事例紹介4 再就職支援の現場でGテストまで活用した事例
- 講演者
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- 太幡 竜一
- 株式会社エイチ・アール・シー・キャリア 対人支援グループ
- フォーラム名
- 第130回労働政策フォーラム「ガイダンスツールを活用した就職相談とキャリア支援─相談支援現場からの実践報告─」(2024年2月27日)
私は、再就職支援の現場で活動しています。今日は、そこでのクライエントの事例紹介をします。
再就職支援サービスとは
当社は、キャリアカウンセリングをベースに再就職支援サービスを事業化し、展開している企業です。この再就職支援サービスというのは、退職する従業員に付与する転職支援サービスの総称で、これには独立開業への支援も入ります。費用は退職時に所属していた企業負担で、個人および採用側の企業には金銭的な負担のないサービスです。具体的には、法人間で契約が行われて、「(再就職が)決まるまで」もしくは「(本人が)納得いくまで」支援するのが原則です。
対人支援部門の人員だけでなく、直接部門(営業系、人事コンサル系)、部門長、経営幹部、代表に至るまで全員が国家資格キャリアコンサルタントの資格保有者で構成されています。
支援サービスの状況
支援状況ですが、私には現在で21人のクライエントがいます。方針として、1人のコンサルタントが常時25人ほどを受け持ちます。平均面談頻度は、定期面談が月1回~2回です。面談の時間は各コンサルタントに任されており、私は、雑談などもゆっくりできるように考えて、平均120分間ほどで、比較的長く設定していると思います。そのほか、「職務経歴書を急いで作らなければいけない・修正しなければいけない」「急に面接が入った」などの際に、対応しています。毎回Gテストを使っているわけではないのですが、job tagは細かく把握していますので、状況をみてクライエントに有効と判断した場合に使用しています。今日のお話は、そういった時の事例になります。
事例 ──早期退職制度を使わざるを得なかった人への支援とケア
事例は49歳の男性のケースとしています。もちろん、個人情報保護の観点から内容を変えています(シート1)。このケースは、再就職支援を利用する方ですが、自ら辞めたくて辞めたわけではなく、早期退職制度を使わざるを得なかった背景のケースです。具体的に話を聞くと、ここ7、8年、取り巻く環境が悪循環でした。組織改編がありトップも替わり、上司も複数回替わりました。配置転換も幾度か行われ、自身のお体の不調も重なって、早期退職を使わざるを得ないとの決断に至りました。
そうした状況の中でのクライエントの心境は、「これから私はどうしていけばいいのか」といった大きな不安になると思います。そのような不安への対処に、カウンセリングが有効であり、重要であることは言うまでもありません。そして、それ以外の支援プロセスについても、原則に従うことが当社の方針になります。
私たちは、根拠を持った適切なプロセスでの支援を重視します。これは、クライエントが納得できる進路を決めていくために必要なことであり、依頼を受けた会社への責任を果たすためでもあります。依頼を受けた会社に対して、何を根拠にどのように活動していたのかの説明がしっかりできなければいけません。そうなると、原則的で適切なプロセスを踏んでいることや、信頼性のあるツールを使っていることを説明できなければいけません。その基盤が、キャリアコンサルティングのスキルであり、その応用が重要だと考えています。
また、当社の再就職支援のサービスでは、クライエントに対する支援期間が1年や2年といったこともあります。これは、次の就職先をすぐに決める方もいらっしゃれば、ライフキャリアの観点から時間をかけて次のキャリアを選択する場合もあるためです。その時には、キャリアコンサルティングの原則を、支援期間に適用して活動していることも特徴だと思います。
職業経験の棚卸しの中で生まれた確信
さて、この方への私のイメージは、直近の経験はよく理解できたのですが、もう少し以前に活躍しているときはどうだったのだろう、というのが疑問であり、注目のしどころでもありました。しかし、それはかなり前のことになってしまいますので、この方にとって自己効力感を上げるまでのことはかなり難しいことと考えられましたが、私は「職業経験の棚卸し」をさせてもらうなかで、ある確信が生まれました。それは「この方には、やりがいをもって仕事ができ、成果もしっかり出していたときがあった、たまたま最近の悪循環の中で、その人の力が発揮できていないだけであった」というものです。その確信のもとで、「興味検査や価値観検査」を行いました。そして、職務経歴書の作成にあたって「job tagのポータブルスキル見える化ツール」も使いました。
このように、ツールを使い、クライエントの興味や価値観に触れ、専門的な知識やスキル、対人スキル、対課題スキルなどを明確にしていき、言語化が進み、よりよい職務経歴書ができあがっていきます。しかし、私はもう少し、この方の能力が明確化され、自信につなげられるようにするにはどうしたらよいかと思うようになりました。
自信を持ってほしいと思いGテストを使用
