事例報告 女性の活躍支援に向けた当社の取り組み
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- 村上 治也
- 明治安田生命保険相互会社 人事部ダイバーシティ推進室 主席スタッフ
- フォーラム名
- 第106回労働政策フォーラム「女性のキャリア形成を考える─就業形態・継続就業をめぐる課題と展望─」(2019年11月5日)
本日は、当社の女性活躍支援に向けた取り組みについてお話します。短時間勤務制度など社内に既に整備した制度を使っていくに当たって、職場内の風土醸成をどうしていくのか、また、制度を利用する女性職員一人ひとりの活躍に向けた意欲の醸成にどのように取り組んでいるのか、という点にターゲットを置いて、お話していきたいと思います。当社は支社、営業所等拠点が全国に1,000以上ありますので、この1,000以上に分けられた拠点それぞれで、風土醸成などをどのように図っていくのかが、当社にとっての一つの大きな課題となってきます。
ダイバーシティ&インクルージョンを重点領域の一つに
初めに、女性活躍支援の社内での位置づけについてご説明します。現在、当社は、経営理念である「確かな安心を、いつまでも」をお客様に提供するために、「人に一番やさしい生命保険会社」を目指しています。そのために、様々な事業分野で今、12の改革を進めています。そのなかの一つが人事改革であり、それは「人財力の持続的向上」「心身の健康増進」「多様性受容と活躍支援(ダイバーシティ&インクルージョン)」「働き方改革」──という四つの重点領域に分かれます。女性活躍支援は、「多様性受容と活躍支援(ダイバーシティ&インクルージョン)」のなかに位置づけて推進しているところです。
ダイバーシティ&インクルージョンでは、目指す姿を「多様な人財が相互に受け容れられ、一人ひとりがその能力を十分に発揮している状態」と定義し、女性、中高年、障がい者それぞれについて具体的に、目指す姿を定めています(シート1)。ポイントは、意欲・意識(本人)、環境(制度等)に加えて、風土(周囲)の三つの観点から目指す姿をしっかりと定めて、本人だけでなく職場全体で目指しているところです。
経営に多様な価値観を反映して企業競争力を強化
当社は女性が非常に多い会社であり、全従業員に占める女性割合は9割以上です。内勤職員だけを見ても、約6割という状況です。女性職員の約6割が転勤のない地域型の総合職、約4割が契約社員という構成になっており、全国的に転勤のある全国型の総合職の割合は、現状ではあまり大きくありません。現在、女性活躍に向けた当社の数値目標は、女性管理職比率30%であり、ここを目指して取り組んでいるところです。
一般的に、ダイバーシティ&インクルージョンを推進する最大の理由としては、経営に多様な価値観を反映して、企業の競争力を高めていくというところにあると思います。そのために、当社も女性管理職比率のアップに取り組んでいるところですが、2019年度初めに24.4%まで来ており、2020年度には目標数値の30%を達成したいと考えています。
職種を再編・統合し、処遇の違いを転勤有無だけに
女性活躍支援の取り組みのフェーズでは、当社として今、第3フェーズまで来ていると考えています。第1フェーズでは、私の所属する「ダイバーシティ推進室」が立ち上がり、各種基礎調査等を行ってきました。第2フェーズでは各種制度を整備し、現在の第3フェーズで、その整備した制度を風土醸成も含めて使いやすくするために、ソフト面の充実を図っています。本日は具体的な取り組みのなかから、「職種の再編・統合」、管理職登用プログラムである「L-NEXT」、そしてワーク・ライフ・バランス各種諸制度の利用促進等について説明したいと思います。
まず「職種の再編・統合」について。当社はもともと総合職、特定総合職、アソシエイト職と3本立てでした。これを、移行期を経て現在では、総合職(全国型)、総合職(地域型)の2本立てに再編し、処遇についても転勤の有無による違い(全国型加算と呼んでいますが)だけで透明性を増した処遇制度に変更しました(シート2)。
しかしながら、どうしても総合職(地域型)、特に元アソシエイト職だった職員は、総合職(全国型)に比べて様々な面で気おくれする部分があるところがあり、ポジティブ・アクションとして、総合職(地域型)を対象とした管理職登用候補者の育成施策として「L-NEXT」を実施しています。
