パネリストからの報告4 リクルートエージェントから見たシニア転職・採用事例
- 講演者
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- 丸川 智生
- 株式会社リクルート HRエージェントDivision ハイキャリアカスタマーサービス2部 部長
- フォーラム名
- 第136回労働政策フォーラム「シニア層の労働移動─就労・活躍機会の拡大に向けて─」(2025年1月8日-15日)
- ビジネス・レーバー・トレンド 2025年4月号より転載(2025年3月25日 掲載)
リクルートエージェントはリクルート内の人材紹介事業です。この人材紹介事業から見たシニアの転職、採用事例について報告します。
リクルートエージェントの人材紹介事業
はじめに、リクルートエージェントについて少し説明させてください。いわゆる人材紹介事業で、転職したい求職者と中途採用したいという企業をマッチングし、入社に至るまでフォローしていくビジネスです。成約した際に、企業からコンサルティングフィーをいただいています。
キャリアアドバイザーという者が求職者1人につき1名、担当としてつきます。企業には、リクルーティングアドバイザーという法人営業が担当としてつきます。基本的には、企業から預かった求人票を基に転職者に求人を紹介させていただき、応募の意向が得られたら、企業に紹介するといった形で進みます。
シニアの応募では雇用形態や業務内容をアレンジして工夫
シニアの場合は、ここで少し難しさもあります。というのも、すべての企業、すべての求人において、シニアの方から応募が来るということを想定しているわけでは必ずしもないからです。例えば定年が60歳で、正社員で60歳以上雇用できない人事制度の企業にも応募があることがあります。
ですので、個人の方がすべての求人条件に合致していなかったとしても応募していただき、企業のほうもその方の経歴書をご覧になりながら、この方が来られるのであれば、雇用形態や業務内容を少しアレンジして、ポジションを一緒につくっていくといった形で紹介活動を行っています。
55歳以上の転職者数は2019年の4.5倍に
リクルートエージェントにおける55歳以上の転職者数の推移について紹介します。2019年を1とした場合の2023年度の55歳以上の転職実現者数ですが、4.5倍に伸長しています。60代以上の方もこれ以上に伸びており、直近では70代や70代中盤での転職実績も出てきています。
これは、労働力人口の構成が変わってきていることも一つ要因としてあるのかもしれませんが、リクルートエージェントを利用しようと考えている個人の方が増えたり、また、当社も何とかお役に立ちたいと、積極的に利用を呼びかけていることが大きく影響しているかと思っています。
このようななか、リクルートエージェントの中で、「ミドルシニアプロジェクト」を発足させました。このプロジェクトは、「いくつになっても、何度でも、自分らしく働く機会が得られる社会」、この社会に対して少しでも貢献したいということで立ち上げました。社内でも、ミドルシニアの方々が持つ豊富な経験をきちんと評価してもらえるように求人企業にも働きかけながら、こういった社会を目指していこうというものです。
シニアの転職事例
このプロジェクトを進めるなかで見えてきた事例を紹介します。
家庭の介護の経験も転職先に評価される
最初は、業界と職種を超えて転職を実現した事例です。60代前半の方で、定年後も経験を生かしながら働きたいと当社を利用しました。ホテルの経理の課長をされていた方ですが、有料老人ホームの施設長としてキャリアチェンジを果たしています。
この方の場合、マネジメントの経験が評価されたのですが、それだけではなく、この方はご両親の介護の経験が長く、その経験も評価されました。着目したいのは、もとの職務だけではなく、そこで培われた、業界や職種を超えても持ち運び可能なスキルも評価されたという点です。
やりたい仕事の強い希望が転職先に伝わる
2人目の事例ですが、60代前半で、定年後にはスポーツ関連の仕事を何でもいいからしたいという強い思いを持って来られた方になります。この方は機械メーカーで品質保証を長く経験してきました。この方が、某スポーツ団体の設備管理の仕事に就くことができました。機械の品質をしっかり出していくという意味で設備管理に通ずるところが多分にあったのかもしれませんが、本人の希望がかないました。
この方は実はプライベートでずっとスポーツのチームのコーチをしており、そのコーチ経験もふまえ、スポーツ団体に何か関わりたいということを面接の中で強く伝えました。最初に応募したスポーツ団体とは縁がなかったのですが、その会社から紹介された関連会社で採用に至りました。
