パネリストからの報告3 リカレント教育の愛媛大学における実践の取り組み
- 講演者
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- 治多 伸介
- 愛媛大学大学院 農学研究科長/地域専門人材育成・リカレント教育支援センター長
- フォーラム名
- 第132回労働政策フォーラム/大学等の質保証人材育成セミナー「キャリア形成に寄与する学び直し・リカレント教育」(2024年3月16日-19日)
全世代が活躍する社会構築につながるリカレント教育などを掲げる
愛媛大学は地方大学の1つとして、地域に役に立つリカレント教育はどういったものかを考え、発展させていくことを1つの大きな柱として取り組んでいます。本学は2022年4月から第4期の中期目標期間(6年間)となっていて、中期目標では「全世代対応型の『地域における知の拠点』として多機能化を図り、Sustainableな社会、Resilientな地域社会の構築に貢献する」を掲げています。そして、中期目標を達成するための中期計画の具体的な項目の1つに、「全世代の人材が活躍する社会」の構築につながるリカレント教育の推進と、地域活性化のリーダーとなれる「地域専門人材」の育成を記載しています。社会情勢や地域のニーズの変化に応じた人材育成プログラムを、ステークホルダーや、地域の皆さまと協力・協働して開発し、強化していきたいと考えています。
中期計画の評価指標も掲げており、中期目標期間末までに、リカレント教育プログラムの修了者数を延べ3,000人以上、同プログラムの開発や改善に関わるステークホルダーを200機関以上とすることを目指しています。また、このあと説明する地域協働型センターと、地域専門人材育成・リカレント教育支援センターが連携して実施したリカレント教育の成果公表と情報発信のための企画件数(シンポジウムの開催や報告書の発行など)を累計20件以上とすることも目標としています。
地域密着型センターで各地域の特性を活かしたリカレント教育を
本学は、学部の学生だけで8,000人ほどおり、理系も文系もバランスよく在籍している四国最大の総合大学です。強みの1つが幅広い社会連携機能で、例えば、産学連携と地域連携の2つの機能を有する社会連携推進機構(※注)という学部横断型の組織が設置されています。ここでは、地域密着型で地域連携を進めていくため、愛媛県および県内全20市町を含む23の公的機関と22の企業・諸団体との間で連携協力協定を結んでおり、県内各地に設置した14のセンターで社会連携体制の整備と拡充を進めています。14のセンターのうちの1つが、私が所属する地域専門人材育成・リカレント教育支援センターで、ここで、全学的な観点からリカレント教育の推進と支援につとめています。
※注:本フォーラム開催後、社会連携推進機構は組織変更により、2024年4月1日から研究・産学連携推進機構、地域協働推進機構、イノベーション創出院に再編されており、本記事で紹介した各センターも、取り組み内容に沿ってそれぞれの組織に割り当てられている。
14のセンターのなかで、地域密着型のセンターは5つあります(シート1)。うち3つは、幅広く地域活性化に貢献する「地域協働型センター」です。愛媛県は面積が広く、東が東予、真ん中が中予、南が南予と言われていることから、各エリアに、地域協働センター西条、地域協働センター中予、地域協働センター南予を設けています。例えば中予エリアには、本学の医学部がある東温市や観光の中心である松山市が含まれているので、地域協働センター中予では地域の医療や観光サービスに関する課題解決などに取り組んでいます。各地域の特性に応じたセンターをその地域に配置することで、愛媛県内全域で地域に密着した中核機能を発揮しています。
残り2つは地域産業のイノベーションを目指す「地域産業特化型研究センター」で、紙関連産業クラスターがある四国中央市に紙産業イノベーションセンターと、海面養殖が盛んな愛南町に南予水産研究センターを設置しています。そのほか、本学農学部と宇和島市の2拠点で植物工場研究を一層推進するための植物工場研究センターや、本学メインキャンパスに防災関係の研究を行う防災情報研究センターなども設置しています。
60時間以上をかけた学びで力のある地域専門人材を育成
本学の代表的なリカレント教育プログラムはシート2のとおりです。各学部やセンターで実施されていますが、1つの特徴は、米印(※)が付いている履修証明プログラムを多く開講していることです。そこでは、60時間以上の体系立てたプログラムを履修することで履修証明書が交付され、ジョブカードにも記載できます。受講生には数日で終わるプログラムではなく、少なくとも60時間かけて学んでもらうことで、地域および地域産業に関する専門知識・技術を有し、地域活性化のリーダーとなれる地域専門人材になってもらうことを意図しています。
