基調講演 キャリアコンサルタント・キャリアコンサルティングと関連施策

キャリアコンサルタント・キャリアコンサルティングの現状

キャリアコンサルタントは国家資格として2016年4月に新たにスタート

今日は、キャリアコンサルタント・キャリアコンサルティングの現状、関連施策、今後の施策の方向性など3点についてお話しします。

キャリアコンサルタントは、2016年4月に国家資格として新たにスタートしました。キャリアコンサルタントとは、職業能力開発促進法に規定され、職業選択、職業生活設計、職業能力開発に関する相談に応じ、助言・指導を行う専門家で、名称独占の国家資格として位置付けられています。

5年ごとの更新制で、最新の労働市場に関する知識や技能を確保し、個人情報や相談内容の守秘義務等を課すことで、安心して相談できる仕組みとしています。

登録者数は2022年3月末で6万人を超え、少しずつ増加しています。今後いかに登録者を増やし、同時に専門性、質の部分を高めていくかを考えていく必要があると思っています。

企業ではエンゲージメント強化、需給調整機関ではガイダンス的な機能など

キャリアコンサルタントは様々な領域で活動しており、有資格者が最も多く活動しているのは企業です。そのほかハローワークなどの需給調整機関、大学などの教育機関、最近は地域の就労支援機関や保健福祉機関、医療機関など、活動領域の幅が広がってきているのが大きな特徴です。

企業の中ではエンゲージメントの強化や働きがいを高める役割を果たしています。需給調整機関や教育機関では、よりよい就職に結びつけるガイダンス的な機能を果たしており、内部労働市場、外部労働市場で求められる役割は違っています。

最近の施策では、この企業領域、内部労働市場におけるキャリアコンサルタントの活躍の場に目を向けることが多くなっています。

課題は中小企業と非正規雇用労働者にも仕組みを届けること

事業所におけるキャリアコンサルティングの導入状況をみると、約4割の事業所がキャリアコンサルティングの仕組みを導入しています(シート1)。

事業所の規模が大きいほど導入割合が高く、規模の小さい事業所の導入は、まだまだ十分ではありません。また、非正規雇用の労働者は、正社員ほどには、キャリアコンサルティングを行う仕組みがありません。中小企業や非正規雇用の労働者に、いかにキャリアコンサルティングを行う仕組みを届けるのかが、課題だと思っています。

事業主がキャリアコンサルティングを行う目的をみると、労働者の仕事に対する意識を高める、あるいは職場の活性化を図る、労働者の自己啓発を促す、そして、労働者の希望をふまえ人事管理制度を的確に運用するため、という回答が多くなっています。

「学びへの取組姿勢が学びの効果や仕事上の成果に与える影響」をみると、「会社や上司の指示で(企業)」、「自ら進んで(自ら)」の両者の関与で学んだ労働者は、その学びの行動の効果や、キャリアの見通し、仕事満足度などのいずれも、スコアが高くなっています(シート2)。労使の協働で効果的な学びや主体的なキャリア形成につながる、というデータです。

人材開発政策の方向性とキャリアコンサルタントの役割

職業能力開発基本計画にもキャリアコンサルティングの推進が盛り込まれている

まず、第11次の職業能力開発基本計画が、2021年度からの5年間の計画として取りまとめられ、キャリアコンサルティングの推進や、セルフ・キャリアドックの導入支援、キャリアコンサルタントの専門性の向上、ネットワークづくりの促進など、キャリア形成支援に関する施策がさまざま盛り込まれています。こうした方針の中で、キャリア形成支援、キャリアコンサルティングの推進を図っていくことになります。

職業能力開発基本計画にキャリアコンサルティングが出てきたのは、第7次計画になります。当時から、労働市場のインフラのためにキャリアコンサルティングの制度をつくることを進めてきましたが、それから約20年経って、こうした考え方は引き続き残って、少しずつ制度・施策を強化しています。

地域ごとに協議会をつくり、キャリアコンサルティングを促進する

労働政策審議会人材開発分科会が人材開発やキャリア形成の施策を議論いただく場ですが、2021年12月に報告がまとまりました(シート3)。

主な内容はこの左側の「労働市場全体における人材開発の促進」で、地域ごとに協議会をつくり、その中で訓練受講者に対するキャリアコンサルティングを促進する、また、企業の中でも労働者の節目ごとのキャリアコンサルティングを実施する、などと盛り込まれています。

右側は、企業内での人材開発の促進で、そのために学び直し促進ガイドラインを取りまとめる必要があると述べています。労使が取り組むべき事項の中にキャリアコンサルティングも入っていますし、それに関連する国等の支援策などを含めた体系的なガイドラインを策定する必要がある、と盛り込まれました。

この報告にもとづき、職業能力開発促進法の改正、雇用保険法の改正が行われるとともに、学び直しの促進ガイドラインが策定されました。

事業主のキャリアコンサルティングの機会確保の責務等を明確化

法改正では地域のニーズに対応した職業訓練の推進を盛り込み、キャリアコンサルティングの推進にかかる事業主・国等の責務規定を整備することにしました。具体的にはキャリアコンサルティングの機会を確保するというのが、従来からの事業主の責務でしたが、もう少し踏み込んで、職業能力の開発・向上の各段階・節目や労働者の求めに応じて、キャリアコンサルティングの機会を確保することをより明確にしました。これらの関連法は2022年4月に施行されており、現在、このようなフォーラムや説明会、セミナーなどでも周知しているところです。

学び・学び直しガイドラインとして企業労使が取り組むべき具体的内容等を体系的に示す

今日の話の中心になりますが、「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」をぜひ知っておいていただきたいと思っています。2022年6月29日に策定されました。今、人への投資が政策的にも課題で、関心も高まっていますが、このガイドラインは、労使双方の代表を含む公労使が参画する審議会分科会の検討審議を経て、公的に初めて、職場における学び・学び直し促進に向け、企業労使が取り組むべき事項の具体的内容や実践論の全体像を体系的に示したものになっています(シート4)。

