事例紹介1 65歳までの定年延長と70歳までの再雇用制度の導入

講演者
藤原 知広
住友電設株式会社 人事部長
フォーラム名
第123回労働政策フォーラム「高齢者の雇用・就業について考える」(2022年12月7日-12日)

2021年4月に65歳定年制と70歳までの再雇用を導入

本日は2021年4月に導入した65歳までの定年制と70歳までの再雇用制度について説明します。3点を中心にお話しします。1点目は65歳定年制実施の狙いです。法により、希望者全員が65歳まで雇用となっているなかで、処遇が変わらなければ定年延長を実施する意味がありません。当社では60歳以降も昇進・昇給が可能な65歳まで連続性のある処遇体系としましたが、その狙いは60歳以降も全力で働ける体制の構築にあります。

2点目は役職定年についてです。次世代マネジメント層育成の観点とのバランスは必要ですが、役職者についても60歳以降も高いパフォーマンスを継続してもらう必要があると考えます。そのため、60歳での役職定年としながら、部長層に限って、承認を受けたうえで、最長64歳までの役職継続を認めることにしました。

3点目は70歳までの再雇用制度における再雇用基準についてです。希望者全員を雇用することにはならない65歳以降の再雇用基準について説明します。

経験の蓄積が利益に直結し、年齢を重ねるとパフォーマンスは向上する

当社が60歳以降も全力で働いてもらいたいと考える背景を説明します。当社では、工事の実作業は下請けの協力会社にお願いしており、当社の社員は現場代理人として受注した現場の管理業務を行っています。

極めて話を単純化すると、現場代理人の経験の蓄積による管理ポイント、勘所の習得が、会社の利益に直結します。年齢を重ねて体力が衰えたとしても、むしろそのパフォーマンスは上がっていく可能性が高く、ベテラン社員にパフォーマンスを発揮してもらうことが非常に重要になります。

本日のテーマである定年延長の話を考えるうえでの大前提として、実際のパフォーマンスが年齢とともにどう変化するかという視点が重要で、パフォーマンスの変化と処遇がリンクしなければいけないと考えています。

この表(シート1)は、2006年以降の高年齢者雇用安定法の改正と、当社の対応の変遷を示したものです。

当社の場合、65歳までの希望者全員雇用については、ほぼ100%の社員が希望し、65歳まで継続するのが一般的でした。2014年以降、現場代理人に限定して、個別契約により65歳以上の雇用を行っていました。これは2014年の段階で67歳までの雇用期限でスタートしましたが、2017年には70歳まで延長しました。

改正法施行に加え、中堅技術者不足も定年延長の契機に

今回65歳までの定年延長を行うことになった1つの契機は、2021年4月施行の高年齢者雇用安定法の改正でした。制度変更時点でも65~70歳の社員はいましたが、これらの人は規定によらない個別契約であったため、法改正に伴う努力義務を満たしたとは認められず、制度の整備が必要でした。

また、従来もほぼすべての社員が再雇用を希望し、現役世代の70%程度の報酬で勤務していたので、65歳定年とする場合、60~65歳の給与水準を引き上げる必要がありました。

2点目の課題は、会社の人員構成上の問題で、中堅技術者が少ないことです。現場代理人の人数は、当社の施工力とイコールで、全社の受注額や利益に直結します。ベテラン層に活躍してもらうことで、この中間層の不足を埋めることができます。

3点目の課題は、同一労働同一賃金の観点からの問題意識です。60歳以降もそれまでと同じレベルの仕事をお願いしながら給与を下げては、同一労働同一賃金上の問題があり、従業員の納得性が得られません。

役職定年は60歳だが部長クラスは64歳まで役職継続可能

制度の具体的な中身について説明します。まず、65歳定年制の全体像です。役職定年は60歳に設定するものの、部長クラスに限り、同レベルのパフォーマンスを発揮してもらうため、一定の条件の下、64歳までの役職継続を可能にすることとしました。ただし、役職の64歳までの継続は、若手の登用を阻害しないよう、認定基準として地域性、業務の特性という制限をつけました。一方で、後継者の育成は並行して進めるべき必須の課題と考えています。

続いて給与についてです。当社の定年延長の狙いは、60歳以降も全力で働ける枠組みの構築にあり、賃金枠組みの設定は、制度の根幹をなす極めて重要なことでした。当社は従来から65歳までの賃金カーブを寝かせるような調整はしていません(シート2)。

