事例紹介1 Gテストを活用したキャリア支援 事例報告
- 講演者
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- 原田 千絵
- 公益財団法人 愛知県労働協会 事業課 職業適性相談グループ 主任
- フォーラム名
- 第130回労働政策フォーラム「ガイダンスツールを活用した就職相談とキャリア支援─相談支援現場からの実践報告─」(2024年2月27日)
私からは、Gテストを活用したキャリア支援の事例報告をさせていただきます。当協会で2023年7月から開始しているGテストの実施検証で今年1月末までに受検した7人のうち2人について紹介します。
事例紹介の前に少し当協会の事業についてお話しします。当協会では、事業内容の1つとして、職業相談、適性検査に関する事業を行っています。職業適性相談コーナーでは個人向け、学校向け、企業向けと、大きく分けて3つのサービスがあります。今日の事例紹介に関係する個人向けサービスでは、窓口相談としてキャリア相談、Gテストなどを使用した適性検査の実施、履歴書・職務経歴書の書類の添削などを行っており、そのほか、予約が必要な個別相談や、コロナ禍からサービスを開始したオンライン相談もあります。さらに適職探しセミナーという自己理解を推進するセミナーも行っています。
窓口相談者の状況
窓口相談は、年間、約1,000人前後が利用している状況です。職業適性相談コーナーの職員は全員で9人。キャリアコンサルタントの有資格者が6人在籍し、そのうちキャリアコンサルタント技能士1級と2級がそれぞれ1人います。当協会では、3種類の簡易検査(Gテスト、キャリア・インサイト、興味・性格検査)を受けることができます。窓口相談者数の約半数が簡易検査を受検しますが、そのほとんどの方が興味・性格検査を受けています。
Gテスト検証者の状況
Gテストは、先ほどお話ししたように7人が受検し、そのうち6人がアドバンスで受けており、1人だけがベーシックという結果でした。受検の経緯ですが、当コーナーではGテストはまだ検証段階のため、来訪時に「Gテストを受けたい」という人はまだいません。そこで、「書類を添削してほしい」や「この検査を受けたい」などと明確な目的を持って来た人ではなく、「何か適性検査を受けたい」とふわっとした感じで来る人にGテストを案内し、承諾した人のみに実施しました。ただ、Gテスト単体で受ける方はおらず、全員が興味・性格検査とあわせて受検されました。
Gテスト受験者 ──現在休職中で今後の方向性について悩んでいるケース
それでは、1人目の事例紹介に入っていきたいと思います。来所者は30代後半の女性です。現在休職中で、今後の方向性に悩んでいて、適性検査を受けに来たとのこと。そこで、Gテストを案内したところ、職業興味・性格検査とあわせて受検することになりました。
結果はシート1のとおりです。①が解答の結果、②が解答の結果に対して近い職業グループで、1位から順に記載しています。
この方は、同時に受けた興味検査でも、②の「結果に近い職業グループ」の2位に来ているLC(言語・相談)と3位のSV(対人サービス)が高い結果で出ていました。そのようなことも含め、自身の興味とGテストの結果に共通点があったと、少し安堵の表情を浮かべられました。その安心感からなのか、求職活動の方向性について、「今後の方向性として、例えば、看護師をちょっと考えている」や「看護師ではない職種での転職も視野に入れている」などとぽつりぽつりと話し始めたのです。
看護師については「家族に医療従事者がいる」とのことでしたので、「その辺りのことはご家族に詳しく聞いてみましょう」となりましたが、それ以外の転職活動は「まだ何もイメージができていない」とのことでした。そこで、「Gテストの結果で出てきた職種の中から気になるものをいくつかピックアップして、job tagなどを使って深く調べてみたらどうでしょう」と促したところ、「この後、自分自身がやるべきことが少しイメージできました」と、来訪時よりは少しすっきりした表情で帰られました。
Gテスト受験者 ──自分が何に向いているかわからず将来不安を持つケース
2人目は学生の事例です(シート2)。大学の教育学部に在籍していて養護教諭を目指したのですが、子どもが熱中症で亡くなったニュースを見て、養護教諭が人の命に関わる仕事だと気づいて不安になってしまい、急遽、民間企業も視野に入れて就職活動を始めたものの、今まで全く考えていなかったため、自分が何に向いているかがわからず、適性検査を受検しに来たケースです。ちなみにこの方は、来訪日当日に当コーナーが入っている建物の別フロアで開催されていた企業展の会場から適性検査を受けに来たという経緯があります。
