事例紹介1 リモートワークを中心とした新たな働き方と従業員の健康

講演者
大野 香織
東日本電信電話株式会社(NTT東日本) 総務人事部 サステナビリティ推進担当部長
フォーラム名
第126回労働政策フォーラム「労働と健康─職場環境の改善と労働者の健康確保を考える─」(2023年3月15日-20日)

ワークインライフの実現に向け取り組む

NTT東日本グループの今までのリモートワークの推進について紹介し、そこから見えてきた課題についてお話しします。

ワークインライフという言葉をご存じでしょうか。今までは仕事とプライベート、ワーク・ライフ・バランスという言葉が中心でしたが、NTTグループでは、このワークインライフ、仕事も家族や友人・趣味・休みなどと同じように、人生の中の1つという考え方でウェルビーを実現しようと経営を行っています。

その1つに、リモートワークの推進があると考えています。2022年7月にNTTグループは「リモートスタンダード制度」を導入しました。「原則在宅勤務、出社は出張扱い」という働き方を進めるものです。

ワークインライフを一層推進するためには、社員の住む自由度を高めることが重要との考えで、「日本全国どこからでもリモートワークによる働き方を可能とする制度」としてリモートスタンダードを導入しました。

こうした取り組みで、転勤や単身赴任を伴わない働き方を拡大していく予定です。NTTグループにはこれまでも在宅勤務制度がありましたが、回数の上限があったり、在宅勤務時の手当がなかったり、今よりも自由度が少ない制度でした。2020年から、リモートワークの回数制限も撤廃し、リモートワーク手当を導入し、さらに22年7月には出社は出張扱いという考え方のリモートスタンダード制度に大きく舵を切っています。

NTT東日本グループは特にオフィスワーカーについて、大きなリモートワーク推進の転換期を迎え、2022年の直近で、オフィスワーカーの7割以上の社員がリモートワークを実施しています。

リモートワーク推進で会社と社員双方に大きなメリット

当社では、いわゆる故障修理の「113」や、申し込み受付の「116」といったコールセンターをはじめとする社員を「エッセンシャルワーカー」と呼んでいますが、まだリモートワークを進める環境整備が不十分で、こうした社員に対するリモートワーク整備が大きな課題となっています。そして、リモートワーク推進は、会社側と社員双方に大きなメリットをもたらしたと考えています。

会社側のメリットはコスト面で、オフィス賃料、通勤費、事務用紙も大きく減りました。企業ランキングでも、特に女性の活躍度調査ではランクアップしています。

会社側のメリットも大きいですが、個人的には社員にとってのメリットが非常に大きかったと感じています。資格取得者や取得資格の数が大きく増加しました。また、人材多様性という観点でも、特に女性社員で、育児休職からの復帰時に短時間勤務ではなくフルタイム勤務とする人が増えた点は大きなメリットだと感じています。

このリモートワークの推進には、本日のテーマである健康の観点、リモートワークの制度面が重要だと考えています。社内での各種制度はもちろんのこと、どこにいても、社員の安否状況が確認できるシステム、そして、社員の健康を調査するパルスサーベイが非常に重要だと思っています。

3年間のリモートワークで見えた課題は若手層のコミュニケーション

この3年間、リモートワークに大きく舵を切って推進してきましたが、大きな課題も見えてきました。コミュニケーション面での課題です。

社員アンケートの結果によると、組織や担当内のコミュニケーション手段・方法や、上長とのコミュニケーションといったコミュニケーションに関する課題が浮き彫りになってきました。あわせて、メンタルヘルス不調も少しですが課題として顕在化しています。

メンタル不調は、2019~2020年はやや減少傾向にありましたが、2021年になると、メンタルの継続罹患者は減ってきているものの、新規罹患者が増えてしまいました。若手社員の中でも特にコロナ禍に入社した社員や、新規任用の課長や課長代理層に、特に顕著に見られました。

こうした層には、重点的にフォローする仕組みを整えています。四半期ごとにストレスチェックを実施し、不調の懸念がみられる社員は、プッシュ型でフォロー面談を実施しています。若手社員については、入社してすぐにリモートワークとなった社員が多く、人との触れ合いという観点で育成面に課題が出てきており、リモートと対面のハイブリッド型でのOJT体制を組むとともに、メンターとして先輩社員を付けてフォロー体制を充実させるといったことに取り組んでいます。

業務量と合わせて上長が睡眠・食事が適切に取られているかを確認することで、社員の健康面がどのような状態になっているかを把握しています。2週間に1回、社員が回答して上長に送信するというルールで、これを実施することで、上司は普段見えていない社員の状態をしっかりと把握する仕組みです。

コミュニケーション不足という課題については、マイクロソフトのTeamsを活用して、上司と部下の1on1ミーティングを推奨し、まず信頼関係を構築することを前提に業務を遂行しています。

「誰ひとり取り残されないリモート会議」の実施を徹底

リモートコミュニケーションにおけるワークルールも展開しています。相手の時間を尊重するのはもちろんのこと、誰ひとり取り残されないリモート会議へ、ということを常に意識して、リモートでもなるべく顔を出して会話をすることを徹底して実施しています。

こういった課題をふまえ、リモートワーク70%を目標として推進してきましたが、出社が必要なときにはしっかりと出社し、対面で実施が必要なチームビルディングやブレインストーミング、社外とのコラボレーションや育成という観点では、出社してハイブリッドワークを推進していくことを掲げています。出社する目的を明確にして、Work from Officeの目的・メリット・活用シーンを、社員に引き続きお願いしているところです。

オフィスに出社した時には、コミュニケーションを活性化できるよう、どの部署の誰がどこに座っているかを「見える化」する位置情報可視化Webシステムの導入も検討しています。少し話しかけてみようかなと、偶発的なコミュニケーションを導き出すことが目的です。

それぞれの業務に的確・適正なリモートワーク実施率がある

最後に、リモートワーク型の働き方について、アンケート調査で見えてきたデータを紹介します。リモートワークの生産性向上については、9割以上の社員が「上がった」「やや上がった」「変化なし」と答え、おおむね評価をしています。やはりオフィスより自宅等の方が集中できるということで、社員にも大きなメリットがあったと考えています。一方で、理想とするリモートワークの頻度は、やっている業務・業種・業態別に異なります。ですので、必ずしもリモートワーク70%が正解ではなく、それぞれの業務において的確・適正なリモートワーク実施率が存在するという観点から、ハイブリッドワークをしっかりと推進していくことが、社員にとっての健康にもつながってくると考えています。

プロフィール

大野 香織(おおの・かおり)

東日本電信電話株式会社 総務人事部 サステナビリティ推進担当部長

1998年日本電信電話(株)へ入社後、自治体や大学等へのソリューション営業に従事。2004年に持株会社の経営企画部門に出向し、NTTグループ会社のマネジメント業務に携わる。東日本電信電話(株)に復帰後、神奈川支店においてフレッツ光の販売を中心としたマス市場向けの営業戦略立案に従事、その間に男児2人を出産。育児休暇を経て、現在はNTT東日本グループ全体の働き方改革及び女性活躍推進に取り組み、社外講演等も実施している。