研究報告1 コロナ禍での女性雇用──マクロ統計とミクロ統計の両面から

講演者
周 燕飛
JILPT 客員研究員/日本女子大学 人間社会学部 教授
フォーラム名
第115回労働政策フォーラム「新型コロナによる女性雇用・生活への影響と支援のあり方」(2021年6月25日-29日)

本日はコロナ禍での女性雇用問題について、「シーセッション」と呼ばれる現象と、それに関連したマクロ統計とミクロ統計の結果を紹介します。最後に対策と展望をお話しします。

「シーセッション」と呼ばれるコロナ禍の現象

影響の大きい対面サービス型内需産業で女性が多く就業

コロナ禍は想像以上に長期化しています。2020年1月、中国でコロナウイルスの人から人への感染が公式に発表されて以来、日本国内でも感染の第1波、第2波、第3波と続き、現在(2021年6月29日)は第4波の真っただ中で、いまだ収束がみえてこない状況です。

各国は感染拡大を抑えるために、自国の経済活動を自粛、縮小するような対策を余儀なくされ、経済は大きな打撃を受けています。そのなかでコロナ禍の大きな特徴は、不況の産業に女性が集中しているという点です。

2008年のリーマン・ショックでは、外需型産業の不況が目立ちました。最も典型的なのは製造業の不況で、そのときは女性より男性のほうが大きな影響を受けました。しかし、コロナ・ショックの場合は、外需型産業の不況に加え、飲食や宿泊、生活・娯楽などの対面サービス型内需産業の不況が目立っています。こういった産業では、女性のほうが多く就業しており、雇用面で大きな影響を受けています。このことから、海外では今回のコロナ不況を、SheRecessionの造語である「シーセッション」と呼んでいる経済学者もいます。

一斉休校で子育て負担が増加

コロナ・ショックが過去の経済不況と大きく異なる点は、各国で小中高校や保育園、幼稚園などの一時休園・休校が行われたことです。日本も2020年3月~5月までの約3カ月間、一斉休園・休校が行われました。その間、子どものいる家庭では子育て負担が増加し、多くの女性は仕事か家庭かの二者択一の選択を迫られました。つまり、コロナ・ショックは、子どものいない女性よりも、幼い子どものいる女性のほうがより大きな影響を受けているのではないかと予想されます。

さらに、飲食業界の営業時間短縮や各家庭の外食の自粛によって、家事負担は増加しています。こうした家事・育児負担の増加は、男性と女性がフェアに分担しているわけではなく、多くの場合は女性がより大きな負担を強いられています。これが、男性よりも女性のほうが雇用の面で不利な影響を受けている要因の1つとされています。

そして、雇用調整の局面では、多くの企業は正社員の雇用を優先する結果、非正規就業者が調整の対象になりやすい。雇用者の非正規比率は女性が53.4%に対して、男性が21.7%と、女性のほうが圧倒的に高い。非正規比率の高さも、雇用面の不利な影響が女性に集中する大きな要因とされます。

深刻な女性の雇用問題:マクロ統計から

失業率はリーマン・ショック時と逆トレンド

続いて、マクロ統計とミクロ統計の結果を用いて、コロナ・ショックにおいて、女性の雇用問題が如何に深刻だったのかについて、詳しく説明します。

シート1はコロナ・ショックと2008年のリーマン・ショックのときの失業率の増加幅の比較を行ったものです。日本ではリーマン・ショックの時に、男性の完全失業率の増加幅は1.3ポイントだったのに対し、女性は0.9ポイントです。男性は女性より完全失業率の増加幅が0.4ポイント大きい。アメリカも同様に、リーマン・ショックのときは、女性に比べて男性の失業率増加幅が1.9ポイント大きかったのです。

一方、コロナ・ショック(2020年2月~7月)での失業率の増加幅を比較すると、男女差は日本では0.1ポイント、アメリカでは2.9ポイント、いずれも女性の増加幅が大きく、リーマン・ショック時と逆のトレンドを示しています。

