企業の取組3 DX戦略と人材育成~学びを仕事に活かす~
- 講演者
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- 上野 修吾
- 株式会社ボナファイド 代表取締役社長
- フォーラム名
- 第141回労働政策フォーラム「企業におけるデジタル技術の活用と人材育成」(2025年12月24日-2026年1月8日)
- ビジネス・レーバー・トレンド 2026年3月号より転載(2026年2月25日 掲載)
当社は1966年創業で、2026年2月で60周年を迎える従業員数60人ほどの会社です。社名である「ボナファイド」は、ラテン語で「誠意、誠実」を意味しており、この「誠意、誠実」は経営理念にもなっています。周りの人に対してしっかりと誠意を持って対応すること、そして、それを「誠実だ」と評価してもらうことを不変の経営理念としています。
当社は2024年9月に、経済産業省が定めるDX認定制度に基づき、「DX認定事業者」として認定されています。
「お客さま成長支援サービス業」への進化を目指す
事業内容としては、キヤノンの複合機を中心に、オフィスで利用されるOA機器および周辺機器の販売や保守を行っています。一般企業を中心に、官公庁や学校など、業種を問わずさまざまな企業等とお付き合いをさせてもらっています。
近年は、販売代理店として長年培ってきた信頼とノウハウを基盤に、「OA機器販売・サービス業」から、お客さまにより近い支援を行うための「お客さま成長支援サービス業」への進化を目指しています。これは、お客さまの課題やニーズをより深く理解して、従来のオフィス環境の改善だけでなく、ビジネスの発展に直結するような支援を行えるようになることです。実現に向けて、高い専門性と柔軟性、信頼性を兼ね備えたワンストップのソリューション体制を構築しています。
現状のビジネスへの危機感や社内の「無理・無駄」が背景
当社がDX推進を実施した背景から説明すると、まずAI・IoT・クラウドなどの技術革新や働き方改革、競合他社との競争激化、採用難などたくさんの変化や課題があるなかで、私は2022年に代表取締役社長に就任しました。当時は新型コロナウイルス流行の影響がまだ色濃く残っており、オフィスに社員が出社しない会社も増えたことから、当社がメインで取り扱う複合機は、オフィスに人がいないため、なかなか使われない状況になりました。今まで経験したことのない課題を通して、現状のビジネスに対して漠然とした危機感を持っていました。
また、社長に就任する前までは、社内の各部署で現場を経験していましたが、社内の「無理・無駄」な部分が結構あると感じていました。CRM(顧客管理システム)やSFA(営業支援システム)などは導入していましたが、全社利用ではなく、一部門での利用にとどまっていてかなり部分最適なところがありました。そういった事も一因で、システム上で二重・三重入力が起こり、ヒューマンエラーにつながることもあって、そこも改善していかなければいけないと思っていました。
これからさらに少子高齢化の社会になっていくなかで、社員や求職者からも魅力ある会社になる必要があると考えていました。というのは大企業でさえ採用難になるなかで、中小企業である私たちは、選ばれていかなければなりません。どれだけ魅力ある会社になれるかが非常に重要になってきます。
DXも結局は「人」が動かすことから人材育成が特に重要
こうした状況から、DX推進にあたっては単なるIT導入だけではなく、急速な技術変化や働き方改革に対応して当社の企業文化・業務プロセスそのものを変えていくこと、そして、お客さまのオフィスづくりだけのパートナーから、お客さまのDXを推進できる企業を目指すことを目標としました。
なかでも、特に重要なのは人材育成です。私には、人的資本の成長が会社の成長になるという考え方が根底にあります。というのは、当社はモノをつくっている会社ではなく、モノを仕入れて販売・保守をする会社なので、お客さまに接する社員の成長が、会社の成長につながるという面が強く、その重要性をとても感じています。DXも結局は「人」が動かすものであり、自ら学び続ける文化をつくることができれば、企業としての競争力もどんどん上がっていくのではないかと思いました。
求める人材には、ITスキルに加えてデータを分析・活用できること、さらにはセキュリティの知識を持っていることが重要だと考えています。
社員のスキルの見える化や定期的な勉強会を開催