以前のこの方の経験をよく理解できたことから、もっと自信を持ってもらえる可能性もあるのではないかと思い「Gテスト(A・B・C検査)」を使用しました(※注)。この方は物流部門において物流のプロセスや拠点の設計、その改善や移設などに関わる専門的な仕事をされていましたので、私としては空間で高い数値を示すことを予想していました。ですが、結果はそうではなく、実は言語が高く、2人で少し驚いたということがありました。
※編集部注:本フォーラム開催時点では、Gテストはベーシックの3つの検査(A:展開図で表された立体形を探し出す検査、B:文章を完成する検査、C:算数の応用問題を解く検査)と、アドバンスの2つの検査(D:文字・数字の違いを見つける検査、E:同じ図柄を見つけ出す検査)で構成されていたが、2024年度からはベーシックの3つの検査(S:展開図で表された立体形を探し出す検査、V:文章を完成する検査、N:算数の応用問題を解く検査)と、アドバンスの3つの検査(Q:文字・数字の違いを見つける検査、P:同じ図柄を見つけ出す検査、K:見本と同じ位置に点を動かす検査)で構成。
アセスメントを切り口に自身の経験を語ってもらうことが重要
シート2はGテストの結果をみながら私とこの方が行ったやりとりです。このやりとりの後、私のほうから「それってどんなことなんですか」などと続けていきました。このように、アセスメントを切り口に自身の経験をたっぷり語ってもらうことが重要だと考えています。
仕事の話だけではわからない部分も聞く支援を
先ほどの深町さんの研究報告でも、Gテストが強力なツールになり得るという話がありました。それはたぶん、こういうふうになったときがそうなんだろうと思いました。Gテストの効果の1つとして、「自己理解が深まった」とか「自分のやってきたことに自信が持てるようになった」ことがあると思います。
あと、この方にはプライベートの話も聞いたのですが、すごく疲れて困っているなかでも、趣味を大事にして、仕事とは少し違ったリーダーシップを発揮しているように感じられたり、家庭でも自分から主体的にいろいろなことをしていたりと、仕事の話だけ聞いているとわからない特徴がたくさんありました。また、私が見ているこの方は、再就職のタイミングであり、さらにはここ近年の悪循環のなかでの心境であることから、当然困っている姿があるわけですが、目の前にあるのは、この方の本来の姿ではないと思って支援をしていた形になります。
クライエントへのアドバイス時に役立つアセスメントツール
これは他のクライエントも全く同じで、私が思っていることは一緒です。キャリア自律やキャリアマネジメントの促進、不安への対処をしていく支援の仕事ですが、仕事についても暮らしの中において、やはり自身の持ち味とか強みの発揮の連続化や習慣化をしたいということです。できないことを身につけたり、やろうとする努力も大事ですが、それ以前に得意な要素を生かして言葉や態度、行動として意図的に発していくこと、その連続化だったりすることが大事だと思いますし、そういったことをしたいわけです。その目的に対して活用するアセスメントツールは1つの武器になってくると言えるかなと思います。
ツールを使ったキャリア相談での留意点
最後に、Gテスト等のツールを使ったキャリア相談での留意点です。まず、アセスメントツールへの熟知を前提として、アセスメントツールが提供する情報に対する考察が重要になってくると思います。それが不足する場合、アセスメントツールが示す結果の理解にとどまりますので、それ以上の情報がないため、あまり使えないといった話が出てくると思います。しかし、得られた結果や、アセスメントツールを実施したプロセスの中で、クライエントがどのようなことを感じたり思ったりしたのかに焦点をあて、明確にしていき、それらの情報が、何に関連してくるのかということをクライエントと十分に検討できた時、アセスメントツールの実施が「有効だった」という話になってきます。こうした活動はやはり、実務者がどんどんやっていくべきものだと思います。
繰り返しになりますが、アセスメントツールは、要素を特定することが目的ではありません。アセスメントツールを通じて提供されるクライエントの情報から、それがどんな経験に基づいているのか、その経験からどんな自己概念が生まれているのかなどの、洞察を深めることこそが重要です。
そして、そこには、ナラティブ・アプローチ(相談相手などを支援する際に、その人の語る「物語」を通して解決法を見出していくアプローチ方法)につなげることが有効だと思います。今回の事例のように、アセスメントツールはとても効果を発揮するときがある一方、クライエントとの間で話題にしないときもあります。それでも、必要な時にすぐに使えるように押さえておき、訓練しておくことで、突発的で重篤な相談のケースでも、より個別性の高い支援につながる可能性が広がるように思っています。
プロフィール
太幡 竜一(たばた・りゅういち)
株式会社エイチ・アール・シー・キャリア 対人支援グループ/株式会社リカレント キャリアコンサルタント養成講座 専任講師/株式会社Co-Agent 代表取締役(有料職業紹介事業等)
約20年民間企業にて、人材開発および営業マネージャーとしての経験を経て独立起業。また、キャリアコンサルティングを基盤とした再就職支援専業の事業に参画し、常時20名程のクライエントを支援。他にも、キャリアカウンセリングを軸とした組織開発事業や、キャリアコンサルタント養成講座講師および更新講習の企画者や講師として活動。キャリア開発・形成を通じた個々人の成長に深い関心を寄せている。
(2024年6月25日 掲載)