事例報告 『女性のためのスマートキャリアプログラム』──女性の仕事復帰・キャリアアップを支援

私は、明治大学では商学部でマーケティングや物流について研究し、授業を担当していますが、今日ご紹介するスマートキャリアプログラムを企画・担当し、また、現在もプログラムにおける講義も担当しています。プログラムの狙いや、受講生の女性たちと日々時間を過ごしておりますので、そのなかで私が個人的に考えている受講生についての肌感覚などをお話したいと思います。

明治大学でなぜこのようなプログラムを、という疑問をお持ちかと思います。私どもは女子大学ではありませんが、女性のためのプログラムをつくりました。リバティアカデミーというのが、明治大学における社会人向けの教育の体制です。1999年に創設したのですが、その前の10年間、公開講座として明治大学キャンパスのほか千葉県成田市(自治体の生涯学習における連携講座)などいろいろなところで単発的に継続していたものを、社会人講座の専門プログラムとしました。

大きな柱は、「教養・文化」、「資格・実務・語学」、そして、私が直接かかわっている「ビジネス」の3分野で、「女性のためのスマートキャリアプログラム」は広い意味でビジネスプログラムのなかに組み込まれています(シート1)。

スマートキャリアプログラムは2015年に立ち上げ

「教養・文化」については、比較的高齢の方々や、女性が昼間に受けに来ることが多いです。「資格・実務・語学」については、在学する学生たちを中心に、就職のためのいろいろな資格取得や、第2外国語、あるいは英会話についてさらに習熟することを目的とした講座となっています。

「女性のためのスマートキャリアプログラム」については、2015年に立ち上げました。最初は、必ずしも女性の活躍が進むという今のような状況を見通していたわけではありません。きっかけは、文部科学省が平成19(2007)年の学校教育法の改正によって創設した「履修証明制度」を明治大学でも取り入れ、拡充させようとしていたことでした。

同制度に基づく履修証明プログラムは、120時間、大学で学んでいただいた方(社会人等を含む)に対して、学位は出せませんが、履修証明という履歴書にも書けるような資格を学歴として、大学として出すものです。当初は、学部の学生と一緒に教室で120時間学んでもらうという内容で議論をスタートしました。すでに高齢者向けにそうしたプログラムを実施して成功させている大学もあるようですが、明治大学では最終的に、学生と一緒に授業を受けるのではなく、リバティアカデミーのなかで履修証明制度を活用したプログラムとする方向で議論を進めました。

先ほど述べましたように、今の女性活躍という機運をそれほど見越していたわけではなく、大学としてできることをまずはやろうというなかで、120時間の学びのつくり方や、活用の仕方を考えました。明治大学では厚生労働省の委託訓練を担い、2001年から10年間、ハローワークで求職中のホワイトカラーに対して、国からの助成金の支給を受けて(受講者は無料)3カ月の職業訓練を継続して行ってきた実績があったので、結果的に、この実績が「女性のためのスマートキャリアプログラム」を始めるきっかけとなりました。

厚労省の委託訓練の実績を活かしてスタート

当時行っていた委託訓練は、職業訓練校や専門・専修学校、高専などで行われていた技術習得のための就業支援ではなく、マネジメント層・ホワイトカラーに向けた訓練でしたので、マーケティングや会計、コンピュータなどの講座を組み合わせて行いました。当初は受講生の男女比は半々でしたが、次第に女性の比率が高まり、たしか30人の定員だったと思いますが、8割以上が女性の受講生になりました。その後、訓練の実施母体は厚生労働省から東京都に変わりました。

そうした状況のなかで、履修証明制度を検討する際、120時間というのが、ちょうど委託訓練期間の3カ月のプログラムと内容的に対応することから、その実績があればできるということで、しかも、おそらく女性で再就職を考えておられる方が多いだろうという考えもあり、このプログラムをスタートさせたわけです。

明治大学では、ゼミナールというのが教育方法の柱の一つになっています。私も、これまで卒業していったゼミの卒業生と年に1回、OB・OG会で会いますが、女子学生だった卒業生が、仕事を続けるかどうかで悩んでいたり、「辞めてしまったが、このままだと家にいては腐ってしまいそうだから何とかしたい」などという話を聞いていました。そこで、「そういう女性たちをもう一度社会に戻すことのお手伝いであれば、明治大学の今までの経験で十分できるのではないか」と考え、再就職の希望を持っていたり、悩んでいるゼミの女性卒業生にグループインタビューをしたり、マーケティングリサーチをして、このプログラムを現在のような形につくりあげました。

講義はグループワークが中心

最新の募集要項を紹介しますと、定員は昼間が40人、夜が30人となっています。授業料は、ぎりぎりの採算計画のなかで、社会貢献的な意味もあることから、できるだけ安く設定しています。

入学時、面接は一応しますが、特に筆記試験などはしていません。いずれ仕事に就く、組織で働くためのプログラムですから、講義を聞くというより、グループワークが主です。面接は、そういう組織あるいはグループワークに十分耐えられるかどうかということをチェックする意味で行っています。 120時間の授業時間がありますが、カリキュラムは必修科目と選択科目に分かれており、必修科目が5科目、選択科目が9科目あり、そのなかから4科目以上を選択します。明大商学部で手がけているような実践的なゼミナールもそのまま持ち込んでいます(必修科目の2科目分がゼミ)(シート2、3)。

昼間は、受講生の子どもの保育園への送り迎えや、子どもさんが帰ってくる時間には家にいられることも考慮して、午前10時半~午後2時半まで(昼休み1時間)の授業時間帯とし、夜は午後7時~午後9時ということで、通常のビジネスプログラムと同じ時間帯としています。

商学部では産学連携による授業も行っていますが、企業から課題を提示してもらい、その課題に対して学生たちが取り組むという授業がかなり教育効果として高かったので、この方式をスマートキャリアプログラムにも取り入れました。また、継続的な学びの観点で、専門職大学院にビジネススクールがありますから、プログラム後にそこで学び続ける人がいる場合を想定して、専門職大学院の教員もこのプログラムの講座を担当するようにしています。

受講生のネットワーク構築も

受講生は非常に意欲も高く、能力もある方が多い。同じ目的を持ち、価値観が共通した40人(昼間の場合)ですので、互いに打ち解けて、6カ月在籍するととても大きなエネルギーになります。そこででき上がったネットワークを活かし、仕事に就く前に異業種交流する状況も見られます。

こうした女性たちと相対しているなかで、私が日ごろ感じていることは、家庭に入ることは決してブランクではないということです。例えば、お菓子メーカーで仕事をしていた女性が離職して家庭に入って、また再就職するときには、おそらく、プロの消費者としての経験が逆に次の仕事に生きていく。学生が海外留学して、日本に戻ってきて日本の見方が変わるということと、まさに同じ経験を家庭に入るなかで培うのではないかと思っています。

大学としてはもっと就業支援をしていきたいわけですが、どうしても新卒の学生の支援が中心になってしまいます。しかしながら、意欲と熱意があり、能力のある人がお金をかけて大学へ学びに来ているのですから、そうした人たちも大学が責任を持って教育して、必ずしも新卒一辺倒ということではなく社会に送り出したいと考えます。是非、そうした意欲的な女性たちを、企業や様々な組織のなかでも有能な戦力として積極的に迎えていってほしいと考えています。

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