研究報告 男性労働者の育児休業の取得に積極的に取り組む企業の事例──ヒアリング調査

講演者
藤澤 美穂
労働政策研究・研修機構 統括研究員
フォーラム名
第116回労働政策フォーラム「男性の育児休業」(2021年10月8日-11日)

ヒアリング調査の概要

13の企業から事例を集める

本日は、男性労働者の育児休業の取得に積極的に取り組んでいる企業をヒアリング調査した結果を紹介したいと思います。

調査は、男性の育児休業の取得促進策を検討するにあたっての参考とするため、厚生労働省からの要請を受け、行いました。13の企業(枠内参照)から協力を承諾いただき、2019年9月~11月にかけて実施しました。

協力企業:積水ハウス株式会社、大成建設株式会社、中外製薬株式会社、テルモ株式会社、株式会社博進堂、日本ユニシス株式会社、東急株式会社、株式会社ローソン、株式会社丸井グループ、株式会社千葉銀行、明治安田生命保険相互会社、リコーリース株式会社、リゾートトラスト株式会社(業種分類順 敬称略)

実施してからすでに約2年が経過し、また、2021年6月には法改正がありましたので、調査した企業でも、ヒアリング後に新たな取り組みや制度見直し等を行っている可能性もあります。その点はあらかじめお断りをしておきたいと思います。

制度面での対応・工夫

取得可能対象期間を長く設定する企業が多い

まずは、取り組みの促進にあたって、各企業がどのような制度としていたのか、あるいは、風土醸成や環境整備など、ソフト的な部分でどのように工夫しているのかについて紹介します。

原則となる取得対象期間については、法律どおり子どもが1歳までという企業もありましたが、子どもが3歳になるまで、あるいは、子どもが2歳になるまでと、取得可能対象期間を長く設定している企業が多くみられました(8社)。

また、いわゆる「パパ休暇」以外の分割の可否について、今回の法改正前は、法令上、父親に認められた、「パパ休暇」の場合を除いて分割ができない仕組みとなっていたため、調査当時は「パパ休暇」の場合を除き分割は認めていないという企業が多くありました。分割が可能としていた企業は3社で、分割を検討したいとしていた企業が1社ありました。

10社が育児休業を有給に

給与に関しては、育児休業を有給にしている企業が多くありました(10社)。その場合、有給期間は5日から、長い企業では1カ月となっていました。そのほか最大30日、あるいは、50日まで失効年休等の活用が可能な企業もありました。また、育休自体は無給という企業でも、3社中2社が、育休とは別の形で育児を目的とした、または、育児にも活用できる男女共通の有給の制度を設けていました。

育休取得に対する評価については、まず、本人に対する評価として、例えば育休の取得を賞与や退職金の算定に影響させないなど、育休の取得が不利にならない制度設計にしている企業もありました。また、所属部門に対する業績評価において、所属内での男性の育休取得について、取得日数に応じて加点評価していた企業もありました。

男性の育児休業の取得状況

男性の育児休業取得率は100%・100%超が5社

次に、男性の育児休業の取得状況についてです。調査当時における状況では、育休取得率が100%、または100%超という企業が5社で、90%台が3社でした。なお、各企業における取得率の定義が、必ずしも同一でない点は留意してください。また、育休の対象期間が長い企業の場合、その定義の仕方によっては計算上100%を超える場合があります。

取得日数については、平均で1週間前後という企業が多かったのですが、企業によってさまざまでした。企業が取得に関して掲げている目標や、有給としている場合の有給日数、取得勧奨の際における具体的な勧奨内容、ほかの制度などによる影響もあると考えられます。実際、ほとんどの企業が、これらのいずれか、あるいは、複数が影響しているのではないかと指摘しています。特に有給期間による影響をあげている企業が多くありました。

取得時期については、出産直後、妻が里帰りから戻るとき、また、妻の復職時といったタイミングが多いとしている企業が、比較的多くありました。

男性の育児休業取得促進の目的・目標

目標設定企業の全てが取得率の目標を設定

男性の育休取得促進の目的については、多くの企業が女性社員の活躍推進やダイバーシティの推進、仕事と家庭の両立といったものをあげていました。

男性の育休取得に関する目標については、ほとんどの企業で目標を設定しており、目標を設定している企業では全てが、取得率に関する目標を設定していました。また、取得日数についての目標を設定している企業も数社ありました。

