事例報告1 ソニーの新型コロナウイルスに関する人事施策と在宅勤務に関して

講演者
髙田 直樹
ソニー株式会社 エレクトロニクス人事部門 人事企画部 労政グループ 統括課長
フォーラム名
第114回労働政策フォーラム「新型コロナと働き方の変化─就業意識の変化と在宅勤務の動向に注目して─」(2021年3月5日-8日)

当社はおよそ11万人のグループ全体に対し、「クリエイティビティとテクノロジーの力で世界を感動で満たす。」という存在意義(パーパス)を掲げています。創業から75年を経た現在も、カメラやテレビ、イメージングセンサーを中心としたデバイス事業のほか、ゲーム、音楽、映画、そして金融関係まで展開しています。2019年度の業績は、売上高8兆2,599億円、営業利益8,455億円です。

多様な社員の成長を支援する施策

会社と社員の双方が互いに提供する対等な関係を

当社は、最も重要なステークホルダーの一つである人材を「群」ではなく「個」として捉えています。強い意志と自主性、成長意欲を持った個性あふれる社員一人ひとりに寄り添うことで、社員の持つ力が最大限に発揮されると考えています。

ソニーの人材に対する様々な施策の推進を支えてきたのは、創業以来の企業理念、企業文化にほかなりません。事業の多様化が進んでいても、個の尊重、自律と挑戦という理念、文化が今も脈々と継承されています。社員を対等に捉え、会社が社員を選ぶだけでなく、社員にも正しい選択としてソニーを選んでほしい、選んだからには期待に応えて貢献し、成長してほしいという考えが受け継がれてきました。

この社員と会社の関係を、基本人事理念として当てはめたものが、シート1の「選び合い、応え合う関係」になります。社員と会社の双方が選択肢を持ち、互いに期待するもの、提供するものを常に明らかにして確認し合い、対等な関係を続けるということが重要だと認識しています。

社員が挑戦し主体的にキャリアを形成できる施策を展開

当社は社員に対して、単なる福利厚生の施策ではなく、多様な社員の価値創造を最大化し、成長を支援するための施策を提供しています。自分のキャリアは自分で築くという考えのもと、個の力を最大限に発揮してもらうために、社員が主体的なキャリア形成を実現できるように、挑戦を後押しする様々な制度を用意しています(シート2)。

例えば、働き方、ライフプランの選択肢としては、社員が妊娠、出産、育児、介護、病気の治療といったライフイベントに直面したとき、仕事を継続しながら自分らしくキャリアを継続できるような仕組みを整えています。育児や介護に加えて、不妊治療やがん治療といった領域まで制度を拡大し、仕事との両立を支援する制度となっています。

職務、キャリアの選択肢としては、社内公募制度やキャリアプラス制度を導入しています。社内公募制度は、1966年より導入している、社員自身が自ら手を挙げ、希望する部署やポストに自由に応募できる制度で、上司の許可等は不要となっています。キャリアプラス制度は、本来の担当業務を続けながら、業務時間の一部を全く別の仕事に充てることができる新しいキャリア開発・成長支援制度となります。

また、成長、挑戦の選択肢としては、学びと成長の機会で、自主性をできる限り反映できるように設定しています。例えば、テクノロジーの追求を図る基礎技術研修では、各領域のトップレベルの技術者が自ら講師となってプログラムを開催しています。講師も受講者も自主的に運営されているからこその広がりを見せています。

コロナ禍での取り組み

健康・安全を第一に考えた施策を導入

こうした多様な社員の価値創造、成長を支援する選択肢の提供に加えて実施する、コロナ禍における新しい取り組みを紹介します。

まず採用関連では、先日、「ソニーグループキャリアフォーラム2022」という、ソニーグループ社員との交流、仕事説明会をオンラインにて開催しました。昨年から採用面接を全てオンライン化したり、内定者懇親会やインターンシップをリモートで開催したりと、オンラインを活用した採用活動を取り入れています。

研修関連では、当社で実施している基幹技術研修、階層別研修、新人技術研修といった、年間300講座以上用意しているコンテンツの80%をオンライン化しました。感染リスクの低減と、効率的な学びの場を社員に提供しています。

勤務関連では、在宅勤務に伴う諸費用、環境整備、出社時に必要なマスクや消毒用品などの購入の支援を目的とした、在宅勤務・新型コロナウイルス感染予防支援手当の支給を開始しました。月5,000円の手当を、2020年4月から全社員に支給しています。また、時差出勤やシフト勤務がしやすいように、コアなしフレックスタイムの導入を実施しました。

他にも、新型コロナウイルスに関連して、シート3のような人事施策を打ち出しています。事態の進展や政府の指針に応じて、社員の健康・安全を第一に考え、様々な施策を行ってきました。

