研究報告1 同一労働同一賃金ルールに企業はどう対応しているのか──「同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査」結果より

ルールの内容までの認知度は約2/3

雇用形態に関わらない公正な待遇の確保に向けて、2020年4月1日にパートタイム・有期雇用労働法が施行され、2021年4月1日からは中小企業にも適用されました。こうした改正に、企業がどのように対応しているか(しようとしているのか)を把握するため、当機構では2020年の夏~秋にかけ、全体的な状況についてはアンケート調査を、また、個別企業の具体的な取り組みについてはヒアリング調査(藤澤美穂・統括研究員が担当)を行いました。結果の全容は、調査シリーズNo.214として2021年11月12日に発刊したところですが、本日はアンケート調査結果を中心に報告します。

まず、同一労働同一賃金ルールはどの程度、浸透しているのでしょうか。全有効回答企業(9,027社)を対象に認知度を尋ねると、「ルールの内容を知っている」割合が64.0%、「内容は分からないが、同一労働同一賃金という文言は聞いたことがある」が31.4%、「まったく知らない・わからない」が2.7%となりました。結果として、文言のみを含めた認知度は9割を超えますが、内容までになると3分の2弱にとどまります。属性別にみても、「まったく知らない・わからない」との回答は多くありませんが、「内容は分からない」割合は建設業(39.9%)や宿泊業、飲食サービス業(37.2%)など、また、小規模企業になる(301人以上で5.2%~50人以下で37.0%)ほど高くなっています。

必要な見直しを行った・行っているまたは検討中の企業が約半数

それでは、同一労働同一賃金ルールへの対応の進捗状況は、どうなっているのでしょうか。パート・有期社員を雇用している企業(6,877社)を対象に、雇用管理の見直し状況を尋ねると、「既に必要な見直しを行った(対応完了)」が14.9%、「現在、必要な見直しを行っている(対応中)」が11.5%、「今後の見直しに向けて検討中(対応予定)」が19.5%で、総じて、何らかの必要な見直しを行った・行っているまたは検討中の企業が合わせて半数弱となりました(シート1)。

シート1 同一労働同一賃金ルールに対応するための雇用管理の見直し状況

同一労働同一賃金ルールに対応するため、「必要な見直しを行った・行っている、または検討中」の企業が約半数の一方、約1/5が「対応方針は未定・わからない」と回答

参照:配布資料5ページ(PDF:600KB)

約1/5が「対応方針は未定・わからない」と回答

他方、「対応方針は未定・分からない」企業も5社に1社ほど(19.4%)みられ、宿泊業、飲食サービス業(28.0%)等のほか、小規模企業になる(301人以上で6.4%~50人以下で21.4%)ほど高くなっています。また、「従来通りで見直しの必要なし(対応完了)」との回答は1/3を超え(34.1%)、建設業(46.2%)や運輸業、郵便業(41.3%)等で高く、小規模企業になる(301人以上で16.5%~50人以下で39.1%)ほど高まる傾向がみられます。

ただ、文字通りに受け取って良いものか、その解釈には注意も要するかもしれません。と言うのも、同一労働同一賃金ルールの認知度別に雇用管理の見直し状況を展開してみると、内容までの認知度が高いほど必要な見直しを行った・行っているまたは検討中の割合も高まる傾向がみられますが、ルールを「まったく知らない・分からない」企業(144社)でも、「従来通りで見直しの必要なし(対応完了)」との回答が一定割合(39.6%)あることが分かります。すなわち、ルールを「まったく知らない・分からない」から、従来通りで何もしないということのないよう、ルールの周知徹底が求められます。

いわゆる「均衡待遇」への対応が4割超

それでは、同一労働同一賃金ルールに対応するために必要な見直しを行った・行っているまたは検討中の企業では、具体的にどのような内容の見直しが行われているのでしょうか。複数回答で尋ねると、もっとも多いのは「正社員と職務・人材活用とも同じ以外のパート・有期社員の待遇の見直し(いわゆる均衡待遇への対応)」で42.9%となりました(シート2)。また、その両隣の選択肢を合わせて、パート・有期社員等の何らかの待遇面での見直し関連計が半数超となっています。

