研究報告3 外国ルーツ世帯の労働と子どもの生活─ワーキングプア世帯の子どもの居場所─

講演者
山本 直子
東洋英和女学院大学 国際社会学部 専任講師
フォーラム名
第128回労働政策フォーラム「外国にルーツを持つ世帯の子育てと労働を考える」(2023年10月13日-19日)

現在、日本には300万人を超える外国籍の人が暮らしており、仕事を持ち、子どもを持っている人もたくさんいます。本報告では、ご両親とも、またはどちらか一方が外国籍で、仕事をしながら子育てをしている世帯に焦点を当て、そうした「外国にルーツを持つ」世帯の子どもたちが、放課後にどのような場所で過ごし、どのようなニーズがあるのかをお話しします。

私たちの研究チームでは、外国にルーツを持つ世帯、つまり家族の中に外国籍の人がいる世帯の子どもの貧困の状況を把握することを目的に研究してきました。分析データは多くの自治体で実施されている「子どもの生活実態調査」です。本日の報告は、合計8つの首都圏のデータを統合したものの分析結果の報告になります(シート1)。これら8つの自治体調査の中でも、小学校5年生と中学校2年生のデータを統合し分析しました。合わせて約2万の調査データのうち、外国にルーツを持つ子どもは全体の約3%でした。

世帯の内訳は「母親が外国籍、父親が日本国籍」が36%など

外国にルーツを持つ世帯の内訳を具体的にみると、36.6%が「母親が外国籍、父親が日本国籍」の世帯、32.0%が「母親が日本国籍、父親が外国籍」の世帯で、「両親ともに外国籍」の世帯は18.0%、「外国籍の母子世帯」が13.4%でした。「外国籍の父子世帯」は全体のサンプル数が極めて少ないため、分析から除外しています。なお、子どもが日本国籍を持つ可能性のある世帯も多く含まれていることには留意が必要です。

この分析で利用したのは、「生活困難度」という指標です。3つの指標から成り、1つが所得が基準値以下であるという「低所得」の指標。2つめが、食べ物を買えない、必要な衣類を買えない、光熱費が払えないなど、「家計のひっ迫」を示した指標。そして、3つめが、日本の子どもが当たり前に享受している「子どもの体験や所有物の欠如」を測る指標です。

いずれにも該当しない世帯を一般層、1つ以上該当する世帯を周辺層、2つ以上該当する世帯を困窮層と定義し、周辺層と困窮層、この2つの層を「生活困難層」、その世帯が貧困状態にある、生活をしていくことが困難な状況にある世帯であると定義をして分析しています(シート2)。

母親の就労形態では学歴による統計的有意差は認められず

まず、外国籍の父母の就業状況について分析しています。外国籍の父母の学歴別の就労形態をみると、母親の就労形態については、学歴による統計的な有意差は認められませんでした(シート3)。

母親たちが働いている時間帯をみると、早朝や夜間に働いているのは、日本国籍の母親では9.0%だったのに対して、外国籍の母親では15.1%と高くなっていました。34.7%の日本人の母親が平日の日中のみ働いているのに対して、外国籍の母親は28.2%と比較的少なくなっています(シート4)。

早朝夜間勤務の外国籍世帯で親子間の会話がない割合が高い

親と会話を全くしていないと答えた子どもの割合は、母親が働いていない世帯では、統計的な有意な差はありませんでした。しかし、母親が働いている世帯では、日本人世帯と外国籍の母親の世帯では統計的にも意味のある差が見られる結果になりました。

シート5のとおり、早朝夜間以外の時間帯に働いている母親の世帯での、親との会話を「全くしない」と答えた子どもの割合は、日本人の母親の場合19.4%で、外国籍の母親の場合は28.3%でした。母親が早朝夜間に就労している世帯では、同割合は母親が日本人の場合21.8%で、日本人の母親の場合は母親の就労時間帯で差はそれほど大きくないという結果ですが、母親が早朝夜間に就労している世帯で母親が外国籍の場合、同割合は42.1%と高く、就労時間帯によってかなり大きな差がある状況になっています。

