事例報告 コロナ禍のひとり親支援──就労・生活支援の事例報告

講演者
赤石 千衣子
認定NPO法人 しんぐるまざあず・ふぉーらむ 理事長
フォーラム名
第115回労働政策フォーラム「新型コロナによる女性雇用・生活への影響と支援のあり方」(2021年6月25日-29日)

しんぐるまざあず・ふぉーらむ(SMF)は、シングルマザーと子どもたちが生き生きと暮らせる社会を実現することをビジョンとしており、会員が2020年3月末には年度当初3,100人から7,800人にまで激増しました。当事者中心の支援団体で、シート1のような事業を行っています。「イーヨ」という、子育てシングルを応援する情報サイトも運営しています。

2020年のコロナ禍でのSMFの緊急支援活動は、食料支援・就労支援、大規模調査、政策提言、そして他団体の支援の4分野について行いました(シート2)。今日は特に、食料支援・相談支援・就労支援と、調査についてお話しします。

2万4,000世帯に食料を送る

食料支援では、「だいじょうぶだよ!プロジェクト」という名で、お米や食品のパッケージ、肉や野菜、お菓子を延べ2万4,000世帯に送り、安心を届けてきました。寄付をしていただいた企業・個人の方へ感謝を申し上げます。

シート3のお子さんたちの写真は、お母さんが食料を受け取ったときにスマホで撮影し、感想フォームから送ってくれたものです。東北の生産者から、給食がなくなったときに売れなかった肉や野菜を購入させてもらい、それを送ったときの写真や、クリスマスにお菓子のパッケージを送ったときに子どもが本当に喜び合っている写真です。

2020年の4月は本当に大変でした。食料支援するときにアンケートを取ったのですが、「自分のご飯は2日に一度にしている」「子どもたちも私も、今は1日1食になりました」といった声がたくさん届きました。特に、ご飯を2日に1度にしていたお母さんは、授乳中のお母さんであり、本当に厳しい状況でした。

メール相談が激増し、年間で1,600件になり、「お金がないです、つらいです」「食品を支援してください」といった相談が、引きも切らず届きました。

休校・自粛でひとり親の生活が困窮

なぜ、それほどまでにひとり親はコロナ禍で困窮したのでしょうか。まずは一斉休校や自粛によって就労不能、就労の減少が起こったことがあげられます。非正規で働いているため、休業補償がほぼありません。感染時の子どもへのケア不足に陥ることに不安を感じ自ら仕事を自粛している人や、補償もなく、収入減になった人がいました。また、給食費が就学援助世帯に返還されないことなどで出費増になり、生活が圧迫されました。また、預貯金が少ないので、レジリエンスがなく、そのまま困窮しました。ひとり親の場合には、「平常時の不利」があります。それがコロナ禍のうえにさらに押しかぶさることになりました(シート4)。

シングルマザー調査プロジェクトを結成

その後、研究者に協力してもらい、シングルマザー調査プロジェクトを結成し、大規模調査、そしてパネル調査を行ってきました。2020年7月の調査(新型コロナウイルス 深刻化する母子世帯のくらし~1,800人の実態調査)では、7割が就労・生活への影響があったと答えています(シート5)。なお、これはJILPTの連続パネル個人調査(2020年5月)に質問文を合わせているのですが、JILPTの調査では「民間企業の雇用者」で45%が影響があったと答えていたと思います。また、職業別にみると、特にサービス職・販売職・生産工程職などが影響を受けていました(シート6)。

食料・衣料が買えないことが「あった」が3~4割あがる

2020年8月からの、毎月539人のシングルマザーへのパネル調査の結果からみていくと、 2021年3月の調査では、「家族が必要とする食料や衣料などが買えないことがありましたか」という質問に、お米などの主食が買えなかったことは「よくあった」「時々あった」と回答した人が、東京・東京以外ともに3割~4割いました(シート7)。肉や魚になると、「よくあった」「時々あった」とする人が半分以上にのぼります。

さらに、「小学生のお子さんのことで気がかりだったことがありましたか」との質問で、「体重が減った」という選択肢を選んだお母さんの割合は、東京では2020年の8月、9月には10%を超え、そして、2月も10%近く(9.3%)となっています(シート8)。小学生の体重は右肩上がりで、普通、平均的に減ることはありませんので、非常に厳しい状況がうかがえると思います。こういうなかで子どもたちは、学習についていけない、また、学校に行きたがらなくなったなどの状況が生まれています。

親の就労収入については、月額12万5,000円未満で働いている人が、東京・東京以外でずっと、40%~50%います。また、預貯金額が10万円未満の人が漸増しています。

