問題提起 「就職氷河期世代」の全体像を把握する──平成29年版「就業構造基本調査」の二次分析から

就職氷河期世代は政策的に、1993年から2004年に卒業を迎えた世代とされていることが多いのですが、今回紹介する2017年10月に行われた「就業構造基本調査」においては、大卒者では調査実施時に概ね35歳から46歳、高卒者では31歳から42歳くらいに当たります。調査から2年ほど経っているので、現在の年齢と照らし合わせるには、プラス2歳してもらえればと思います。

まず、主な知見を4点整理します。1点目に、「就職氷河期世代」は労働市場に入るときに非常に厳しい状況にあったわけですが、40代になった今日においても職業キャリアは明らかに不安定です。これは、上の世代、下の世代と比べても、非常に特徴的です。また、後から正社員になった人たちの収入も低いという特徴があります。

2点目は、年齢を重ねるにしたがって、フリーターから正社員への移行は進んだものの、世代のサイズが大きく、いまだフリーターである人たちも一定数残っており、かつ転職希望が低いという特徴があります。

3点目は、フリーターは景気が良くなると減少するといった現状がある一方、非求職無業者、いわゆるニートは、景気がよくなっても特に減るというものではありません。また、現在、「就職氷河期世代」のニートの人たちが求職活動しないのは、「病気、けが」が主な理由となっています。

4点目は、ニートの年齢が上昇すると、ニートを養っている世帯主である親の年齢も上昇します。主たる収入が給与から年金となることで収入額も減少するという、世帯の変化も伴っているということがわかりました。

労働市場参入時の雇用形態がキャリアにも影響

まず、男性の年代別職業キャリアの割合について見てみます(シート1)。最も安定しているのは、「正社員定着」型ですが、これを見ると、高卒の場合は30代、大卒の場合は30代後半から40代前半において、「正社員定着」型の割合が明らかに低いことがわかります。

そのかわり、「就職氷河期世代」に多いのが「他形態から正社員」型というもので、労働市場に参入するときは無業や非正社員でしたが、その後、年齢を重ねるにしたがって正社員になったというタイプです。正社員になったのだから特に問題はないと思われがちですが、実際には、キャリア別にかなり現状に違いがあります。

35歳から44歳の男性における「正社員のキャリア別労働時間・収入」を見ると、週の労働時間は「正社員定着」型と「他形態から正社員」型であまり差はありませんが、年収は「正社員定着」型で平均が530.7万円、「他形態から正社員」型は平均400.7万円で、実に130万円の違いがあります。労働市場に入ったときの状況が今日の収入にもかなり影響を及ぼしているということがわかります。

40-44歳でも残る「就職氷河期世代」のフリーター

続いて、一時期200万人を超えていた「就職氷河期フリーター」について、その推移を追ってみたいと思います。ここでの世代の捉え方ですが、「就業構造基本調査」は5年ごとに実施されていますので世代を5歳刻みに設定し(シート2)、例えば1997年の調査実施時に20代前半であった世代に97世代という名称をつけています。昔のフリーターは20代前半で最も多くなり、その後順調に減っていきましたが、97世代や02世代に主に当たる「就職氷河期世代」の場合は、20代後半になっても減少しませんでした。かつて若い時期の働き方だったフリーターの働き方が変わったのもこの世代であり、非常に特徴的だと思います。

とはいえ景気が良くなったタイミングでフリーター数は減少します。景気が良ければ減少し、景気が悪いと滞留するというメカニズムが働いています。また、40歳から44歳のフリーターというのは、ピークに比べるともちろんかなり減ってはいますが、依然として一定数残っているのも特徴だと思います。

正社員化は進むもフリーターの継続希望割合は高めに

では、このフリーターの人たちの現状を見るために、非正社員から正社員への移行を見てみます(シート3)。まず、一つ言えるのは、2007年調査、2012年調査、2017年調査のなかで、正社員移行率はどの世代をとっても2017年調査が一番良く、「就職氷河期世代」にあたる30代後半、40代前半の人たちの正社員移行率も高くなっています。今の状況は「就職氷河期世代」にとっても非常に追い風になっていることは間違いありません。

次に、年齢段階別に、今の仕事を継続したいかについて見ると、30代後半、40代前半の層は、「この仕事を続けたい」という人たちが男女とも半数を超えている状況です。「他の仕事に変わりたい」という人はやはり20代が多く、30代後半、40代前半になってくると、この仕事をこのまま続けていきたい、フリーターのまま働いていきたいという割合が高くなっている。