シート2 「必要な見直しを行った・行っているまたは検討中」の企業の具体的な見直し内容

「必要な見直しを行った・行っている、または検討中」の具体的な内容は、「パート・有期社員等の待遇面の見直し」が半数超も「職務分離や人材活用の違いの明確化」のみの企業等も

参照:配布資料7ページ(PDF:600KB)

「職務分離や人材活用の違いの明確化」のみの企業も

そのうえで、これに続くのは「正社員とパート・有期社員の職務分離や人材活用の違いの明確化」の19.4%であり、大規模企業になる(50人以下で15.6%~301人以上で27.8%)ほど高まる結果となりました。複数選択ですが、これのみの企業も3.6%みられました。

このほか、同一労働同一賃金ルールに対応するための見直し内容としては、回答割合の高い順に「就業規則や労使協定の改定」が18.6%、「労働条件(正社員との待遇差の内容・理由を含む)の明示や説明」が17.0%、「パート・有期社員の正社員化や正社員転換制度の導入・拡充」が12.8%、「正社員を含めた待遇の整理や人事制度の改定」が10.7%などとなりました。

パート・有期社員比率が高いほど職務分離や正社員化で対応も

なお、少々脱線しますが、こうした結果を従業員に占めるパート・有期社員の人数割合別にみてみると、パート・有期社員等の待遇面での見直し関連計については人数割合によらず、一定の回答が得られる(25%未満で55.1%~50%以上で57.9%)一方、例えば「職務分離や人材活用の違いの明確化」(同順に16.5%~24.6%)や「パート・有期社員の正社員化や正社員転換制度の導入・拡充」(同順に9.7%~16.4%)等については、人数割合が高い企業ほど回答も高まる傾向がみられ、対応戦略の違いが浮かび上がります。

また、人数割合が高い企業ほど、「就業規則や労使協定の改定」(同順に18.6%~23.4%)等を伴う形で、対応しようとしている様子もうかがえます。

「手当関係」の回答企業が規模によらず7割超

本題に戻りまして、パート・有期社員等の待遇面での見直し関連計(56.0%)をあげた企業では、どういった待遇要素に関する見直しが行われているのでしょうか。待遇要素の種類を表側とし、対応者・方法を表頭にした組み合わせ(複数回答)でみると、もっとも回答割合が高いのはパート・有期社員の「基本的な賃金(賃金表を含む)の増額や拡充」の43.4%で、これに「昇給(評価・考課を含む)の増額や拡充」(33.7%)、「賞与(特別手当)の増額や拡充」(28.8%)、「通勤手当(交通費支給を含む)の増額や拡充」(19.7%)、また、「慶弔休暇の拡充」(16.9%)、「賞与(特別手当)(制度)の新設」(16.2%)などが続きました(シート3)。

シート3 「パート・有期社員等の待遇面の見直し」の具体的な内容

「パート・有期社員等の待遇面の見直し」内容としては①基本的な賃金、②昇給、③賞与、④通勤手当、⑤慶弔休暇にかかる見直しが多い

参照:配布資料9ページ(PDF:600KB)

なお、「退職金(退職手当)」や「住宅手当」「家族手当」などといった、同一労働同一賃金ガイドラインを上回るような見直しも、進められていることが分かります。

こうした結果を分類すると、何らかの「手当関係」を回答した割合が、企業規模によらず7割を超えて高い(50人以下で77.3%~301人以上で79.5%)ことが分かります。一方、「基本給関係」の回答割合は、小規模企業(301人以上で41.0%~50人以下で71.9%)ほど高まる傾向もみられます。

一部業種や小規模企業では正社員の待遇悪化の恐れも

なお、正社員のいずれかの待遇要素の「減額や縮小」や「制度の廃止」をあげた割合は、運輸業、郵便業(同順に23.0%、20.3%)や宿泊業、飲食サービス業(同順に20.0%、16.2%)等で高いほか、「制度の廃止」は小規模企業になる(301人以下で7.2%~50人以下で11.7%)ほどやや高まります。同一労働同一賃金ルールへの対応に伴い、一部の業種や小規模企業では、正社員の待遇悪化につながる恐れも危惧されます。