この2つの事例から言えることは、業界や職種そのものを大事にする転職がもちろん多いのですが、その中でも、こういったポータブルスキルや、プライベートも含めた希望や培ってきたものがしっかりと評価されるということです。
貴重なスキルが採用の決め手に
続いて、地方をまたぐ転職の事例を紹介します。大変貴重なスキルをお持ちの方が地方の企業に転職された事例です。
1人目は、50代後半の方で、定年前だったのですが、定年後は転職先で経験を活かしたいと、当社にご相談いただきました。この方は、法務・監査領域で非常に貴重な経験をされ、関東にお住まいだったのですが、東北地方のとある会社の総務部長に転職しました。この企業の社長さんがIPO(新規公開株式)を目指しており、この方の経験を活かしながら一緒に進めたいと熱望したのが、採用の決め手となりました。
2人目は、50代後半で、定年を見越して地元に戻りたいと見えられた方です。メーカーのIT本部長という貴重な経験を持っている方でしたが、地元の有力な金融機関のIT本部長として転身されました。
この方が応募した企業は、当初からIT本部長というポジションを用意して採用活動していたわけではありません。この方の経歴をご覧になり、この方が来てくれるのであれば、IT本部長のポジションをつくって一緒に頑張りたいと言っていただきました。
もちろんシニアの方のケースをひとくくりにすることはできませんが、2つの事例に共通しているのは、もらった期待に応えて貢献しようという気持ちだと思っています。
シニア人材を活用する企業の事例
採用したシニア人材が若手の育成役に
最後に、シニア人材を積極的に活用している企業の紹介です。
1社目は、技術者派遣の業界で、ITエンジニアを中心に派遣している企業です。この企業では、例えば0.3人月、週2の勤務といった仕事を取ってきたり、シニアを若手と一緒に派遣することによって、シニアの方が若手を育成しながら派遣活動を行っています。これによって、若手の方は時給がアップしていきますし、若手社員のキャリアアップにもなります。
2社目は、たいへん野心的なビジョンを掲げている部品メーカーで、数年後には発注元メーカーの技術力も超えようというビジョンを明確に持っている会社です。
この会社では、発注元メーカーに勤務していたシニアエンジニアで、例えば役職定年を迎えられた方を採用するようなことをイメージしながら、採用活動をしています。一人ひとりの志向に合わせながら、若手の育成をメインに担う方、あるいは、プロジェクトのマネジメント業務をメインで担う方など、シニアの方の志向に合わせたポジションをつくる形で採用しています。
既存社員のエンゲージメントが上がる副次的効果も
この会社の副次的効果でたいへん面白いと思っているのは、採用されたシニアの方が、単にその技術を教えるだけではなく、技術のバックグラウンドや、仕事の意味みたいなことも含めて若手の社員に教え始めたことです。それによって、明らかに既存社員のエンゲージメントが上がったとおっしゃっていました。また、育成体制が整ってきたので、経験者のエンジニア採用だけではなく、未経験のエンジニアも採用してシニア社員の皆さんに教えてもらおう、育ててもらおうということになったそうです。
どちらの事例も、シニアの方々の豊富な経験を生かしながら、それが結果として若手社員も生き生きとさせ、若手社員の就業機会の増加につながっていくというたいへん面白い事例だと思っています。
私どもリクルートエージェントの仕事は、求職者と採用企業の一件一件の出会いをつないでいく仕事になります。シニアの方の転職はまだ課題は多いですし、正直、苦しい転職活動になることもあるのですが、今日お話ししたような事例も確実に増えてきているのも事実です。なかなかうまく転職活動が進まないこともありますが、その課題から目を背けることなく、こういった事例や可能性を一つずつご支援していければと思っています。
プロフィール
丸川 智生(まるかわ・ともき)
株式会社リクルート HRエージェントDivision ハイキャリアカスタマーサービス2部 部長
2003年リクルートエイブリック(現リクルート)に入社。人材紹介事業の法人営業(リクルーティングアドバイザー)として大手製造業の支援に携わる。2011年より新卒/中途採用マネジャーとして勤務。2014年より新卒向け人材紹介事業であるリクナビ就職エージェント、就職Shopのキャリアアドバイザー部門マネジャーを歴任。2022年より高年収帯部門の部長を担当したことを契機に、ミドルシニア層の転職市場拡大にコミットすべく、ミドルシニアプロジェクトを2024年4月に立ち上げる。現在、リクルートエージェント全体で展開中。
※所属・肩書きは開催当時のもの