事例報告 人と機械の共存に向けて──RPAの導入と計画

講演者
塚本 隆広
フジモトHD株式会社 情報システム室 企画・管理担当課長
フォーラム名
第102回労働政策フォーラム「デジタルエコノミーの進展と働き方の変化」(2019年3月25日)

フジモトHDは、エレキバンで知られるピップ株式会社を傘下に持つ事業持ち株会社です。主な事業内容は二つあり、まず、医薬品や健康商品を製造・販売するメーカー事業。それから、衛生用品・ベビー用品・日用品などを取り扱うメーカーとそれを販売する小売業をつなぐリテールサポート事業。その他、受託事業やビューティー関連事業などです。事業会社であるピップは、医療品の卸問屋として創業し、昨年、110周年を迎えました。経営理念に掲げる「THE WELLNESS COMPANY」の実現を目指し、取り組んでいます。

導入の背景に人手不足解消など

RPAとは、パソコンを使って行う手作業を、ロボットが正確に自動で行ってくれるソフトウエアのことです。寝ない、疲れない、休まない、忘れない、ミスをしない、それから文句を言わない、退職しない、最強のパートナーだと言われています。導入の背景として、四つあります。まずは、人手不足の解消として自動化を促進すること。二つ目が労働集約型ビジネスからの脱却を目指して働き方改革に取り組むこと。三つ目が、業務コストの削減としてオペレーション業務を軽減し、それからミスをなくし、品質向上を目指す。最後に、人財育成として環境づくりに取り組むということです。

導入に向けプロジェクトを立ち上げ

これまで導入に向けて取り組んできたスケジュールですが(シート1)、まず昨年3月に、情報システム部員2人、それから現場の担当者5人の計7人でプロジェクトを立ち上げました。同時並行的に、対象業務の洗い出しとRPAの製品選定を進め、トライアルでは2社に絞り込み、7月にクライアント型をスモール導入しました。その後、プロジェクトメンバーがロボット化したい作業を選定して開発に着手し、約4カ月間でロボット19本を開発。月間220時間の削減効果を上げることができました。次に、当社にとっての年度初めである11月から専任組織を立ち上げ、全社的に力強くRPAを進めることになりました。すぐに12月下旬からサーバー型を導入し、現在に至っています。

まず業務の棚卸しを実施

工程別に、取り組んできたことをもう少し詳しく説明すると、対象業務の洗い出しでは、プロジェクトメンバーに、短期間で集中的に、かつ一斉に、また、業務の棚卸しを意識しながら実施してもらいました。その結果、結果的に実現不可だったものも含めて84業務、年間3万4,000時間が候補に挙がりました。

製品の検討では、幅広く情報を収集し、現場でロボットが開発できることを最優先にして検討を進めました。トライアルでは、選んだ2社の研修やマンツーマンの指導を受けながら、種類の違う業務を二つ選んでロボットを開発し評価しました。このとき、メンバー全員が実感したのは、最高の品質と最大の効率を追求するためにはRPAは欠かせないという共通認識でした。

ロボット開発の勉強会も開催

7月に導入スピードと費用対効果を考え、クライアント型を2台導入しましたが、全員が、空いた時間を使って順番に利用できるように工夫をしました。ロボットの開発では、削減効果が高く、比較的開発しやすい作業を選んで、全員で開始しました。メンバーに開発スキルを早く身に付けてもらうために、定期勉強会を開催し、ロボット開発の研修動画も作成しました。そのかいもあり、当初目標よりも大きな成果を生み出すことができました。

もう一つ、成功の理由を挙げるとすると、プロジェクト体制が決め手だったと思います。システム開発経験のある情報システム社員、それからITリテラシーが強くモチベーションの高い社員、それに業務に精通している社員の3者で取り組めたことが何より良かったと思っています。また、重要なことなのですが、プロジェクト終了後も現場主導でロボットを進めるためには、コンプライアンスを意識したガバナンスが必要であるということが認識できました。

11月に入ると専任組織を立ち上げ、すぐにリスク統制・管理の方向性を決めました。その上で、開発を停滞させないように、現在は導入運用サポートを実施しています。12月には、推進スピードをさらに上げるため、サーバー型を導入。クライアント型と比べ、何倍も開発スピードが上がりました。今年に入って利用者も、5部署、最大30名まで増え、ロボット開発に手応えを感じています。

導入後も法令遵守が第一

シート2は、現在のコンプライアンスを意識した当社の管理体制です。ロボットをつくるためには、①から⑥までのステップを通して運用する流れになっております。法令遵守を第一に、推進スピードを下げないように進めている状況です。今後に向けては、まず現場のサポートとして、定期勉強会の開催に加えて、現場同士がつながるコミュニケーションの場の提供を検討しています。また、開発スピードを上げるために、効率的なロボットのつくり方を説明し、開発ノウハウを蓄積して、いつでもナレッジ検索できるようなツールの検討も考えています。コンプライアンスの面では、やってはいけないことを徹底させるため、交通整理を行い、必要な詳細ルールを検討していきます。将来、AIを搭載したOCRによる紙データのデジタル化も推進したいと考えています。

社員の改善意識が高まる

まとめになりますが、RPAの導入でわかったことがあります。RPAは間違いなく、最高の品質と最大の効率を目指すために欠かせないツールだということです。手段の一つですが、間違いなく業務品質を高めると同時に、各個人の生産性を上げます。また、当社は導入してまだ1年も経過していませんが、間違いなく社員の意識と働き方に変化があらわれていると思います。ロボットに任せることを考えるようになるとともに、ロボット以外のことに対しても改善意識が高まり、時間的に余裕が生まれ、やりがいが生まれたという声を聞いています。できた時間を使って、自己の成長につなげることもできますし、新しいことを創造し、チャレンジすることもできます。今後はこれを境として、社員自らが積極的にITを活用する機会が増え、デジタルによる業務革新が起こるのではと期待しています。

企業は、労働人口減少による環境の変化に臨機応変に対応しないと、企業自体の存続が危ぶまれます。そうしたなかで、最高の品質と最大の効率を目指すためには、手段として新しい機械(IT)を上手に利用して、働き方を見直すことも必要です。そうであるならば、人がやること、機械がやることをきちっと分けて考え、人は創造性を担う仕事、機械は生産性を担う仕事と、区別できる環境が必要です。その上で、人は新しいことにチャレンジすることを恐れず、失敗してもそれを加点として評価してもらえる社内の風土改革が必要ですし、つまずいたときに支え合える縦と横のつながり、コミュニケーションが重要です。未来の社会に向けて、人が今よりも機械と上手に付き合い、会社も人も成長できる人財育成が求められていると思います。

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