事例紹介265歳定年制度・最長70歳まで働ける継続雇用制度

講演者
陶山 浩一朗
太陽生命保険株式会社 人事部長
フォーラム名
第123回労働政策フォーラム「高齢者の雇用・就業について考える」(2022年12月7日-12日)

金融機関として初めて定年を65歳に延長

本日は65歳定年制度、最長70歳まで働ける継続雇用制度について、当社の取り組みをお話しします。当社は健康寿命の延伸という社会的課題に応えるため、2016年6月に「従業員」「お客様」「社会」のすべてを元気にする取り組み、太陽の元気プロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトの一環として、人事部では、従業員を元気にする取り組みを展開し、主に3点、人事制度や処遇の改定、健康経営の推進、両立支援制度の充実について新たな施策を取り入れてきました。

その主な施策の1つとして、人事制度や処遇の改善を行い、金融機関としては初めて、2017年4月に処遇を維持したまま定年を65歳に延長し、57歳の役職定年制度、特別職員制度を廃止しました。

人員構成にムラがあり、管理職登用の早期化が必要に

高年齢者雇用安定法の改正により、企業は65歳、さらには70歳までの雇用確保が求められています。お客様の健康寿命の延伸を目指している当社ですので、従業員が長く、元気に働ける環境をつくる必要がありました。

一方、当社の人員構成はバブル入社世代が山となり、就職氷河期世代やリーマンショック後世代が谷になるなど、人数に大きなムラがあり、60歳定年のままでは現行の管理職体制の維持が困難となっていました。健全な管理職体制を維持するためにも、役職定年制度を廃止するなど、シニアにより活躍してもらう必要がありました。また、若くて優秀な人にも管理職登用を早期化する必要がありました。シニア層の人は今まで、57歳の役職定年後の配属先の約9割が、本社および関連会社と、活躍の場が限定的でした。

本改正を機に特別職員制度を廃止し、高いマネジメント力を持つ人には引き続き管理職を担い、また、高い専門性を持つ人には複数部門で活躍してもらうため、人事ローテーションを実施しました。優秀な人材の確保、健全な管理職体制の維持、年齢に関わらない能力の発揮ができる環境の構築を目指し、2017年から2022年まで段階的に人事諸制度を改定してきました。65歳定年延長制度を単体として実施したわけではなく、若手からシニアに至るまでさまざまな人事諸制度を改定し、同時に福利厚生制度の充実も図りました。

65歳定年の対象は内務員約2,300人

次に、2017年4月に行った人事諸制度改定のそれぞれの中身について触れます(シート1)。

まずAです。それまで60歳定年制度でしたが、内務員約2,300人を対象に65歳定年制度を導入し、新入社員から65歳まで同じ人事処遇体系を実現しました。

次にBです。最長65歳までの継続雇用制度を運用してきましたが、最長70歳まで働ける継続雇用制度を導入しました。60歳以上の社員には、年1回の現況調査時、何歳まで働きたいか希望を確認しています。また、健康状態や直近の人事評価などによる採用更新基準も新たに設定しました。

Cです。それまでは57歳になると全員が一律に役職定年を迎える制度と同時に、同じ非役職者で仕事の内容が変わらなくても一律に賃金を引き下げる「特別職員制度」を設けていましたが、これらを廃止しました。年齢による一律の処遇引き下げをなくすことで、高いマネジメント力や専門性を有するシニア人材が競争意欲意識を持ち、意欲的に活躍できる仕組みとしました。

ちなみに、旧制度であれば、役職定年となっていたはずの58歳以上の管理職者は、現在89人おり、うち60歳以上は26人です。管理職占率は10.7%です。

生涯賃金が平均15%以上アップ

旧制度でいえば、シート2のとおり、57~65歳まで段階的に処遇が下がっていました。一方、新制度では、入社から定年まで一律の人事制度の中での運用を行っていますので、57歳以降も同様の給与水準を65歳まで維持することが可能になりました。

これにより、生涯賃金の向上につながり、平均で15%以上の増加となり、従業員のゆとりある老後の生活資金の確保となっていると思います。また、若手中堅の従業員にとっても、この改定が将来の生活への安心感につながるとの声も聞かれ、会社としても多くの従業員の生産性向上を期待しています。

退職金制度については、従来、60歳に退職一時金を支給していたものを、定年延長に伴い65歳時の支給に変更しました。60歳時点の退職金原資をそのまま据え置き、65歳定年時に支給しています。

