事例報告 ベイシアにおける生産性向上対応──AI導入でレジ混雑緩和

講演者
重田 憲司
株式会社ベイシア 執行役員/流通技術研究所 所長
フォーラム名
第102回労働政策フォーラム「デジタルエコノミーの進展と働き方の変化」(2019年3月25日)

ベイシアグループは群馬県に本拠を持つスーパーです。グループの中で規模が大きいのはホームセンターを展開している「カインズ」で、次に大きいのがスーパーセンターと呼んでる「ベイシア」であり、ワンフロアで衣食住を展開する業態を主に展開しています。

ベイシアにおける構成比の高い店舗内作業というと、商品補充・陳列のほか、商品の加工、生鮮品の店舗内での製造、それからレジのオペレーションがあります。スーパーでのクレームというと、レジで待たされることや、通路の混雑、欠品などが挙げられます。ベイシアの特徴をお話しすると、平均の買い上げ点数が20点を超えます。ですので、1時間当たりの会計人数はGMSやSMに比べて多く、当然のことながら時間がかかるということになります。

システム導入のきっかけ

当社ではレジ混雑予測システムを導入しました。導入の理由は、レジの混雑を何とか脱したいというのが一番でした。私自身もずっと店長をやってきましたが、混雑して長い列ができてしまうと、店長でも手の打ちようがないのです。

簡単にレジ混雑予測システムの仕組みを説明すると(シート1)、まず、お客様が入店するところで人数計測をしています。また、全てのレジでカメラを使い、何人並んでいるのか、常時撮影しています。実際は、入店してからレジに来るまでどのぐらいの時間がかかるか、前もって別の店で計測しており、そのデータをもとに統計を使って予測をかけていくのです。お客様の来店間隔や買い回り時間、それと到達の割合などから、来店客属性分析も同時にかけながら、大体15分後にレジの会計に回ってくる人がどのぐらいの割合か、20分後の人はどのくらいの割合かなどを計算します。

そして、その情報をレジ前係の担当者に飛ばします。15分後、30分後に必要と思われるレジの台数が何台かがわかる。このシステムを入れる前は、経験と勘、また、曜日・時間帯、さらにその時点でのお客様の入り具合などを見ながら、誰かが指示を飛ばすというやり方でした。指示を出すのは、多くは店長で、私も店長時代に言われたのは「ピークタイムには必ず店長はレジのところにいなさい」と。実際にはピークタイムにそんなことはできませんので、様々な係を見て歩いていました。

システム運用後の変化

では、このシステムを入れてどのように変わったのかというと、シート2を見てください。グラフの赤い線がレジ台数実績で、青い線が予測台数です。シートの上の図はまだ導入して間もない頃の状況ですから、指示どおりにレジを開けられていないことがわかります。混雑しているのに開けていない時間がある一方、開け過ぎている時間帯もある。下の図が約2カ月後の実績です。ほぼ指示どおりに開けることができていることがわかります。

また、当社では許容できるサービスレベル(何組以上待たせることを許容するか)を決めて、その達成度を見える化しました。システムで1日の客数を見ると、達成度は違うのに、実は比較した2日間ではさほど差がないということが分かりました。レジ稼働計画も作成しています。それまでは1時間単位の売り上げから、IE的な発想で逆算をして何台レジが必要かというふうに計算していましたが、今では、システムを使って必要なレジ台数を予測し、算出しています。

取り組みによる効果

取り組みの効果をいくつかの視点に分けてお話しします。まず、お客様視点では、待ち時間の改善が明らかに出てきています。経営の視点では、全体的な生産性が向上しています。シート3のとおり、従来の作成方法による必要計画台数と、新システムによる必要予測台数がどれだけ違っているかを算出すると、10%~15%ほど多めに計画されていたことが分かります。どうしても混雑させてはいけないということになると、必要以上にレジを稼働させがちになります。

効果をまとめると、人件費に直結するわけではないのですが、まず、「見える化」が実現できました。この仕組みを入れることによって、実態が全部データ化され、残ります。そのお店が、どの時間帯、どの曜日にどのように運営されていたかがデータ化されるのです。レジ予測台数に基づく運用によって改善されたのが、先ほど紹介したレジ待ち時間の短縮と、サービスレベル達成の数値化です。また、チェッカーの人時売上高、1人が1時間単位でどれだけ稼いだのかについても数値化されました。

混雑の問題では、スーパーなどで皆さんがお買い物をされたときに経験があると思いますが、「早くレジに入りなさい」という放送があったり、音楽が変わって忙しそうな雰囲気になるお店もあります。しかし、混雑してからそれを解消しようとすると、非常に手間がかかり、また、必要以上に人を補充しなければならなくなります。補充として呼ばれる社員は、当然ほかの作業をしていますから、内心、「何で呼ばれるんだろうな」ということになってしまいます。事前に混まないようにコントロールできれば、反動は小さくなります。

閑散時の対応では、事前に、レジのチェッカーは4人いるけど2人で十分だとわかっていれば、ほかの仕事に2人を回すことができます。人件費としては変わらないのですが、ほかの作業を先に終えることが可能になりますので、結果的には、残業の抑制につながります。

働き方の変化

働き方がどう変わったかについては、適正な人員配置ができるようになりました。人手不足の対応も多少なりとも解消できるようなりました。繰り返しますが時間外労働の削減にもつながっています。昼に正社員が応援で入って、夜に自分がやれなかった仕事を処理して帰るというのは小売業でよく見られる光景ですが、こういった点を解消することができるようになっています。

この仕組みで最も有効だったのは、やはりデータがしっかり残るということです。店長自身が、この曜日のこの時間帯に問題があるぞということが把握できる。把握することで、人の配置を変えることや、契約時間の見直しをお願いするために従業員とコミュニケーションを図るといったことをするようになる。

なお、人が担当しなければいけないコミュニケーションの部分は非常に重要で、この仕組みのとおりに動かせばいいと言っても、実は、これは誰もができるかと言うとそうではありません。システムを動かすところの業務には、パートナー社員のなかでコミュニケーション力のある方に就いてもらっています。