パネリストからの報告1 離職者訓練における取組

講演者
寺床 真悟
高齢・障害・求職者雇用支援機構 求職者支援訓練部 職業訓練課長補佐
フォーラム名
第132回労働政策フォーラム/大学等の質保証人材育成セミナー「キャリア形成に寄与する学び直し・リカレント教育」(2024年3月16日-19日)

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が実施している職業訓練についてご紹介するとともに、労働市場のニーズをどのようにリカレント教育に反映させているか、JEEDが取り組んでいる離職者訓練についてご紹介します。

JEEDは職業訓練を実施している国の機関

JEEDは、厚生労働省所管の独立行政法人として設置されています。主な業務は「高齢者雇用支援業務」「障害者雇用支援業務」「職業能力開発支援業務」の3分野です(シート1)。

そのなかでも「職業能力開発支援業務」では、求職者や在職者への職業訓練を行っています。事業主に対しても、職業能力開発に関する相談・援助を通じて、人材育成の支援を行っています。今回は、「職業能力開発支援業務」のうち、求職者を対象とした職業訓練の取り組みをご紹介します。

ハロートレーニングは「公共職業訓練」と「求職者支援訓練」で構成

ハロートレーニングとは、希望する仕事に就くために必要な職業スキルや知識を習得できる公的職業訓練制度の愛称となります。このハロートレーニングは大きく分けて「公共職業訓練」と「求職者支援訓練」で構成され、それぞれ別の法律によって定められています(シート2)。

「公共職業訓練」は、訓練の対象者によって、離職者向け、在職者向け、学卒者向け、障害者向けの4つの訓練に分けられており、このうち離職者向けの訓練を通称、離職者訓練と呼んでいます。

なお、この離職者訓練と求職者支援訓練はどちらも求職者を対象とした訓練ですが、離職者訓練の対象者は「主に雇用保険の受給者」であり、求職者支援訓練は、「雇用保険を受給できない求職者」のために雇用のセーフティネットとして後から創設された訓練になります。

JEEDが国の機関として実施している離職者訓練は、ポリテクセンターという愛称で呼ばれている全国62カ所の施設で実施しており、2022年度には約2万4,000人が受講しています。

ポリテクセンターではものづくり分野中心の離職者訓練を実施

次に、ポリテクセンターで離職者訓練を受講するまでの流れ、訓練の種類、特徴を説明します(シート3)。ポリテクセンターでは、ものづくり分野を中心とした離職者訓練を実施しています。訓練期間は、標準6カ月で受講料は無料です。主に機械、電気・電子、建築分野の訓練を実施しています。

この離職者訓練は、ものづくり分野の未経験の人が多く受講されるため、すべての訓練科において基礎から段階的にレベルアップし、技能・技術を習得できるカリキュラム構成としています。このほか、6カ月の中で、就職講話、企業説明会、キャリアコンサルティングなども実施しながら、就職に向けた支援にも積極的に取り組んでいます。

実学一体方式で効果的に習得できることなどが特徴

JEEDが実施する離職者訓練の特徴について説明します(シート4)。1つ目は実学一体の訓練です。JEEDの訓練は学科と実技実習を分けた科目構成とはしておらず、仕事を行ううえで必要な職業能力、作業を明確にし、一つひとつの作業について学科と実習を一体で学べる訓練方式としています。2つ目は、地域の人材ニーズや生産現場の技能・技術等の変化に応じて弾力的かつ即応的にカリキュラムの見直しが可能であることです。その他の特徴はシートをご覧ください。

訓練の種類は4つあり、すべて施設内で行う6カ月の訓練コースである「標準訓練」、施設内で行う5カ月の訓練と1カ月の企業実習を組み合わせた「日本版デュアルシステム」、1日の訓練時間と訓練期間が4カ月の「短時間訓練」、ビジネスマナーなどを習得する「橋渡し訓練」といったコースがあります。

定期的に人材ニーズを把握し訓練の見直しへつなげる

ポリテクセンターでは技術革新に対応した職業訓練を実施するために、高齢・障害・求職者雇用支援機構職業訓練サービスガイドライン(機構版職業訓練ガイドライン)に基づいて、PDCAサイクルにより毎年度、訓練コースの見直しを実施しています。各ポリテクセンターでは、人材ニーズをふまえた訓練計画案を作成するため、事業主団体や企業等の人材育成方針や訓練内容の改善すべき点などの把握・分析を行うとともに、本部が定める標準的な離職者訓練のカリキュラムモデルをベースに、各ポリテクセンターにおいて訓練カリキュラムおよび訓練科の設定を行っています(シート5)。

その後、設定した訓練科について、関係行政機関や地域の経済団体や労働組合、民間教育訓練機関等の外部有識者による、訓練計画案の審査を受け、人材ニーズをふまえた訓練科や訓練内容となっているか、民間教育訓練機関等と競合していないか等の確認が行われます。