コロナ禍にあわせて在宅勤務も柔軟に実施

当社では、時代の変化に伴い多様な制度をいち早く取り入れてきました。例えば、1995年からは時間ではなく成果という考え方の下、裁量労働制を定着・活用したり、直近では2020年に高度プロフェッショナル制度を導入しています。そして、在宅勤務制度に関しても、2008年から導入し、すでに10年以上運用しています。

在宅勤務制度の変遷は、シート4のとおりです。導入当初は、育児・介護との両立支援を目的にしていましたが、2016年以降は目的を組織の業務効率向上と社員個人の生産性・アウトプットの向上とし、対象者を拡充しました。さらに2018年には、フレキシブルワーク制度として進化させています。ここでは、1日在宅勤務ができる終日利用は月10回、在宅勤務をしてから出社する、または出社して午後から自宅に戻って在宅勤務を行うといった時間単位での在宅勤務の活用については、上限回数なしで利用できるよう、制度を大幅に拡充しました。

現在は、コロナ禍における特別対応として、終日の在宅勤務についても利用回数の制限を設けていません。そのため、業務上支障がなく、安全配慮の観点や、業務開始・終了時の連絡方法など、上司と確認が取れている社員に対しては、遠方に滞在している状況でも在宅勤務を可能としています。通常は都内のオフィスに出社している社員が、日本各地から在宅勤務を行っているケースがあり得る状況になっています。

また、サテライトオフィスに関しては、働く場の選択肢を増やすとともに、事業領域が異なるソニーグループ社員が集い、さらなる付加価値を生むことを目的として、新たな設置についても、現在検討を進めています。

コロナ禍以前の整備が現在のスムーズな対応にも活かされる

2020年春の緊急事態宣言下においても、当社は新型コロナウイルスの拡大以前から在宅勤務制度を整えてきたこともあり、スムーズに全社員が原則在宅勤務に切り替えることができ、トラブルは起きませんでした。また、在宅勤務下でよく言われるような、部下の顔が見えないから判断ができない、部下の成果が分からないといったマネジメントの声や、上司や同僚とコミュニケーションが取りづらいといった社員からの声に関しても、問題なく対処できていると考えています。時間ではなく成果の文化が醸成されていたことや、もともとオンラインによるコミュニケーションツールを利用していたことが、今回のスムーズな対応に活かされています。

一方、以前より制度を導入していたとはいえ、これほど長期間にわたって在宅勤務を基本とする働き方がメインになることは過去になかったため、社員の心身の健康状態を把握することが今まで以上に重要と捉えました。そこで、2020年7月に、ソニーグループ43社の約2万6,000人に対して、在宅勤務下における健康状態の調査を行っています。また、在宅勤務が長期化することを見据えて、2020年5月から現在まで継続して、心身の健康を保つ過ごし方などを掲載した「ウェルビーイングTips集」を社員に情報発信しています。

オフィスワークと在宅勤務の良い点を上手に活用する

当社では、社員の健康・安全を最優先に考え、2020年6月以降は、各社、組織ごとの出社計画に基づいて、出社と在宅勤務を併せた形で出社人数を限定することで、構内のフィジカルディスタンスが確保できる取り組みを実施しています。新型コロナウイルスが落ち着いた状況になっても、コロナ以前のように全員が毎日出社するような働き方に戻ることはないと考えています。

今後の働き方については、各社事業ごと、または職種ごとに新しい働き方を検討しているところですが、オフィスワークと在宅勤務のハイブリッド型になると推測しています。オフィスワークと在宅勤務のそれぞれの良い点をうまく活用することで、中長期的なニューノーマルな働き方のあるべき姿を、社員の声も聞きながら、議論し、決定していきたいと考えています。

プロフィール

髙田 直樹(たかだ・なおき)

ソニー株式会社 エレクトロニクス人事部門 人事企画部 労政グループ 統括課長

2007年ソニー株式会社に入社。入社後はソニー株式会社の新卒採用を担当。2010年にグループ会社に異動し、評価報酬、昇格、異動、育成、労務案件等、幅広く人事業務を担当。マーケティング研修やコーチング研修の導入や、ソニーストア福岡・ソニーストア札幌の出店時の人事を担当。2017年にソニー株式会社の人事企画部労政グループに異動し、ソニーの働き方改革、在宅勤務制度の拡充、不妊治療やがん治療における両立支援制度の導入等を担当し、2018年7月より現職。ソニー株式会社の人事制度の企画・立案、労働組合対応、M&A対応、法改正対応等、新型コロナウイルス対応の各種人事施策を担当。

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