事例報告 就職氷河期とひきこもりの関係

講演者
河野 久忠
NPO法人 青少年自立援助センター 常務理事
フォーラム名
第104回労働政策フォーラム「「就職氷河期世代」の現在・過去・未来」(2019年7月25日)

当法人は1977年から東京都の福生市で活動しており、現在はひきこもりの支援が中心です(シート1)。もともとは、あらゆる困難を抱える若者たちの支援を軸に活動してきました。川崎市の殺傷事件もありましたので、今日は就職氷河期世代がテーマですが、ひきこもりの支援に絞り込んでお話ししたいと思います。

ひきこもりについて、厚生労働省はシート2のとおり定義しています。内閣府の調査によると、準ひきこもり、あるいは狭義のひきこもりは54.1万人います。最近話題になった高齢のひきこもりに関する調査によると、40歳から64歳までのひきこもりは61.3万人おり、その半数は7年以上ひきこもっているそうです。両調査の数字を足すと115万人ぐらいになり、結構な人数だと言えます。

対人面で不器用な人が多い

そもそも、ひきこもりとはどんな状況なのかというと、ニートという状態があって、そのなかで、無業状態でひきこもり状態になっている。あるいは、もともと発達障害などの何らかの精神の問題があって、それがもとで就労しづらくなってひきこもっていく。また、ひきこもりの長期化によって、精神疾患等の問題が出ている人もいます。

いろいろな状態の人がいるので、対応方法も様々です。「就職氷河期世代」では、就労のタイミングをつかめなかった人、早期に離職してしまった人、大学を中退してしまった人や、就職活動がうまくいかないから大学院にとりあえず入って先延ばしにして、そのまま未就労になった人などがいます。

こうした人たちと現場で付き合うことではっきりしてきたのは、やはり、対人面で不器用な人が多いです。サービス業よりは製造業のほうが合っているようなタイプが多いというのが実感です。リーマン・ショック後、製造分野を離れた若者たちが、サービス業などの方向になかなか転換できず、地域若者サポートステーションなどの支援の場に多く流入してきたのは、こうした背景があると思います。

皆がひきこもっていくわけではないのですが、ひきこもりになる条件として、家族に支えてもらえる環境があるということが挙げられます。はたから見ると、親が飯を食わせている状況なので、「親は何で追い出さないのだ」「とっとと追い出してしまえば、働けるようになるのではないか」と見る人もいるのですが、親御さんと話すと、それができれば苦労しないよと言います。

例えば、就活していたけれどもやめてしまったり、働いていたけれども、どこかで途切れて家にいるようになった人がいます。親御さんからすれば、尻をたたいて、早く仕事を見つけてきなさいなどと問い詰める。でも、本人たちからすると、社会参加するのに不安材料があったり、社会的な経験も不足しているので、そう簡単には動けない。沈黙するのも抵抗ですし、「うるさい、ばかやろう」と言ったり、暴力的なことも初期的には多くあります。

本人中心の支援が長期化に

今までの日本の不登校やひきこもりの支援では、そういう状態になったら、「本人が精神的に疲れてしまっているから、受け入れて、受容して待ってあげよう」とか「待つことによってエネルギーが溜まって、そのうち動き出しますよ」という本人中心の支援が広く浸透してしまって、相談機関、カウンセラー、保健所なども含めてそういうアドバイスが蔓延していました。

それを聞いて保護者が尻をたたくのを次の日からぴたっとやめてしまえば、押されないから押し返さなくてよくなる。落ち着いてきたように見えます。そうすると、そのうちエネルギーが溜まって動き出すのではないかと家族は期待し始める。しかし、本人たちは、考える時間はあっても経験もない、あるいは情報が入ってこないなかで、ポジティブに物事を考えることは難しく、狭い思考のなかでぐるぐる循環してしまう。

そうすると、多くの人は、その暇な時間を何とか潰すために、パソコンやスマホに向かったり、ゲームをしたり、テレビを見たり、よく寝たりする。周りは穏やかに先のことを考えているのではないかなと思っているのですが、当事者は先延ばししているだけになります。

いったん見守り始めてしまうと、親御さんは余計なことを言って、今より悪くなったら困ると思ったり、最近の事件のように他人様に迷惑をかけたら困ると考え、余計に何も言えなくなってしまう。こうしたなか、出口のないところで、家の中では奇妙な平和ができ上がってしまう。家庭では問題行動も起こさないので、第三者が介入する機会もない。ここが、ひきこもりの長期化の根っこでわかりづらい部分です。

本人たちに強い今さら感

ある市で保護者向けのセミナーを開きました。アンケートをとって驚いたのは、今まで「一度も支援を受けたことが無い」という保護者の人が60%、過去に支援を受けたけれども、今は受けていないという人が10%で、合わせて70%の人が現在はどこにもつながっていないことでした(シート3)。

一方、本人たちは、やはり今さら感がすごく強い。就職氷河期世代の人も、年齢が高くなって、「今さら何ができるんだ」「当たり前に大卒で働いてきた人たちと同じ水準になるのは無理」などと考えてしまう。履歴書の空白について、どう説明したらよいのかというところでひっかかっている人も多い。

ただ、その一方で、「当事者の効果的な発見・誘導に関する調査研究」によると、仕事に就きたい、あるいは家を出たいという人も少なくない(シート4)。しかし、最終的にどうしたらいいかわからない。方法に関する情報は、なかなか本人のもとに入ってきません。対人恐怖もありますが、それ以上に失敗が怖いというのが数値として表れています。

社会経験のない人には段階的支援も必要

また、長期・高齢化によってどういう問題が出てくるかというと、一つは犯罪の問題があります。支える親がいる間はいいのですが、親子が「80・50」(親80歳、子50歳)や「70・40」(親70歳、子40歳)の年代になってくると、親御さんも倒れていきます。自分で稼いでご飯が食べられなければ、盗んででも食べようという話にもなるかもしれない。

川崎の事件では外に向かって悪いことをしてしまったケースですが、自殺の問題もあります。長期に孤立していれば精神疾患といったものが2次的に出てくるということもあります。ご兄弟の経済的・精神的負担も大きくなってきます。

長期化したひきこもりに対する支援としては、社会経験が結構ある人の場合は、地域若者サポートステーションなどのプログラムでも対応できていくと思うのですが、社会経験が少ない人の場合、基礎的な対人面のトレーニングから、社会的なルール、体力づくり、就労支援、定着支援といった段階的な支援を駆使していかないと、実際に自立、就労していくというのは難しいです。そのなかには、アウトリーチなどの訪問支援も必要になってくると思います。

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