パネルディスカッション

パネリスト
宇佐美 香苗、塩入 徹弥(大成建設株式会社)、白川 亜弥
コーディネーター
池田 心豪
フォーラム名
第109回労働政策フォーラム「仕事と介護の両立支援」(2020年9月2日)
パネリストの様子

コロナ禍の影響

池田 今日のパネルディスカッションでは、コロナ禍ということを少し意識してディスカッションをしたいと思います。

介護という営みは「密」を伴いますから、例えばデイサービス等の介護事業所でコロナをきっかけに十分なケアを受けられないという問題が起きています。一方、テレワークをすることで同居している家族の介護に当たれるようになったという例もあり、テレワーク等の新しい働き方と介護という営みは関連性も深いと思っています。今日は3社から、まさに足元で起きていることについて、率直な実感を伴うお話をいろいろ伺えたらと思っています。

事例報告を聞くと、3社とも情報提供や相談体制を両立支援のシステムに組み入れ、その情報提供のなかに介護保険の知識を持つ地域包括支援センターや、大成建設さんで言うとケアマネージャーと面談するときに使えるカードのようなツールを開発するなど、介護保険と会社の制度をうまく組み合わせて両立を図っていくという基本的な考え方があることが分かりました。

コロナの問題が起きて、介護保険のサービスが十分に使えないとなると、家族が介護しなければいけなくなるわけですが、遠距離介護になると今度は県をまたぐ移動ができないという問題が出てくるとともに、家族のところに行ったはいいけれど、高齢者の感染リスクがあることを考えると、頻繁に会社との行き来をすることに不安を持つ社員も出てきます。こうしたコロナの介護への影響について、思い当たることがありましたらお話しいただきたいと思います。

在宅勤務で介護休暇取得者が減少

塩入 介護の取り組みを常に良くしていこうと社員のアンケートを取っているのですが、働く場所と時間の柔軟性を求める声が上がりました。場所についての対策はテレワークの推進だと思っていましたし、時間については、できるだけ休まずに介護でできる制度を整えようということで、有給の介護休暇を時間単位で取得できるようにしたところ、初年度からかなり取得者が出て、それも年々増えてきました。30分単位など、もっと短い単位で取りたいという希望も出てきています。

しかしコロナの影響で、悪い面も出てきました。介護休暇取得者の数が減ったのです。在宅勤務を強制的に進めたということもあり、そのおかげで休暇を取らなくても介護ができるようになったのかなと推測しています。これにより状況把握がしづらくなり、次のステップに進みにくくなったという影響もあります。

テレワークの条件が緩和されて取得の後ろめたさが減少

一方、良い影響として、それまでテレワークは育児・介護や病気の治療に限定されていたのですが、今回その条件を緩和してテレワークができるようになったので、いろいろな部署でテレワークが進むことになりました。条件設定がなくなると、これまで育児や介護目的で取得したかったのだけれども、自分たちだけが利用するのは気が引けると考えていた社員の、取得することに対するハードルも低くなるかなと思っています。

また、定期的にセミナーを開催して情報提供していましたが、人を集めてのセミナーは難しいので、オンラインセミナーで行うようにしました。録画したものを一定期間、自由に視聴できる方式なので、社員が家族と一緒に見ることができ、情報提供がよりスムーズに進むきっかけにはなったと思っています。

介護施設への入所延期や中止にあう社員も

宇佐美 コロナの影響で聞かれるようになった社員からの声としては、施設入所がもうすぐだったのが延期になったとか、新規に入所申込みをしようと思っていたが受付が中止になったというような内容がありました。それから、デイサービスやショートステイが減ることに伴い、訪問ヘルパーさんを家に呼ぶことが多くなるなかで、訪問ヘルパーの予約が取りづらいといったような声も上がっていました。

良かった面としては、テレワーク中心の業務が多くなったので、在宅での介護サポートがしやすくなったという声が聞かれます。また、介護施設にいる親に年に数回しか会いにいけなかった社員が、施設がリモート面会を始めたことで、1カ月に1回は会話ができるようになったというような声も聞かれるようになりました。

融資制度も立ち上げ

当初、会社として、社員の経済的な負担が多くなって費用が必要になるのではないかという懸念から、使用目的を限定しない融資の体制を整えました。

テレワークの利用が増えたことでは、急に介護休暇の申請が増えるというようなことはありませんでした。テレワーク自体は従前から事由を問わず使えたのですが、使っていない社員が多く、これを機に使う社員が増えたという点はプラス効果だと感じています。

