事例報告 新規学卒者等の就職支援とその後
──東京新卒応援ハローワークの一貫支援

講演者
星野 亜弓
新宿公共職業安定所東京新卒応援ハローワーク 室長
フォーラム名
第108回労働政策フォーラム「若者の離職と職場定着について考える」(2020年2月13日)

新卒応援ハローワークとは、国が実施する若年者への就職支援の一つで、新規学卒者等を対象とした専門のハローワークです。全国に56カ所あり、東京には二つあります。

利用者層は、大学院・大学・短大・高専・専修学校・職業能力開発大学校の卒業予定者と、卒業しておおむね3年以内の方です。若者のなかでもとりわけ高等教育、専門教育を受けた一定の学歴を持つ人が多く、アルバイト以外で初めての就職を目指す人がほとんどです。学校と連携し、個別担当者制の支援を行うのが特徴です。

就職前だけでなく内定・就職後までサポート

シート1は、東京新卒応援ハローワークが具体的にどのようなサービス展開をしているかを示しています。主に三つの支援を行っています。

一つ目は、いわゆる通常のハローワークで行っている職業相談支援です。加えて、キャリアプラン作成などを行うキャリアコンサルティングや障害者雇用に結びつけていく専門支援、心理カウンセリングなども行っています。

二つ目は大学等の支援です。大学のキャリアセンターのなかにハローワークブースを用意していただき、そこへハローワークの相談員が出向いて学生の相談に乗ったり、講堂や大教室で職業セミナーやガイダンスなどを行ったりしています。

三つ目は企業支援です。ハローワークに求人を申し込んでいただいた企業と学生の求職者とのマッチングを図るために、求人コンサルタンティングを実施しています。また、ハローワーク主催、あるいは東京労働局や東京都庁との合催で、就職面接会なども実施しています。事務室内の告知ボードには説明会や面接のお知らせを随時掲示して、学生に積極的に受けていただくようにしています(シート2)。

では、主にどのようなサポートをしているのか。私たちは、就職前はもちろん、内定後や就職後も、職場環境、人間関係、将来のキャリアパスまで含めて相談を受け付けています。個別担当者制支援を基本としており、担当者が就職後も引き続きケアをして、職場定着に結びつけています。就職後の相談は、こちらのスタッフから声をかける場合もありますし、利用者の方から電話をかけてくることもあれば、来所されて相談ということもあります。

労働環境や職場の人間関係がモチベーションに影響

2019年の8月から10月にかけて、就職1年未満の方を対象に独自のアンケートを実施しました。電話と郵送で、合わせて208件を回収しました。主に就職前後での会社に対するイメージ、就職先での悩みや不安、現在の在職状況などを調査しました。

まず、就職する前と後で、入った会社に対するイメージは同じかどうか聞いたところ、「同じ」と回答した割合は52.9%、「違う」と回答した割合は47.1%となり、「同じ」が少し多い結果となりました。興味深いのは、「違う」と答えた人のなかに、「想像していたよりも楽しい」「思った以上にやりがいのある仕事を任されている」など、ポジティブに捉えている意見が一定数あったことです。一方で、「責任が重い」「仕事が覚えられない」などネガティブな意見もありました。

次に、就職先での悩みや不満はあるかどうかを聞いたところ、「ある」と答えた割合は46.6%、「ない」と答えた割合は53.4%で、「ある」が若干少ない結果となりました。注目したいのは、上司・同僚との関係、勤務時間、賃金といったところに不満を持つ人が多い。勤務時間のことが大半で、休憩時間が不規則、有給休暇が取りにくい、長時間勤務、というような不満が多かったです。これ以外にも、仕事を教えてくれない、周りが忙し過ぎて質問が出来ないといった不満を持っている人もいました。

最後に、現在も同じ就職先に在職しているかどうかを聞いたところ、「在職中である」と答えた人が圧倒的に多いのですが、既に離職しているという人も13人いました。離職の理由を聞いたところ、健康面の理由や、仕事が覚えられず離職してしまったという人がいました。ほとんどが自己都合での退職ですが、なかには、仕事内容が自分の希望するものと違うと感じて上司に相談したことで同業他社を知り、転職したという事例もありました。

