事例報告1 均衡・均等待遇化の運動の到達点

講演者
三橋 沙織
UAゼンセン イオングループ労働組合連合会 イオンリテールワーカーズユニオン 中央執行書記次長
フォーラム名
第117回労働政策フォーラム「多様な働き方を考える─「同一労働同一賃金」ルールをめぐる現状と課題─」(2021年11月22日-26日)

本日は、当社の時間給社員の組合員範囲拡大の変遷、現時間給社員制度と同社員の戦力化、また番外編として、2021年の統一労働条件交渉で取り組んだ65歳以上の上限労働時間および時間給の改善についてお話しします。

イオングループの概況ですが、日本、中国など13カ国で約2万店舗を運営し、グループ全体で58万人の従業員が働いています。グループには総合小売業やスーパーマーケット、金融事業とともにディベロッパー事業や専門店事業などを運営している会社があります。

本日の報告は、イオンリテール株式会社に関するものになります。2兆円の売り上げ規模の総合小売業で、イオンという看板でショッピングセンターを運営しており、約400店舗営業しています。

イオンリテールワーカーズユニオンは、2021年に旧イオンリテール労働組合、旧マイカルユニオン、旧イオンマルシェ労働組合が統合し、誕生しました。現在は中核のイオンリテール株式会社を含む13社と労働協約を締結しています。現在の組合員数は12万1,248人で、そのうちイオンリテール株式会社の組合員は10万3,535人となっています。

組合員の8割が時間給社員

イオンリテールワーカーズユニオンの理念は「私たちの幸せの実現」です。自律的に考えて仲間とつながり、仕事を楽しくする、社会をよくする。人間性を高めることで、私たちの幸せを実現するということを理念として活動しています。「働く」という領域にとどまらず、「生きる」、「暮らす」も合わせた3つの領域で活動を実施し、広く私たちの幸せを実現したいと考えています。

イオンリテールワーカーズユニオンの組織現勢を紹介します。現在、全従業員の82%が組合員となっています(シート1)。また、組合員のうち、約8割が時間給社員です。時間給社員は、お店を経営するうえで欠かせないパートナーとなっています。社員区分の比率は記載のとおりです。

アルバイトを除く全従業員を組織化

時間給社員の組合範囲拡大の変遷について説明します(シート2)。現在は、アルバイトを除く全ての従業員が組合員です。2006年までは旧イオンリテール労働組合での取り組みになりますが、2004年~2006年に5万6,000人のパートタイマーを組織化しました。

社員だけが組合員だった当時、14%にまで組合組織率が落ち込み、それを向上させるためにパートタイマーを組織化し、約7割の組織率まで取り戻しました。そこから毎年、パートタイマーの処遇改善の基盤を整えていきました。ここに記載されている処遇改善、福利厚生の内容の改善は一部であり、毎年の賃金交渉はもちろん、福利厚生制度においても従業員買物割引制度や慶弔休暇の有給化、定年退職慰労制度の導入、労災付加給付の社員との格差是正など、さまざまな処遇の改善を行ってきました。

10年後の2016年には、またあらためて5万人の組織化を行っています(シート3)。65歳の定年後にアルバイトとして働いていた従業員を、アルバイトよりも労働時間が長いパートタイマー化し、組織化しました(それまで65歳以上は非組合員でした)。また、社会環境を鑑み、雇用保険未加入の従業員の組織化にも取り組みました。この結果、現在も80%の組織率を継続できています。アルバイトを除く全従業員を組織化したことで、仲間が増えると同時に、これまで以上に格差是正や65歳以上の働き方を考える機会が増えてきています。

2016年以前は有期と無期で昇格上限に差

続いて、時間給社員の戦力化と現制度の役割について説明します。イオンには創業当時から変わらない人事理念があります(シート4)。人事5原則も定めています。この理念と原則は今も引き継がれており、企業風土のベースとなっています。なかでも変化即応の原則にあるとおり、社会や暮らしの変化を先取りし、人事制度を変革し続けてきました。イオンの人事理念は、国籍・年齢・性別・従業員区分を廃し、能力と成果に貫かれた人事、そして継続成長する人材が長期にわたり働き続けられる企業環境の創造であり、それが人事制度のベースになっています。

まず、人事制度の全体像についてお話ししておきたいと思います。2016年以前は、転居、転勤のある従業員は「無期雇用」、転居、転勤のない従業員は「有期雇用」と、無期雇用か有期雇用か否かでステップアップの上限に差があり、さらに、有期雇用者のなかでも「日給月給社員」と「時間給社員」との間では処遇などに格差がありました(シート5)。

無期・有期の線引きをなくす

先ほどもお話ししましたが、ここまでさまざまな格差是正を要求し、改善を行っています。シート6が現在運用している人事制度です。まず、2016年以降、「無期雇用」「有期雇用」という線引きをなくし、「日給月給社員」は「無期雇用」としました。

また、仕事に関する処遇は転居、転勤の有無にかかわらず同一とし、地域限定職の経営幹部への登用が可能となりました。

「時間給社員」についても、65歳以降、「シニアアルバイト」という制限のある働き方を変更し、「GGパートナー」という新たな雇用区分をつくり、70歳まで働けることを制度化しました。

時間給社員は働く時間を選べる社員区分

これまでの制度変更や改善を通じて、仕事に対する処遇は均等・均衡という価値観は、社内でもだいぶ浸透しています。今後さらに、「時間給社員」と「日給月給社員」の区分を廃して融合していく必要があると考えています。

