞれの要望、状況に合った情報を学生個々のアドレスにメールで配信しています。

それから、「就職課長と語ろう会」を月 2 回、キャリアセンター以外の講義室で実施しています。これは、キャリアセンターに来ない人、来られない人、セミナーにも参加しない人に対して、就職課長と語ろうではありませんかと呼びかけるわけです。この会にはいろいろな悩みを持った学生が来ます。グループワーク形式で実施し、悩んでいるもの同士が励まし合う場になったりして、この会は学生から高い評価をいただいております。

就職部時代は情報提供、就職相談、支援イベントを柱にしていましたが、キャリアセンター設置とともにキャリア教育をプラスしました。そのための専任教員をおき、さらに学外からキャリアコンサルタントを招聘して、学生に合った相談を年間通して実施しています。支援イベントとしては、主に 3 年次生と大学院の 1 年次生に対して 10 月から県内企業説明会や女子学生対象のマナーアンドメイク講座など、年間 80 を超える支援行事を開催しています。キャリア教育については、専任教員によるキャリアを共に考える―自己理解、他者理解という科目を開講しています。

また、本学には 2 種類のインターンシップがあります。ひとつは、従来から各学部で行われている 3 年生が単位を認定されるインターンシップです。もうひとつはキャリアセンターが実施する単位を認定しないキャリアインターンシップがあります。学部 2 年次生と大学院 1 年次生を対象にそれぞれ低学年次から就業体験して、その後各学部でインターンシップを受けてくださいということで、両方に参加することを奨励しています。インターンシップの観点から、アルバイトのあっせんも担当しており、数多くの募集がありますが、インターンシップ目的ですから、厳選しております。

特徴的な取り組みとしては、東海大学との就職支援提携です。地元企業だけでなく、首都圏への就職希望者が年々増えており、こうした状況を踏まえて、東海大学と就職支援提携を結んでいます。 2000 年から学生証を提示することにより、両校での就職関連行事に参加が可能です。両校合同のスキルアップ合宿研修も行っています。今年で 3 回目になりますが、両大学あわせて 50 人の教職員が 1 泊 2 日で、群馬県嬬恋村にある東海大学の研修センターで、外部講師の就職支援に関する講演、問題提起等により、 2 日間にわたりまして研究協議会を実施しています。両大学ともU ターン、I ターン希望学生に対する支援との位置づけで、現在までにお互いの大学を利用して内定に至った実績もあります。

最後に、卒業生・同窓会との連携です。これは就職活動とキャリア形成について、卒業生に協力を依頼しているもので、3 つあります。第一は、「グッジョブ」という学生サークルです。学生がメーリングリストを使い、就活の情報交換、履歴書やエントリーシートの添削、模擬面接をやる。 2004 年に登録者 22 人からスタートして、現在は 200 人を超えています。第 2 は専任教員が開講しているキャリア意識形成科目で、それぞれの業界で活躍しているOB・OGにゲストスピーカーとして授業に協力をしてもらっています。第 3 に、同窓生への協力依頼です。これは 05 年度に約 6 万人に対して登録カードを送り、どういったことならば協力できますかという問い合わせをし、対応できることを登録していただくわけです。現在までに 350 件、卒業生から応諾登録カードが届いております。

報告3 山梨学院大学

土橋 山梨学院大学は「就職・キャリアセンター」という特殊な名称になっています。なぜこうなったかといいますと、 10 年前に学長にキャリアセンターにしたいと提案したんですけれども、学長も保護者のことを考えると就職の厳しい時期なので就職という文字は外せないということで、結果的には折衷案として「就職・キャリアセンター」となりました。まず、センターのスタッフですが、非常に特徴的です。さまざまなスペシャリストがそろっております。ほとんどが正規職員です。個々のキャリアは多種多様です。スタッフの学生との接し方ですが、知らない学生にはティーチャーとして、できない学生にはコーチまたメンターとして、やらない学生にはカウンセラーとして接しています。

行事としては、決められたフルコースを食べなきゃいけないという考え方はやめています。あくまでも学生がチョイスできるようにしようということです。学生の声を生かすため、すべての行事後に、感想を書いてもらいます。それを全スタッフが読んで、電話やメールでフォローします。そして、年度内でも行事を変えることがあります。同じメニューを翌年やったことがないのが誇りです。