勤務時間が短くなり半日有給の取得が不要に

白川 コロナの影響はあまり聞こえてきてはいませんが、遠距離介護をしている社員からは、今、帰れる状態ではないという話を聞きます。

私事ですが、母が認知症になって、ちょうど1年前からグループホームに入所しています。施設の方針で面会中止になり、3月から全く会えない状況です。ただ、差し入れを持って行った時に窓越しに顔は見られ、元気にしていることは分かります。施設のなかで守られていると思えば、安心できるという面もあります。

当社の場合、業務形態としてテレワークがしづらいのですが、コロナ対策として、勤務を2班に分けて、班ごとの勤務時間をこれまでよりも短くしました。それにより、半日有給を取らなくても介護のやりくりができるようになり、そういう意味では良かったという声が社員からは聞こえてきています。

2班での交互出社などの工夫を

池田 コロナの感染リスク対策で、テレワークという話も出ましたが、介護をしていない社員を含めて気をつけていたことなどありましたら、補足的に情報提供をいただけたらと思います。

塩入 感染防止で言えば、1番はやはり在宅勤務なのですが、急に家で仕事をしろといっても体制も整っていませんし、できない仕事もありますので、2班に分かれて交互に出社したり、出勤時間を少しずらすなどの工夫をしました。現場では朝8時から朝礼を行っていますので、早く会社に来ることに慣れている社員も多く、かなり早い時間から会社に出勤する社員もいました。早い時間は当然電車も空いて感染リスクが下がりますので、そういう働き方は内勤部門ではかなり行われていました。

機内では低い感染リスク

宇佐美 機内は非常にクリーンな状態であり、感染リスクが低いと考えています。3分で全ての空気が入れ替わります。通勤時の感染リスクの方が高いように思います。現在は、特に国際線は大幅な運休と減便が行われており出社すること自体が少なくなっています。今後、便数が戻った時に、経済とコロナの感染リスクのバランスをいかにとっていくかは、課題の一つだと捉えています。

仕事場の各テレビ局で感染対策

白川 社員はほとんど現場のテレビ局に直行直帰しますので、会社としての対策というより、各テレビ局のセクションのなかでそれぞれ対策が取られています。テレワークができる業種ではないので、社員には心理的負担が大きいかなと心配しており、社員に「ごめんね、こういう時期で働いてもらって大変だけど」みたいな話をすると、通勤時間がずれていて電車に乗る人が少なかったりして、「結構楽です」みたいなことを言われることもあり、安心というかありがたいと思っています。

また、総務部門では、在宅勤務を週に2日ぐらいずつ交代で取ってもらったりしています。

池田 先ほど白川さんは、御家族がグループホームに入っておられるとおっしゃっていましたが、例えば御自身が仕事上で感染リスクがあるとしたら、会えないのは寂しいけれども、会わないほうが良いと思うこともありますか。

白川 もちろんあります。私は埼玉から東京・渋谷に通勤していて、感染リスクは大変高いのかなと思っています。タイミングとしては、変な話、絶妙だったなと思っています。ちょうど1年前に母が入所したのですが、私が毎日通勤しながら母を見るということはかなり厳しい状況だったと思いますし、それで、慌てて施設を探そうと思ってもコロナのことがあって多分見つけることはできなかっただろうと思っています。

遠距離介護でもテレワークが有用に

池田 コロナが起きる前から偶然取っていた対応が、状況にうまく合致したという経験をお持ちの方も当然いらっしゃると思うのですが、大成建設さんとANAさんでは、遠距離介護の問題に前々から対応されていたと事例報告にありました。コロナと遠距離介護について、何か思い当たることがあったらぜひお話を伺いたいと思います。

塩入 コロナが流行した初めの頃は、県をまたぐ移動はするなということが言われました。そのせいでコロナ以前より遠距離介護が難しくなりましたが、介護をしている社員は、せっかくだから親元に行った際には以前より効率的に過ごしたいと考えるようになりました。実際に遠距離介護者で、小回りの利く介護休暇を取ったり、テレワークを利用して、水曜日に仕事が終わってから地方にいる親元のところに行き、木、金はテレワークで仕事をしながらお医者さんやケアマネの方と話し合う時間を取るなどの対応ができたので、社員からは「助かった」という声がありました。