女性非正規の雇用者数が大きく減少

シート2では、コロナ禍の開始前後の雇用者数の推移をみています。コロナ禍が始まる直前の2019年12月をt0期、2021年3月はt15期とします。このt0期の雇用者数を100とし、t0期からt15期までの月次の男女別雇用者数の推移をみると、男性の落ち込み幅は比較的マイルドである一方、女性は非常に大きく落ち込んでいます(左側の図表)。そして、この傾向は少なくとも10月までは続いていました。11月以降では、女性の雇用はある程度回復し、2021年3月のt15期においては、男性も女性もコロナ前の99%ぐらいまで回復できています。

一方、男女別正規雇用者の数(右側の図表)に注目すると、女性の正規雇用者数は2019年12月~2021年3月まで一貫して増加しています。男性の正規雇用者は、ほぼ横ばいであまり大きく変動していません。雇用者数が大きく減少しているのはやはり非正規雇用者で、特に今年に入ってから男性よりも女性の非正規雇用者数の減少が顕著となっています。

影響は業種によって大きく異なる

では、なぜ女性の正規雇用はコロナ禍でも増えているのか。それに対する1つの説明は、コロナ・ショックは、各産業に及ぼす影響がまちまちで、同じ方向ではないことが関係しているのではないかと思われます。

シート3では同じく2019年12月をt0期として、2021年3月のt15期までの主要な産業の雇用者数の前年同月比を表しています。「医療、福祉」の雇用者数はコロナ禍でも全く減らず、むしろ、コロナ前よりも増えている状況となっています。この業界は、コロナ前に有効求人倍率が約6倍になった時期もあり、慢性的に人手不足の問題に悩まされていました。コロナ禍は人材を獲得するチャンスだと捉えて、正社員雇用を拡大させている可能性があるのではないかと考えられます。また、「情報通信業」の雇用者数もコロナ前より伸びていました。

反対に、雇用者数の落ち込みが目立っている産業は「宿泊業、飲食サービス業」です。t0期からt15期を通して、100を下回っている状態がおおむね続いています。直近のt15期の雇用者数は1年前より13%も減少した状況です。同じく、対面型サービスがメインの「生活関連サービス業、娯楽業」も、第1次緊急事態宣言期間においては、雇用者数が大幅に落ち込んでいました。ただ、その後は「宿泊業、飲食サービス業」に比べれば良い状況になり、特に直近のt15期ではコロナ前の95%程度まで回復しています。コロナ禍は、「宿泊業、飲食サービス業」に与える打撃が特に大きいことがわかります。

深刻な女性の雇用問題:JILPT・NHK共同調査より

女性の休業者割合は男性の3倍以上

以上のマクロ統計は、深刻な女性の雇用問題が起きる背景を示しています。次に、今回のコロナ禍が女性の仕事と生活に与える影響について、アンケート調査の結果を用いて説明します。

JILPTは、2020年4月からコロナ禍に関する一連の調査を行っています。そのうちの1つはパネル調査で、5月に第1回、8月に第2回、12月に第3回、さらに2021年3月に第4回調査を行っています。こうした複数時点の調査を行うことによって、コロナ禍で女性の雇用状況がどのように変化したのかをダイナミックにみることができます。

それから、JILPTはNHKと共同で、2020年11月中旬に全国規模の調査を行っています。この調査は1時点のみですが、標本サイズが大きく、コロナ禍で仕事に影響を受けた人を多く調べています。本日は、この2本の調査の結果を紹介します。

まず、JILPTパネル調査の、第1回~第3回までの調査結果を説明します。特に注目して欲しいのは、シート4の左下の休業者の割合です。昨年の4月には、過去最多の休業者数が労働力調査から報告され、雇用者の10人に1人は休業者でした。JILPTパネル調査からもそれを確認できます。とりわけ休業者の割合には男女の格差がみられ、女性の休業者割合が男性の約3倍の高さとなっています。

同じくJILPTパネル調査の結果ですが、シート5の左側は週当たりの労働時間の推移、右側は税込月収の推移を表しています。コロナ前の通常月の水準を100とし、2020年3月~11月までの変化を示しています。

男性、女性全体、子育て女性のいずれも、労働時間が最も大きく落ち込んだのは、2020年5月です。ただ、男性の落ち込み幅が一番小さく、子育て女性の落ち込み幅が最も大きい。