学生の声を生かしたオリジナルな就職プログラムとして、 2 日間の就職合宿セミナーを早くからスタートさせており、 10 数大学が見学に来ています。次に就職ノートですが、悩んだ末に手帳スタイルに変えました。全国の大学でうちが最初にこのスタイルに変え、多くの大学に広がっています。次のラストガイダンス。内定した 4 年生集まれという行事です。内定したら就職・キャリアセンターはさようならではないんですね。就職はゴールではなくてスタート。いいスタートを切らせたいために、 4 年生の秋に就職が決まったメンバー全員に対して社会人としてのマナーや心構えをしっかり伝え、最後に私が「就職・キャリアセンターはオアシスだ。いつでもおいで」と笑顔で語りかけます。

続いて「就職活動貸付金」。就職活動にはお金がかかります。それで就職活動貸付金を設けました。 10 万円まで無利子、無担保です。申請書を出したら翌日 10 万円渡します。バスツアーも行っています。たとえば公務員コースでは、東京都庁、警視庁、東京消防庁へ行きます。すべての職場で卒業生が出てきて、「待っているよ」とエールを送ると、モチベーションが上がる。それから、コミュニティ FM の FM 甲府で、私は毎週金曜日「就職情報クロストーク」という 30 分番組を持っております。

学生の目線に立ち、学生が何を求めているか踏まえて、あらゆることをやろうと思っています。実は数年前に河合塾が法学部系の現役公務員合格のデータを出して、全国の高校にデータが配られましたが、何と山梨学院が第 4 位になったんですね。どうしたらこうした成果が上がるかの特集のページをつくってもらいました。センターは、これからも頑張っていきたいと思います。

4 コメントと関西大学の取り組み

川崎 関西大学の取り組みを若干紹介しながらコメントさせていただきたいと思います。立命館大学、山梨学院大学とも非常に進んだ取り組みをしていることで全国的によく知られています。一方、国立大学は法人化の流れの中で、新潟大学の場合、短期間に体制を整え、プログラムに取り組まれているお話を非常に興味深く聞かせていただきました。立命館大学の村上さんが触れたように、キャリア教育の中身については各大学でよく似たような取り組みが行われている。私どもの大学の場合には、STEPⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴという形で 1 年次生から 4 年次生に至るまでキャリアセンターの取り組みと、それから正課教育を組み合わせたさまざまな取り組みを行っています。まず、全体の考え方として、「大学の前に」、「大学とともに」、「大学の後に」というのを一つのキーコンセプトにしてキャリア教育、キャリア形成支援を考えています。「前に」では、今、小・中・高等学校でキャリア教育の展開が盛んに行われておりますけれども、それぞれとの連携が言われているにもかかわらず、大学との連携は十分にできていません。そのため、小・中・高等学校の先生を対象にしたキャリア教育研修を接続させようとしています。

「大学とともに」では、担当する人自身のキャリアが問われることでもあると思います。大学の構成員すべてがキャリア教育、キャリア形成支援をよく理解する必要がありますので、教職員を対象にした教職員自身のキャリアを考えてもらうような研修も考えています。

卒業生に関しては昨年から、関西の雇用創出機構と提携して、卒業生の再就職の支援あるいは就職の支援、キャリアカウンセリングに力を入れているところです。

キャリア形成支援はいろいろな形で広がりを持ってきたと思います。時間的な広がりでは、 1 年次生までさかのぼって、就職ではなく将来の働き方や生き方を考える機会を提供する。学内的な広がりでは、どこの大学でもキャリアセンター側から見れば教学との連携です。組織面だけでなく、構成メンバーがどうプログラムにかかわっていくのかが問われています。大学の外への広がりでは、インターンシップを初めとしてさまざまなプログラムの中での産学連携の広がりがあります。これをどこまで、どのように広げていくのか、そこに現在の課題があると言っていいかもしれません。

テーマ1 : 企業が求める人材とは

松原 今度は企業側の立場から、企業はどういった採用方針をとり、どんな人材を求めているのかについて、ご発言をお願いします。

1.ソニーの場合

北島 新規学卒者の採用方針ですが、ソニーでは来年度の卒業予定者だけを対象に新卒採用しているわけではありません。既卒であっても職歴がなければ新卒として随時面接をする形で採用しています。ではどんな人材を求めるのかですが、企業トップにアンケートをとっているデータを持ってまいりました。「創造力」「新しい発想」「アイデア」「独創性」「価値転換」というようなところを企業トップとしては望んでいる。これはわれわれも実感を同じくしております。新商品の開発あるいは研究開発のサイクルは短くなっていることと符合しています。また企業が求める人材が毎年、ころころ変わるべきではないと思っています。見直すべきは「求める人材」というよりも、どういうふうに人を見るのかということであり、その見方を毎年毎年、ああでもない、こうでもないと議論をしながら組み立てているのが、企業側の採用実態です。

