事例紹介1 グッドキャリア企業アワード2020大賞受賞の取り組みと企業の視点から──これからのキャリアコンサルティングについて

TISインテックグループはIT企業で、グループ全体では2万人を超える組織です。当社がキャリア形成を重要なテーマとした背景を紹介します。

これからの変化の大きな時代では、「自ら成長目標を持つ」「変化に適応する」ことが必要です。組織視点では、変化のなかで今までにないビジネスに取り組むため、新しい能力をもった人材が欲しい。一方、個人も様々な変化を感じており、いろいろな技術があるのだから、新しいことを試したいと考える。このように課題意識、問題意識が変わってきたと感じています。それをいかにマッチさせていくか、組織視点でも個人視点でも大きなテーマになっています。

社員、企業、社会がWin-Win-Winになるように体制を構築

社員一人ひとりの個人、そして企業としてのTIS、そして社会の3者がいかにWin-Win-Winになれるか。これをもとに人事およびキャリアコンサルティングチーム総がかりで、いろいろな仕組み・体制を作り上げました。シンプルに表すと、4つの柱になると思っています。

キャリアをしっかり学ぶ場を設ける「キャリア研修体系の確立」、上司と継続的に対話する機会を持つ「コミュニケーション強化」、学びの場を増やし新しいことに挑戦する場を増やしていく「成長機会拡充」、こうして身につけた新しい経験や新しいスキルを、もっと社内で光らせて活用していく「活躍機会創出」です。これらを機能的に組み合わせた仕組みを、現在もブラッシュアップさせています。

また、70歳まで正社員と同様の処遇で活躍できる再雇用制度を設けています。磨き抜いたスキルは会社の中で長く評価されますし、個人としても満足のいく働き方ができる。そんなことも1つのゴールにしてもらえればと思っています。

この仕組みをもう少し詳しく表したものがシートです。まず、キャリアデザイン研修を節目年齢ごとに実施しています。振り返りや、自分の価値観を見出すことなど、オーソドックスな内容ですが、年代ごとに取り組むべきテーマを、少しずつメッセージを変えて考えてもらう場を設けています。

定期的にキャリアを考える仕組みを1on1で下支え

定期的にキャリアを考える仕組みもあります。一人ひとりが自分のキャリアプランを毎年考えていく。まず自らのキャリアの棚卸しを行い、考える機会を持つ。そして上司と面談し、組織全体で育成の中できちんと考えて、人事と共有する。人事は結果を取りまとめて、組織に「他の組織に比べると、あなたの組織にはこういう特徴がありますよ」と伝えます。どうしたら組織全体が強くなるかを組織開発にも役立つような形で考えてもらい、個人と組織がキャリアプランを共有していく仕組みをつくっています。

その下支えになっているのが、日々のコミュニケーションの場、1on1を通じたコミュニケーションで、非常に大事にしています。現場の上司が、コーチング、成長支援という形でキャリアを支える役割をしっかりと担ってほしい。ただ、そこにうまくはまりきらない問題には、キャリアコンサルタントが面談に応じます。現場の上司とキャリアコンサルタントで、役割分担をしています。

そして、そこから派生した新しい取り組みを、シートの右側にあるとおり、3点にまとめています。まず、「学びの場づくり」です。コロナ禍のけがの功名で、短期間でいろんな研修をオンライン化することができ、それに伴って学びの場がつくりやすくなりました。

次に、「多様な業務経験の機会創出」。当社のようなIT企業はなかなかローテーションが難しいのですが、いろいろな経験が積める機会を提供するため、若手に「10年で3業務」という合言葉で何か役割を変える、担当する業務を変えるなど、工夫を凝らしています。

最後が「人材情報管理と活用」です。情報を集めて、組織と共有していく。個人の1on1や、社員一人ひとりを上司が議論していくタレントレビューを実施し、社員がもっと活躍できる場を与えられるよう、組織としてしっかり取り組んでいく。こういった取り組みが徐々に定着しつつあり、まだ道半ばですが、わが社の大きな武器となりつつあると感じています。

川下り型のキャリアを歩む社員でも不安にさせない

キャリア形成支援の研修効果について、具体的に2例ほど紹介します。まずは30歳向け研修の例です。

キャリア形成には、「山登り型」と「川下り型」があります。「川下り型」でキャリアを歩んでいる人は、「自分はこれで成長できているのだろうか」と漠然と不安を抱きやすくなります。それを研修の中で、「川下り型で学べることってありますよ」と知識として伝え、経験値をフィードバックするインタビューを行うと、成長を実感し、自信を持つことができます。一人ひとりの面談をしなければ、という以前に、実はささやかな知識だけで社員のキャリア意識が変わることもあると実感しています。

もう1つの例は、40歳向けの研修です。"思いがけないこと"を5パターンほど示して、「もしこれが起こったらあなたはどうしますか」と考えてもらいます。変化に慣れ、いろいろな経験を積んでいる40歳でも、「実は考えていなかったことを痛感した」「1人ではたどり着けない気づきがあった」などの感想がありました。こうした機会は大きな財産になるのではと思っています。

窓口設置初期は面談以外でもキャリアの棚卸しを支援

面談の効果については、相談窓口を設けた当初の話を紹介します。キャリアについての取り組みを始めたばかりで、キャリアプランシートを描きましょうといっても「描けない。どうすればいいんでしょう」「自分のこれからの居場所について選択肢を探したい」など、漠然とした相談が多くありました。そのため、面談以外でも棚卸しをきちんと支援しようと、主に棚卸しに注力しフィードバックを行いました。

その結果、アンケートでは、「これでいいんだ」「上司と話し合うべきことが分かった」「キャリアプランをもう一度見直してブラッシュアップした」などの意見が寄せられ、キャリアを考える最初の一歩のところで支援ができたのかなと思っています。

「変化」「多様化」する時代に対応してブラッシュアップを

当社は2023年度から、新しい人事制度を導入します。大きな特徴は、これからの人事の仕組みの中でよく言われる Must-Will-Can、この3つの輪の広がりや重なりを意識して、きちんと成長を見ていこうと全社に発信しているところです。

「変化」や「多様化」が進み、どのように学んで、どうすれば新しい仕事や経験が積めるのか、なかなかお手本となる先輩探しが難しくなってきています。キャリコンのこれからについては、企業内キャリコンという強みを生かして、今どんな変化がどう起こっていて、社員一人ひとりにそれがどんな影響を与えそうか、見当をつけていけることがメリットになるかと思っています。

人事の関係者や有識者とも連携しながら、これがどういったことで教育にどういう影響を与えるのか、しっかりと考え直してメッセージを整えていく必要があります。相談内容はさらに多様化して難しくなってくると思いますので、キャリコンとしてブラッシュアップするとともに、人事や各組織の担当者とお互いの情報連携もしっかり行っていければと考えています。

プロフィール

田口 愛味子(たぐち・えみこ)

TIS株式会社 人事本部人事部/人材戦略部主査

TIS株式会社入社、SE経験後、人事部に異動し育成企画を担当。3社合併後の教育体系構築、タレントマネジメント、キャリア形成支援を推進。人材戦略~人材育成~キャリア形成支援を一気通貫して手掛ける。キャリアコンサルティング1級技能士、キャリアカウンセリング協会認定スーパーバイザー、一般社団法人東京都中小企業診断士協会 中央支部執行委員。キャリア支援や中小企業診断士で兼業しパラレルキャリアを実践。

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