事例報告 若者の離職と職場定着について

講演者
杉橋 光博
エム・ビー・エーインターナショナル株式会社 代表取締役
フォーラム名
第108回労働政策フォーラム「若者の離職と職場定着について考える」(2020年2月13日)

私たちはゲーム業界、IT業界でビジネスをしているソフトウエアの開発会社です。「日本一ホワイトなゲームメーカーを目指す!!」ということを掲げています。

当社がそのように考えている理由は三つあります。一つ目は、これまで培ったスーパーファミコン以降のほぼ全てのハードのゲームや、60個以上のオリジナルアプリの開発におけるノウハウを活かしたいと思っていること。二つ目は、社名にインターナショナルとあるように、将来的には海外展開をしたいと考えているからです。まずはアジアからと思い、現在は中国、タイ、ブラジルの方を採用しています。そして三つ目は、今回のテーマと重なりますが、活躍したくなる環境を作りたいからです。ブラックな働き方を何とかしようと努力しました。その結果、2018年3月には、若者が働きやすい環境の企業として、厚生労働省からユースエール認定企業に認めてもらいました。ゲーム業界では初めての認定となります。この制度は毎年更新しないといけないので大変ですが、現時点で3年続けて認定されています。

社員の退職はノウハウや売り上げを失うこと

常にチャレンジし続けるために、楽しんで働く「Enjoy Working」、プラス思考で物事を考えて行動する「Positive Action」、ゲーム業界のオタクイメージを崩し、見た目も中身も格好良くする「Good Style」という三つのビジョンも掲げています。入社したての社員にも積極的に開発に取り組んでもらっており、2019年秋に行われた東京ゲームショーでは、新入社員3人が開発したゲームを出展しました。直近でリリースしたアプリゲームも、タイやブラジル出身の社員に取り組んでもらいました。現在社員は52人でほぼ新卒です。平均年齢も26.29歳ととても若い会社になりました。

私が社長になる前は、本当にブラック企業でした。開発会社ですが、客先に常駐して仕事をするスタイルなので、社員は自宅と客先を往復するだけで、給料だけ当社から毎月支給されていました。そのため、働いているうちにだんだんと帰属意識が下がってしまい、退職につながっていました。社長になる前はそういったことも仕方ないとあきらめていました。しかし社長になった後にこの状況を真面目に考えてみたら、新卒で入って10年ほど勤務した社員が辞めるということは、10年分のノウハウや売り上げが一瞬にしてなくなることと同じだと気がつきました。会社にとってはダメージが大きいので、何とか改善しなければと考え、様々な改革を始めました。

チーム制やリーダー制で社員の帰属意識を高める

まず、根本的な改革として、就業規則、賃金体系、昇給ルールを作り直しました。財務体制も社員に見えるようにして健全化を図り、銀行に融資を受けるなど強化しました。

次に、体制改善を行いました。例えば、東京都中小企業振興公社に依頼して毎月1回、コンサルタントを無料で派遣してもらっています。最初は、何から手をつけていいのか全くわからない状態だったので、コンサルタントに相談をしたところ、社員がばらばらで組織化されていない点を改善するのはどうかとアドバイスを受けました。そこで、ゲームを作りたい社員、IT系のシステムに携わりたい社員、デザインをしたい社員というように、カテゴリーに分けてチームを作りました。各チームでリーダーとなる社員を決めてもらい、月1回のリーダー会議を通してアイデアを話し合ってもらいました(シート1)。

リーダー制度のおかげでリーダーとメンバーは仲良くなってきましたが、メンバー同士の交流はなかなかありませんでした。そこで、他社をいろいろ研究し、毎月1回帰社日を設定して、社員に会社に集まってもらうことにしました。何か目的がないと難しいと思ったので、リーダー同士で話し合っていろいろ知恵を出してもらいました。一番効果的だったのは夕飯を出すことです。毎回夕飯を出すようにした結果、参加者がだんだん増えてきました。