ソニーではフレックスエントリーという採用活動を 2005 年から展開しており、ホームページ上で、採用面接で聞く質問を掲示して公開しています。質問のポイントですけども、何を考えているかよりも、どういう経験をして、それをどのようにご自分で位置づけているかが重要だと思っています。明確な意思・判断を持って行動する人材はどの企業でも求めているのではないかと思います。面接担当者に伝えるのは、「考えて答えてもらう」のではなく、「思い出して答えてもらう」ということです。企業に評論家は要りません。こうあるべきだと言って何も行動しないよりも、やはり小さなことでもアクションを起こす、そういう実績がある人に活躍してもらいたいと思っています。だから、実際の面接では学生としてのいきいきした活動を思い出して答えてもらうように心がけています。

2.旭化成の場合

日比 新規学卒者の採用方針ですが、やはり経営環境に大きく左右されて変わってきていると思っています。バブル崩壊以降、経営環境が厳しいなか、 1995 ~ 2004 年までは、採用数を抑えてきました。その結果、労務構成上その層が抜けています。しかし、景気が上向き、経営環境が良くなるなかで、これまでの人材不足を補う意味でも採用数を増やす方向に向かっています。この抜けている層を補うためにも、ここ数年は事業環境がどう変わろうと毎年一定数は採用していくという方向に変わってきており、そういう採用方針を立てています。

ただし、採用数は増えても質は落とすことは考えておりません。採用数が足らなくても、いい人を採っていきたいというスタンスに変わっていると思います。その背景には、新卒だけではなくて、この抜けた層を中途採用で埋めるとか、日本人だけではなくて外国人の留学生にも目を向けていこうということで、新卒だけでなく、採用手法が多様化してきているのも要因です。

求める人材像ですが、やはり余り毎年変わるものではないと思います。求める人材像は、自分で考えて自分で行動するということをずっと掲げています。今後もより明確にこの像を求めていくことになると感じています。といいますのも、今年から事業領域の拡大や、グローバルに事業を展開する経営方針が新しく打ち出されており、われわれ社員はますます未知の分野にチャレンジし、知らない世界に出ていくことが求められます。そんな中、自分でどんどんチャレンジしていくような人材をこれまで以上に採用したいと思っています。

もう一つは、競争が国内だけではなくて、海外も含めての競争になると、チームワークを組んで目標を達成していくことが必要になります。コミュニケーション力や協調性があるといったバランスが現場で求められています。技術的に優秀な研究者以上に、いろいろな人と協調してやっていける人が欲しいというのが現場で言われていることです。自分で考えて行動していくという部分と、協調性、バランスという部分が今、会社の中では非常に大切な要素であるという認識の下で採用活動をしています。

テーマ2 : キャリアセンターのユニークな取り組み

松原 次は、キャリアセンターの関係者に、お話があった企業側のニーズも踏まえつつ、どんな取り組みに力を入れているのかについてお話をいただければと思います。

内定者と0B・OGをフル活用

村上 力を入れている取り組みとして、 1995 年に立ち上げた「ステューデンツ・ネットワーク」があります。各大学で古くから行われている手法ですが、これを立命館では少しシステマチックにしています。 3 年生のすべてのゼミ、サークルのリーダーから選出した人を「プレスメント・リーダー」、 4年生の内定者を「ジュニア・アドバイザー」、卒業後の若手卒業生、OB、OGを「キャリア・アドバイザー」と命名し、プレスメント・リーダーの一期生がちょうど今、社会で中軸になっているところです。例えば、入学当初のキャリアガイダンスを各学部で行うときでも、 20 歳も離れたキャリアセンターの大人が話すよりは、卒業した若手から身近なモデル提示をしてもらうということです。また、就職のときも、例えば内定者(ジュニア・アドバイザー)から、プロセスとか緊張感を踏まえて一つ下の学生を指導することが可能になります。生きた情報はわれわれよりも実際に内定しているジュニア・アドバイザーの方がもっているからです。一方、企業が開く学内の説明会の場合、広報的な部分が強く出がちです。しかし、そこで働いているキャリア・アドバイザーから実際の話を聞けば、いい面ばかりでなく悪い面も知ることができる。キャリア・アドバイザーは、約 1,200 名組織化しており、首都圏から京都に来てもらうこともあるので、約 800 万円弱の経費を投下し、大きな柱にしているところです。

入学式直後にセンター長が呼びかけ

塚田 新潟大学では、入学式終了後のオリエンテーションで、キャリアセンター長が全入学生と保護者の前で「入学おめでとう。これからは皆さんの進路を考えてください」と話します。また入学から 4 年生の進路決定までの流れを季刊紙「キャリアセンターだより」を配布し、学生と保護者に知らせています。