訓練中は、訓練効果等を把握する目的で、「習得度測定」「受講者アンケート」「修了者の就職先事業所ヒアリング」の3つを実施しており、2022年度のアンケートでは97.5%の受講者が、訓練が就職の役に立ったと回答しています。

また、各ポリテクセンターが人材ニーズをふまえて訓練科を改廃するだけではなく、受講者や就職先の企業からの意見・要望をふまえて、担当指導員の指導方法、訓練環境、訓練課題といった見直しも行っています。

約3,000以上の事業所のニーズを把握

人材ニーズを把握するためのヒアリング調査で活用している調査票の一部を紹介します(シート6)。経営上の課題等に関する調査票、業種別の専門的職業能力に関する調査票、企業に付随する経理事務、人事労務、営業・販売等における専門的な職業能力に関する調査やDXに関する調査票があります。これらの調査票を活用して各ポリテクセンターの職業訓練指導員が主体となって企業や団体に対して、人材ニーズや産業動向のヒアリングを実施しており、毎年度、全国で約3,000以上の事業所からニーズを把握しています。

業種別の専門的職業能力に関する調査票の調査項目は、JEEDで作成している職業能力開発体系を参考にして、職務を設定しています。この職業能力開発体系は、仕事をするために必要な能力を明確にし、その能力を段階的かつ体系的に整理したものです。現在、全98業種のモデルを整備しています。

続いて、2022年度の調査結果の概要の一例として、「回答事業所の概要」「デジタル人材の採用予定」「採用の際に求める職業能力」をご紹介します(シート7)。そのうち、「採用の際に求める職業能力」については、全国800社の機械関連の企業にヒアリングした結果となります。この調査結果からは、「若年者」「40歳以上」ともに共通するニーズとして、機械等の部品設計、溶接技術、マシニングセンタの部品加工といった職業能力が求められていることが明確になりました。

JEEDでは、例示した機械関連分野以外にも、各訓練分野の調査結果をふまえて、毎年度、全国のポリテクセンターで活用する標準的な離職者訓練カリキュラムモデルの見直しを行っています。各ポリテクセンターでもカリキュラムモデルをベースに、当該地域の人材ニーズを分析し、訓練カリキュラムに反映しており、このような取り組みから、2022年度は87.9%の高い就職率となりました。また、近年のものづくり企業の求める人材の傾向として、デジタル人材の育成を求める企業が増えてきていることもわかりました。

DX、GXにつながる技術を活用できる人材の育成を推進

JEEDの離職者訓練でこれから取り組んでいく内容について紹介します。近年のDX(デジタル・トランスフォーメーション)の加速化、カーボンニュートラルに向けた取り組みによって、デジタル人材やGX(グリーン・トランスフォーメーション)推進人材の育成が政策で示されています。加えて、人材ニーズの把握・分析結果をふまえて、就職先企業がDX、GXを進めるにあたり、各業界の基盤となる技能・技術に加えて、その内容に関連したDX、GXにつながる技術を活用できる人材を育成するための訓練を実施しています。

例えば、設計した機械部品をCAEソフトウェアを使用して強度解析することなどを学ぶデジタル機械設計科や、太陽光発電システム・HEMS(Home Energy Management System:家庭で使用する電気、ガス、水道等の使用量を計測し、節約するための管理システム)の施工に関する技能・技術を学ぶスマートエコシステム科です。引き続き、雇用のセーフティネットとしての役割を果たすため、地域の雇用情勢や人材ニーズをふまえながら、離職者に対して、適切かつ効果的な離職者訓練を実施し、再就職に結びつけて、各産業界から求められる人材の育成に取り組みます。

最後に、JEEDのブランドメッセージを紹介します(シート8)。JEEDは年齢、性別、障がいの有無にかかわらず、誰もが能力を発揮し、意欲を持って安心して働ける社会の実現を目指しています。「らしく」と「ともに」を「はたらく」という共通のゴールにつなげ、「はたらく」を通じた多様性の尊重と共生社会の実現を目指しています。離職者訓練以外にもさまざまな支援事業を展開していますので、ホームページをご覧いただき、近くの施設までお問い合わせください。

プロフィール

寺床 真悟(てらとこ・しんご)

高齢・障害・求職者雇用支援機構 求職者支援訓練部 職業訓練課長補佐

職業能力開発総合大学校電気工学科卒業。1998年入職し、電気及び制御分野の職業訓練指導員として、離職者、学卒者及び在職者向けの職業訓練の第一線で人材育成に携わった後、2020年から現職。機構が全国で実施する離職者訓練に関するカリキュラムや訓練計画の策定を担当。2015年度の職業能力開発論文コンクールにおいて、「若年者ものづくり競技大会」及び「技能五輪全国大会」で上位入賞するための指導方法の工夫やその実践結果等について取りまとめた『専門課程学生の総合制作実習における若年者ものづくり競技大会・技能五輪全国大会への取り組み』により、特別賞を受賞。

(2024年6月25日 掲載)

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