事例紹介3 公的機関等におけるキャリアコンサルティングの現場で考えること

講演者
大泉 多美子
国家資格キャリアコンサルタント、公認心理師、臨床心理士
フォーラム名
第122回労働政策フォーラム「働く人のキャリア支援を考える─これからのキャリアコンサルティングはどうあるべきか」(2022年9月12日)

私は東京労働局とハローワーク職員として18年間勤務した後、家庭の事情で山形に移り、ハローワークプラザ山形で非常勤職員として働き、その後、私自身のキャリアを模索した結果、大学院に入り、臨床心理士の資格を取りました。

現在はフリーランスでキャリアコンサルタントと臨床心理士として、新卒応援ハローワーク、ジョブカフェ、サポートステーション、大学、高校、企業などで日々クライアントと向き合う仕事をしています。なお、今日の話はあくまで私の個人的な見解ということになります。

私が対応しているクライアントは様々で、大きく分けて、①失業中の求職者②在職中の求職者(転職希望)③無業者④学生(大学生・高校生)⑤在職者の職場での悩み──の5種類となります。

ハローワークでの対応は一回一回が勝負

まず、失業中の求職者です。キャリアコンサルタントは企業内が最も多いとのお話がありましたが、その次に多いのは需給調整機関です。ハローワーク等で失業中の求職者に会うことが多いのですが、公的機関における相談は、実は一期一会ということが結構多いです。ハローワークでも予約制の相談が導入されていますが、結局1回しか来ないケースもあり、他の現場に比べると一回一回が勝負という状況になります。

失業中で、どうしても生活の安定が先に立ち、なかなか中長期のキャリアの話をする機会は少なくなります。また、選択肢が多過ぎても少な過ぎてもよくないです。私は東京と山形の2カ所のハローワークで働いた経験がありますが、東京の場合は求人の選択肢が多すぎて選べないという人をたくさん見てきました。逆に地方の場合は、山形市の県庁所在地クラスであれば求人が少な過ぎたりはしないのですが、郡部や町に行くと、求人がとても少なく選べなくて辛い、ということになります。

私はよく、仕事探しは住まい探しと似ている、マイナス思考や減点主義では何か気に入らないとダメとなってしまうので、優先順位が大切だと伝えています。

次に在職中の求職者で転職希望の人です。キャリアプランやキャリア形成を考えるには、やはり可能性の幅が必要で、希望する職種に変わりたいと思っても求人が無ければ移れない。特に地方の場合は職種自体も少なく、新卒しか採らない企業もあります。地方ではキャリアプランを考えることはできますが、考えた結果を行動に移すことができるかと言われると、なかなか難しいと思います。

また、転職希望で来ても転職を勧めないケースも結構あります。転職したほうがいい結果になると見通せないケースが意外と多いです。転職希望でも、実は職場内の人間関係が問題で職場から離れたい、と転職相談ではなく、悩みの問題というケースも割とあります。

無業者の人はまずはできることから始める

無業者の人については、1年以上働いていないというイメージですが、引きこもりの人やいろんなカテゴリーの人がいます。こういう人はまず、生活リズムと体力の確認から始めます。どんな仕事がしたいのか以前に、働けるのかどうかから始めるという感じです。無業者の人は失われた年数を取り戻そうという気持ちが強く、一発逆転を希望する人が多いです。しかし、企業側からするといきなり正社員雇用はなかなか難しいです。まずはスモールステップから、やりたいことではなくできることから始めよう、という話をよくします。

問題になるのがブランク期間で、面接に行くと当然聞かれるわけですが、説明ができないから面接に行くことができず、ますます無職期間が長くなる、と悪循環になっています。ブランク期間はもう過去のことで変えられないので、過去は過去として、これからどう働いていきたいのかを一生懸命説明して、分かってくれる企業を探すのがいいのではないかと伝えています。

やりたいことがないといけないとプレッシャーを受ける大学生

大学生や高校生にも会う機会が多いのですが、大学生は特にやりたいことがないといけないというプレッシャーをとても感じ、これは少しキャリア教育の弊害ではないかと思っています。今の学生は学校のキャリア教育でやりたいことを見つけようと言われるのですが、そんなに皆さん、やりたいことがあるわけではないのです。

実際に私達自身、高校生や大学生のときにやりたいことがあったのかと言われたら、正直あまりないわけで、学生にも、やりたいことがなくてもいいんだよと言うと、すごくほっとした顔をします。やりたいことがなくてもいいから、できることは何だろうとか、極端な話、他の条件で選んでもいいんだよ、と話をしています。

都市部と地方の就活は全然違う

私はいま地方にいるので、本当にこれを強く主張したいのですが、都市部と地方の就活は、全然違います。

大学生の場合は、就職希望地域によってアドバイスを変えています。高校生は昨今、コロナの影響はあるものの、山形でも求人はたくさんあります。しかし選択肢の幅が狭く、同時に複数応募できないことが多く、まず1つに絞らなくてはいけない。1つ不採用になるごとにますます選択肢が狭まり、かなり窮屈な就活をしていて、なかなか大変だと感じます。