医学部、歯科部からは 1 年生から 6 年間、数少ない学生同士が過ごすため、そのふれあいをあたかも社会と勘違いしている者が多く、マナーに欠ける点がある。ただ優秀な学生を集めても、こうしたことへの対応が学部だけでは足りないのでキャリアセンターに協力してほしいということで、とくに医学部、歯学部生向けのマナー講座も実施しています。

内定者セミナーもきめ細かく実施していますが、こんなふうに大学は、学生に丁寧に支援すべきなのかという悩みに陥っています。きまった学生をつくり上げてしまうことになりはしないか、学生個人の考える力を引き出すことへの妨げになっているのではないかということです。そうしたことから、キャリア意識形成合宿研修を今年計画しました。「私のしごと館」という中学生、高校生からでも体験できる施設が京都にあります。まずそこへ連れていこうということにしました。今年はそういったものを実施してみて、今後どういった効果があるのかを見ていきたいと思います。

再発見を重視、資格取得支援も

土橋 山梨学院では、自分「彩」発見セミナーを行っています。何となく大学へ来てしまった、目標や目的のはっきりしない、そういう学生集合ということで、 1, 2 年生中心に、ラベルワークという手法を用います。山梨にいるキャリアカウンセラー 10 数名に協力していただき、グループの中で質問をしながらカウンセラーにいろいろ引き出してもらって、それをラベルに書いていく。ポスト・イットですけれども、そうすると自分の気づかなった興味、関心、価値観、将来の夢といったいろいろなものがあぶり出しのように出てくるんですね。そういう自分を再発見できるメニューでして、これを 1 日がかりでやります。そして最終的に自分がこうありたいということに気づき、お互いに発表したあとで、参加したメンバーはがらっと変わります。

キャリアアップサポート制度という資格を取った学生に図書券をおくる制度もあります。資格にチャレンジすることを勧めており、チャレンジして、資格が取れたことに対するミニ成功体験を積んでもらおうという趣旨です。ミニ成功体験を積む中で、自分に自信をつけてもらうために、3 級ぐらいの資格でも図書券をプレゼントしています。これは非常にモチベーションアップにブラスになっています。

松原 大学側の取り組みについて、感想やコメントがあればお願いできますか。

企業人より大学生らしい人を

北島 3 つの大学からそれぞれ力を入れてご紹介されている取り組みの中にインターンシップがなかったことに驚いたと同時に、印象深いと思っております。というのは、キャリアセンターを立ち上げると、まずはインターンシップ実施ということになるわけですが、 1 週間や 1 カ月間、会社に行って仕事をしているふりをして、わかったようなつもりになるよりも、むしろ土橋さんが紹介されたように、自分発見といいますか、今やっていることの意義を見つける機会を提供する方がはるかに重要ではないかと思います。いろいろな機会に大学で企業人を育成しているような話を聞くことがありますが、われわれは本当に学生らしい学生、大学生らしい取り組みしているかどうかの話しを伺いたいと考えています。そういう意味でも、今のお三方のお話はインターンシップ頼みの取り組みではなくてさすがだなと関心いたしました。

日比 大学でこれだけキャリア支援をしていただいて、最近の学生はすごく幸せだなと思います。私のときはそういった支援はなく、うらやましく思います。私達も最近よく言われているミスマッチ入社をなくすということも念頭において採用活動を行っていますが、そのためには、社員と実際に会って、会社を理解していただいたうえで、入社してもらうよう努力しています。しかし、地方の大学の学生になると、こちらからも社員を連れていけない事情もありますので、立命館大学の方からお話があったキャリア・アドバイザーといった制度があれば、企業にも学生にとっても気軽に出会えるようになるという点で有意義なことだと感じました。

教育と連携したポリシーを

川崎 大事なことは、それぞれの大学がポリシーを持って取り組むことではないでしょうか。取り組みが離された単独のものではなくて、大学の教育理念とか、教育目標などとのかかわりの中でどう展開していくのか。また、さきほど紹介があったジュニア・アドバイザー制度、合宿研修、ラベルワークなどについても、取り入れるときに自分の大学の状況に合わせてカスタマイズし、効果があることを確信したうえで実施することが非常に大事ではないかと感じました。同時に大学の 4 年間を考えますと、いかに体系的に支援を提供していくかが大事です。プログラムやカリキュラムの体系性と学生の学びの体系性というのは必ずしも一致しないので、そこが難しいところだと思います。恐らくキャリア形成支援は学生の主体性に働きかけることが重要です。問題解決も自分自身の仕方で考え、行動していくことが必要だと感じました。