調査結果をきっかけにITスキルの支援を企画

このように厳しい暮らしのひとり親を応援するために、私たちは仲間の団体と連携し政府や各党に働きかけ「ひとり親世帯臨時特別給付金」を支給することが決まりました。給付金を12月中に支給された回答者に、何に使うか聞いたところ、生活費、家賃や住居、そして子どもの学用品や年越しの費用など、本当に生活の支払いに充てていることがわかります(シート9)。

また、これは大規模調査の結果になりますが、PCやタブレットがないと答えている人が3割、接続料が不足していると答えている人が3割いました。私どもはこうした結果から、 PCがなかったり、デジタル化の流れに取り残されてしまう世帯をつくってはならないと早くから思い、何とかしてITスキルの習得を支援したいとプロジェクトを企画しました。

そこで、2020年12月から、ITスキル支援「わたし耀く」というスクールを開設しました(シート10)。完全オンラインで、「インターネットアカデミー」というスクールに協力してもらいました。Linuxの技術を学んだりすることで、インフラエンジニアやヘルプデスクなどになれる資格取得を目指します。毎週日曜日の午前10時~午後12時まで、オンラインの集合研修と各自の自習を組み合わせて、約4カ月のプログラムを行いました。パソコンはもちろん貸し出し、Wi-Fiも貸し出して、勉強の環境を整えました。

システム保守業務資格に10人が合格

資金提供は「みてね基金」(株式会社ミクシィ取締役会長の笠原健治氏が寄付する資金を原資に設立)から受けています。選考を通過したシングルマザー15人が参加しました。IT人材は不足している一方、シングルマザーは仕事に困っていることから、スクールを運営して資格取得を目指し、そして両者のマッチングができないかと考えました。

どうなったかというと、プログラムの結果、応募者が約90人おり、そのなかからある程度ワードとエクセルができる人に絞って、15人の参加者となりました。このなかから、システムの保守業務資格であるLPIC101の試験に受かった人が10人、そして102という2度目の試験に受かった人が3人でました。エンジニア転職・入社した人は2人でています。資格取得後もさらに応援して、転職をサポートしたいと思っています。

シングルマザーのAさんは、高卒で、IT未経験で、地方自治体の受付業務のパートをしていましたが、インフラエンジニアの正社員として転職し、就労年収を前職と比較して150万円アップさせることができました。今後もプログラムを改善しながら運用していきたいと思っていますので、協力いただける企業を募集しています。

「単語もわからない」からエンジニア転職も

受講生の声を少し紹介します。

「サーバーって何という状態から始まったので、最初は不安がとても大きかった。エクセルやワードを少しだけ活用できるだけだったので、本当に自分ができるのか心配だったけれども、将来性のある仕事をしたかったので、今回の機会に飛び込んでみることにしました。仕事への入社も決まったので、新しい職場でも頑張っていきたい」

「補欠で入ったので、最初は大丈夫かなと思いながらも、勉強に取り組んできました。コマンドプロンプトとか、単語すら知らない状態でしたが、だんだんわかるようになって、Ping-t(IT学習アプリ)をやっていてフライパンを焦がしてしまったり、子どもに『寝る時間だよ』と言うのを忘れたり、ばたばたな毎日でした。エンジニア転職もできて、結果的によかった。会社とは年収の交渉もできました」

担当者は1,000社以上に声かけ

プログラムは、若い20代の男性にお願いして、業務委託契約を結び、担当してもらいましたが、これが正解でした。私どものほかの職員は40代、50代の女性で、なかなか企画提案ができず、彼に提案してもらったのですが、しっかり活動を担ってもらいました。

彼は、コロナ禍、デジタル化に伴う産業構造の変革で、脆弱な職種に就いているシングルマザーが多いので、大きな職種転換の必要性を感じているといいます。1,000社以上のIT人材企業に声をかけ、マッチングしてくれました。

「わたし耀く」では、レベルの高い方向でのITスキル支援をしていますが、パソコンの電源を立ち上げることすら怖いというような人たち向けに、「スマイルアップ」という講習も、この6月から始めています。

「やさしく、楽しく、じっくりと、パソコンスキルを初歩から学ぶ」ということで、6カ月の研修プログラムで、イケア・ジャパンに資金提供してもらっています。パソコン検定〈マイクロソフトオフィススペシャリスト(MOS)検定〉やコンタクトセンター検定の資格取得も応援し、カスタマーサポートセンターの職員の面接が受けられるというものです。1人ひとりにメンター、伴走スタッフがついて、1人ずつをケアしていくというプログラムで、成果が期待されています。

プロフィール

赤石 千衣子(あかいし・ちえこ)

認定NPO法人 しんぐるまざあず・ふぉーらむ 理事長

シングルマザーと子どもたちが生き生き暮らせる社会を実現するために活動している。シングルマザーサポート団体全国協議会の代表も兼ねる。ひとり親家庭の支援の在り方に関する専門委員会参加人。法制審議会委員。著書に『ひとり親家庭』、共著に『シングルマザー365日サポートブック』などがある。

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