研究報告2 外国ルーツの子どもと家族の多様性─生活困難と親の就労─

講演者
千年 よしみ
国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部 特任主任研究官
フォーラム名
第128回労働政策フォーラム「外国にルーツを持つ世帯の子育てと労働を考える」(2023年10月13日-19日)

この報告では、外国ルーツの子どもの家族の生活実態を、生活困難度に焦点を当ててデータから示します。外国ルーツの子どもとは誰なのか、どのくらいいるのか、といった基本的な情報をきちんと把握したうえで、外国ルーツの子どもが育つうえでとても重要な、子どもが属す世帯の経済的状況や、どのような問題を抱えているのかといった生活の実際的な側面について報告します。東京都立大学こども・若者貧困研究センター提供の「子どもの生活実態調査」を用い、外国ルーツの子どもと、両親ともに日本国籍の子どもを比較し分析しました。この報告で用いる「外国ルーツの子ども」とは、両親の両方またはどちらかが外国籍である子どものことです。子ども自身の国籍については、言及しません。

外国籍の子どもは21万人で年少人口の1.5%を占める

まず、国立社会保障・人口問題研究所『人口統計資料集2023年改訂版』から、日本の子どもの人口(0~14歳)の推移を概観すると、1960年には約2,800万人だった人口が、2035年には約1,260万人まで減ると推計されており、割合は全人口の30%から10.3%まで低下します。一方、外国籍の子どもの人口は、1990年には14万人でしたが2020年には21万人に増え、年少人口に占める外国籍の割合も0.6%から1.5%へと増加しています。

父母の両方またはどちらか1人が外国籍である場合の出生数は、2000年以降おおむね3万5,000ほどで推移しています。全出生数に占める外国ルーツの子どもの出生数の割合は、1987年には1.3%程度でしたが、徐々に上昇し、2021年には4.4%になっています(シート1)。

今回、分析に使った「子どもの生活実態調査」は、地方自治体が主体となって子どもの貧困を把握するために行った調査です。貧困の指標の1つである世帯収入や家計の状況に関する設問に加え、「子どもの剥奪」に関する質問が含まれています。子どものウェルビーイングを把握するには、経済面だけではなく、子どもの生活の質そのものを計測する必要があるという理念に基づいています。

今日の報告では、保護者2人の国籍を特定することができる、東京都調査、世田谷区調査、中野区調査、千葉県松戸市調査のデータを統合して分析を行いました。これらの調査は、2016年~2019年の間に、小学校5年生と中学校2年生、そして保護者を対象に実施されました(シート2)。

ひとり親の割合は外国ルーツの子どものほうが2倍高い

全サンプル数は1万8,585人で、両親ともまたはどちらか1人が外国籍である外国ルーツの子どもの数は619人、割合は3.46%でした(シート3)。ひとり親の割合は、両親とも日本国籍の子どもでは10.2%であるのに対し、外国ルーツの子どもでは20.5%と、2倍の高さとなっています。外国ルーツの子どもを対象とした場合、外国籍の親のみの割合は2人親とひとり親を合わせて約3割、日本国籍の親がいる割合は7割弱で、外国ルーツの子どもの多くは日本国籍の親がいることになります。

「日本版子どもの剥奪指標の開発」の指標を用いて生活困難度を定義

生活困難度の定義には、東京都立大学の阿部彩先生の「日本版子どもの剥奪指標の開発」に示されている指標を用いました。この指標は「低所得」「家計の逼迫」「子どもの剥奪」という3つの側面から生活困難度を測ります。

「低所得」は、等価世帯所得が厚生労働省の国民生活基礎調査から算出される基準額を下回った場合に該当するとします。「家計の逼迫」は、公共料金や家賃の滞納、食料や衣類を買えなかった経験を含む7つの項目に1つ以上該当した場合、家計の逼迫に該当するとします。「子どもの剥奪」は、子どもの体験や所有しているものなどの15項目のうち、経済的な理由でできない項目が3つ以上ある場合に剥奪に該当すると判断します。「低所得」「家計の逼迫」「子どもの剥奪」のうち1つも該当しなければ一般層、どれか1つに該当すれば周辺層、2つ以上に該当する場合を困窮層と分類します。子どもの生活に欠如している物や体験にも広く目を配る指標です。

外国ルーツ世帯のほうが低収入の割合が高い

シート4は、子どものルーツ・世帯構成別に見た世帯収入の分布です。外国ルーツの世帯のほうが低収入の割合が高く、日本ネイティブ(便宜上、「両親とも日本国籍の子ども」をこう呼ぶことにします)で収入が高い傾向にあることがわかります。子どもの世帯を世帯構成別に比較すると、外国ルーツの子どもの世帯の中でも大きな違いがみられます。例えば、100万円未満の世帯は、両親のうち1人が外国籍の世帯では約10%ですが、両親とも外国籍の世帯では4%と低くなっています。ひとり親は、国籍にかかわらず2人親世帯よりも世帯収入が低く、100万円未満でみると、日本ネイティブのひとり親で14.7%、外国ルーツのひとり親では20.1%に達しています。