テーマ3 : 学内のコンセンサスづくり、体制整備

松原 次にキャリア形成支援に対する学内のコンセンサスづくりや体制整備をめぐる課題について伺おうと思います。

土橋 山梨学院大学では、いわゆる就職委員会という形式的な会議を余り開いておりません。学科、学部との実質的な就職キャリア担当の先生方が、問題などが起こったときにすぐ集まれる体制をとっています。ですから、先ほどのバスツアーで参加者が足りないとなると学部の先生方にメールで送って、案内を授業で配ってもらうといったことを随時やっております。それから、全学教授会に職員ですが私もセンター長とともに毎回参加していますので、教授会で私が説明し、教授に提案することもあります。教学連絡会議という学生がらみの部署だけが集まる会議もあります。各部署が垣根をつくらず、学生のために何ができるかを話し合う会議です。

先ほどスタッフがスペシャリストという言い方をしましたが、実はジョブローテーションに困っており、人事異動はなるべくしないでくれとお願いしています。 10 年選手が多く、私は 21 年もやっております。もう一つ、就職活動貸付金などのオリジナルな行事について例えば 2 月に制度をつくって 4 月から発足するような神業ができるのは、学長、理事長が兼任で、決裁が早いからです。

塚田 先ほど申しましたように、新潟大学内の各学部間には就職支援体制に対する意識に温度差がありましたが、全学連絡調整会議という会議で、全学部の数字を見せることによって、それぞれの学部が努力してくれるのではないかと考えております。数字を見せたときは、各学部の学部長から随分反発がありました。就職部は学部同士を競争させているということです。それにもめげず、毎回説明することによって、今度は逆になぜうちの学部はこんなに就職内定率が低いのかということになり、これが教職員の間で話題になり、次の月には就職内定率が上がるということにもなってきたわけです。こうしたことを毎年続けてきた結果、今年 3月の就職率は昨年の 90 %から 96 %まで上がりました。一方、今までも学部によっては例年 95 %以上という高い就職率を保っていたのですが、やはり短期間での離職率も決して低くはありません。こうしたこともあり、今まで協力が得られなかった学部からもキャリアセンターに目を向けてきて、キャリア形成関連科目を洗い直して、全学的に進めていくようになりつつあるという状況です。

学問の専門性を徹底的に鍛える

村上 立命館では大学内でのコンセンサス作りに、一番力を入れているし、スタッフが一番日々苦労しているところじゃないかなと感じております。各学部ごとに担当者を置き、各学部に対して学部ごとの教育目標や学生像に進路を位置づけていただくことを日々の取り組みの中で徹底的にやっています。教育の成果が進路にリンクすることを、先生方にもきちんと意識してもらうということです。

一昔前はゼミの先生方に対して、ゼミの中で就職の話をしてくださいとか、先生も進路の相談に乗ってくださいという話をしていたわけですが、いまはキャリアセンターから、先生に対して専門を徹底的に鍛えてほしいとメッセージを発しております。例えば、一見社会に直結しないような文学部でも、例えば心理学であれば心理学を徹底的に極めてもらうことだけでいいといっています。それを極めることによって、フィールドワーク力、論文を書く力、みんなをまとめる力といった普遍的な能力も身につくはずです。そのため先生には徹底的にその専門の学問を極めさせてほしいといっています。ここが学内で最大のコンセンサスづくりになります。

教育活動の中で実施されれば不要に

川崎 大学の中で就職部、キャリアセンターという部署はいわば花形のポジションになってきていると思います。といいますのは、入試のアドミッションポリシーにもかかわりますし、入ロから出口までの活動に関連しながら、最終的に出口部分を支援する中で、ありとあらゆる学内の部署や組織と連携をとる必要がでてきているからです。例えばかつては科目をつくり、科目を運営していくことをキャリアセンターや就職部が行うことは考えられなかった。そういう中で、キャリアセンターのスタッフの方から聞こえてくる声は、教員の意識改革です。先ほどゼミの話が出てきましたけれども、ゼミでしっかり専門を勉強するだけでなく、合宿やコンパの企画をし、その幹事をするといったごく当たり前の行動が、実はキャリア教育につながる。ですから、すべてを新しく立ち上げるのではなく、それぞれの活動の中にいかにキャリア的な視点を取り込むのかが大事だと思います。こうしたことを通じて、大学教員の意識改革につながることもあるのではないかと思います。