シート2にあるGテストの結果をみると、結果に近い職業グループ1位のSV(対人サービス)と2位のLC(言語・相談)は養護教諭に必要な能力の1つでもあるため、本人的には少し安心するのかな、と思っていたのですが、本人の不安はそういうところではありませんでした。検査結果で養護教諭に適性の可能性がありそうだという結果を見ても、「不安は無くならない」とお話しされました。とはいえ、お話を聞いていると本人の養護教諭に対する思いも感じたので、養護教諭として働くために「どうしたら不安が減らせたり無くせるか」や「どういう状況であれば安心して働くことができそうか」などについてお聞きしました。すると、「今までそういうことを考えたことがなかったので、周りにいる人や先輩に聞いてみます。また、自分でも調べてみます」という話になりました。
それでも完全に不安が払拭できたわけではなく、民間企業の選択肢も考えたいとのことでしたので、「Gテストの結果から気になる職種をいくつかピックアップして、この後また企業展の会場に戻ってその職種を募集している企業の相談ブースに行って話を聞いてみたらどうですか」と提案してみました。するとしばらくして、企業展の会場に向かったようでした。
まとめ ──Gテストの結果から得た気づきと今後の取り組み
今回、Gテスト受検者7人と少ない人数ではありますが、そのなかで気づいたことをお伝えしたいと思います。
まず、Gテスト(アドバンス)の結果で出た職種について、本人が気づかない職種や知らない職種がいくつかありました。そうしたことを知るきっかけになったことは、Gテストを実施してみてとても良かった点だと思います。そこで終わらず、さらにjob tagなどで深く職業を調べることでミスマッチを軽減し、応募職種の拡大につなげることが期待できそうなので、職種を理解する観点からもGテストを実施する意味を感じました。
2つ目は、当コーナーの場合になると思いますが、「無料でできる簡易能力検査」として利用者から喜ばれる可能性を感じました。来所者のほとんどが受検する興味・性格検査ではなく、新しい切り口で見られる検査が1つ増えるからです。今後、周知が広がれば、受検者数ももう少し伸びてくると思っています。
3つ目です。これもアドバンス受検者の話ですが、出てきた職種が難易度の高い職種が多く、腰が引けてしまったり、その反面、アルバイトのような職種もいくつか出てきてしまい、「気になる職種がかなり限られてしまった」と言う人がひとり、ふたりいました。そういった人には、「今、日本に職業は約1万7,000種類あるので、この結果にとらわれずに、もう少し広く考えてみましょう」と話しています。
4つ目は、「結果を鵜呑みにしてしまう来所者には丁寧な解説が必要」ということです。受検者の中には、出てきた結果を100%信じてしまう人がいます。こうした人は、「順位が高かった職種は自分に向いていて、低い職種は自分に向かないので就かないほうがいい」と思ってしまうことがあります。どの適性検査でも精度の高低はあるけれど完璧なものではないことと、同じ職種でも会社が違うと求められる経験や能力が異なってくることなどを伝えたうえで、「適性検査はあくまでも自己理解ツールの1つ」として考えられるように丁寧に解説していくことが必要だと思いました。これについては、今後も窓口で実践していこうと思っています。
最後に、今後の取り組みですが、検証を続けていくにあたり、Gテスト受検後の窓口相談で、テストに関する意見や感想などにもう少し触れていくことで、今後の対応に活かしていきたいと思っています。
プロフィール
原田 千絵(はらだ・ちえ)
公益財団法人 愛知県労働協会 事業課 職業適性相談グループ 主任
大学卒業後、メーカーで約20年にわたり主に人事採用担当として新卒・中途およびパート採用等における採用業務全般を担当。会社を退職後、フリーランス等を経て2021年より公益財団法人愛知県労働協会に入職。これまでの経験を活かし、適性検査を活用したキャリア相談業務に従事している。その他、大学等において検査結果の説明および職業講話の実施や、セミナー講師等も担当。国家資格キャリアコンサルタント。2級キャリアコンサルティング技能士。
(2024年6月25日 掲載)