従来、60歳から支給していた退職年金制度については、支給開始年齢を60歳から65歳へと変更しましたが、支給方法は10年保証期間付の終身年金を維持することとしました。同業他社の多くが導入している20年確定年金に変更する選択肢もありましたが、経営トップの人材投資に対する考え、当社の長年の企業文化に沿った対応を取りました。

給与テーブルの見直しでは成果給などの変動部分を拡大

次に、65歳定年制度を確実に運用し、メリハリのある人事運用を行うために改定した施策について説明します(シート3)。

シート3: 

まず、年功的要素が強かった給与テーブルを見直しました(A)。固定部分の資格給を縮小する一方、成果給・職位手当といった変動部分を拡大し、成果へのこだわりや管理職登用などへのインセンティブがより働く処遇体系としました。

次に、昇降格要件の明確化・早期化・厳格化を行いました(B)。管理職登用の早期化を図るために管理職に求められる能力認定要件の早期化を図りました。また、今まで高資格に張りついていたシニア層の資格がそのまま保障されることがないよう、デメリット評価を受けた従業員は早期に資格が降格するなど、厳格化も図っています。

管理職ポストの数を適正にコントロールするため、従来よりも定量的評価項目を増やすなど、評価項目・評価基準をより明確化しました(C)。人事評価の明確化・厳格化で、役職登用、役職からの降職をこれまで以上に機動的に実施できるようにしました。

最後のDですが、評価乗率を見直し、成果が反映しやすい処遇を実現し、全社員のモチベーションの向上を図りました。

2017年の制度改定から5年が経過しましたが、従来57歳で特別職員になり、60歳の定年を迎えるまでに退職をしていた従業員が大幅に減少し、継続して前向きに働いてくれる人材が増えました。

課題は適切な役割の付与と納得感のある処遇評価

一方で、制度運営上の課題が2点あります。1点目は、シニア職員に、いかに適切な役割を付与できるかという点です。シニア職員がやりがいを持ち、生産性を落とさないで業務を遂行していくことが重要だと考えています。シニア職員に共通していることは、長い業務経験から対人折衝力や会社全体の俯瞰力が秀でていることです。そうした特徴を生かしつつ、一定の場所で業務が固定化されないよう、できる限り人事ローテーションを行い、シニア層の活性化を図りたいと考えています。

2点目の課題は、適切な処遇評価ができるかという点です。今後数年すると、バブル期入社世代の社員がシニア職員となり、シニア層が大幅に増加します。さまざまな経験を積んできたシニア職員と若手社員にはさまざまなギャップがあります。資格や職位に応じた適切なコンピテンシーを設定し、会社と従業員が、また従業員どうしが納得できるきめ細かい評価制度を運営していく必要があります。

手厚い血液検査を提供し、がんや認知症などを早期発見

最後に65歳定年制度を支える両立支援制度の充実と健康経営の推進について紹介します。本人の傷病と仕事、育児と仕事、親の介護と仕事、の両立支援の充実を図ってきました。特にシニア職員は、自身の傷病や親の介護といった問題を抱える人もおり、引き続き新たな制度の導入や、今ある制度の充実を図る必要があると考えています。

健康経営の推進については、今まで以上に従業員が長い期間、元気に活躍できるよう、従業員の健康増進に向けた取り組みを予防、早期発見、重症化予防の3つの側面から実施しています。特に当社特有の施策として、働き盛りの30歳から55歳までの間、5年ごとに現在がんである可能性と、将来、糖尿病などの生活習慣病になるリスクを血液検査で確認することができるアミノインデックス®リスクスクリーニングを従業員に提供しています。また、55歳から2年ごとに認知症リスクを早期に発見することができるMCIスクリーニング検査という血液検査を提供しています。

病気を早期発見し、重症化を予防する仕組みを整えることで、就業中はもちろんのこと、従業員が定年退職した後の生活も含めてサポートできたらと考えています。多くの従業員の健康増進効果を実感するとともに、健康保険組合の収支改善にも期待しています。

一連の制度改定にあたっては、人材をコストではなく大切な資本と考え、また従業員の多様な価値観を理解することが大切だと考えています。また、制度を全従業員にしっかりと周知し、従業員一人ひとりに沿ったきめ細かい運用を行い、従業員の声を聞きながら適宜制度の見直しを図っていくことが肝要だと考えています。

プロフィール

陶山 浩一朗(すやま・こおいちろう)

太陽生命保険株式会社 人事部長

1997年太陽生命保険株式会社入社。営業拠点の責任者である支社長や企画部、営業部、法務コンプライアンス部の部長を歴任し、2020年3月より現職。内務員等の人事施策全般に携わり、人財投資や健康経営を主に管掌している。

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