大学の教授会の後などで外部の講師を呼んでキャリア教育について話を聞いてもらうことがあると思いますが、私自身は余り効果がないと思っています。といいますのは、小・中・高等学校では、キャリア教育のような科目や時間はありません。すべての教育活動の中で行われているわけです。大学もすべての教育活動の中で行われるべきだと思います。極論ですが、将来的にはこの形がうまく機能したら、キャリアセンターはなくなってもいいのではないかと考えています。大学のすべての教育活動の中にうまく統合された場合、キャリアセンターは要らなくなるのではないかと思っています。

テーマ4 : 大学と企業の連携

松原 次はキャリアセンターと実際の受け入れ側である企業がいかに連携・協力してキャリア形成支援を行っていくべきなのかについてお話をいただきたいと思います。先ほどインターンシップの話題もでましたが、その一長一短なども含めて、大学と企業との間で、今度どういった協力体制を築くべきかについて提案をいただければと思います。

村上 インターンシップについてですが、立命館では全学インターンシップ・プログラムというシステムになっております。ただし、これは就業体験ではなくて、インターンシップは教育であると位置づけています。インターンシップ教学委員会のもと、全学インターンシップを展開しておりますので、教育の大きな一環という位置づけです。もう一つ、就業体験的なものを学ぶことができるモチベーションだけじゃなくて、自分の専門を関連する社会で経験して、机上の学問にフィードバックする大事なコーオププログラム的なものとして定義づけられると思います。インターンシップオフィスをキャリアセンターの窓口として設けておりまして、そこには各学部のカリキュラム、授業の一環として実施する各学部ごとのインターンシップがありますし、各企業が公募するオープンタイプもあります。これらを取りまとめて推薦することもあり、非常にさまざまなバージョンがあります。 2 年ほど前から変えたのは、例えば企業の公募のインターンシップに行っても、これを単位に認定してほしいと学生が申請すれば、インターンシップオフィスに申し込んでもらい、事前事後学習をきっちり受ければ、単位化される制度を取り入れています。こうした制度を整備しながら、産学の中で大学は 100 %助けて貰う方ですけども、企業の協力を得てキャリア形成を進めているのが現状です。

塚田 新潟大学は先ほども申しましたように、キャリアインターンシップとインターンシップの二つのインターンシップがあります。キャリアインターンシップですが、まずは右も左もわからない学生に対する就業体験だよということで、第 3 志望まで出させて、マッチングして配属しています。教育の一環として 3 年生はインターンシップに参加してもらっています。企業の受け入れ側の感想として多く寄せられているのは、やはり受け入れる側は緊張感を伴うので、それが刺激になってとてもいい結果になっているというコメントです。なかには学生をお客様扱いして厳しく指導してもらえなかった、アルバイト要員だったという現実も確認されております。お願いする立場でなかなか強いことば言えないのですが、インターンシップを実施されている企業とさらに情報交換させていただき、学生が満足し、企業にも受け入れやすいようなインターンシップにしていきたいと思っております。

採用面で産学の垣根をより低く

土橋 企業とのかかわりの面でいいますと、産業・企業研究では随時多くの人事や社長に来ていただいて、講義してもらっています。先ほど北島さんからインターンシップについて辛口なコメントもありましたが、アメリ力に 10 数年前に行ったときにサマージョブを見学して、ああなるほどと思って戻ってきたんですが、日本の中ではインターンシップという言葉が魔法の言葉のように勘違いされて広がった面があるのではないでしょうか。私どもの大学でも文系では 1989 年からスタートしました。担当の教員と実務レベルを担当する学務課、企業開拓する折衝に当たる就職・キャリアセンターの三者で小委員会をつくり、今年度はどうしようかということを話し合っています。教員にもインターンシップに行っている間に企業に行ってもらったり、企業研究の仕方、会社のルール・マナーなどについて私が担当して教えたりもしています。ただし、大学から企業へという思いで言いますと、お互いにぜひ垣根をもっと低くして、直接的にこういう話ができればいいなと思っています。たとえば採用面でも、どうして落ちたのか、どうして受かったのか、この辺がガラス張りになっていないところが問題ではないかなと思っています。採用基準について物差しが明確になっていくことが大事じゃないかなと思います。

企業もよりオープン化の動きに

北島 ちょっと形勢不利ですけれども、今、土橋さんからいい助け船を出していただいたので、連携という意味で二つお話したいと思います。一つは、土橋さんがおっしゃっていたオープン化ですね。今年の就職活動を担当している中で、試みに会社の評価システムをじっくり 一回だけご説明したことがあります。そのときに、学生のうなずきが多くて、やっぱりこうしたことも知りたかったのかと実感しました。考えてみれば、会社に入って自分がどう評価されるのかという物差を教えてほしいというニーズがあってもおかしくない。こうした情報を提供することもミスマッチを防ぐことにつながると思っています。オープン化の動きが来年はさらに鮮明になってくると感じています。