また、二つの表を合わせて考えると、この景気が良い状況で正社員になりたいという人は、かなりの割合で正社員に移行しており、今フリーターである人は、何らかの理由があってフリーターを続けている可能性があります。

病気やけがで働けないニートが多数

続いて、ニートについて整理します。1992年から5年ごとのニートの推移を見ると(シート4)、若い世代は順調に減っていますが、他方で中高年のニートが増えており、広がりを持った問題になってきているということを感じさせます。

また、先ほどのフリーターは景気が良いと減少していましたが、ニートは景気が良いからといって減るというような関係性にはない。フリーターのように景気が回復すれば問題が解消するという形ではないということが窺えます。

では、「就職氷河期世代」のニートはどういう状況かを見ると(シート5)、今35歳から44歳のニートというのは、38.9万人います。このうち、就業希望がある人たちが16.4万人、就業希望がない人たちが22.1万人で、残りは不詳になっています。就業希望がありながら求職活動をしない理由も見ると、例えば「探したが見つからなかった」、「希望する仕事がありそうにない」、あるいは「学校以外で進学や資格取得などの勉強をしている」。この人たちに対しては、一定の支援が働くと思います。他方で、就業希望がない人たちの求職活動をしない理由として、「病気・けがのため」というのが非常に多く、この人たちについては、すぐに仕事に就くことは難しく、まずは社会参加が重要であると推測します。

ニートの高齢化は世帯収入にも影響

さらにニートの年齢が上がっていったときにどういう問題が起こってくるか。まず、ニートの若者がどうやって生活しているのかということを、「非求職無業者の主な収入の種類」で見ると(シート6)、ニート本人が世帯主か子かで分けた場合、本人が世帯主の場合は社会保障の枠組みのなかで暮らしている人が多いのではないかと思います。例えば、年給や恩給、あるいはその他の給付で6割ぐらいに達しているという状況です。他方で、子の場合は収入がない割合が高く、恐らく、ほとんどの場合が親だと思いますが、世帯主が養っているのだろうと推測します。

ニートの子がいる世帯主の状況を棒グラフで見ると、まず子が15歳から34歳ですと、親の平均年齢も58歳でまだまだ現役ですので、賃金、給料が主な収入となります。ところが、子が35歳から44歳のときは、親の平均年齢は70歳になり、年金、恩給の割合が非常に高くなる。そして、子が45歳から54歳のときの親の平均年齢は78歳で、約8割が年金収入で暮らしているという形になるわけです。

収入の種類が変わったことで、収入全体がどう変わったのか。折れ線グラフを見ると、子の年齢が上がっていくと収入の種類が変わるので、より低いほうに折れ線が移動していきます。一番のピークになっているのが、200万円から299万円。少ない年金収入で、親と「就職氷河期世代」のニートの子たちが暮らしているという現状がわかります。

低収入でも働いて生活できるための支援が重要に

最後に「就職氷河期世代」独自の特徴と、他の世代との共通点を考えたいと思います。

まず1点目に、後から正社員になる割合が、「就職氷河期世代」では非常に高くなっています。ほかのキャリアの人々に比べると明らかに収入が低いので、現在正社員であっても、例えば子の高等教育の進学費用や老後の問題など、これまでの正社員とは違う働き方により、今後、困難が起こってくることが推測できます。

2点目として、「就職氷河期フリーター」について、これは間違いなく、正社員への移行は進んだと思います。ただし、現状でフリーターの人に対しては、正社員化ももちろん重要ですが、非正社員でも何とか働き続けられること、それなりに質の伴った仕事をしていくことに対する支援も重要になると思います。現在進められている無期雇用化や社会保険の適用拡大などは、間違いなくこちらに寄与していく。同時に、雇用以外の働き方でも働いていけるような支援も重要になると思います。

3点目にニートについて、世帯自体が大きな困難を抱えていると推測できます。労働政策は、これまで当事者に対する支援というものを重要視してきたかと思いますが、今後は世帯を意識した支援が重要性を帯びてきます。これは上の世代でも、下の世代でも、「就職氷河期世代」以外でも見出される問題ですので、恐らく今後の日本社会において継続的な課題として浮上するものと推測します。

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