2020年5月では、子育て女性の週当たり労働時間は、通常月の77%しかありませんでした。

右側の税込月収の推移をみると、男性は、昨年の4月に5%ほどの落ち込みがみられましたが、その後ずっと横ばいで推移しており、11月の月収はコロナ前と比較して2%程度の下落にとどまっています。一方で、子育て女性と女性全体は、税込月収についても男性より落ち込みが激しい。特に子育て女性のほうが、最も厳しいときには月収が12%も減少しました。

テレワークの実施割合にも男女差

シート6から、コロナ禍で在宅勤務・テレワークを行う男女が一時的に急増したことは確認できます。ただし、その後また元と同じくらいの水準に戻っており、テレワークがなかなか定着しないという課題が露呈されています。

コロナ禍で最もテレワーク率が高かったのが5月の第2週で、このときは男性の約34%、女性も2割ぐらいは週1日以上、在宅勤務・テレワークを行っていました。ただ、その後、第1次緊急事態宣言の解除とともに、テレワークを行う割合も下がり続け、男性はコロナ前よりわずかに高い水準、女性はコロナ前と同じ水準に戻ってきていることがわかります。

男性の家事時間が増加したものの女性の半分以下

シート7の家事時間、育児時間数の推移をみると、第1次緊急事態宣言の期間中においては、男女ともに増加しています。その増加幅はおよそ6%~10%ぐらいです。ただ、臨時休校や休園措置が6月初旬ごろに終了し、それに伴い家事・育児時間の長さはコロナ前に徐々に近づいてきました。12月現在では、女性の家事時間は通常月の102%で、男性は105%です。

ただ、絶対値でみると女性の家事時間数は現在も男性の2倍以上です。第1次緊急事態宣言期間中において、男性は女性より家事時間の増加率が高いものの、家事時間数の絶対値で比較すると女性のほうに負担が偏っているという状況は変わっていません。

女性の雇用の変化と現状、その理由

シート8はNHK・JILPT共同調査による結果です。それをみると、男性の18.7%、女性の26.3%が2020年4月以降に解雇や雇止め、離職、休業等いずれかの「変化あり」と回答しています。女性が「変化あり」と回答する割合は、男性の1.4倍です。非正規の女性に限定してみると、3人に1人は「変化あり」と回答しています。

また、「解雇・雇止め」、「自発的離職」、「労働時間半減30日以上」、「休業7日以上」といった項目別の割合を比較しても、男性よりも女性のほうが総じて「変化あり」が多い状況となっています。

シート9は、解雇や雇止めに遭った者の2020年11月時点の雇用状況です。解雇・雇止めになった後、男性全体では4人に1人、女性全体では3人に1人が「失業」または「非労働力化」となっています。男性よりも女性のほうが「失業」や「非労働力化」が進んでいることがわかります。特に非労働力化のほうが顕著で、非正規女性でみると16%も非労働力化となっています。

解雇や雇止めに遭った女性の3人に2人はその後、再就職ができていますが、気になるのは再就職した後の就業形態の変化です。左側の比較は、4月1日時点は正規だった雇用者のうち、再就職で非正規になった人の割合です。男性の12.5%に対して、女性はその2倍の24.3%です。女性は男性に比べ、解雇や雇止めになった後に非正規化になる割合が高いです。

続いてシート10では、労働時間の急減や休業の理由を尋ねました。子育て女性の5人に1人が保育園・学校の休園・休校、時間短縮があったためと回答しており、育児も労働時間減や休業の大きな要因となっています。

雇用に変化があったシングルマザーの10人に1人は生活に困窮

雇用に変化があったと回答した人は、どこまで経済的に困窮しているのでしょうか。女性は家庭の主な稼ぎ手ではないから女性の収入が減少しても家計はそれほど困らないのではないか、といった意見もあります。しかし、調査結果をみると、働いている女性がいる家庭では、女性の労働収入が世帯総収入の3割も占めていることがわかります。家計への貢献度が、正社員女性の場合は4割、非正規女性の場合は約2割となっています。つまり、私たちの思っている以上に女性の稼働所得が家計にとって重要です。