家計の逼迫度も外国ルーツのほうが高い

次に、子どもがいる世帯の家計の逼迫をみると、食料や衣類が買えなかったなどの質問に1つ以上該当する世帯の割合は、日本ネイティブの世帯で6.5%、外国ルーツでは14.6%と、この指標でも外国ルーツのほうで逼迫度が高くなっています。

世帯構成別にみると、外国ルーツで、両親のうち1人が外国籍では10.2%、両親とも外国籍では13.5%となっています。この指標を使っても、逼迫度はひとり親世帯のほうが高くなっており、日本ネイティブの子どものひとり親では18.0%、外国ルーツではそれを上回る29.1%となっています。

また、子どものルーツ・世帯構成別に子どもの生活の剥奪状況をみると(シート5)、「剥奪」の状況にある割合は、日本ネイティブで8.0%、それに対して外国ルーツは15.5%と約2倍の高さになっています。世帯構成別にみると、やはり該当割合はひとり親できわめて高く、日本ネイティブのひとり親で23.4%と約4分の1に該当し、外国ルーツでは約3割に達しています。外国ルーツの2人親では、両親のうち1人が外国籍の場合13.3%、両親とも外国籍の場合6.5%で、両親とも外国籍の子どものほうが、両親のうち1人が外国籍の子どもよりも剥奪の度合いは半分ほど低くなっています。

最も困窮度の高い層の割合は外国ルーツが日本ネイティブの2倍の高さ

「低所得」「家計の逼迫」「子どもの剥奪」の3つの観点から、総合的に判断した生活困難度を表にしたのがシート6です。最も困窮度の高い困窮層の割合は、日本ネイティブで5.0%、外国ルーツで13.0%と倍以上、外国ルーツのほうが高い結果となっています。また、困窮層と周辺層を合わせると、日本ネイティブでは17.3%、外国ルーツでは30.3%と大きな差がみられます。さらに、世帯構成別に比較すると、ひとり親世帯の生活困窮度が際立って高く、困窮層と周辺層を合わせた割合は、日本ネイティブのひとり親で43.1%、外国ルーツでは62.0%となっています。

子どもの父親の就労状態をみると、外国ルーツの父親は日本ネイティブの父親よりも「常勤・正規」の割合が低く、「非常勤・非正規」や「自営業・家業・自由業など」が高くなっています。なお、「無職」はほぼいません。世帯構成別にみると、「常勤・正規」の割合が最も低いのは、両親のうち1人が外国籍の場合で66.2%、次いで低いのは「両親とも外国籍」で71.4%となっています。

次に母親の就労状態をみると、ルーツによる違いよりも、世帯構成による違いが大きくなっています。特に母子世帯の母親の就労割合は国籍にかかわらず非常に高く、「無職」は日本ネイティブで8.3%、外国ルーツで12.1%となっています。

外国ルーツのひとり親の1割は就学援助金自体を知らない

最後に子どものルーツ・世帯構成別にみた支援ニーズについて、2つ結果をお見せします。就学援助金を受け取っているのは、日本ネイティブで約1割、外国ルーツでは約2割で、外国ルーツのほうがおよそ2倍高いことがわかります。さらに、世帯構成別にみると、外国ルーツかどうかに関係なく、ひとり親世帯で4割を超える高い水準にあります(シート7)。ただ、特徴的なのは、外国ルーツのひとり親の場合に「わからない」との回答が1割を超えていることです。資格があるのに就学援助金の存在自体を知らない人がいると思われます。

子どもが病気の時に頼れる人がいない割合を、回答者が母親のケースに限定して見てみると、日本ネイティブでは18%、外国ルーツでは34%が、子どもが病気の時に頼れる人がいないと回答しており、外国ルーツで倍以上高くなっています。最も高いのは、両親とも外国籍のケースで63.4%と非常に高く、次いで両親のうち1人が外国籍のケースで32%です。

今後の調査では保護者の国籍に関する設問を

最後に、調査の今後の課題ですが、日本語による調査であるため、回答者は比較的日本語能力が高く、学歴も高い保護者である可能性が高く、実際よりも困難度が過小評価になっている可能性があるという点に注意が必要です。また、他の地域では、調査結果は大きく異なることが十分想定されます。

今回の報告は、地域的に限定されたデータを用いましたが、これだけ多様な外国ルーツの子どもの家族の実態を把握するには、サンプル数が足りないという根本的な問題があります。子どもの生活実態調査には、外国ルーツの子どもの実態把握に少しでも役立てるよう、保護者の国籍に関する設問を入れることを検討してほしいと思います。

プロフィール

千年 よしみ(ちとせ・よしみ)

国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部 特任主任研究官

東京都立大学子ども・若者貧困研究センター客員教授。社会人口学専攻。2005年以降に実施された磐田市や静岡県における多文化共生基礎調査に従事。主な著作に"Remain or Return? Return Migration Intentions of Brazilian Immigrants in Japan" (International Migration 60(4), 2022)、「外国ルーツの子どもと保護者の回答状況に関する分析─自治体による「子どもの生活実態調査」から─」(東京都立大学子ども・若者貧困研究センター ワーキングペーパーシリーズ WP34, 2023)。

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