宇佐美 遠距離介護については、当社の場合、コロナ前後で状況にあまり大きな差はなかったのかなと感じています。一方で、テレワークが進んだことで、1回地方の実家に帰ったらすぐに戻らずに、わりと長い時間、実家で仕事をするということもできるようになりました。そういう意味では、コロナ後も新しい働き方として定着していけばいいなと感じています。

池田 白川プロさんでは、遠距離介護をしている社員の方はいらっしゃいますか。

白川 はい、現在1人おります。緊急事態宣言が解除されてすぐのタイミングで介護休業を取って、今はまだ地方にいるという社員がおります。

池田 その方とは復職の見通しについて、どういうふうにお話しされていますか。

白川 まだ親御さんの状況が安定しておらず、コロナとは関係なく復職の見通しが立っていない状況です。

孤立する社員が出ないように目配り

池田 コロナが介護離職と関連するのかということを、当機構では一つの問題関心として持っているのですが、コロナをきっかけに仕事を続けることが難しくなった社員や、離職のおそれがある社員などは出ていませんか。

塩入 直接コロナとの関係で、仕事が続けられないという話は聞こえてはきていません。

宇佐美 当社も直接的な離職事例はないですね。逆に、遠距離介護で帰れなくなった人も、ただ地方に実家がある人も同じ状況になったということで、1人暮らしの社員を含めて会社のなかで孤立する社員が出ないようにという目配り、気配りをするようになりました。

白川 当社でもコロナ離職という話は全く聞こえてこないのですが、いま離職してしまうと、この後、社会情勢的に再就職は難しいだろうなと考えると、絶対に会社は辞めないほうが良い。もしそういう話があっても必死で止めたいと思います。どんな働き方でも、休業・休暇を取りながらでも、働いていった方が良い。

健康相談での介護の話を専門窓口につなげる

池田 話題をコロナに寄せ過ぎて、少し強引過ぎる印象を持たれるかもしれないのですが、私の研究報告にあったように、介護をめぐる問題ではいろいろなニーズが起こり得るわけで、ある程度共通する制度を整えておけば、それで対応できるということでもないと思っています。

白川プロさんでは、どう両立していったら良いのか分からなくて、手詰まり状態になった社員のために適切な相談体制を整えることで、両立できる見通しが持てるようになったという話がありましたが、3社の取り組みを聞いて相談体制がとても丁寧に整備されているという印象を受けました。相談体制をつくるに当たって何か工夫されていることとか、内部窓口と外部窓口の使い分け、社員の多様なニーズにどう対応するかなど、工夫していることがありましたら伺いたいと思います。

塩入 取り組みを始めたときは、人事で相談を受けていたのですが、相談者が増え、内容が高度になってくるとさすがに人事では答えられなくなってきましたので、今は外部の専門の組織にお願いして対応しています。

外部組織の方には定期的に会社に来てもらって、社員が仕事中に短時間抜けて相談できるようにしました。そのうち、外勤社員も相談できるようにしようと考え、コロナの影響が広がる前からオンラインで相談ができるようにしました。

また、定期的な健康診断や、社員が産業医と面談するときには、産業医のほうから何か悩みがないか聞いているのですが、本人から介護に関する話が出たら、本人が相談窓口の存在を知らないケースもあるので、「こういう相談窓口があるからここに話してみたらどうですか」と紹介してもらうことも行っています。

社内に介護コンサルタントが置けないか

宇佐美 その点については、社内窓口と社外窓口で使い分けができると良いと考えています。まだ、介護をしていることを言うことで不利益を受けるのではないかという、根拠のない不安を持つ社員もいますので、そういった場合に、社外の相談窓口できちんとプライバシーが守れる形にするのが大事だと感じています。

社内の制度にも熟知していて、社外の誰もが使える制度についても理解している人がいたら良いのではないかということで、実は5年ほど前から、そうした社員の配置を検討していたのですが、なかなか難しく、実現していません。ANAグループのなかにもいろいろな会社があり、会社ごとに介護の制度も違いますので、この会社ならこの制度が使えるとか、ここでは使えないので他のグループ企業に異動する方が良いとか、そうしたきめ細かな対応ができるように、社内にこうした介護コンサルタントのような社員がいたらと良いなと思っています。