それでは実際に、どのようなことを実践したのか。まずは、ITリテラシーの診断と保有資格を把握するために、スキルアセスメントテストと社内アンケートを用いて、社員のスキルの見える化を行いました。そのうえで、個人ごとに学習計画を設定する「年間学習目標シート」というものをつくって管理しています。シートはサーバーに保管することで、進捗が社内に共有されるため、社員それぞれがモチベーションを維持しつつ、お互いに刺激し合える環境となっています。
また、資格取得の支援として、社内外の勉強会や事例共有会を定期的に開催しており、会社が費用を負担しています。さらに、学びやすい環境づくりとして、自社の倉庫を改修し、完全個室型の集中ルームやブースを設定しました。当社は事業でオフィスデザインを担っていることもあり、こうした設計は得意であり、集中ルームなどは結構人気がある部屋になっています。
そのほか、外部連携として、東京都が実施する、DXリスキリング支援事業の学習プログラムに参加したり、日本全国にある同業他社さんの取り組みの見学や、協力会社と共催での勉強会の開催などを行い、知見を拡大していきました。
トップが率先して活動する・学び続ける姿勢を見せることがカギ
DX推進には、トップの姿勢がカギになってきます。トップがどのくらいコミットメントをするかが肝心で、率先して活動していく姿勢、学び続ける姿勢を見せることで、社員に本気度が伝わるのではないかと思います。
私は、自らが旗振り役となって、進捗やビジョンを社内外に発信することで、DXが単なるプロジェクトではなく、企業文化としてどんどん根づいていくことにつながるのではないかと考えています。また、新しいツールなどをトップが積極的に取り入れることで、社員の意識改革の促進にもつながると考えます。
例えば、前述した東京都のDXリスキリング支援事業には、社員2人とともに私も参加しました。学習プログラムはオンラインで受講していたので、朝の通勤電車など、限られた時間を使って、毎日必ず少しでも触れるようにしていました。
また、社員と一緒にDX関連の資格試験にも挑戦しています。「私より点数が悪かったらちょっと山でも登ろうか」みたいな、面白おかしい話を社員ともしていました。
社員のITスキルが向上、コミュニケーションも活発化
取り組みの結果、当社の社員のITスキルは確実に底上げされています。ホームページで資格試験の実績を公開しており、昨年度資格取得者の更新はまだですが、資格保有者も着実に増加傾向にあり、目にみえる形で成果として残せています。
また、社員自身が学習で身に付けた知識から、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用して定型業務を自動化したり、SFAの活用で情報の一元管理を実現しており、業務効率も大きく向上し、ヒューマンエラーも減少傾向にあると感じています。
ほかにも、学習会や事例共有の場を設けたことで、チーム間のコミュニケーションの活性化などが進み、現場での協力体制も強化できています。かつては、学習に対して前向きでなかった部署もありましたが、今は一部の部署が前向きに取り組むことでほかの部署も引っ張られるような形になってきていて、「学びを仕事に活かす」意識が、全体に浸透してきています。
学び続ける文化を根づかせ、競争力向上を目指す
最後に、将来へ向けてどのようなことがしたいかをまとめます。まず今後は、生成AIの業務活用を進めていきたいと考えています。まだまだ手探りの状況ですが、例えばAIエージェント全般や、業務特化型のエージェントの活用に注目しています。
また、売上構成にかかるDX関連事業比率を2026年までに45%にしたいと思っています。
求められる未来の人材像としては、ITスキルに加えて、データ分析の力とセキュリティの知識を備えた人材、さらに自律的に学び続けてくれるような人材が育ってくれると良いと思っています。そして、学び続ける文化を根づかせていくことが、会社の競争力を高めることにつながっていきます。DX自体は終わりのない取り組みですが、これからも地道に挑戦を続けていきたいと思います。
プロフィール
上野 修吾(うえの・しゅうご)
株式会社ボナファイド 代表取締役社長
2005年キヤノンマーケティングジャパン入社。営業職を経験した後、2008年株式会社ボナファイド入社。入社後は、OA機器の営業部門、パソコンやネットワークをサポートするシステムサポート部門、営業の販売促進部門等を経験し、2013年に取締役に就任。顧客企業に対し、オフィスファシリティを提案する営業部門の部長職などを経て、2022年6月に代表取締役に就任し現在に至る。