「L-NEXT」は、「L-NEXT1」から「L-NEXT3」までの3段階のピラミッド構造になっており、「L-NEXT1」が3年以内にいわゆるライン課長への登用が期待される職員が対象、「L-NEXT2」が6年以内にライン課長または3年以内にその他管理職への登用が期待される職員が対象、そして、「L-NEXT3」が将来「L-NEXT1、2」となり得る職員を対象としたプログラムとなっています(シート3)。本人意欲と所属の推薦の両面から、プログラムの候補者を選抜しています。「L-NEXT3」については、契約社員の方も組み込んで育成をしています。
プログラムの内容は、集合研修や社内外への短期派遣等で構成されており、ここ2年間は他社との異業種交流研修等に力を入れています。現在、「L-NEXT」登録者は2,500人を超えるまでになっており、意欲を持った女性は確実に増加していると認識しています。
ライフスタイルにあわせた働き方の支援も
ワーク・ライフ・バランスの諸制度としては、入社から定年まで、様々なライフイベントにあわせて活用できるものを用意しています。今までは、ワーク・ライフ・バランスといえば対象が女性中心でしたが、介護問題も考えると今後は男性も対象になってくるため、制度利用に向けたさらなる風土醸成が必要と考えています(シート4)。
ライフスタイルにあわせた働き方を支援する制度としては、契約社員から総合職への転換や、勤務地変更(Iターン)、そして、育児・介護等で会社を退職した元職員を対象にした再雇用制度等も準備しています。こうした制度については毎年、利用しやすいように人事運用を見直しており、例えば、Iターン制度では、当初は年2回の受付だったのを毎月の受付に変更したり、キャリア・チャレンジ制度(自らが手を挙げる社内FA制度)では、総合職(地域型)に対する住宅手当について本人負担なしとするなど、様々な手を打ってきています。
こうした制度利用を後押しする当社の特色として、「ワーク・ライフ・デザインプログラム」というものがあります。これは、年次有給休暇の取得状況、早帰り等の実施状況に加え、男性育休の取得や女性のキャリア開発状況等をポイント化して、所属評価に反映するものです。この制度により、所属全体が、男性所属員の育休取得を後押しするような風土ができています。
また、ダイバーシティ・フォーラムという大きなイベントを年に1回必ず開催しています。各所属から管理職の代表と女性の代表2人ずつに参加してもらい、合計350人ほどが集まります。ダイバーシティに関する思いを社長が伝えたり、各種ワークショップ等を1日かけて行っています。2018年度はアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)、2019年度は心理的安全性をどうやって職場で高めていくのか、をテーマにワークショップを行い、参加者には聞いた内容を各所属に持ち帰ってもらい、実践してもらっています。
所属長の意識を変える「イクボス育成プログラム」を導入
女性活躍を支える土台として、働き方改革による余力創出が不可欠だと考えています。そのためには、所属主導の業務効率化が極めて重要だと考えており、所属長の意識を変えていくため、イクボス育成プログラムを導入しています。具体的には、各職場で所属長が取り組まないといけない重要な四つの領域を、「人財力」「健康増進」「余力創出」「多様性」──と定義し、年度初めに、必ずこれらをどう職場内で進めていくのかというイクボス宣言・アクションプランを各所属長に立案してもらっています。
所属長がイクボス宣言を行い、各管理職が所属長の意思を受けて自分はどうするのかという宣言も行う。毎月、それを実践するイクボスの日も設定し、所属員一人ひとりにも考えてもらうプログラムとしています。
「イクボス育成プログラム」については、宣言して実行して終わり、ではなく、年度末にイクボス度調査を実施しています。各所属員に10項目程度の調査をしており、その調査結果と各所属の業績等のパフォーマンスを勘案し、優秀な取り組みをしたイクボスを「イクボスアワード」として表彰しています。社内では徐々に名誉ある賞になってきています。
一通り当社の取り組みを紹介しましたが、最後にお伝えしたいことは、女性活躍支援制度の整備というのはスタートだと思っています。繰り返しになりますが、制度をどう使ってもらえるかという風土醸成、そして、それを使う一人ひとりの意識醸成をどうしていくかということが非常に重要だと考えています。