いくつか紹介しますと、まず地域協働センター西条で実施されている「地域創生イノベータープログラム(東予)」は地域を牽引して地域創生を行う人材を育成することを目的に実施しており、2022年度プログラムは文部科学省の「令和3年度DX等成長分野を中心とした就職・転職支援のためのリカレント教育推進事業」として採択されました(シート3)。受講者のなかには現職の公務員や、企業で地域創生事業に取り組む担当者などがいますが、そうした方に幅広でありつつも、地域を牽引していくスキルを身につけてもらえるよう、SDGsを中心にSociety5.0やグリーンイノベーション、イノベーションマッチングなど社会の最新動向を学ぶことができるものになっています。
また、2023年度の同プログラムについては、2022年度の内容をブラッシュアップし、サーキュラーエコノミー(循環経済)関連科目を重点化させたり、地域ハブ人材、イノベーションマネジメント人材の育成強化に向けたプログラムを加えました(シート4)。2023年度の同プログラムは、文部科学省の「令和4年度成長分野における即戦力人材輩出に向けたリカレント教育推進事業」として採択されています。
特産である柑橘産業をはじめとした産業特化型のプログラムも実施
本学では産業特化型のプログラムも取り入れています。例えば、私が中心となってゼロからつくり上げて今年3年目となった、柑橘産業人材育成プログラムがあります。愛媛といえば、まず柑橘類をイメージされる方も多いかと思いますが、柑橘産業では人材不足が深刻であったり、愛媛県は過去に豪雨災害で大きな被害があり、農業復興に取り組み、柑橘産業をますます発展させなければいけないという地元の強い要望もあり、このプログラムが立ち上がりました。これは柑橘産業イノベーションセンターの活動の1つとして実施しています。
プログラムは3ステージから構成されています(シート5)。中心となるステージⅡでは、柑橘産業を営み発展させるための基礎的な科学的知識として、土壌や作物、植物生理などの知識を、各専門の講師から伝授します。ただ、それだけではイノベーターとしては不足ではないかということで、ステージⅠでは今の柑橘産業の全体像や産業構造を学んだり、ステージⅢでは修了後にどういった就職先・進学先があるかといったことや、社会の先端技術がどうなっているかなども伝えています。
そのほか、愛媛県は森林が多いので、放置林も含めて管理方法など、森林関係の業務に携わる人材を育成するための森林環境管理学リカレントプログラムを行ったり、防災情報研究センターでは高齢・老朽化するインフラの維持管理技術に関する高度な知識と技術を学ぶ社会基盤メンテナンスエキスパートの養成講座などを行っています。また、履修プログラムではありませんが、観光サービス業をさらに盛り上げていくために、観光サービス業に興味のある方や、すでに関連する学習経験・職業経験のある方を対象とした観光サービス人材リカレントプログラムもあります。南予水産研究センターでは水産業の人材を育成する講座や、植物工場研究センターでは植物生態情報を的確に取得し、効果的に活用するための先端技術を学ぶ講座などを実施しています。
新プログラムの立ち上げ支援や情報交換の機会も実施して発展を
本学はこれからもいろいろなプログラムを開発していく予定ですが、学内で新しいプログラムを立ち上げようとしている方々への支援を行ったり、情報交換ができる場も用意しています。先日、本学の各学部・研究科が地域ニーズをふまえて取り組んでいるプログラムなどの情報を広く共有し、意見交換を行うシンポジウムを開催しました。そこではDX推進のための研修や、造船・舶用工業におけるリカレント教育プログラムの開発などの発表があり、次の履修証明プログラムに発展していく可能性を感じました。
愛媛大学は、地域のニーズに対応して着実に頑張ってきているつもりですが、まだまだ発展の余地はあると考えていますので、尽力して全世代対応型の地域における知の拠点になりたいと思っています。
プロフィール
治多 伸介(はるた・しんすけ)
愛媛大学大学院 農学研究科長/地域専門人材育成・リカレント教育支援センター長
博士(農学)。専門は農業農村工学であり、豊かな農村環境の実現をめざしている。2018年~2021年 愛媛大学学長特別補佐(社会連携担当)を経て、2020年より社会連携推進機構地域専門人材育成・リカレント教育支援センター長、2023年より大学院農学研究科長。研究科長、センター長として地域専門人材育成とリカレント教育を推進している。
(2024年6月25日 掲載)