取得率に関する目標としては、取得率100%や未取得者ゼロという目標を掲げている企業が8社と多かったです。また、取得率の目標達成時期を明示している企業も約半数ありましたし、目標とする取得率について2段階で設定している企業もありました。

ソフト面での主な工夫・サポート

ほとんどの企業がソフト面で多くの工夫・サポートを実施

ソフト面での主な工夫・サポートについて、その内容を「トップからの発信」「個別の取得勧奨」「風土醸成・情報共有」と大きく分類すると、ほとんどの企業が全ての項目にあたる工夫・サポートを行っていました。「取得手続の簡素化」や「育休中の生活に向けたアドバイス支援」などを行っている企業もありました。

「トップからの発信」については、トップが直接メッセージを発信することで、会社としての本気度を明確に示すことにもなります。「個別の取得勧奨」では、男性の育休取得促進を統括する部署から、男性本人やその直属の上司、所属長などへ働きかけを行い、それをふまえて上司が男性本人に働きかけるという企業が多くありました。

多くの企業が未取得の場合の勧奨を行う

取得勧奨の時期は大きく2つに分かれていました。1つが、取得対象となった男性を把握した際の勧奨です。これはほとんどの企業で行っていました。

2つ目は、取得対象となった後もなお未取得の場合の勧奨で、これも多くの企業で行っていました。この未取得の場合の勧奨については、1回だけではなく、定期的に状況を確認して取得するまで勧奨を続ける企業や、取得期限が近くなると勧奨方法を強化する企業など、さまざまありました。

勧奨の内容や程度については、取得日数やその時期について特にコメントしない企業がある一方、一定日数以上の取得や一定の取得時期を推奨している企業もありました。また、取得日数は短くてもいいので、まずは取得を優先して勧奨するという企業や、勧奨の程度が特に高い企業など、多岐にわたっていました。取得日数の考え方も企業によって異なっていました。

法改正で、配偶者が妊娠・出産した旨の申出をした場合に、事業主には、制度の周知と取得の意向を確認するための措置が義務づけられましたが、ヒアリング企業にも、調査当時、具体的にどのように個別の勧奨を行っていたか聞いています。シート1~3が、ヒアリングした企業による、子どもの出生時など取得対象者を把握した際の勧奨の方法です。また、シート4は、未取得の場合の勧奨の例です。ここには記載がないのですが、取得対象者や取得状況を一覧化して関係者に共有することで、確実に勧奨や働きかけにつなげる取り組みもありました。

取得事例の紹介などは多くの企業が実施

今回の法改正では、育休を取得しやすい雇用環境の整備が事業主の義務となりましたが、風土醸成・情報共有といった観点から、ヒアリング企業が当時どのような取り組みを行っていたかをみると、複数の企業が行っていた取り組みは大まかに次のように分類することができます。

「育休の取得についての考え方(経営戦略であることなど)の理解促進」、「個人ごとの育休の取得計画の作成・情報共有」、また、個人ごとや所属ごと、社内全体といろいろなパターンがありますが、「取得状況等についての情報共有をすること」。それから、育休中の業務調整など「育休取得者のいる職場のサポート」、「取得を促す雰囲気づくり」、「取得事例の紹介や制度の周知」、「研修」です。

このうち特に、取り組んでいる例が多かったのは、「取得事例の紹介や制度の周知」と「研修」です。取得事例の紹介や制度の周知については、ほとんどの企業で、イントラネット、社内報・社内誌、ハンドブック・ガイドブックといったものを通じて行っています。特に個別の取得事例の紹介は、男性が自分も取得できそうだと安心感を持つことにもつながりますし、取得が難しいと思われる職場での取得事例などは、誤ったイメージの払拭にもなります。

管理職研修に注力している企業も

また、実際の取得者の声として、よかったこと、大変だったこと、工夫したことなどにほかの社員が触れることで、男性にとっては自分の取得時に役立つとともに、上司にとっても、取得対象者がいる場合の対応にあたって参考になると思います。研修については、管理職の意識や行動が風土醸成に大きく影響するため、管理職の意識改革が重要だとして、特に管理職研修に注力している企業が少なくありませんでした。