2 点目は、「第二新卒」という卒業してから企業に入って 2,3 年ぐらい企業経験を経た人の採用に対してどう取り組もうとしているのかということです。ソニーでは社会人になってからの採用と新卒の採用が大体 330 人ぐらいずつ 50 対 50 という実績です。今後は第二新卒の中途採用を各社が積極化することになると思います。そうすると、 30 歳あるいは 30 歳過ぎぐらいの経験者に求める人材像が、もう少し若い層の社会人経験者にまで広がることになります。この動きは、新卒採用にとってもかなり影響が出てくると思います。つまり、大学の新卒の方に社会人ぽいイメージを求めるのではなくて、土橋さんや村上さんがおっしゃったように、大学生としてよさ、自分のやっていることへの意義をきちっと把握している学生に力点が置かれるのではないかということです。

インターンシップの差別化で

日比 旭化成では、 1997 年からインターンシップに取り組んでおり、今年で 10 年目です。取り組み始めた経緯ですが、前年の 96 年からボーダーレス採用ということで海外の外国人の採用などを始めましたが、アメリカで外国人の採用をしているときに、就業意識の高さに非常に驚きました。自分が学んできたことをこういうふうに生かして会社の中でキャリアをつくっていきたいと説明する学生が大半でした。このことに非常に衝撃を受けて、日本でも何か展開できないかということで、インターンシップをやってみることになりました。そういう意味では、社内的にもあくまでも学生の就業意識を高めるための試み、社会貢献を前提としたものです。この間、採用との関係を問われた場面もありましたが、採用とは一切関係ないことを掲げて今でも取り組んでいます。最近、インターンシップがちょっと変わってきたなと感じています。いろいろな主旨のインターンシップを一言でくくっていると思います。真剣に学生の就業意識を高めるために取り組んでいる企業もあれば、採用活動の一手法であったり、アルバイトとして学生を使っていたりさまざまな対応をしているインターシップもあります。一方、学生も真剣にインターンシップに取り組んで何かを得ようという方もいれば、就職活動の一環であったり、単なる興味本位であったりと、いろいろなタイプがあり、このアンバランスが課題になってくるのではないかと感じています。私どもも真剣に取り組んでくれる学生に来ていただきたいということで、3 週間のカリキュラムを組んでいるのですが、学校の方で 3 週間じゃ長過ぎるので先生から許可が出ませんということもあります。一方、明らかに就職活動の一環として参加をとにかく促しているようなこともよく耳にします。われわれもこうした二極化に対応せざるを得ないというのが実情でして、きちんとした日数とカリキュラムを用意するインターンシップを設ける一方で、もう一つはいわゆる軽い気持ちでインターンシップを受けてみたい学生向けのワンデイ・インターンシップも去年から始めました。このワンデイのような形であれば企業に出向かなくても、こちらから学校へ出向き、学校の中でもいろいろできるのではないかと思っています。

本当は内定後に必要なキャリア教育

川崎 企業と大学の連携で、インターンシップは大きいテーマだと思います。先の発言にもありましたが、大学側、企業側両者によるフランクな話し合いが必要ではないかなと思います。日比さんがお話されたように、大学側はお願いする立場、企業側は社会的な貢献、CSR という言葉がキーワードですけれども、そういう形での受け入れを中心にやってきたというわけです。しかし、CSR だけで納得して引き受けるのには、もう無理がきているのかなと感じております。昨年、厚生労働省が行ったインターンシップの効果に関する調査の中で、企業でも若手社員を中心に活性化したという効果が報告されるなど、企業側にとってのメリットもあるのではないかと思います。これから、どんな展開をしたら企業側によりメリットがあるのかを含めてもう少し話し合いが必要かなと思います。

大学側がきちんと事前の研修、指導を行い、戻ってきてからもインターンシップで得てきたことを自分のキャリア形成にどうつなげていくのかという事後の研修もきちん行えば、大きい効果があると思います。企業によっては採用システムの中でのインターンシップとキャリア体験としてのインターンシップを分けることもあります。松下電器産業はそうですけれども、少しグレーゾーンになっているインターンシップがあると思うんですね。そのあたりはもう少し改善し、方向性を考えることも大事だと思います。

企業と大学との連携で一つ私が気になっているのは、内定後の支援問題です。山梨学院大学からご紹介がありましたけれども、採用時期の早期化とも関連して、早い場合には卒業の 1 年前に行き先が決まるケースも出てきています。しかし、内定が決まった後に気持ちの揺れや変化もあるわけです。そういう中で、内定を得た人にこそ、本当の意味でのキャリア形成支援ができるはずです。この部分について大学と企業との連携を検討していく余地があるのではないかなと考えております。