対応上の2大課題は「人件費負担の増加等」と「待遇差の不合理性判断」

それでは、同一労働同一賃金ルールへの対応にあたっては、どのようなことが課題となっているのでしょうか。必要な見直しを行った・行っているまたは検討中の企業に、対応方針は未定・分からない企業を加えた4,488社でみると(複数回答)、「人件費負担の増加、原資の不足・捻出」(47.1%)と「待遇差が不合理かどうかの判断」(45.8%)がともに高く、次いで「(人件費に見合う)生産性の向上」(28.4%)や「ルールの理解(情報収集等)」(26.9%)、また、「待遇差の説明のあり方(納得性等)」(25.6%)などがあがりました。このうち、「人件費負担の増加、原資の不足・捻出」については、企業規模によらない共通の課題(50人以下で43.7%~301人以上で50.9%)となっていることが分かります。一方で、「待遇差が不合理かどうかの判断」(同順に39.2%~62.6%)や、「待遇差の説明のあり方(納得性等)」(同順に19.4%~41.0%)などの回答割合は、大規模企業ほど顕著に高くなっています。

同一労働同一賃金化で年収上限(労働時間制約)も課題に

なお、「その他」の割合は限定的(2.1%)ながらも特徴的なものがみられましたので、紹介しておきたいと思います。まず、コロナ禍で経営自体がやっと、という声が寄せられました。新型コロナウイルス感染症への対応で大変ななか、調査にご協力いただき本当に有り難うございました。また、自由記述欄には、扶養控除等に伴う年収上限の問題──すなわち、労働時間制約に伴う人手不足を課題にあげる声や、正社員側の労働意欲・モチベーション低下を指摘する声などがありました。

社労士や弁護士等に相談している企業が半数弱

次に、同一労働同一賃金ルールへの対応にあたっては、どのようなツールが活用されているのでしょうか。必要な見直しを行った・行っているまたは検討中の企業(3,152社)に尋ねると(複数回答)、8割超(85.6%)が何らかのものをあげましたが、もっとも多かったのは「社会保険労務士や弁護士等への相談」の47.0%であり、これのみの企業も15.4%となりました。こうした結果は、先述した対応上の課題に「待遇差が不合理かどうかの判断」等が多くあげられていたことと呼応する形で、同一労働同一賃金化に際し、社会保険労務士や弁護士等の先生方の役割がいかに大きいかをうかがわせる結果となっています。この点、他の法令とは異なる対応の難しさを、浮き彫りにしているとも言えるかもしれません。

このほか、活用ツールとしては、行政が提供する「ホームページ(厚生労働省の「パート・有期労働ポータルサイト」等)」(35.3%)や「同一労働同一賃金ガイドライン」(31.1%)、「リーフレット、パンフレット」(24.2%)などが続きました。

待遇差について「説明できない(場合がある)と思う」が3割超

次に、パートタイム・有期雇用労働法では、正社員(無期雇用フルタイム労働者)とパート・有期社員の待遇の違いやその理由等にかかる説明義務も強化されましたが、その対応状況はどうなっているのでしょうか。パート・有期社員を雇用している企業(6,877社)を対象に、待遇差やその理由にかかる説明を求められた場合に、不合理ではないことをどの程度、説明できると思うか尋ねると、「説明できると思う(待遇差がない場合を含む)」が57.6%で半数を超えたものの、「説明できる場合と、説明できない場合があると思う」が29.4%、「説明できないと思う」が2.5%となりました。

説明方法は「口頭」が多い

また、待遇差やその理由にかかる説明を、どのような方法で行っているか(行うか)尋ねると、「個別の問い合わせに応じて口頭で説明」が半数を超え(50.9%)、これに「雇入れ時や契約更新時に口頭で説明」が約4割(39.3%)で続き、口頭での説明が多いことが分かります。次いで、「労働条件通知書に明記」(31.4%)や「就業規則に明記・周知」(21.9%)などがあがりました。

