事例報告 就職氷河期世代への就労支援モデル事業 報告内容と今後の展望

私たちは大阪で「HELLOlife」という就業支援拠点を運営しています。ここでは、1階にブック&カフェ、2階に相談窓口、3階にイベントスペース、4階は1階のカフェで販売する和菓子などをつくるトレーニングキッチンがあります。そのほかに、大阪で2拠点と奈良に1拠点、行政からの委託を受けた就業支援施設を運営しています。

今回は、行政からの委託事業の一つである大阪府地域若者サポートステーションで、昨年度、厚労省からのモデル事業として実施した就職氷河期世代支援の報告と、そこから見えてきた、今後必要だと思われる支援の展望といったところまでお話します。

将来への危機感を持って来所

通常サポステは39歳までを対象としますが、5歳引き上げて44歳までを対象にしたときに、20代、30代の方とどう違うのかを1年かけて調べてみました。シート1のグラフは、相談に来られた26人の40代の方が、支援に何カ月程度かかりそうか、正社員を目指せるか、アルバイトからステップを踏んだ方が良いか、といった見立てをカウンセラーが行った結果をグラフにしたものです。

まず、いきなり正社員になる方よりも、一旦アルバイト等の非正規雇用の就職をファーストステップとする方が多かった。また、金銭的な支援が近い将来絶たれる可能性のある状態の方が危機感を持って来所していた。例えば親の年金で一緒に暮らしているが、親の健康状態が悪化するなどで自分も何とかしなくてはと危機感を持って来所する方などです。当事業所は家庭訪問を行っておらず、自ら問い合わせて来てくれる方を支援するという形なのですが、こういう動機が多いのは来所型支援の特徴だと思います。そして、来所した方の3人に1人が直近の無業状態が3年以上あるという状態でした。

就業経験やブランクの長さで支援形態に違いが

就職氷河期世代といってもいろいろな状態の方がいるので、イメージしていただくために大きくA層、B層の二つに分けて説明します。A層は就業経験がありブランクが短い層で、6割~7割ほどを占めました。就業経験はあるが不安定就労で短期間契約を繰り返したり、正社員ではないため教育やトレーニングを受けて技術を磨く機会を得られなかった方が多くいます。一方、B層は就業経験が少なくブランクが長い層。就活がうまくいかずひきこもり状態が長く続いてしまった方や、就職後に何らかの理由で離職し、そこから5年、10年ひきこもっている方で、3割から4割ほどいました。A層とB層、就業状態から近い方と遠い方では、支援の形が全く違います(シート2)。

例えば、A層をさらに大きく分けると、離転職を繰り返してキャリアを積むことができていないケースと、体調を崩し長く勤めた仕事を辞めざるを得なかったケースが多かったと感じています。前者の場合は、長期的なキャリアを考えるための支援や、長い間一つの職場で関係構築を続けるのが苦手な方などもいるので、継続就業するための支援が必要になってきます。

後者でいくと、メンタルや体調は回復していたとしても前の仕事を同様に行うことが難しいことも多く、「40代未経験」という厳しい条件で仕事を探さないといけません。そのようなケースでは、40代未経験でも採用してくれる企業といかにつながっていくかということが重要だと感じました。

履歴書もやはりブランクの期間があると不利になるので、最初に履歴書から始まるコミュニケーションではなく、職場体験などでその方の様子を見てもらってから採否の判断をしてもらえる企業との出会いの場をつくりました。

一方でB層の場合は、まず相談に来てもらうことがすごく難しい。来てもらったとしても、長いことひきこもっていると、ただブランクがあるだけでなくメンタル面やコミュニケーション面でいろいろな課題を抱える方が多くいます。そのため、その方に合わせていろいろなメニューを用意していきますが、時に一般的な雇用では難しいという判断になったときに、障害者手帳をとって障がい者枠で就労する道を選んだりすることもあります。

企業や医療福祉、地域との連携が重要に

A層の場合は一般的なキャリアコンサルタントの対応でカバーできることが多いですが、課題が多いのはB層だと思います。キャリアコンサルティングだけではなかなか就労する所までいくのは難しく、地域の関連機関や医療福祉との連携が重要だと感じています。B層のなかには正社員というハードルが高く、定年までずっと非正規雇用のまま働き続ける可能性のある方や、就労というハードル自体が高く、ずっと働けない状態が続きうる可能性がある方がいるので、その課題と向き合っていく必要があるなと感じました。

課題への主な取り組みとして、一つ目に、定年まで非正規雇用のまま働き続ける可能性のある方に対しては、安価な住宅を提供するという取り組みを実験的に行っています。非正規雇用の場合、毎月15万円程度のお金で暮らさなければならないケースも多くありますが、それで家庭を持って子育てできるかといったらかなり厳しい。さらに正社員を目指すことも厳しいとなったときに、幸せに暮らし続けるためには固定費を下げるというのが一つの方法かなと思っています。住宅費などの固定費を下げることで、非正規雇用でもゆとりが生まれ、いきいきと暮らせる支援が必要ではないかと思います。

二つ目は、就労というハードルが高いことで働けないまま、いずれ生活保護等になる可能性のある方の場合、今の自分のまま、できる分だけ働ける支援を拡充したいと思っています。雇用されるには一定基準のクリアが必要です。メンタルが安定し、健康で体力があり、コミュニケーション力があり、若いもしくは経験豊富な人でないと、企業は正社員として雇ってくれない。通常の支援ではこれらの基準をクリアするためのトレーニングなどを行いますが、あまり効果が出ない方もいます。そこで、コミュニケーションに課題があるまま働く、メンタルの調子が良い日は働くといった、雇用の一般的な基準に満たない状態で働くことを支援したいと思っています。最近、coconala(ココナラ)やUberEats(ウーバーイーツ)といったいろいろなサービスが増えたので、そうしたサービス活用を後押しする支援者の学びの場をちゃんと整えれば、多様な働き方も実現できるはずです。正社員で働く手前の中間的なステップとして、もしくは今の自分にできる分だけ働くための支援です。

三つ目は、ひきこもり状態で支援を届けることができない方のために、昨年、お寺とコラボして地域にサポートを届ける事業を行いました(シート3)。お寺の檀家さんというつながりを生かして、檀家回りの際にひきこもりの家族とつながった場合、適した支援機関につなげる。私たちが地域の全家庭を回ろうとするとすごい人件費になるので、檀家回りのなかでお寺が得た情報を受け取るという連携ができないかなと思っています。その事業の際、寺院関係者に、檀家回りで訪れた家庭のどのような課題を把握しているかを調査したところ(シート4)、子どもに関する虐待やネグレクトの問題把握は割合が低いのですが、高齢者に関する認知症などの問題把握は割合が高いことがわかったので、今後はこういった問題の支援で連携できる可能性もあるのではないかと思います。

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