事例報告 ハローワーク飯田橋の取組事例~病院との連携支援の紹介を含めて~

岡田 晃
ハローワーク飯田橋 専門援助第一部門 就職ナビゲーター(長期療養担当)
フォーラム名
第103回労働政策フォーラム「治療と仕事の両立支援」(2019年6月28日)

病気と治療の両立の支援の輪

まず、なぜハローワークががん患者にかかわっているのか。それは、治療しながら仕事をしている方が全国に32万5,000人いらっしゃるからです。そうすると、仕事に関連する部分でハローワークの役割が大きいため、平成25年から「長期にわたる治療等が必要な疾患を持つ求職者に対する就職支援」という取り組みが始まりました。ハローワークが病院と連携して、がん患者の就職の支援をするという取り組みです。当初は国のモデル事業でしたので、全国5カ所のハローワークと5カ所の病院だけの連携でした。それが現在は、全国47都道府県に私のような専門の相談員が各県に必ず1人は配置されるということになり、158の病院と一緒になってがん患者の支援をするということになっています。この事業は今年で6年目になりますが、これだけの数に拡大したということで、初めから関わっている私としては、随分進歩したなと思っております。

相談に来る方の状況

では、実際どんな方が相談に来ているかということですが、40代から60代までの方、まさに働く世代の方が7割強になります。10%ほどが30歳から40歳ぐらいの方です。20代、30代の方の数値が低いのと60歳以上の方が低いのは、若い方はそもそもがんにかかる方が少ない。逆に、60歳以上の方ですと、もうリタイアされている方も多いので、相談にいらっしゃる方も少なくなっています(シート1)。

相談にいらっしゃる方の進行度合いのステージはゼロから4までさまざまです。かなり深刻な方、治療前の方、この先仕事が不安だという方、抗がん剤治療をしているという方、もう治療は済んで経過観察だけ残っているという方などさまざまな方がいらっしゃいます。一般的に入院期間が短くなっておりますので、外来治療中というケースが多いです。ハローワークは入院中の方も対応しております。病院に出向き、場合によっては病室まで入っていって仕事の相談をしています。在職中の方もいらっしゃいますし、仕事をおやめになって今ちょっとお休み中という方もいますし、仕事をもう探し始めていますという方もいます。また、正社員希望の方もいますし、パート希望の方もいらっしゃいます。実際、体調がまだ整わないのでパートからスタートしたいという方が多いです。週3日ぐらいの勤務がちょうどいいんだけれども、そういう仕事はないだろうかという方がたくさんいらっしゃいます。体力が落ちてしまってという方もたくさんいらっしゃいます。

当初、私たちは体の部位に対する配慮だけを考えていけばいいのかと思っていたんですが、体力とそれに見合う仕事という視点で見ていく必要があることがわかってきました。入院期間が長くなると、体力が落ちちゃってという方がたくさんいらっしゃいます。そのあたりのことも考えていかないと、就職の支援も難しいという現実があります。

退職(転職)を考えた理由

退職を考えた理由ですが、会社に迷惑をかけてしまうからということで、みずから依願退職する方がいらっしゃいます。辞めるとやはり大変ですので、辞めずに済むような対策はないだろうかと考えていきます。ただ、どうしても辞めざるを得ない方はいらっしゃいます。そういうときに、我々ハローワークの出番かなと思っています。

また、病気を機会に仕事人生を見直そうと思ったという方がいらっしゃって、キャリアチェンジされる方もたくさんいます。医療の世界でお世話になったので、今後は医療の世界で働きたい、医療事務の仕事をしたいという方もたくさんいるんです。何かボランティアでいいからやりたいという方もいらっしゃいます。乳がんの方の多くが、乳がん患者の方の支援をしている団体がたくさんあって活発に動いているので、そういうところで活躍する、お金にはならないけど、支援するということを希望される方もいます。

それから、ちょっと悲しいことですけれども、会社から退職勧奨を受けたから辞めることになっていて、やむなく再出発をすることになったということもあります。

よくある相談例

相談にいらっしゃる方のほぼ100%が、応募のとき病気のことは伝えないといけないですか、伝えたほうがいいですかと気にされます。ここはいろいろなアプローチの仕方があると思うのですけれども、最近少し企業の様子が変わってきたなという印象がありまして、事業開始当初は、私が企業の方に「応募希望の方がいます」と連絡をとり「がん患者さんです」と言うと、ほぼそこで皆さん電話口で固まっちゃうんです。そうすると、そこでもう話が進まなくなってしまいます。私の目の前にいる患者さんは「お医者さんも働いていいと言っている。顔色もよくなっているし、元気になっている、仕事できる」と言っているのに、病名を言った途端に企業の方からは、そういう方の受け入れは難しいという言葉をかけられてしまっておりました。そこで、何とかならないかということで、私たちも厚生労働省や東京都にそういう話をたびたびしていました。

現在では東京都難病・がん患者就業支援奨励金というのがございます。がん患者を雇用した場合に企業の方々に奨励金が出る制度です。また、在職中の方が復職するときには雇用継続助成金がつきますので、例えば、患者さんである従業員の方がお休みしている間、短期でパートの人を雇うなどができます。(詳しくは、東京都難病・がん患者就業支援奨励金 | 企業向け奨励金・助成金 | TOKYOはたらくネット新しいウィンドウを参照)

医療機関との連携支援がもたらすメリット

実は都内に私のような立場の長期療養者の方の就業支援をしている相談支援員は3人しかいません。その3人で都内全域をカバーしているんですが、私は国立がんセンターで出張相談をしています。もう一人の相談員は都立駒込病院に出張相談をしに行っています。

企業の方のメリットにフォーカスしてみますと、我々就職支援ナビゲーター(病院と連携してサポートしている相談支援員の正式名称)が事前に患者さんの状態をお聞きし、配慮事項などを把握した上で企業の方にご案内することで、企業の方々は、ご本人から聞くお話もありますけれども、客観的なデータとして受け取ることができます。それから、先ほどの助成金制度もご利用いただけるということがあります。ハローワークが患者さんのニーズを直接かなえられるので企業の方にとっても、採用するに当たって安心して採用できるということが考えられます。また、社会保険労務士の方や病院のソーシャルワーカーの方の役割も大きくて、それぞれの担当者が役割分担しながら当事者のサポートを行っております。

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