一人の相談員がワンストップで対応

白川 当社では、女性の介護相談員がおり、ほとんどワンストップという形で、困ったときには彼女に相談すれば良いという意識がみんなのなかにあります。社員が直接彼女に電話をかけてくることもあれば、上司が相談を受けて、それを会社に伝えて彼女から電話してもらったりしています。会社の勤務に関する相談であれば上司と会社の上層部で解決策を考えますし、外部のアドバイスが必要であれば契約している業者さんの相談窓口につなぎます。

1人の相談員にしてしまうことで、逆に相談がしやすいという面があります。ただ、今ふと思ったのですが、彼女にもし何かあったらうちの会社はどうなってしまうんだろうと、ちょっと怖くなってしまいました。

100%賃金補償では不公平に思う社員も

池田 最後に少し制度の話をしたいと思います。2016年に改正した育児・介護休業法は、実は5年後に見直すということになっていて、来年の2021年がちょうど5年後に当たります。そこで、政府への要望も含めて制度に関する御意見を伺いたいのですが、工夫を凝らした制度として私が面白いと思ったのが白川プロさんの介護休暇で、年10日介護休暇を付与し、8割の賃金補償をつけている。10割ではなく無給でもないというところが興味深いのですが、どういった理由でこのような内容にしているのですか。

白川 やはり社員が一番心配しているのはお金です。休みを取ってもお給料が入ってこないと、社員にとっては大きな負担になる。何とか会社のほうで補償できるものはないかということで考えているのですが、介護休業に関しては給付金でカバーされる93日を超える制度はまだ考えることができていません。休暇に関しては、100%の有給休暇として与えることも可能ですが、休暇を利用しない社員のなかには「自分たちは休暇を取らずに働いて、勤務をやりくりしながらやっているのに、100%の有休をもらうのは不公平だ」と思う人もいる。そういうなかでの落としどころが8割ぐらいなのかなということで、8割に決めました。

分単位で取得できる制度へのニーズが

池田 本当に現場感覚で工夫して制度設計したんだなと率直に思います。大成建設さんもANAさんも、それぞれ現場の声を聞いて制度改定をされていると思いますが、こういう内容が社員から要望として出ているとか、また政策的にこうしたところで背中を押してくれると会社としてもやりやすいなどの政府への要望がありましたら、お聞かせください。

塩入 育児・介護休業法の改正で、これから介護休暇は時間単位で取れるようになりますが、当社ではできるだけ細切れで長く使いたいという社員のニーズもありますので、さらに30分とか15分単位で取れるような制度も面白いのかなと思います。

また、ケアラー、いわゆる介護をする人たちへの支援というのも法律にきちんと取り入れたほうが良いのかなと思います。私は介護離職の防止のキーマンは職場の上司とケアマネだと思っています。上司への働きかけは会社でできますので、介護者支援が義務化されると、上司に対して会社もいろいろな情報を提供したり、人事も交えて三者面談するというような取り組みが行われるのではないでしょうか。

分割取得の細分化も

宇佐美 当社の場合はシフト勤務で働く社員が多いので、「短時間勤務」に加え、働く日数を少なくする「短日数勤務」という働き方が育児の場面でもニーズが高いです。育児のケースでは5割や7割勤務など、選択することができます。介護事由でも同様に選択が可能ですが、そのバリエーションを増やすことで、より働きやすい制度になるのではないかなと思っています。

白川 介護休業に関して言えば、今、分割取得が3回できますが、30日ずつ、10日ずつなどもう少し細かく分けて取れるようになるとありがたい。また、93日ではなく、半年ぐらい給付金で保証していただけると、社員としてもとても助かるのではないかと思ったりはします。

池田 介護休業の日数については、前回の改正のときにも議論になりました。白川プロさんの事例報告で、介護休暇の10日に所得補償をつけるというやり方が面白いと感じたのは、介護休業は、結局トータルで何日あれば足りるかが分からないのです。今の窮地をしのぐために、細切れなら使いやすいとか、介護休暇日数を増やしてそこに所得補償をつけるとか、いろいろな選択肢や考え方を取り得る問題だと思います。

既存の制度を単に大きく手厚くするということだけではなく、現場の声を吸い上げて、創意工夫のなかで両立支援をしている企業の取り組みが、この後の法改正や政策にも役立てられる場面が増えてくるのではないかという感想を持ちました。では、クロージングとして、仕事と介護の両立について、総括的に思っておられることを一言ずつ伺いたいと思います。

