問題提起・論点整理 男性育休の考え方

講演者
池田 心豪
労働政策研究・研修機構 主任研究員
フォーラム名
第116回労働政策フォーラム「男性の育児休業」(2021年10月8日-11日)

Ⅰ 男性育休の現状

男性の育休取得率はまだ低い

これから「男性育休の考え方」というタイトルで、この問題の論点整理と今後のディスカッションに向けた問題提起をしたいと思います。

初めに、男性の育児休業の現状をデータで確認します。シート1は、男女の育休取得率の推移をグラフで示したものです。男性の取得率は右肩上がりで少しずつ上昇しており、2020年は初めて10%を超えて12.65%となりました。この数値については、政府が目標としていた13%に一歩及ばなかったという見方もできれば、四捨五入すれば何とかクリアしたという見方もできる水準です。

しかし、上の折れ線で示している女性の育休取得率が一貫して80%を超えていることと比べると、男性の育休取得率はまだまだ低いのが現状だと言えます。

男性の育休取得期間は短い

また、男性の場合は、育休取得期間が短いという特徴もあります。女性の場合は、産休から連続して育休を取るということが一般的であり、その場合、子どもが1歳に達するまで、あるいは、それ以上の期間を月単位で取得するということになります。

しかし、男性の場合は、シート2にあるグラフが示すとおり、1カ月以上の取得者は少なく、多くが2週間未満という短い期間になっています。今後の育休取得促進ということを考えたときに、男性の場合は、この5日未満という非常に短い期間の取得者が一定程度いるという点が、1つ大きなポイントになります。

この程度の期間であれば、わざわざ育休ではなく、年次有給休暇などを取得すればいいのではないかと思う人もいるかと思います。実際、仕事を休んで子育てにあたったという男性が利用した制度をみても(シート3)、育児休業制度よりも年次有給休暇制度を利用しているケースが多いことがデータで明らかになっています。この点も、女性の育休とは違う、男性の育休の1つの特徴が表れているところです。女性の場合は先ほど述べたとおり、産休から連続して育休を取るので、取れないということは仕事を休めない、すなわち復職しないといけないということを意味しますが、男性の場合は、仕事は休めるのだけれども育休を取っていないのです。

他の休暇制度との代替関係

そのため、男性の育休取得促進を考えるときには、休めない人を休めるようにすることはもちろん大事なのですが、他の休暇・休業制度との代替関係を考慮する必要があります。そうは言っても、大事なことは子育てに参加することなのだから、休む制度が育休でも年休でも別に関係ないではないか、育休の取得期間が長くても短くてもどちらでもいいではないか、といった考え方もあると思います。

しかし、法律は、男性育休というものを他の休暇・休業制度と区別して、独自の制度としてつくっています。男性に期待される子育て参加のあり方や、子育て参加をするためにはまとまった休業が必要になるということが念頭に置かれているということを、再確認しておきたいと思います。

Ⅱ 男性育休の目的

男性育休は2つの休業制度の組み合わせ

男性育休制度の構成を、シート4で簡単にまとめました。整理しやすいので英語で示すと、育児休業制度は、女性も含めて一般的に、チャイルドケア・リーブ(Child Care Leave)と訳されます。これが、男性の場合は2つの休業制度の組み合せでできているところがポイントです。

1つが、パタニティ・リーブ(Paternity Leave)で、女性の場合は、産休として取る休業になりますが、男性の場合は育休に含まれています。もう1つは、ペアレンタル・リーブ(Parental Leave)で、女性が産休の後に取る育児休業のことですが、この部分を男性も取ることができる制度設計になっています。つまり、今回の法改正の前から、男性はパタニティ・リーブを1回、その後にペアレンタル・リーブをもう1回取れるという制度設計になっています。

2つの休業をそれぞれ取れたほうが良い

そうすると、先ほど見てきた男性育休取得率は、このパタニティ・リーブとペアレンタル・リーブの両方が含まれている数値になるわけです。ここで、別にパタニティ・リーブでもペアレンタル・リーブでも、どちらでもいいではないか、とにかく育休が取れればそれでいいではないかという考え方も確かにあるとは思いますが、パタニティ・リーブとペアレンタル・リーブでは、男性が子育てにあたる際に想定している場面が違います。パタニティ・リーブはパタニティ・リーブとしてしっかり取れたほうがいいし、それとは別に、ペアレンタル・リーブはペアレンタル・リーブとして取れたほうがいいです。

妻の早期復職を支援する男性育休

再確認しますが、パタニティ・リーブは、女性の場合は産休の期間にあたります。その目的は、産後の母体の回復です。

女性は母体回復のために安静にしていなければいけない時期なので、家庭のことはなるべく控えて休む。そのぶん、男性がまとまった期間、育休を取って、通常の家事や子育てに関わること、また、新たな子育て生活に向けた準備などに充てるという時期になります。

2021年の育児・介護休業法改正では、ここの部分をもっと取りやすくしようとしました。これにより、育休取得率が上がって、育休を取る人が増えるから「これでもう、めでたし、めでたし」と終わらせるのではなく、「ペアレンタル・リーブのほうも放っておいては駄目ですよ」という話なのです。