アンケート全体の印象としては、働く人の心理的安全が保障されていない、勤務時間が管理されていない、先輩職員や上司に無視されるような状態の場合、やる気を失ってしまうことが考えられます。一方で、職場の人間関係が上手くいっていたり、技能を身に付ければ次にやりたい仕事が出来るという環境にある場合、職場の満足度が高く、就業し続けるモチベーションになるのではないかと感じています。

新卒者の離職率については、平成17(2005)年くらいまではいわゆる七五三現象と言って、3年以内離職率が中学卒で7割、高校卒で5割、大学卒で3割という状況でした。今はそれぞれ6割、4割、3割となり、中学卒と高校卒では改善されてきてはいるものの大学卒の離職率は依然変わらない状況です。こういった背景から、職場定着支援については、政府の方針で在学中から就職後まで一貫した支援を行っています(シート3)。

各相談者に合った対応で安心してもらえる場所に

ここで、就職後のサポート例を2件紹介します。1件目は、4月に介護施設に総合職で新卒採用された男性です。最初の相談は就職してから3カ月ほど経った6月頃で、本人からハローワークに電話がありました。入社した企業の求人には、1年目に現場で経験を積み、他部署へ異動すると記載されていたのですが、実際に就職したところ、上司から現場の仕事の方が向いていると言われ悩んでしまったということでした。求人条件に相違がないことと、この相談が事業主に対する苦情ではないということを確認したうえで相談を開始しました。

まず、現場の仕事を続けるよう明言されたのか、その仕事がなければ意欲的に働けるのかなど、現在の状況を聞きました。本人は、現場の仕事は皆が経験するので避けられず、続けられないと考え、既に転職を意識していました。ハローワークの担当者は、次にやりたい業務を一緒に整理するなどのサポートを行いました。結果としてこの相談者は次の就職先を決めました(シート4)。

もう1件は、4月に新卒採用された大卒の女性です。元々、「職場環境」を最優先にして就職活動をしておりました。何事においても初めてのことに不安を感じてしまう方でしたので、大学からハローワークに支援の依頼がきた際、不安を一つずつ取り除いていくために何度も模擬面接などの支援を実施して、内定に至りました。そういった経緯もあったのでハローワークの担当も気にかけており、就職して1カ月経った頃に1度、ハローワークの担当から連絡を取りました。その時は「上司も良い人で、仕事も頑張っている」と言っていたのですが、その後間もなくして本人から退職を考えているという連絡があったため、相談を再開しました。

この相談者は学業を一生懸命やっていた方ですが、就労経験はありませんでした。初職の経験を通して自信を付けていかれれば良かったのですが、就職後、ある不安を抱えて有給休暇付与前に仕事を休むようになってしまいました。そこで、ハローワークに来所して、相談中に悩み(不安)を吐露し、相談員に共感してもらえたと実感したことと励まされたことにより、心の整理が付き、もう少し続けてみようと思えたそうです。その後も何度か相談を重ねていくなかで、また勉強して技能技術を身に付けたいということで、職業訓練の担当者につなぎました(シート5)。

両方の事例とも、職場定着という意味では、残念ながら退職して、次の活動に移行するという形になったのですが、これ以外にもハローワークには、就職者からたくさんの連絡をいただいています。入社時は地域限定職だったが、総合職にしてもらえたという嬉しい報告をしてくださる人もいます。学生の場合は大学などで相談する場所はあると思いますが、公的な機関で、就職後に相談が出来るというのは何より安心なのではないかと思います。転職するにせよ、今の会社で引き続き頑張るにせよ、次の活力につながっていくのではないかと思っています。

プロフィール

星野 亜弓(ほしの・あゆみ)

新宿公共職業安定所東京新卒応援ハローワーク 室長

2019年4月より現職。芝園橋公共職業安定所入職後、東京労働局及び都内ハローワークにて、雇用保険業務、労働者派遣・民営職業紹介事業業務、職業相談・職業紹介業務(新規学卒者、若年者、生活保護受給者等)、地方人材育成対策担当官等を経験。2009年から2012年までインドネシア共和国労働移住省(当時)に駐在、「雇用サービスセンター能力強化プロジェクト」のJICA長期専門家として活動。法政大学大学院社会科学研究科経営学専攻修了、国家資格キャリアコンサルタント、テクノインストラクター:職業訓練指導員、「職業情報提供サイト(日本版O-Net)(仮称)普及・活用の在り方検討会」構成員。

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