これまで会社にとっては、「時間給社員」は安価な労働力として、または補助的な労働力との捉え方をされていました。あらためて、私たちの戦力として、働く時間を選べる働き方ができる社員区分だという考え方に変化させていく必要があると思います。

しかし、今日においては、同一労働同一賃金、均衡・均等処遇の考え方のもとで、対応していく必要があります。「時間給社員」の仕事をさらにやりがいと責任のあるものにすることと、役割と成果に応じた処遇を行うことによって優秀な人材を集めることが求められ、そのためには、「時間給社員」と「日給月給社員」の制度を融合していくことが求められていると考えています。

2020年には労働組合から「時間給社員」のスキルに対する処遇改善を要求し、現在、次の制度に向けて検討中です。その一部を紹介したいと思います。

これまでも「時間給社員」から「日給月給社員」への登用は定期的に実施してきましたが、マネジメント領域へのステップアップのほか、「アドバイザー/マスター」というスキルに基づく処遇および専門領域への拡大の両面を整備しようとしています(シート7)。

今後は時間給社員のリーダーやマネジャー配置を目指す

現状では、「時間給社員」のステップアップは、C2という資格が上限となっています。今後、リーダーやマネジャーに配置される社員については、「時間給社員」でもさらにステップアップできる制度を整備していく考えです。

これまでは「時間給社員」から「日給月給社員」に登用することを前提として制度を組み立ててきましたが、同じ仕事で、短時間で働きたいなどの「日給月給社員」の要望に応える制度にもなり得ると考えています。

現在、イオンリテールでは、「日給月給社員」で短時間勤務ができるのは、育児・介護などの事由のある場合のみとの制度となっています。先のことになりますが、全ての従業員が労働時間を選ぶことができるという選択肢を持てるよう、この「時間給社員」「日給月給社員」の間を行き来できる制度を、少しずつ前に進めていきたいです。

マスター認定者の半分は時間給社員

教育制度について、現在、イオンリテールでは、「日給月給社員」「時間給社員」による区分はありません。同じ項目をマスターし、個人が義務教育として取り組める仕組みを整えています。

また、「セルフスタディー」という、個人が関心に合わせて学べる仕組みについても全ての従業員が受講可能です。あわせて、「日給月給社員」「時間給社員」ともに取得できる各種の社内認定制度も充実させてきました(シート8)。

「マスター」に認定された専門スキルがある社員の半分は「時間給社員」です。「時間給社員」の「アドバイザー」「マスター」を増やし続けていくことが、「時間給社員」の戦力化につながると考えています。

「時間給社員」の活躍の例をあげると、イオンの社内に水産売り場があり、鮮魚士資格を持つ社員がマグロの解体ショーを行うことがありますが、ここでも「時間給社員」が活躍しています。また、先ほど説明した人事制度のとおり、「時間給社員」から店長にステップアップした人も出てきています。このように活躍できる選択肢を広げ、多様な一人ひとりに合った制度を選択できるようにしていくことが、私たちの目指す姿です。

2021年に65歳以上のGGパートナーの処遇が改善

最後に、番外編として、2021年に取り組んだ65歳以上の働き方と時間給の改善について少し紹介したいと思います。

2016年に組織化して以降、年々、65歳以上になっても働き続ける組合員は増え続けています。内外の環境と、従業員の声に基づき、シニアの活躍はイオンリテールにとっても、また地域社会にとっても、非常に重要な取り組みだと位置づけてきました。地域社会で、高齢者の働く先があるということもとても大切なことだと考えています。

これまで65歳以上は単一的な作業をお任せする存在として処遇してきました。しかし現状では、仕事が変化しないのに賃金だけが下がる、労働時間に制限が設けられるというようなことに対して、「もっと働きたい」「処遇も改善してほしい」というような声が非常に大きくなってきています。

私たちは労働組合ですので、社内、現場に起きている現実を見つめ、経営に示し、その現状を鑑みて交渉を続けてきました。2016年に組織化して以降、65歳以上の組合員の多くも現場での議論に関わってくれています。65歳以上の組合員の当事者の声を丁寧に集め、職場の生の声を経営に伝えて交渉した結果、65歳以上のGGパートナーの処遇が改善し、1万人を超える65歳以上の社員の喜びの声が組合本部にも届いています(シート9)。

引き続き私たち労働組合は、働く人の視点で働き方の選択肢を増やせないかといった視点を持ちながら、「日給月給社員」と「時間給社員」、それから、日給月給社員どうし、時間給社員どうしの均等・均衡待遇の実現に向けて取り組みを進めていきます。

プロフィール

三橋 沙織(みつはし・さおり)

UAゼンセン イオングループ労働組合連合会 イオンリテールワーカーズユニオン 中央執行書記次長

2005年イオン株式会社(現イオンリテール(株))入社。秋田・岩手エリアでの店舗勤務、イオンスーパーセンター(株)(本社:盛岡)設立時の本社教育担当を経て、2009年から労働組合専従として活動。2011年3月イオンリテール(株)、(株)マイカル、イオンマルシェ(株)統合後、同年6月に組合統合。イオンリテールワーカーズユニオン政策担当として、3社のパートタイマ―制度の一本化に携わる。2012年から海外担当として日本人出向者及び現地従業員のサポート体制構築を担当。2014年、連合派遣で外務省在中国日本国大使館二等書記官として勤務、2017年からUAゼンセン国際局勤務の後、2019年10月から現職(政策・経営対策担当)。

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