今回、60歳以降を別の職種や職階などの枠組みとせず、賃金カーブを寝かせることなく、65歳まで延長する方式を取りました。さらに、60歳以降も昇進が可能としています。

給与の枠組みを検討した際に、従来の60歳の給与到達レベルを、改定後の65歳の到達レベルにしたらどうかという意見や、この給与改善がコストアップではないかという議論もありましたが、最終的には、経営陣が「60歳以上の社員が全力で働いて施工力に寄与すれば、給与のアップは利益に直結し、単純なコストアップではない」と判断し、給与を下げない枠組みとすることができました。

60~64歳の再雇用者のうち75%が正社員で再任用

続いて60~64歳の再雇用者の正社員への再任用についてです(シート3)。

(2)に該当する場合を除いて、正社員に再任用しました。このうち、①、④のように本人が再任用による役割の復活を希望しない場合は対象外としましたが、該当者はいませんでした。ポイントは⑤です。結果として60~64歳のシニアエキスパート、再雇用者のうち75%が正社員に再任用になりました。

再任用後の処遇は、基本的に職階も給与も60歳時点に戻し、ほぼ60歳時点の年収水準に戻りました。退職金はすでに支給済みで、定年延長当初は60歳以降の元金の増額がないので対象外です。

一方、社員として再任用にならなかった場合の処遇は、従来どおりシニアエキスパート社員として雇用を継続し、65歳まで1年ごとに契約を更新していきます。

65~70歳の再雇用は最終的には評価結果を基準に

続いて、65~70歳の再雇用制度について説明します。当社では、従来も現場代理人限定で70歳までの再雇用者が約20人いましたので、法改正に際して70歳までの再雇用制度で対応することに社内で異論はありませんでした。

再雇用者決定の基準をどう設定するかが重要でしたが、最終的には、過去の評価結果を基準に対象者を限定することとしました。シート4が65~70歳の再雇用制度の全体像です。

改正法の基準に適合するためには、再雇用の基準を明確にして社員に公開する必要があります。そのため、再雇用基準として規程の中に記載する(1)~(4)の全てを満たすことを再雇用条件としています。

再雇用基準の(3)については、実際には一定の高い具体的な評語を明示しています。一方で、この評価基準に合致しない場合でも、事業上の必要性があれば、会社が認めたものとして追加できるようにしており、最初にかなり対象を絞ったうえで部門ニーズにより追加ができる枠組みとしています。

65歳以降の賃金水準は現役時の7割程度

65~70歳の給与については、前出のシート2のとおり、定年時の職階ごとに現役世代の55~80%の水準に設定した固定金額テーブルに、個々人の役割・責任に応じて格付けを行います。結果として、平均値は現役時代の賃金の70%程度になります。

シート5が再雇用前の職級(職階)ごとの給与格付けのイメージです。

職階ごとに4段階の給与レンジを設けていますが、これは右上の枠にあるa3~bの業務レベルにリンクしています。実際には、a2は給与水準で現役時代の75%程度。a1は給与水準で65%程度。この2パターンが中心で結果的に平均値は70%程度になります。このような枠組みにすることで、定年前の報酬を前提とせずに、再雇用後に行う役割と報酬との間に強いリンクを持たせることが可能となります。

制度変更は成功と社内の受け止め

制度変更の反響については、当事者である高齢の従業員からも、上司の部門長などからも、高齢者のモチベーションが上がり、制度変更は成功だったと社内的に受け止められています。

一方で、今後の課題として、賃金については、賃金カーブは維持する前提でよりパフォーマンスに合った処遇ができるように、管理職の賃金評価制度の改定を計画しています。退職金については、今後の退職金増額局面では60~65歳を対象とした新拠出を検討したいと考えています。役職定年や70歳以上の雇用については、社内でも議論のあるところで、今後も検討を継続していく予定です。

プロフィール

藤原 知広(ふじわら・ともひろ)

住友電設株式会社 人事部長

1991年、住友電気工業株式会社入社。国内各拠点および中国(上海)で人事業務に従事。中国では、住友電工中華圏グループ会社約80社のローカル幹部人材の育成から実践活動まで一貫した継続性のある枠組みの構築および活動支援に注力。2019年から現職。現職では、働き方改革、および、ダイバシティ&インクルージョンの推進を重要課題として取り組んでいる。

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