シート11は、「家での食費を切り詰める」者の割合を示しています。「変化なし」の有配偶女性は8.3%だったのに対して、「変化あり」の有配偶女性は29.0%で、11ポイントも差があります。つまり、女性の雇用悪化の有無によって、家計の食費の節約度が大きく異なっています。

なかでも特に厳しいのは、「変化あり」と回答したシングルマザーの人たちです。注目すべきは、シングルマザーの3割が食費を切り詰めていると答えている点だけではなく、家賃の滞納や公共料金の未払いが10%を超えているという点です。つまり、「変化あり」のシングルマザーの10人に1人は、家計がかなり逼迫した状況となっていることがわかります。

雇用の変化は精神的な問題へつながる

こうした雇用の変化が、女性の精神不安と強く関連していることも調査結果から確認できます。シート12では精神的に追い詰められていた割合、鬱病的な症状や傾向と診断された割合、それから、自殺を考えたことがあった割合を示しています。いずれの指標においても、やはり「変化あり」の女性のほうが精神的な不安度が高いという結果となっています。

コロナ禍での被害への対策と今後の展望

好況業種への転職支援を

コロナ禍が長引くことで、女性のキャリアに深刻なダメージを与えると、懸念されています。特に休業や失業が長引くと、これまで持っていた職業スキルや、仕事へのモチベーションを維持することが困難になると予想されます。そのため、このまま放置せず、何かの対策を考えなければいけないと思います。ここでは3つの対策をあげます。

まず、不況業種から好況業種への転職支援が必要だと思います。先ほどのマクロ統計の結果をみてわかるように、今回は不況の業種もあれば、好況の業種もあります。例えば、「医療、福祉」や「情報通信業」といった業種はコロナ下でも非常に強い雇用需要を示しています。求人が少ない業種から求人の盛んな業種への、円滑な転職支援が必要ではないかと思います。

次に、コロナ禍の収束を見据えて、これから成長していく見込みの業種や職種への参入準備を行うべきです。休業と職探しの期間を活用して職業訓練を行い、より良い仕事に円滑に移行できるよう手助けしていくことも重要だと思います。

最後に、勤労者の生活破綻を防ぐ支援策の拡充も必要です。特にシングルマザーなど、雇用面の変化が起きると、生活が立ち行かなくなる恐れのある家庭に対しては、所得支援策を強化する必要もあるのではないでしょうか。

コロナ収束後に女性が輝く社会を目指して

最後に展望を述べます。女性の雇用改善は、女性自身の精神的な不安を軽減したり、自殺を減少させたりする効果が見込めるだけではありません。デフレ経済の解消にも貢献できます。女性がもっと稼ぐことができれば、家計消費が活性化して、より良い経済の循環につなげていけるのではないかと思われます。そのため女性の雇用改善は、女性自身にとっても、経済全体にとっても大きなメリットがあります。

産業界にとっても、これから少子高齢化で労働力が不足になるなかで、女性活用は長期戦略です。コロナ禍で女性活用が一時的に停滞したとしても、その方向性が変わるわけではありません。コロナ収束後を見据えて、女性がもう一度輝きを取り戻せるような社会をつくっていかなければいけないと思います。

コロナ禍では、悪いことばかりが起きたのではありません。男性が家事・育児を担う機会が増加しました。特に第1次緊急事態宣言期間中には多くの男性が自分の家事・育児の時間を増やしました。これは、「男性は仕事、女性は家庭」という旧来の社会規範が変わっていくきっかけになるかもしれません。すぐに定着させるのは難しいですが、少しずつ、男性が家庭のなかに入って、女性と家事・育児を分担できるような社会をつくっていかなければいけないと思います。

プロフィール

周 燕飛(しゅう・えんび)

労働政策研究・研修機構 客員研究員/日本女子大学 人間社会学部 教授

労働政策研究・研修機構主任研究員などを経て、2021年より日本女子大学人間社会学部教授。大阪大学国際公共政策博士。労働経済学、社会保障論専攻。2007年度から女性の就業問題に取り組み、主な著書に『貧困専業主婦』(新潮社)、『母子世帯のワーク・ライフと経済的自立』(第38回労働関係図書優秀賞、JILPT研究双書)、『子育て世帯の社会保障』(共著、東京大学出版会)。

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