いつでも相談できる職場をつくりたい

塩入 介護離職防止にいろいろ取り組んできましたが、ゼロになったわけではありません。各個人の考え方もあるので難しいのですが、最後の最後になって相談に来るのではなく、いつでも遠慮なく相談ができる職場環境になるように、「会社は本気で社員の介護離職を防ぎたいと考えている」というメッセージをきちんと伝えていくことが基本なのかなと思います。今後も継続して取り組んでいきたいと思っています。

宇佐美 コロナ禍になって急に介護の制度を利用する社員が増えたというわけではなかったのですが、この状況のなかで、自分自身の働き方や生き方を考える良いきっかけになったのではないかと感じています。要介護者と介護する側の両方が自分らしく働けるようにしていくことが重要だと思っており、そのために会社側が何ができるかというと、正確な知識の付与と、柔軟な働き方の選択肢があることが有効なのではないかと思っています。このコロナをきっかけに、こうした点について改めて制度設計も含めて考えていきたいなと感じました。

一人ひとりの顔を見てこれからも対応

白川 今年、社員数が300人を超えました。300人ならぎりぎり、社員の一人ひとりの顔が見えて、個人に合った支援をしていけると思っています。会社の制度の引き出しをもう少し増やして、ウィズコロナの時代になればそれに対応した取り組みや支援も必要になってくると思いますので、カフェテリア方式のように社員が制度を組み合わせて活用できれば良いと思っています。法律が改正されて取り入れられるものもあると思いますので、アレンジしながら対応していきたいです。

池田 労働政策フォーラムでは今回を含め、仕事と介護の両立支援を3回取り上げてきました。私はこの3回とも登壇して企業の方とディスカッションしているのですが、当事者の声が会社に届くようになってきているなという印象を持ちました。当事者の声を踏まえた取り組みが本格的に進みつつあると感じています。

2025年に団塊世代が75歳を超えると、いよいよ大介護時代に入りますが、コロナの問題がこのタイミングで起きたことによって、テレワークで介護に対応しやすくなることが分かるなど、仕事と介護の両立支援では一つ潮目が変わったなという印象を持っています。ぜひ4回目の企画ができたらと思いました。今日は、どうもありがとうございました。

視聴者からの質問

今回の労働政策フォーラムは、オンラインでの開催に伴い、事前に報告を視聴した参加者から質問を募り、パネルディスカッションの冒頭、主立った質問に対し、パネリストに回答してもらう形を取った。以下、その模様についても紹介する。

自立重視の介護をする当事者の実情/JILPT・池田主任研究員

私の研究報告では、献身的介護と自立重視的介護という枠組みを示して短時間勤務のニーズとの関係を分析した結果をお示ししましたが、この自立重視的介護の内容について、もう少し踏み込んだ説明が欲しいという質問を多数いただきました。認知症がある場合にはどうなのかとか、介護ストレスとの関係はどうなのか、あるいは家族構成との関係はどうなのかなどです。

この自立重視的介護ということを思い立ったきっかけは、要介護状態が軽い人を介護している皆さんが意外と普段どおり働いていて、例えば認知症がある場合でも、1日1~2時間であれば家でテレビを見ながら待っていられるというような方や、多少の時間だったら1人で過ごせるという方を介護している場合では、急いで帰って介護をするよりも定時まで働くという話を聞いたことがあるからです。自分のヒアリング調査でも、「デイサービスから早く帰ってくるのに早く帰らなくていいんですか」と聞いたら、「大丈夫なんですよ、自分1人で過ごせていますから夕飯の準備に間に合うように帰れば大丈夫なんです」と答えるケースがありました。「本当にそうなのかな」と思い、改めてアンケート調査で取り上げてみたわけです。

今日の報告内容は、2020年3月に公表した労働政策研究報告書No.204『再家族化する介護と仕事の両立』の第3章で詳しく分析していますので、私の報告に関心を持たれた方はぜひ、読んでいただきたいと思います。

設計部門にはテレワークを積極的に導入/大成建設・塩入部長

「コロナの影響で在宅勤務が増えましたが、現場とのすり合わせの仕事が多い設計など、在宅でできたのでしょうか」という質問がありました。もともと設計部門では働き方改革の一つとして、テレワークを積極的に進めようと考えていましたので、コロナの影響が出てきた今春以降、「これはちょうどいい機会だ」ということで、テレワークを社内で1番積極的に進めました。これまでは現場に出かけていって打ち合せをしていましたが、現場に行かなくても打ち合わせができるシステムを社内に用意していましたので、それらを使ってある程度の業務はそれほど問題もなくできたのかなと思っています。