そのほかの工夫・サポートでは、取得手続きの簡素化など手続き面での柔軟な対応や、家事・育児の役割分担など育休中の過ごし方に対するアドバイスや支援をしている企業がみられました。また、育休取得者がいる場合の業務をスムーズにほかの社員がカバーして対応できるように、多能工化を進めている企業などがありました。

特に効果的な取り組み

特に効果的なのは「男性本人や上司等への働きかけ・勧奨」「経済的支援」など

取得促進に特に効果的なものとして、複数の企業があげていたものは、「経済的支援」、「一定日数以上の取得勧奨」、「トップによる発信」、「男性の育休取得促進に関する考え方の理解促進」、「目標の設定」、「男性本人・上司等への働きかけ・勧奨」などでした。

そのなかでも多くの企業があげていたのが、「男性本人・上司等への働きかけ・勧奨」、「経済的支援」や、「トップによる発信」、「男性の育休取得促進に関する考え方の理解促進」でした。

男性の取得率向上以外の面での効果

取得率向上以外にも「本人にとっての意義」「職場や会社にとっての効果」など

男性の育休取得率の向上以外の面での取り組みの効果としては、「取得者本人にとっての意義」や「職場や会社にとっての効果」も多くの企業があげていました。

取得した男性にとっての効果や意義としては、家族との絆が深まるなど、家族との関係におけることだけでなく、仕事との関係に関しても、例えば仕事への意欲や責任感、モチベーションが上がるといった効果をあげる企業が少なくありません。

職場・会社にとっての効果としては、「仕事の分担の見直し」や「仕事の属人化の排除」、「業務の見える化や標準化、優先順位づけ」といった仕事の進め方の変化や、「助け合う風土やお互いさまの意識の醸成、チーム力の向上」といった風土の変化、「人材確保にあたってのPR効果」などをあげる企業が多いです。

風土醸成などにあたっての課題など

風土醸成では事業所・部門間での違いなどが課題

風土醸成にあたっての課題や苦労した点としては、企業内でも事業所の規模や職種、部門によって風土醸成の進み具合にどうしても差が生じることから、「事業所間・部門間の違いの解消」をあげる企業や、「上司・管理職などの理解促進」、また、「男性本人の意識づけ」などをあげる企業がありました。

逆に、風土醸成がスムーズに進んだ場合の背景としては、「もともとの社内の風土や文化」、「トップによる発信、目標設定、全社的な取り組み」、「実際の効果が認知されたこと」、「取得者が増加することによる相乗効果」、「上司からの声かけ」、「早くから着手したこと」、「総合的な施策を進めたこと」などがあげられています。特に「トップによる発信、目標設定、全社的な取り組み」は、ほとんどの企業でスムーズな風土醸成につながったとしていました。

風土醸成以外での課題としては、「業務調整や人員体制にかかる課題や対応」、「営業や現業部門など、ほかの職種や職場に比べて取得が困難な場合の対応」をあげる企業が多く、これらの項目はいずれも半数以上の企業があげていました。

今後目指す方向

今後の方針は取り組み持続・定着など

今後の取り組みの基本方針としては、「現在の取り組みの持続や定着」のほか、「取得率や取得日数の増加」、「風土醸成」、「企業文化や働き方の変革」、「他社も含めた取り組みの拡大」などをあげる企業が多くありました。

全体を通して(補足)

バリエーションもアイデアもさまざま

最後に、全体を通して少しまとめてみたいと思います。取り組み内容については、各社、もともとの文化や風土・制度が違うとともに、考え方も同じではないので、どのような制度にするのか、ソフト的な部分で取り組みをどう工夫するのか、また、どういうふうに取り組みや制度を組み合わせるかという点で、さまざまなバリエーションがみられました。アイデアもさまざま出し合って取り組んでいました。

特に効果的な取り組みをみると、方針の明確化、本気度を示す、また、それをトップから話す、あるいは、経営戦略という形で示すことなどがあげられていました。また本人や上司などへの具体的な働きかけ・勧奨なども大きなポイントになると思います。

経営戦略だという発信が効果につながる

男性の育休取得促進は経営戦略であるという発信は、取得する男性のためだけの取り組みではなく、職場や企業全体にとっての経営戦略として意義があるというメッセージでもあり、また、数多くの企業が実際、職場や会社にとっての効果としてあげていたことにつながっています。