内容は、変化の激しい時代に労働者が自律的・主体的・継続的に学び・学び直しをすることが重要であるということや、その際には労使が協働する必要があることを強調しています。

基本的な考え方、労使が取り組むべき事項、公的な支援策で構成されており、特に労使が取り組むべき事項では、留意点や推奨される取り組み例を具体的に提示しています。その際に、経営者、現場のリーダーの役割が重要であることや、キャリアコンサルタントの役割を強調する内容となっています。

特に、キャリアコンサルタントの役割として、シート4の「Ⅱ 労使が取り組むべき事項」の2「能力・スキル等の明確化、学び・学び直しの方向性・目標の共有」では、定期的・継続的な助言、フォロー、サポートという面で、キャリアコンサルタントが活用できる余地があります。企業の中で、労働者からの話を人事部門や経営者の方につなぐ橋渡し的な役割を担うとともに、そういった仕組みづくりを働きかけていくことも、キャリアコンサルタントに求められる役割だと思っています。

関連施策として、厚労省だけでなく、文部科学省や経済産業省、中小企業庁の取り組みなども紹介していますので、ぜひこのガイドラインをご覧ください。

今後の労働市場政策の方向性でもキャリアコンサルタントの活用が盛り込まれる

2022年7月に「雇用政策研究会」の議論の整理が公表されています。特にコロナ禍における労働市場を取り巻く新たな環境変化のなかで、今後の政策の具体的方向性についての議論が整理されました。不確実性に強いしなやかな労働市場をつくるということで、4つの仕組みの方向性についてまとめられていますが、その中で、キャリアコンサルタントの活用にも触れられています。

具体的には、▽企業の中でのエンゲージメントにつながるようなキャリアコンサルタントの活用▽外部労働市場、内部労働市場ともに自律的なキャリア形成を支援するためのキャリアコンサルタントの育成▽外部労働市場でのマッチング機能向上の観点からキャリアコンサルティングを行っていくこと──などが盛り込まれています。企業内だけでなく、企業の外、外部労働市場におけるキャリアコンサルティングも重要になってくるという方向性が示されていますので、それに合わせた施策を展開していく必要があると思っています。

また、2022年版労働経済白書でもキャリア形成支援を大きなテーマとして取り上げ、キャリアコンサルティングの一定の効果についても取りまとめられていますので、ご覧いただければと思います。

キャリアコンサルティング関連施策

関連施策としてキャリア形成サポートセンター事業やセルフ・キャリアドックなどを展開

2021年6月に取りまとめられた「働く環境の変化に対応できるキャリアコンサルタントに関する報告書」は、キャリアコンサルティング関連施策について、今後の方向性を網羅的にまとめています。今後は、活動領域別など様々な観点での深掘りが必要になってくると考えており、議論を続けたいと思っています。

関連施策を個別にみていくと、労働者がキャリアプランの再設計をすることや、企業内で定期的にキャリアコンサルティングを受ける仕組みの導入支援をするため、「キャリア形成サポートセンター事業」を展開し、2022年度は全国19カ所に地域拠点を設けて運営をしています。

「セルフ・キャリアドック」などの企業支援とあわせて取り組んでおり、2023年度は少し「学び・学び直しの支援」の機能も追加、拡充していきたいと考えています。セルフ・キャリアドックという個別相談と研修を組み合わせた仕組みをつくっていくなかで、キャリアコンサルタントの役割がますます重要になると思いますので、こういう仕組みを企業内で広げていければと思います。

また、キャリアコンサルタント向けの研修をオンラインで実施しています。これまで訓練対応向け、若者応援、IT分野といった研修を行い、2021年度は中高年齢者や外国人支援のための研修を新たに追加・拡充しました。2022年度は、育児等と仕事の両立支援に関する研修を開発している段階です。

さらに、グッドキャリア企業として、キャリア形成支援に取り組む好事例を募集して表彰し、世の中に発信していく事業を実施しています。ジョブ・カードをオンライン上で作成、登録、更新できる新たなシステムの開発も行っており、2022年秋ごろに運用を開始できればと考えています(※2022年10月から提供開始されている)。

課題は需給調整機関や教育機関への取り組みの拡大

近年、企業の中でのキャリアコンサルティング、キャリアコンサルタントの活用・活躍を中心に施策を進めてきましたが、あらためて労働市場全体で、需給調整機関や教育機関を含めて、どのように広く関わっていけるかが今後の大事な視点だと思っています。私が所属する「人材開発統括官」という組織は、需給調整機関や学校・教育機関を直接担当している部署ではないので、そういった機関にいかに働きかけて取り組みを広げていけるかが課題と考えています。

認知度を上げてキャリアコンサルタントが様々な領域で活躍できる環境をつくっていく、企業の中でキャリア形成支援を進めていく、そして、労働者が将来の見通しを持って安心して働くことができる、そういった環境づくりに少しでも役に立てればと思っています。

プロフィール

國分 一行(こくぶん・かずゆき)

厚生労働省 人材開発統括官キャリア形成支援室長

1993年4月労働省(当時)入省(心理職)。2021年7月から現職(キャリアコンサルティングやジョブ・カード制度などの企画立案・制度運用を担当)。キャリア形成支援に関しては2006年4月~2008年3月にも担当。これまで厚生労働省で、ハローワークサービスの推進、職業訓練受講者の支援、若年者・新規学卒者の就職支援等の業務を経験。その他、在韓国日本大使館、秋田労働局、広島労働局、高齢・障害・求職者雇用支援機構でも勤務。

GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。