また、「施工管理職でも、介護の制度をうまく利用しながら仕事ができるのでしょうか」という質問もいただきました。実際、現場でも介護をしながら働く社員はいます。ただ、介護が頻繁になってくると、限られた人数で現場を運営していますので、施工管理が難しくなる場合もあります。そのような時は、配置転換をするなどの配慮をしています。

現場でのテレワークに関しては、さすがに現地で監督しなければいけないので、思ったようには進んでいませんが、現場でも書類整理や積算、次の工程の計画を立てたりする仕事がありますので、そうした仕事を在宅でできないか試行している最中です。

新任以外の管理職にもeラーニングを拡大予定/ANA・宇佐美部長

ご質問いただいたなかから3点お答えしたいと思います。まず一つ目が、「新任管理職へのeラーニングの教育について」です。これまで社内でセミナーなどを実施すると、「こういった話は管理職には絶対聞いて欲しい」という意見が非常に多くありましたので、管理職用のeラーニングを作り、今年度から新任管理職の研修の必須項目として導入しました。質問のなかに、「新任だけではなく、既に管理職になっている人も受講すべきではないですか」という指摘もありました。おっしゃるとおりと考えており、現段階では、新任管理職は必須、それ以外の管理職は任意で受ける形となっておりますが、ここを必須の体制に変えていきたいと考えています。

二つ目の質問は、「相談窓口の利用方法について」ですが、社内と社外に相談窓口を持っており、社外の相談窓口は2通りの利用方法があります。一つは、いつでもメール・電話等の連絡で相談に乗ってもらえるという体制で、もう一つは、定期的に相談会を実施しています。相談会の長さは30分から1時間ぐらいで、予約制です。社員本人プラス家族も相談できます。社内の相談窓口にはまだちょっと言いたくないとか、より専門的な相談をしたいと思う人が社外相談窓口を利用しています。

三つ目の質問は「介護に関わる取り組みに関して、どれくらいの社内資源のボリューム感でやっているか」というものです。ANAホールディングスは社員がグループ全体で4万5,000人ほど、そしてANA本体では1万7,000人ほどいますが、介護担当は3人ほどです。内訳は、1人が雇用延長のシニア社員、あとの2人が一般職で、1人がフルタイム勤務、もう1人が短時間(5時間)で働いている社員です。それから「そうした社員のスキルや経験は」という質問もいただいていますが、スキルについては、キャリアコンサルタント国家資格を持っている者もいますし、介護経験がある者もいます。外部に依頼している専門家や業者の数についても質問をいただきましたが、大体3、4社にお世話になりながら進めている状況です。

1人では無理なので外部の力も借りる/白川プロ・白川社長

いただいた質問のなかから、二つほどお答えしたいと思います。まず、「介護の両立支援を始める際に、その活動の中心となる社員はどのように知識をつけられたのでしょうか。本日のフォーラムのようなセミナーなどに参加するところから始めたのか、外部コンサル等の支援を受けながら始めたのですか」という内容です。介護支援に関しては私が提案しました。その頃、私はまだ平の取締役で、役員会でこういうことをやりたいですというような話をしたら、「いいんじゃない、じゃあやってみなさい」と言われ、全部を任されることになりました。インターネット、書籍、雑誌などから情報を仕入れるとともに、フォーラムやシンポジウムなどにも参加して勉強しました。

最終的にたどり着いた結論は、自分1人では無理だということです。私1人で何とかなるものではないということがしみじみ分かりましたので、報告でも触れたように介護相談員を社内で任命し、その社員にも手伝ってもらいながら、セミナーや相談会については外部の力を借りて行っているという状況です。

もう一つの質問は、「複雑な有給休暇制度もあるなかで給与計算管理を担当し、キャリアカウンセラーの資格も取得した総務経理担当者の負担に対して、会社として具体的にはどのような対応を取ったのか教えてください」というものです。介護相談員の社員は大変優秀で頑張り屋さんです。当社では、実際に総務の仕事をしている社員は6人しかいないのですが、そのなかで介護相談員の社員がシステムに関しても会社の制度についても1番分かっています。給与システム等のアレンジもその社員がやってくれており、負担が大きいこともあって、今年、給与計算を担当する新入社員を入れました。社員の数も増えてきて、介護の相談件数も増えてきているので、介護相談員の社員にはそちらに力を注いで欲しいと思っているところです。