なぜ日本人と外国籍の母親で大きく差が出てくるのかということについては、今回のデータからはわからない部分なので考察をするしかないのですが、例えば日本人世帯では少し顔を合わせただけの時間でも重要な話をぱっとすることができたり、ちょっとした会話が簡単にできるかもしれない。けれども外国籍世帯でよくみられるように、例えば、親は日本語がほとんどできず、子どもは学校生活で日本語での会話に慣れているなど、親と子どもの得意とする言語が異なるような状況では、短時間での短い会話が少しずつ難しくなっているということも考えられるのではないかと感じました。

就労によって親子の会話がないことが子どもの孤独感に影響

シート6は、親の就労状況と親子の会話の状況をもとに、子どもの孤独感をグラフに示したものになります。会話がある世帯であれば、子どもはそれほど孤独を感じていないという結果になっています。日本人世帯と割合は大きく変わりません。しかし、就労をしていて会話がない世帯では、57.2%と半数以上の子どもが孤独を感じており、就労によって親子間の会話がなくなってしまうことが、子どもの孤独感に非常に大きな影響を与えていることが推測できます。

外国ルーツの子どもが放課後過ごす場所は公園や図書館など

就労している親との会話が少ない外国籍の子どもの多くが孤独を感じている、という状況に対して、私たちにできること、社会としてまずやるべきことは、子どもが安心して過ごせる居場所、子どもが孤独感を感じないような居場所を提供することではないか、と考えてみました。

外国にルーツのある子どもが放課後にどのような場所で過ごしているのか、特に母親の就労状況別に調べてみると、塾や習い事などと答えた割合は、就労している外国籍や日本人の世帯、そして就労していない日本人世帯でも高いのに対して、無業の外国籍世帯ではやや低くなっています(シート7)。また、働いていようが働いていなかろうが、外国籍の母親の世帯は、公園や図書館や商店街、モール、ゲームセンターなどと答える割合が、日本人世帯よりも高くなっています。

公園、図書館、商店街・モール・ゲームセンターなどは、塾や習い事、児童館・学童クラブ、スポーツクラブなどに比べて、そこにいることが無料で登録の必要がない、という特徴があります。誰でもいることができる居場所に、多くの外国籍の子どもたちが多く滞在しています。

このような無料・登録不要の居場所を利用しているのは、母親の国籍が外国籍であること、その母親が就労しているかどうかは、関連性が見られませんでした。世帯の生活困難度をみると、日本人世帯については統計的な有意差が認められましたが、外国籍の母親の場合には統計的な有意差ではありませんでした。

しかし、特に生活に困っている層に限って、働いている世帯と働いていない世帯に分けて分析したところ、母親が就労していてかつ生活困難層に該当する外国籍の世帯では、こうした無料で登録不要の居場所を利用する割合が圧倒的に高いという結果が出ました(シート8)。

就労をしていて、そしてそれにもかかわらず、生活が困難な状況にある外国籍の母親、というような条件が合わさった場合に、子どもの居場所として登録が不要で無料で利用できるような居場所が選ばれやすいという傾向となっていました。

外国籍の母親の就労や子育て支援を考えるとき、子どもたちが無料で登録の必要もなく使える居場所を拡充することが、1つの支援のあり方として考えられるのではないでしょうか。

プロフィール

山本 直子(やまもと・なおこ)

東洋英和女学院大学 国際社会学部 専任講師

東京都立大学子ども・若者貧困研究センター特任研究員を経て、2022年より現職。博士(社会学)。東京都立大学子ども・若者貧困研究センター客員研究員。主な著作に「外国につながる子どもの貧困」(東京都立大学子ども・若者貧困研究センター ワーキングペーパーシリーズ WP17, 2021)、「新型コロナウイルス感染拡大による外国籍父母の就労への影響」(東京都立大学子ども・若者貧困研究センター ワーキングペーパーシリーズ WP23, 2021)。

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