せっかく好きな仕事ごとに応じてチーム分けしているので、何か作ってみれば良いのではないかと考え、チーム制作プロジェクトという取り組みも始めました。これは6カ月間でそのチームメンバーで好きなものを作り、最終月にそれぞれのチームでプレゼンをして、皆でどれが面白かったかを投票するものです。優勝チームにはちょっとした賞金も用意しました。この取り組みが活かされて、現在5本のゲームが開発されています(シート2)。

当社では、社内イベントも定期的に行っています。特に新年会はこだわっていて、5年前から実施しています。始めた時は、新年初めだからとりあえず集まって、社長が新年の挨拶をして社員に近況を発表させて、神社にお参りしておしまいという流れだったのですが、2019年からは内容を刷新しました。午前は社長の挨拶や社員の発表の場としますが、午後は先ほどのコンサルタントの方にセミナーをしてもらったり、セキュリティに対するクイズやお年玉争奪ゲーム大会などを開催したりして、盛り上がっています(シート3)。

インターンシップで業界や職場への理解を深める

体制改善に付随して、採用方法も変えました。私はもともと営業職だったのですが、今は採用をメインで行っています。まず、説明会では1時間半ほどかけて業界の状況や会社のビジョン、就職活動に関することを話します。ここで当社に興味を持った人には、必ずインターンシップに参加してもらっています。社内を見せて、学生に本当にこの会社で働いて大丈夫か考えてもらうと同時に、私たちもその学生が当社に合っているかどうかを判断して、お互いに良ければ面接という流れにしています。また、会社のホームページもリニューアルして、積極的な情報配信を行うほか、ナビサイトの掲載、学校訪問、新卒応援ハローワークへの出展、SNSなど様々な手を使って人材を募集しています。その結果、2019年1月から12月までの1年間で、427人が訪問会に参加し、うち108人がインターンシップに参加しました。

インターンシップは、朝、掃除をするところから始めます。掃除をしながら体を温めた後、みんなで踊ったり筋トレをやったりして体を鍛え、その後すごく頭を使う朝礼をします。気合を入れた後は、絵を描きたい人、プログラムを作りたい人など、それぞれ興味のある業務に携わってもらい、インターン中に動画やゲームなど、成果物を2種類作ってもらいます。完成品は基本的に公表して良いことにしていて、自分のポートフォリオとして使ってもらうようにしています。

今後も社員のモチベーションを高める取り組みを

現在所属している社員も大切ですが、加えて、新しく入社する社員には採用の段階で納得してもらって、活躍してもらうことが大事だと思っています。業界のイベントに継続して出展することはいろいろな効果がありました。顧客の新規開拓や既存のお客様との交流、そして採用活動においても、当社の活動実績として話すことができます。なにより一番効果があったのは社員のモチベーションがとてもアップしたことです。まだまだ改革途中なので、常に勉強し、試行錯誤しながら実行していきます。

最後に、当社で取り組んで良かったことを紹介します。まず。朝の掃除や体操。それから、新聞で気になった記事をコルクボードに貼り付けて、トイレなど見える場所に掲示すると、社員が読んでくれます。また、新入社員に入社時に目標を立ててもらうのですが、それを大きな模造紙に書いて見える場所に貼っています。説明会の会場に貼ると来た学生が見てくれますし、普段も会社にずっと貼り出しておくので、書いた本人も初心を忘れない効果があります。あとは、皆の前で褒めることです。私たちは新年会で表彰式をしていますが、その様子を写真に撮って毎年額に入れて飾っており、社員のモチベーションの向上につながっていると思います。良ければ試してみてください(シート4)。

プロフィール

杉橋 光博(すぎはし・みつひろ)

エム・ビー・エーインターナショナル株式会社 代表取締役

1970年生まれ。専修大学経営学部情報管理学科卒業。大学4年生時に韓国の檀国大学校に1年間交換留学。青山商事株式会社入社後半年で退職、1995年1月よりエム・ビー・エー株式会社入社、営業・管理・採用・育成・事業立ち上げなど経験後2010年8月より現職。営業はすべて社員に引き継ぎ、現在、採用・育成を担当。国家資格キャリアコンサルタント、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種取得。

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