パネル討論──日独の働き方の比較

事例① 日本ユニシスグループの働き方改革

講演者
藤曲 亜樹子
日本ユニシス株式会社 組織開発部 部長
フォーラム名
第105回労働政策フォーラム「労働時間・働き方の日独比較」(2019年9月30日)

風土改革を重点施策に

日本ユニシスグループは設立61年の、いわゆるIT企業です。日本のIT企業はお客様のスケジュールに合わせて仕事を行うことが多く、以前は労働状況もあまり良いとは言えない業界でした。しかし、今は大分変わりつつあります。

日本ユニシスグループでは、2018年からの中期経営計画でグループの存在意義を再定義しました。それまではお客様が求めるシステムを提供することが中心でしたが、今はそれだけでなく、社会課題を解決する企業への変革も目指しています。従来型のお客様の要求通りに確実にシステムをつくるといった、石橋を叩いて渡る文化と、新しい発想で見えない課題を解決する文化は全く異なります。必要なスキルも違えば、その思考や行動も変える必要があるため、中期経営計画では重点施策の一つに風土改革施策を掲げています。そして、風土改革施策では、①戦略的人事改革②働き方改革③組織・人財改革④ダイバーシティ推進⑤業務プロセス・制度改革──の五つの柱で多面的な取り組みを行っています(シート1)。今日は、このなかの「働き方改革」を中心にお話します。

サテライトオフィスで場所にこだわらない働き方を

私たちの働き方改革のビジョンは、「新ビジネス創出や個々人の成長に向け個人生活も大切にしながら、豊かな発想ができるゆとりを持つために、メリハリのある健康的な働き方を目指す」ことです。これは単なる労働時間削減ではありません。そして、働き方改革は、生産性向上とイノベーションを喚起する風土の醸成をミッションとしています。

では、これをどのように進めているのか──。私たちはシート2にある①環境②価値観・スタイル③プロセス④システム──の四つの変革に関する施策を行っています。

まず、環境改革では、時間や場所にとらわれない働き方をできるよう、そしてコミュニケーション活性化も図れるように、フリーアドレスを拡大するとともにサテライトオフィスもつくりました。私たちの本社は豊洲にあり、あまり交通の便が良いとは言えません。いろいろな場所のお客様のところに出向くことも多いなか、サテライトオフィスによって移動時間の短縮はもちろん、いろいろな場所にいる社員が本社に戻らずタイムリーに集まって議論できるようになりました。

シート3は、サテライトオフィスの利用者数の推移をあらわしたものです。フリーアドレスは段階的に行ったのですが、フリーアドレスのフロアを増やしたのを契機に利用者数が伸びています。場所が固定でなくても働ける環境をつくることで、社員自身も働く場所にこだわらなくなっていったと考えられます。

時間の使い方と業務の見直しを

二つ目は価値観・スタイル変革です。社員全員が年1回以上、残業ゼロの月をつくる「残業メリハリ活動」と、年休取得率80%を目標に取り組んでおり、昨年度、どちらも達成できました。残業続きで目の前の仕事に追われていたのでは、新しいスタイルや新しい発想が生まれることはありません。残業メリハリ活動は単に残業時間の削減ではなく、時間の使い方と業務を見直し、考える機会にすることが目的。組織として業務を見直すことに取り組むもので、残業手当の出ない組織長も含めて、組織単位・個人単位にグラフで毎月の残業時間を見える化しています。

価値観・スタイル変革のもう一つの取り組みが、「テレワーク拡大」です。当グループでは、2008年度の在宅勤務に始まり、全社員が柔軟な働き方ができる環境を継続的に整えています。テレワークについては当初、抵抗感のある人もいましたが、総務省が主催する「テレワーク・デイズ」なども活用して、「まずはやってみよう」と1回経験してもらい、その良さを体感することで普及が進んでいます。

T3活動やIT技術の導入も

さらに、同じメンバーと同じことばかりを考えていたのでは、新しい思考や発想、行動にはならないという考え方で、「T3活動」という、週3時間、本来の業務とは別のことに取り組む活動もあります。

最後に、システム変革についてお話します。これは例えば、情報収集にAIを使ったり、業務のなかにRPAを取り入れるなど、生産性向上のためにいろいろなIT技術やツールを活用しています。

エンゲージメント・マネジメントを推進

社員が会社や組織に共感して貢献意欲を持つ「エンゲージメント」は、一般的に生産性に大きく影響すると言われています。様々な施策を行っていても、社員が会社に共感していなかったり、働きがいや貢献意欲を持っていなければ、生産性にもつながりませんし、個人の成長にもつながりません。そこで当グループは、風土改革施策のベースとして、エンゲージメント・マネジメントを推進しています。

具体的には2013年以後、当初は1年おき、17年からは毎年サーベイを実施して、いろいろな切り口で組織の状態を見える化して、経営や部門長が中心になってアクションを計画。それを実行し、またサーベイを行って、アクションした結果の組織の状態を見るといったサイクルを回しています。

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