事例紹介3 ホワイトカラー正社員人材紹介の現場から~「高い年収を維持した転職ができる」社会の拡大

講演者
黒澤 敏浩
株式会社ジェイ エイ シー リクルートメント 事業推進部 事業推進チーム プリンシパルアナリスト
フォーラム名
第121回労働政策フォーラム「転職と中途採用について考える─キャリア採用の取組を中心に」(2022年7月22日-26日)

私は大学卒業後、ホワイトカラー正社員の紹介を行っているジェイ エイ シー リクルートメントに入社して20年以上、中途採用の現場の動向の分析を担当してきました。本日お話する内容は、あくまで私個人の見解になります。

まず、当社でどういった人材紹介をしているのかについて、お話しします。全体の約7割が35歳以上の転職で、35歳~54歳あたりのミドル層、職種は技術系から営業系、管理部門まで、幅広い範囲でホワイトカラーの正社員を扱っています。

どういった職種や業種の方がミドル層で転職しているのか、というと、電気・機械・化学の、いわゆる技術系のメーカーや、消費財・サービス業を含む広い分野で、実績が拡大しています(シート1)。特に、IT分野は15年間で7倍と伸びが顕著です。

シート2は、人材紹介大手3社の41歳以上の転職紹介実績の集計ですが、右肩上がりに大きく伸びていて、リーマンショック前の2007年と2021年を比較すると、4.4倍に増えています。

日本は高い給与を維持した転職が難しい

私が強調したいのは、日本の正社員の転職・中途採用の大きな弱点は、ある程度の給与レベルまで上がった人が、その給与をそれなりに維持したまま転職することが非常に難しいということです。

実際の問題として、給与が下がってもいいのであれば、実は転職できる。しかし、全体の健全な労働市場という観点から、年収がそれなりに高くなった人でも、それなりに維持したまま転職ができる状況になっていくことがとても重要だと考えています。

当社の実績の推移をみると、ミドル層35歳~54歳の、転職後の年収が800万円以上での転職数は、ここ8年間で4.3倍とシャープに伸びています。増加の要因として、当社が最も大きいと考えているのは、企業の事業変革の加速です。これまでになかった技術、業態、市場、あるいは海外への挑戦をスピーディにやりたいと、時間を買うために経験者を採用する。こういう流れが加速したことが背景にあります。

もちろん人材が売手市場化したことがありますが、もう1つ、いわゆる団塊ジュニア世代がミドル世代の年齢層になってきて、人を採用しようとしたときのボリュームゾーンがそもそもミドル世代に移ってきたこともあります。

以前は、伝統的な日本の大手企業は、「当社は中途採用はやらない、ポリシーとしてやらないんだ」というのがとても多かったのですが、今では、その幹部層の外部採用に対する拒否感が大きく低下してきたことを実感しています。

次に、女性のミドル層の、転職後年収800万円以上での転職数の推移をみると、8年で4.6倍と大きく伸びています。大きな要因は、90年代以降女性の社会進出が活発になり、経験ある候補人材の供給が増えたことです。企業側の女性管理職を積極採用する動きも後押ししていると言えます。

地方企業や新規企業での中途採用も増加

また、少し違った観点ですが、いわゆる地方企業の採用のデータをみると、日系企業で地方に本社があり、地方に勤務地が決定したミドルの800万円以上の転職も、8年間で3.7倍と伸びています。経営者の世代交代に伴い、新しい幹部層が必要となるケースが多くあり、部長クラスが1社に何人も採用されています。また、中途採用の重要性が認識されるようになってきたことも背景にあると考えています。

これも非常に面白い特徴ですが、設立10年未満の企業での転職後年収800万円以上のミドル層の転職決定数が、8年間で7倍と大きく増加しています。設立10年未満の企業とは、主にいわゆるスタートアップやベンチャー企業です。この背景には、ベンチャーキャピタル投資や資金の出どころが豊富になり、資金調達が活発化し、事業の立ち上げ直後でも高年収を払うことが可能になってきたことがあります。また、新規株式上場(IPO)を目的に、管理部門の幹部層を採用するケースも多くなっています。このほか、外資系で新たに日本に進出してきた企業の採用も活発になっています。

市場の変化は求人側の要因が大きいが、家族問題など求職者側要因も増えている

中途採用転職の動きというのは、基本的には求人企業側からのニーズ要因が大きいと考えています。特にミドルの年収が比較的高い層になると、そういうポジションが市場にあるのかがポイントとなります。企業側の採用意欲が高まり、給与などの条件が向上することが、大きな要因となります。

ただ、それに伴い、求職者側も変わってきたと感じるところがあります。これまでは、何らかの必要性があって転職を希望する人が多かったわけですが、近年は、特に現状に不満はないが、より良い条件があればそこへ移りたい、と希望する人が増えてきました。

一方で、求職者側が主導している原因もあると考えています。特に顕著なのは家族要因です。共働きの家庭も増えてきたこともあり、勤務地の問題や勤務時間の長さの問題から、家族のために転職する、転職しない、とする理由が男女ともに増加しています。

これはもっともな変化で、今後もこうした傾向は続くのではないか、そして、こういう問題提起に対応していくことが、転職、中途採用を考えるうえでも、非常に大きなポイントになっていくと考えています。

プロフィール

黒澤 敏浩(くろざわ・としひろ)

株式会社ジェイ エイ シー リクルートメント 事業推進部 事業推進チーム プリンシパルアナリスト

ミドル層の紹介が7割以上を占める正社員の人材紹介会社大手ジェイ エイ シー リクルートメントでホワイトカラー中途採用・転職市場の分析などを約20年。『The Salary Analysis in Asia』編集責任者。人材サービス産業協議会「外部労働市場における賃金相場情報提供に関する研究会」委員や日本人材マネジメント協会執行役員も務める。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。国家資格キャリアコンサルタント、ISO30414リードコンサルタント。

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