テーマ5 : 若者をどう育てていくか

松原 まとめになりますが、若い世代に何をやり、われわれはどう協力していくべきかについて、メッセージのような形でまとめていただければと思います。

村上 ソニーの北島さんがおっしゃっていた学生らしい学生をいかに鍛えて、育てるかという点に尽きると思います。きっちり自分の専門を勉強する、興味ある課外活動にきっちり取り組む。これを 4 年間やっている学生を育てていくことが、結局は産業界にとっても役立つ人材となるのではないでしょうか。そのためにも、倫理憲章ですね。関西の採用戦線でいきますと、これまでは 3 年生の春休みに金融機関が内定を出して、 4 月、 4 年生になったときに大手メーカーや総合商社が動き始める形だったんですけれども、倫理憲章で学事日程を守ろうというコンセプトは賛成なんですが、結果的には 4 月が金融機関の最終であったり、各大手メーカーの選考が重なって、 2 月、 3 月時点でも実質は Web 上で選考が行われていたりするなど、倫理憲章を気にせずやっておられる企業もたくさんあります。春には採用のステップのインターンシップもあります。そうすると、例えば思い切って卒業してからしか採用してはいけませんよとかにしないと 4 年間きっちり課外・正課に学生が取り組める環境は難しいと思います。採用に強い企業ができるだけイニシアチブをとるのがいいと思います。ソニーや旭化成のようなリーディングカンパニーが、絶対 4 年生の夏しか動かないとか、卒業後しか採らないとか、それぐらいにやっていただくことに期待したいなと思っております。

塚田 卒業や就職を控えた学生に対して、あなた方は働く義務がありますということを伝えます。あなたの授業料だけではなくて、国が一人ひとりに対しての多くの予算を使っている。だからこそ、働きたい人が働けばいいというのではなくて、受けた教育、得た教養は、地域社会に還元しなくてはならない義務を負っているということを最後に学生たちに伝えます。そして、大学側としましても、教職員みんなが「研究教育者」だということを認識する必要があります。教育研究を通して、学生への進路支援につなげていかなければならないと感じています。

土橋 大学生をどう育てるのか。私は教員、職員、大学人みずからが成長しないと学生は育たないと思っております。ですから、また私は今日を契機に私自身が成長しようと決意して頑張っていきます。

北島 採用の立場としては、そのプロセスをオープンにし、ブラックボックス化させないことを通じて、本物志向の学生とがっぷり四つになっていくことを実現させたいと痛感した次第です。

日比 最近、学生と話をしていて企業側がどんなキャリアをサポートしてくれるんですかと、受け身の形でキャリアサポートを求められるような動きを感じてちょっと不安を感じております。キャリア形成というのは、あくまでも本人の自発的意識をメインにして、それを企業や学校がサポートする体制が大事かなと思っています。

当り前が一番大切なこと

川崎 大学だけではなく世の中全体がキャリア、キャリアということを強調しますが、もう少し地に足のついた活動というか、継続していくことが大切だと思います。村上さんが言われた学生らしい学生というところに尽きるかなと思いますが、学生生活を充実させて、大学生らしい経験をして卒業していくこと。これは、私たち大学の側が高校生を迎えるときのことを考えてみたらば非常によくわかると思います。例えば、高校生でドイツ語の勉強をしました、フランス語も勉強をしました。私は心理学を勉強したいけど、単なる心理学ではなくて臨床心理学、それもロジャース流の例えばカウンセリング理論について詳しく勉強したい、そういう高校生が来たらちょっと奇妙ですよね。「もうちょっと視野を広げた方がいいんじゃないですか」「いろいろな経験をして、そして大学でいっぱい学んでいきましょう」ということになると思います。企業に迎えていだたく場合も同じだと思います。企業に入ってから何をするか、どんな仕事をしていきたいか、それは大事です。しかし、学生生活の間にある意味無駄になるかもしれない経験をする中で、いろいろなことを気づき、いろいろなことを身につけていく。今までごく当たり前になされてきたこと、これが一番大事なことではないかと痛感しています。そういう意味では、学生が情報に振り回されているのと同じように、大学や就職部、キャリアセンターももしかしたら情報に振り回されている面があるかもしれません。企業が求める人材、それに合わせて大学が必死に取り組むのはちょっとおかしな話かもしれませんよね。ですから、それぞれの大学流に自分の学生に合わせた形で咀嚼して、自分のところのプログラムでどう育てていくか。そこを考え、取り組んでいくことが非常に大事だと思います。

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