また、在職者の職場の悩みを相談できる場が限られていて、どこに行ったらいいか分からない。在職者専門窓口などはなく、結局会社を辞めてハローワークやジョブカフェに相談に来るのですが、辞める前に来てくれれば辞めずにすんだのに、と思うケースも結構あります。今はオンライン相談などもありますが、在職者が例えば土日や夜に相談できるような公的な仕組みがもっと拡充されれば、と思います。

キャリアとメンタルヘルスは歴史の違いが大きい

次にキャリアコンサルティングを取り巻く問題点について、私なりに意識的に考えている以下の3点、①キャリアとメンタルヘルス②都市部と地方の違い③地域・世代・職種によるギャップ──について話したいと思います。

まず1つ目が、キャリアとメンタルヘルスです。私はハローワーク職員でしたので、最初にキャリアコンサルタントを取得した後に臨床心理士を取って、今は両方やっていますが、やはりメンタルヘルスとの歴史の違い、時系列の違いをすごく感じています。

メンタルヘルスで2000年に心の健康づくりのための指針が出た頃、キャリアではやっと、「民間資格のキャリアコンサルタント5万人養成」というときでした。2015年には法律でストレスチェックが制度化され、一定規模以上の企業に義務づけられましたが、キャリアコンサルタントはようやく国家資格ができた段階です。メンタルヘルスに比べるとまだまだという感じで、その先を走っているメンタルヘルスですら中小零細企業では取り組みが進んでおらず、キャリアコンサルティングが企業の中に根づいていくのは、ずっと先のことではないかと思ったりもします。

ただ、実際にキャリアとメンタルというのは、キャリアコンサルタントの現場での相談のときにメンタルの話になることもあれば、臨床心理士の現場でキャリアの話になることもあって、ボーダーレスであり、切り離せないです。どの現場であっても自分がとにかくそのクライアントにお役に立てるようにと対応をしています。

都市部と地方の施策は2本立てでもよいのでは

2つ目の都市部と地方の違いについてですが、私は東京から山形に移ったので、本当に痛感します。まず、求人の量が全く違い、職業訓練や民間の教育機関の学び直しの選択も、幅、量含めて全然違います。

公共職業訓練に関しても、やはり都道府県財政とリンクしていますので、なかなか山形だと職業訓練の種類も回数も少なく、ハローワークの施策も「帯に短し、たすきに長し」で、国として同じ1つの施策をしようとしても、地方では人も足りないし、インフラもない。私見ですが、施策が都市部と地方で2本立てということがあってもいいのかなと思ったりします。

また、情報はやはり圧倒的に都市部向けに偏りがちです。就職活動の仕方、応募書類の書き方1つにしても地方と都市部では求められるものが全然違うので、都市部向けの情報を参考に地方で就職活動をしても、なかなかうまくいかないことがあります。どうしてもキャリアコンサルタントや他の有識者は東京など都市部に集まり、情報発信自体が都市部に集中してしまうのでやむを得ないとは思いますが、気になるところです。

オンライン会議システム、リモートワーク、DXは、地方では本当に普及していません。今回のコロナ禍でも、私は山形でリモートワークをしている人をほとんど知らないです。ただ、大学生だけは、地方でもオンライン授業が確実に普及しており、ZoomもチャットもSlackも使う。一方、社会人に関しては、オンラインはZoomすら使ったことのない人もかなりいます。

ジョブ型雇用については、地方で日々求職者に会うなかで、ジョブ型雇用のような働き方ができる人がどれくらいいるのかと考えると、やはり、一定のスキルを持った一部の人たちのものなのかな、と個人としては思ってしまうところです。

地方では誰にとってもキャリアコンサルティングが身近になるのはもっと先か

最後に、政策が浸透するにはかなり時間がかかるので、キャリアコンサルティング、キャリア支援が誰にとっても身近になる時代というのは、まだ先の話なのかなと思っています。また、DXの進展は、本来は地方と都市部の格差をなくすことのできる、かなり有効な手段であるはずですが、現実には意識の差もあり、地方では変わっていない気がしています。難しい問題ですが、意識改革を進めることが必要だと思っています。

これからは、誰もが自分のキャリアについて考え、それが実現できる社会を将来的に目指していくことになるので、キャリアの伴走者である私たちキャリアコンサルタントの役割は大きくなっていくことをあらためて自覚したいと思いますし、私自身もさらに研鑽し、資質向上に努めていきたいと思っています。

プロフィール

大泉 多美子(おおいずみ・たみこ)

国家資格キャリアコンサルタント、公認心理師、臨床心理士

和歌山大学教育学部卒業。1989年から2007年まで東京労働局及び都内ハローワークで職員として勤務。2007年から2009年までハローワークプラザやまがたで非常勤職員として勤務。2011年3月山形大学大学院地域教育文化研究科心理学専攻修了。修士(臨床心理学)。2012年臨床心理士登録。2016年国家資格キャリアコンサルタント登録。2019年公認心理師登録。現在はフリーランスのキャリアコンサルタント及び臨床心理士として、新卒応援ハローワーク、ジョブカフェ、サポートステーション、大学、高等学校などでカウンセラー及びセミナー講師として活動している。※キャリアコンサルティング協議会マンスリーコラム「私のプランド・ハップンスタンス」新しいウィンドウ2022年6月掲載

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