なお、「行っていない(行わない)」との回答(10.2%)もみられますが、法規定を知らなければ、事業主に説明を求めたパート・有期社員との間でトラブルになる恐れもあり、やはりルールの周知徹底が喫緊の課題となっています。

労使の話合いを行った(行う予定がある)企業は約半数

次に、同一労働同一賃金ルールに対応するため、必要な見直しを行った・行っているまたは検討中の企業(3,152社)を対象に、ガイドラインが望ましいとする労使の話合いの状況についても尋ねると、「パート・有期社員を含めて話合いを行った(行う)」は3分の1(33.3%)で、「パート・有期社員は含まれていない」(13.3%)との回答を含めても労使の話合いを行った(行う)割合は半数弱にとどまりました。労使の話合いを行った(行う)との回答は、大規模企業になる(50人以下で43.6%~301人以上で61.5%)ほど高まる傾向がみられますが、同時に話合いに「パート・有期社員は含まれていない」とする割合(同順に9.9%~25.8%)も高くなっています。

労使の話合いを行っているほど高まる効果の実感

こうしたなか、本調査では同一労働同一賃金ルールへの対応で得られた(得られると見込む)効果についても尋ねていますが、その結果と労使の話合いの状況の関係を調べると、「職場の公平・公正化や納得感の醸成」や「働く意欲や生産性の向上」などといった効果の実感は、労使の話合いを行っている企業ほど、さらに話合いにパート・有期社員を含めている企業ほど高いことが分かります(シート4)。本フォーラムではこの後、まさに労使の話合いを通じ、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保に向けてどのように取り組んで来たかなど具体的な取組事例が紹介されますが、同一労働同一賃金ルールへの対応にあたってはこうしたメリットもふまえながら、労使の話合いを推進する必要があるのではないでしょうか。

シート4 労使の話合いの状況別にみた同一労働同一賃金ルールへの対応で得られた(得られると見込む)効果

労使の話合いを行うかどうかで効果に違いも

参照:配布資料15ページ(PDF:600KB)

同一労働同一賃金化で労働条件の優位性確保や離職防止へ

最後に、ヒアリング調査結果をまとめた一覧表も添付しました(シート5)。詳細は割愛しますが、各社とも、多様な雇用区分の職務や人材活用、あらゆる待遇の相違を洗い出したうえで、セミナーに参加したり、判例や業界の動向等を収集したり、さらには専門家に相談しながら、不合理な待遇差はないか、また、優先すべき待遇要素は何かなどにかかる労使の話合いを重ねつつ、対応を模索しています。

そして、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保を通じ、「募集・採用時の労働条件の優位性確保」や「社員の離職防止」、また、「定年後再雇用者のモチベーションアップ」などにつなげることで、人手不足への対応等にもいかされています。その全容については、報告書をご覧いただければ幸いです。

シート5 ヒアリング調査結果にみる個別企業の具体的な取組内容

厚生労働省「パート・有期労働ポータルサイト」の「公正な待遇の確保(同一労働同一賃金)に向けた企業の取組事例(https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/douitsu/)」に収納された、当機構のヒアリング調査結果より

参照:配布資料16ページ(PDF:600KB)

プロフィール

渡邊 木綿子(わたなべ・ゆうこ)

労働政策研究・研修機構 主任調査員

東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。2000年日本労働研究機構(現 労働政策研究・研修機構)入職。非正規問題を中心とする調査に従事(専門社会調査士)。主な調査に「改正労働契約法とその特例への対応状況及び多様な正社員の活用状況に関する調査」(調査シリーズNo.151調査シリーズNo.171)や「社会保険の適用拡大への対応状況等に関する調査」(調査シリーズNo.182)等、最近の調査に「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査」(JILPT第1~5回・パネル個人調査)や「ウィズコロナ・ポストコロナの働き方ヒアリング調査」(ブックレット)等がある。

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