ペアレンタル・リーブの部分は、女性が産休明けに取る育休ですから、女性にとってはもう少し子育てに専念できるという側面があると同時に、やはり、「いつ復職しますか」という話が背中合わせになります。この時期に男性が育休を取ると、そのぶん早く、妻は復職できるわけです。これによって産後の就業中断期間を短くすることができ、仕事を離れることによって受けるキャリア上のロスや不利を小さくできるというメリットがあります。

集団的アプローチから個別対応へ

もともと育児休業法が男女雇用機会均等法から独立してできたという経緯をふまえると、ペアレンタル・リーブの部分を男性が取るということが、均等政策としては中心的な課題となります。

しかし、実は妻の就業状況によって、いつ、どのぐらいの育休が男性に必要になるかというのは一人ひとり異なります。今回、義務化された企業における個別周知や取得意向確認(=労働者または配偶者が妊娠・出産した旨等の申出をしたときに、当該労働者に対して新制度・現行の育児休業制度等を周知するとともに、これらの制度の取得意向を確認する)でも、ニーズは一人ひとり変わってくるので、やはり個別対応になります。

これに対して、産後8週間の母体のケアは就業の有無にかかわらず必要なことです。妻がフルタイムワーカーでもパートタイムでも、また専業主婦であっても、一律に男性が育休を取りましょうと言いやすい時期になります。つまり、集団的なアプローチができます。産後8週間でまず、しっかりと育休を取れるようにすることは、そちらのほうが取りかかりやすいという面もあるのですが、「そこで終わらせては駄目ですよ」ということを再確認しておく必要があると思います。

Ⅲ 2021年改正後の課題

取得率は上昇しても課題は残る

そのように考えると、今回の2021年の改正育児・介護休業法が施行されれば、今後、育休取得率の上昇が見込まれると思います。しかし、その後に、まだまだ残っている課題があるということも明らかになると思います。

期待できる効果をもう1回念押ししておきたいと思いますが、それは何といっても、パタニティ・リーブの部分、妻の出産直後に、育休を取る男性が増えるだろうということです。特に、もともと年休など他の休暇を使って休むことができていた職場の男性は、個別周知や取得意向確認によって、年休ではなく育休を取ろうと思うようになる。あるいは、分割取得できるのであれば、まず、短い期間で取ってみようかなと思うようになる。そういうことで、男性育休取得率が上昇していくことは容易に想像がつくわけです。

次の課題は育休の取り方

しかし、本当にそうなるのでしょうか。冒頭で述べた他の休暇・休業制度の代替関係がこれで解消するかというと、やはり、短い期間の休暇・休業という面では、年休のほうが取りやすい・使い勝手がいいという面は残るのではないかと思います。そうすると、次の課題は、他の休暇・休業制度では代替できない、育休ならではの休み方で子育てをすることを、いかに男性に、浸透させていくか、になろうかと思います。

さらに、その先の課題としては、ペアレンタル・リーブの部分もしっかり見据えて、男女雇用機会均等や女性活躍につながっていくような男性の育休の取り方が、浮上してくるのではないかと思います。

男性も育休の長期取得を

この点をシート5のデータで確認しておきたいと思います。すでに仕事を休んで子育てにあたったという男性が、どういった休暇・休業制度を利用したかというデータをみましたが、その具体的な取得日数と、平均値と中央値です。

平均値をみると一目瞭然ですが、育児休業制度は、年次有給休暇や他の休暇・休業に比べて、やはり取得日数が多いです。具体的な数値をみると26.2日ですので、1カ月近い日数になります。先ほど女性の育休は月単位で取るのが一般的だという話をしましたが、男性においても、育休ならではと言える取り方は長期取得であるという結論になると思います。

では、その長期取得をいつ取るのかと言ったときに、パタニティ・リーブを長く取ってもいいのですが、やはり本丸はペアレンタル・リーブです。

男性の取得で女性の復職を早める

女性が長く休むということが一般的になっており、特に子が1歳を超えた後、1歳半とか2歳までの延長部分も女性が連続して取っています。それだけ復職が遅くなっているわけです。ここの部分を、男性の育休取得によって短くしていく。できれば1歳を超える部分は男性が取り、さらにもう少し前の部分も男性が取っていくことで女性の復職を早めていく、ということです。これによって女性のキャリア形成支援につなげていくということを、本格的な課題と捉えて今後取り組むべきではないかと思います。

育休取得を自己目的化しない

これまでの育休政策は、男性育休についても取得率の向上に主眼を置き、取得者を増やしていくという量的なアプローチが基本的な課題でした。この問題については、改正法によって大きく改善すると思います。

今後は、取得率の数値を上げることだけに一喜一憂するのではなく、子育てしやすい職場づくりや、女性活躍といった目的をしっかりと見据えるべきだと思います。

育休取得率の数値を上げることが自己目的化するのではなく、男性が育休を取ることで、出産・育児を理由とした女性の働きづらさや休みづらさを解消できているか、また、早く女性が復職できるようになることで女性活躍につながっているかといったことをしっかりとチェックしながら、取得率の向上を図っていくということが大事だと思います。

プロフィール

池田 心豪(いけだ・しんごう)

労働政策研究・研修機構 主任研究員

東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程単位取得退学。職業社会学専攻。2005年入職、2016年より現職。厚生労働省「今後の仕事と家庭の両立支援に関する研究会」「仕事と育児の両立支援に関する総合的研究会」の委員を務める。男性育休については、2021年5月に衆議院厚生労働委員会の参考人として意見陳述。

GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。