事例紹介1 湖池屋のタレント人材採用

講演者
八代 茂裕
株式会社湖池屋 経営管理本部人事部 シニアスペシャリスト
大倉 奈々
株式会社湖池屋 経営管理本部人事部人材マネジメント課
フォーラム名
第121回労働政策フォーラム「転職と中途採用について考える─キャリア採用の取組を中心に」(2022年7月22日-26日)

人事制度の特徴は柔軟性と多様性

当社は、人事戦略を経営戦略の中心に位置づけて、さまざまな取り組みをしています。人材開発では、社員による自律的なキャリア構築を目標としています。2020年には人事評価制度を改定し、これまでの目標管理とは別に「チャレンジ」を促す制度としました。また、それまでの画一的な集合研修の多くを見直し、自己啓発の機会提供を重視する研修制度に改めました。若手社員を中心に、手挙げ式の1on1も導入しました。社員をMVPとして表彰したり、社歴や年齢に関わらない抜擢人事でチャレンジを推進しています。この抜擢人事で、20代で部長級に昇進した管理職もいます。

人事制度の特徴は柔軟性と多様性です。雇用契約上のミッションを特定し、部門長として活躍する「非総合職」のキャリア採用や、社員ではなく準委任契約を交わして独立スタッフとして業務遂行する「フリーランス」も活躍しています。

一方で、チャレンジ行動には失敗の懸念が伴うため、心理的に安全性が高い組織であることが必須だと考えています。このため、能力やライフステージの異なるさまざまな社員が安心して働けるように女性活躍の推進、育児介護制度、テレワークとともに、精神的にフラットな組織を目指した「さん付け活動」や「オフィスカジュアル」を導入したり、取締役を含めた女性管理職登用も進めています。

このように、当社では社員の能力やライフステージに応じて、全力を発揮して働ける、そんないわば「競争的な終身雇用」を目指しています。

巣ごもり需要を機に新しい人材戦略の推進を促す

これら人事施策の導入と会社自体のプレゼンスの向上で、社外の人たちからも注目してもらえるようになりました。2019年にはランスタッド社の「働いてみたい注目成長企業」のアワードを受賞しました。当社に対する関心度の高まりは、人的リソースを強化し経営戦略を推し進めるチャンスの到来でした。

特に2020年に新型コロナの感染拡大に伴う、いわゆる「巣ごもり需要」を取り込んで売り上げが伸びていくなかで、事業運営のあり方を刷新していこうという機運が高まりました。そして、中途採用により、人材面からも戦略推進を促していくという方針に舵を切りました。

中途採用でも、新型コロナの感染拡大が追い風になったところがありました。1つは、コロナの先行き不安で、従来は応募してこなかったような業界から人材が応募してくるようになりました。また、「巣ごもり需要」の関連でメディアに取りあげられ、企業のプレゼンスが高まりました。

なお、中途採用で特に意識したのが、社内にはいない専門性を持ったタレント人材の採用です。従来の強みの強化ではなく、今は未着手の事業を進め強化していくために必要な専門性を持ち込んでくれる高度人材の採用を進めました。

中途採用では不可逆的なプレミアムを付さない

一方で課題もあります。優秀な管理職人材やタレント人材を採用しようとした時に、会社が提示できる給与と、候補者が望む水準との間に乖離があることです。このため、高度なタレント人材に対する採用オファーには、柔軟性が必要だと考えています。

具体的に取り組んだのは、入社支度金の上積み、契約社員とすることで賃金水準を従来の社員のそれとは切り離して相当額に引き上げることや、雇用にこだわらず、準委任契約による業務委託とすることなどであり、柔軟に対応しています。

こうした柔軟かつ可逆的な対応を行うのは、過去において、管理職として採用したにもかかわらず、多くの人が実力を発揮できず当社を去ったことがあったという反省から、中途採用は処遇で不可逆的なプレミアムを付与して進めるべきではない、という考えがあるためです。

まとめると、中途採用の課題に報酬ベースの低さがあるものの、支度金や雇用形態、準委任契約といった多様なオファーの方法で対応しています。社内に蓄積の少ないノウハウ、高いレベルのマネジメントスキル、これらを高度人材の中途採用で導入することによって、経営レベルの底上げを図り、新規事業領域への対応、ダイバーシティ推進を促し、経営戦略に貢献することを目指しています。

プロフィール

八代 茂裕(やしろ・しげひろ)

株式会社湖池屋 経営管理本部人事部 シニアスペシャリスト

1981年、高卒でコマツに勤務しながら夜間大学にて学び、その後SIer、半導体メーカー、医療機器メーカーを経て2008年に湖池屋に中途入社。人事や総務を中心に担当するも、食品安全認証事務局なども経験し、2018年から2021年まで人事部長。また、2019年から法政大学大学院石山恒貴研究室で人材開発を学ぶ。

大倉 奈々(おおくら・なな)

株式会社湖池屋 経営管理本部人事部 人材マネジメント課

早稲田大学第一文学部(心理学専修)卒業後、新卒で株式会社湖池屋(当時の社名は株式会社フレンテ)に入社、経理部を経て2013年より人事部に所属し、新卒・中途採用や人材研修の企画運営など人材開発を担当。2017年より人事制度設計にも携わり、組織開発・制度全般の見直し・改定を手がける。途中2子の出産・育休を経験し、現在も時短勤務で育児と仕事の両立に奮闘中。