また、ほとんどの企業で、トップによる発信や目標設定、全社的な取り組みによってスムーズに風土醸成を進められたとしていることから、取得する男性だけではなく、企業全体で戦略として進めていくということは重要だと思います。

育休の有給の仕組みや個別の取得勧奨の内容などと実際の取得状況を照らし合わせてみると、制度やソフト面での取り組み内容が男性の取得行動に一定の影響を与えると考えられる場合も少なくなく、例えば半年、1年といった長期の取得者はあまり増えていない企業も多かったです。

取得したい男性が取得できる環境整備のために、障害を除去してサポートする制度や取り組みを実施しても、それが男性の取得行動に一定の影響を与えていると考えられる場合も少なくありませんでした。ここでいう影響は、取得促進という意味だけではなく、取得が一定のラインまでという、ある種限定的なものになってしまっている部分があるという意味での影響です。たいへん難しい部分だと思いますが、こうした点にも留意が必要だと思います。

取得状況をふまえて見直すかどうかを見極める

育休中の業務調整や代替要員については、あまり取得日数の多くない現状では大きな問題はないものの、取得日数が増えた場合には課題だとする企業もいくつかみられました。実際の取得状況をふまえながら、当面は現行の制度や取り組みを維持して定着を進めていくのか、見直しが必要なのか、見直すなら、どのように見直していくべきかといった点を見極めていくことが重要だと思います。

そうしたなかで、各企業でさまざまなバリエーションを用意し、工夫を凝らしていますので、企業間での情報交換や情報共有はたいへん重要だと思います。悩みや課題も含めて効果的な取り組みなどは広く共有することが望まれます。

また、男性の育休取得促進に取り組む仲間を増やすことが重要で、取り組みが広がり、社会全体が一緒に変わっていくということが必要だと思います。

そのうえでさまざまな制度や取り組みを、それぞれの会社の風土もふまえながら、自社の制度としてどう社内に訴え、社員に理解してもらえるかということも重要だと思いました。当然、文化や風土などはすぐに変わるものではありませんので、早く着手して継続していくこと、そして、それを進化させていくということも重要です。

仕事の進め方の見直しや助け合う風土づくりにつながる

取り組みによる効果については、仕事の進め方の見直しにつながったとする企業や、助け合う風土、お互いさまという意識の醸成、コミュニケーションの活性化やチーム力の向上といったことをあげていた企業も多く、育児休業の取得というのは、休業前の準備や休業後の働き方など、育休の前後を通じて、取得者本人だけではなく、職場、企業全体にメリットを生み出すものと捉えられていました。

また、取得者の増加によって、それが相乗効果となって風土醸成がスムーズに進んだとする企業もありました。取り組みを進めることで取得者が増え、風土醸成が進み、それが取得者増加につながっていくというサイクルが生まれることは非常に大きな効果だと思いました。こうしたメリットや効果なども広く情報共有していくことが、取り組みの広がりに必要だと思います。

男性社員だけの話だと受け止められないように

お互いさまという意識の醸成の効果があると言ったことと重複するのですが、男性の育休取得促進を単独のテーマとして進めるのではなく、誰もが直面し得る介護という課題への対策とセットでアプローチするという企業や、総合的な施策のなかで取り組んでいく企業も多く、実際、各社の取り組みや目的、効果などをみても、育休の対象となっている男性のことだけにとどまらず、幅広い指摘がなされていました。

子どもが生まれた男性社員だけの話だと受け止められないようにする。同じ職場の同僚・上司はもちろんのこと、女性の活躍や介護への対応をはじめ、社員全員の働き方全般にかかわる話であり、自分にもかかわりの深いテーマであること、ひいては、経営戦略にもつながるテーマであることをみんなが認識して、社員みんなの共感を得られることが重要だと思います。

今回は時間が限られていましたので概要を紹介しました。ヒアリング調査結果については、ホームページで報告書全文(JILPT資料シリーズNo.232 『男性労働者の育児休業の取得に積極的に取り組む企業の事例―ヒアリング調査―』)を掲載していますので、どうぞご覧ください。

プロフィール

藤澤 美穂(ふじさわ・みほ)

労働政策研究・研修機構 統括研究員

1988年労働省(当時)入省、2019年JILPT入職、現職。最近の成果に「男性労働者の育児休業の取得に積極的に取り組む企業の事例―ヒアリング調査―」(資料シリーズNo.232)。

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